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1234 重なって見えた男

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「にしてもよぉ、軍の連中も横暴じゃね?やっと部屋に案内されたと思ったら、すぐに会議ってどうなのよ?飯食う暇もねぇじゃねぇか?なぁ?」

薄暗い石造りの通路を気だるそうに歩きながら、リカルドが不満を口にする。

案内係の兵士の後に付いて、レイジェスのメンバー達は軍の幹部達が集まる一室へと向かっているところだった。

「まぁしかたないって。今は戦争中なんだぜ?食事が後回しになるくらい我慢しようぜ。それに俺達が少しでもゆっくりできるようにって、レイチェルが一足先に行ってるんだから、文句言うなよ」

アラタがたしなめるように話すと、舌を打って口をつぐむが、やはり不満は不満のようで、眉間にシワを寄せて口を尖らせている。

「まったくリカルドは本当にリカルドだよねぇ、こんな時でもご飯の事ばっかり。ここまでくると一周回って尊敬するよ」

一歩後ろを歩いていたケイトが、笑いながら言葉を挟んできた。

「あぁ、んだよケイト、馬鹿にしてんのかよ?」

「あはは、違う違う。本当に感心してるんだって。もう二つ名付けない?ご飯大王リカルドとか、腹ペコの弓使いリカルドとか!」

「あぁ!?お前やっぱ馬鹿にしてんじゃねぇかよ!舐めてんのかコラ!」

「あー、うっせぇから怒鳴ってんなよ!止めろ止めろ!廊下だから響くんだよ!ケイティもからかうなよ、こうなんの分かんだろ?」

リカルドがケイトに詰め寄ろうとすると、ジャレットが間に入って押し止める。リカルドの怒鳴り声が耳に響いたのか、ジャレットは顔をしかめながら、ケイトにも注意をして睨みつける。

「あー・・・ごめんジャレット、つい調子に乗っちゃったよ。リカルドもごめん、そんな怒んないでよ」

バツが悪そうな顔をして両手を合わせるケイトに、リカルドはフン!と鼻を鳴らして背中を向けた。

「あらあら、ヘソ曲げちゃったわ。ふふふ、ケイトもちょっと言い過ぎたわね?」

のっしのっしと大股で歩くリカルドの背中を見つめながら、シルヴィアが口元を押さえてクスクス笑う。

「いやぁ・・・だってずっとご飯の事ばっかりだからさ。う~ん、でもそうだね、からかい過ぎたかも。あとでアタシの分の干し肉でも分けて機嫌とっておくよ」

「おいコラ!遅っせぇぞおめぇら!さっさとこいよ!五分前行動だろ!」

ケイトがぽりぽり頬を掻いてゆっくり歩いていると、先に進んだリカルドが振り返って大声を出してきた。

「あいつは何を言ってるんだ?」

ジャレットが首を傾げる。

「あらあら、まったくリカルドはしかたないわね。ほら、みんな急ぎましょう」

シルヴィアが笑顔で促すと、他のメンバー達も肩をすくめて足を急がせた。




「おう、来たかレイジェス。ほら、そこに座れ」

会議室の扉を開けると、そこにはいくつもの長テーブルが並べられていた。
そして真ん中のテーブルの一番奥に座るロブギンスが、右手を上げて隣のテーブルを指さす。

ロブギンスの右隣には、クインズベリー軍副団長のカルロス・フォスター。
左隣には第一王子のマルスと、第二王子のオスカーが並んでいる。

そしてロブギンスに近い席には、ゴールド騎士の三人。治安部隊の隊長格。そして四勇士と、実力者達が並んでいた。


「みんな、こっちだ」

アラタ達がロブギンスの指さす場所に目を向けると、先に来ていたレイチェルが、隣に並ぶ椅子に手を向けて座れと促す。

「じゃあ俺達はここに・・・」
「アラタ、キミはここだ」

空いている椅子の一番端にカチュアと座ろうとすると、レイチェルが呼び止めて自分の隣を指さした。

「え?あ・・・うん」
「いいか、私、アラタ、ジャレットの順に座る。他のみんなは自由に座ってくれ」

椅子を引いた手を止めて、アラタは言われるままにレイチェルの隣に腰を下ろした。
この順番に何か意味があるのか?そう思うアラタの内心の疑問を読み取ったように、レイチェルが言葉を続けた。

「アラタ、ここから先の戦いはあの男、セドコン村のあの黒魔法使いように、闇を使う敵がまた出てくるだろう。私やゴールド騎士の闘気も、本物の闇には弱い。キミの光の力は変わりの無い、唯一無二の力なんだ。自分が最重要人物という意識を持て。この席順一つにしてもだ」

クインズベリー軍の総大将バーナード・ロブギンスは、当然場の中心に座する。そして左右に並ぶのは、二人の王子と副団長。
そこから戦力の要として見られる実力者達が、前へと並んでいる。
当然レイチェルも最前列の一人だった。

「・・・俺が・・・・・」

「そうだ、キミが最重要人物だ。キミは今一つ自己評価が低いが、いい加減に自覚する事だ。後ろの方で話しを聞くのではなく、前に座って話し合いに参加するんだ。そういう意味での席順だ」

面と向かってレイチェルから言われ、アラタは固唾を飲み込んだ。

確かに自分の光の力が大きな力だとは思っていたが、これだけのメンツが集まった場で、最重要人物とまで言われると、自分が考えていた以上に大きな責任が感じられた。

だがそんなアラタの緊張を感じ取ったのか、ジャレットが笑いながらアラタの肩を叩いた。

「そうだぜアラやん、堂々と座って、ちゃんと話しを聞け。けどな、あんま気負う必要はねぇんだぞ?お前の光が頼りだけど、俺らだってけっこうやるんだぜ?」

「痛っ、ジャ、ジャレットさん、やめてくださいよ)

レイチェルとジャレットに挟まれ、目の前には軍の総大将がいる。そして自分が最重要人物だと言われ、アラタもプレッシャーを感じていた。

だがジャレットの明るさは、そんなアラタの背中にかかる重さを取り払い、心の荷を軽くした。

「ま、俺はお前の先輩だからな。なんかあったらいつでも言えよ?」

「ジャレットさん・・・・・」

やたら白い歯を見せて親指を立てるジャレットに、アラタはかつて働いていた場所、リサイクルショップ・ウイニングで、兄として慕っていた男が重なって見えた。


このまま戦い続ければ、いずれまた相まみえるだろう

戦いは避けられない
その時俺は・・・・・・・


「・・・はい、頼りにしてます、ジャレットさん」

少しだけ目を閉じて心を落ち着ける。

今の俺はレイジェスの坂木新だ

クインズベリーのために、レイジェスのために戦うんだ




「・・・マルゴンに勝った男、サカキアラタと言ったな?もういいかな?」

アラタ達の会話が一区切りついた頃を見計らって、ロブギンスが口を開いた。

「・・・はい、もう大丈夫です」

アラタの黒い瞳に宿ったある種の覚悟、それを見たロブギンスは口の端を持ち上げた。

「・・・ふむ、いい目だ。よろしい、それでは始めようか。西の山脈パウンド・フォー、北のユナニマス大川の攻略会議を」
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