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1233 中間地点インターバウルの成り立ち

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中間地点とは、帝国との決戦を冬と見据えた女王アンリエールが、今日この日のために資金と人手を惜しみなくつぎ込み完成させた拠点である。

高い石壁で囲われており、十分な数の軍人を配備している事から、防衛の面でも抜かりはない。仮に帝国軍の襲撃があったとしてしばらくは持ちこたえられるだろう。


「へぇ~、中間地点なんてよく分かんねぇ名前のくせして、けっこうしっかりした施設じゃねぇかよ」

門をくぐり中へ足を踏み入れると、リカルドはキョロキョロ辺りを見回しながら、誰に言うでもなく思ったままに呟いた。

リカルドは中間地点について、テントばかりが張られた間に合わせのイメージを持っていた。
しかし中に入って見ると、おそらく宿舎であろう石造りの建物が並び立ち、意外にしっかりとした拠点が出来上がっているのだ。

無論、首都のような風景ではない。
道は舗装されておらず、無機質な建物以外は何もない。殺風景と言えば殺風景だ。
だがそれでも、限られた期間で良くここまで作り上げたと言える。
二人の王子が滞在するという事情もあるだろうが、戦地に赴く兵士達に、少しでも良い環境を与えたいという気持ちが感じられた。

「うん、確かにすごい。首都から何日もかかるのに、よくこんなの作った。さすがアンリエール様」

となりを歩くユーリが、前を見たままリカルドの言葉を拾って返すと、話しを聞いていたらしいジーンも口を挟んできた。

「軍の人に聞いたんだけどね、ここは正式にはインターバウルって名前の基地らしいよ。でもまだ名前を決めてなかった時、ここを中間地点って呼んでたのが定着しちゃったみたいで、それで今でもそう呼ぶ人が多いらしいよ」

「ふーん、まぁどっちでもいいや。んで俺らはどこで飯食って寝ればいいの?リカルドさんはお腹ぺこぺこなんだけど?」

両手で腹を押さえ、眉を寄せてジーンに目を向けるリカルド。
ジーンはしかたないなと言うようにフッと笑うと、歩きながら腕を組んで首を傾げた。

「残念だけど、それはまだ分からないんだ。このまま付いて行けば、そのうち通達があると思うけど」

前を歩く兵士達に目を向けて答えると、リカルドは露骨に顔をしかめて、不満をぶちまけた。

「あぁ~、んだよそれ!?俺の扱い雑じゃね?普通よぉ、ここに着いた瞬間に、リカルドさんお疲れしたっ!って挨拶して、最優先に飯を出すべきだろ?
それがこのまま歩いてけばそのうちって舐めすぎじゃね?ユーリもそう思うだろ?」

怒りながらユーリに顔を向けると、ユーリは呆れたようにジロリとリカルドを見た。

「何をどう考えたらそうなるの?ありえないから。黙って付いて行けばいい」

「んだよそれ?俺はリカルドさんだぞ?おかしいだろ?」

ユーリに否定されて、リカルドはぐちぐち不満を垂れる。
しかし納得はしていなくても、それ以上周りに文句を言う事はせず、しぶしぶながら兵士達に付いて歩いて行った。




「アラタ君、私達だけいいのかな?」

リカルド達の少し後ろを歩くカチュアが、何かを気にするようにとなりのアラタに声をかけた。

「うん・・・俺も気にならないわけじゃないけど、ああ言われたら強くは断れないかな。かえって失礼になりそうだしさ」

カチュアの言いたい事は分かっていた。
アラタも自分達だけいいのだろうかと、気にかかっていたからである。

「・・・私達だけ拠点の中に入って、大勢の人が外でテントを張るなんて・・・すごく申し訳なくて・・・」

後ろを振り返ったカチュアは、眉を下げて中間地点インターバウルの出入り口を見つめた。
およそ十万人のクインズベリー軍のうち、インターバウルの中に入る事ができたのは僅か五千人だった。
その理由として、インターバウルの大きさがある。
確かにアンリエールの指示の元、戦争時の軍の拠点として建てたわけだが、十万人を収容できる程の広さは現実的ではなかった。

人員の問題、資金の問題、建設期間の問題、そしてこの場所が帝国との国境に近いという事も問題だった。あまりに広く土地を使っては攻撃を受ける範囲も広がるという事である。前述の通り人員の問題から、全てをカバーできるかと言えば答えは否である。

十万人規模から比べれば小さいが、それでも五千人が収容できる拠点であれば、後方支援の要として十分と判断とされた。

これらの事情から、中間地点インターバウルは、収容人数五千人規模の大きさで建てられたのだ。

「軍の総大将から直々に言われたからね。俺達は戦力の要の一つで、体調を整えるのは何より大事だって。外のテントで寝て、疲れが抜けなかったなんて許されない。そこまで言われたら断れないよ」

「うん・・・言われた事はその通りだって分かるんだけど・・・」

総大将ロブギンスの言葉は間違ってはいない。アラタ達のレイジェスを始め、騎士団からもゴールド騎士やシルバー騎士が拠点に入っている。
カチュア自身それは頭では理解している。だが感情の面では整理がついていなかった。

晴れないカチュアの表情を見て、アラタはそっと肩を抱き寄せた。

「うん・・・分かるよ。俺も気持ちは同じだから。でも、やっぱり十万人全員がここに入るのは不可能だと思う。だから俺達は他の人より良い待遇を受ける分、頑張って貢献するしかないと思う」

「・・・頑張って貢献・・・」

「うん。俺は戦闘で、カチュアは回復で。俺達はこの力を期待されてるんだ。だから頑張ろう。俺達にできる精一杯で頑張ろう。カチュア」

力強い夫の言葉に、それまで罪悪感で揺れていたカチュアの目にも力が戻り、しっかりとアラタの目を見つめ返した。

「・・・うん、分かったよアラタ君。私には人を癒す力がある。この白魔法で頑張ってみるよ。ありがとう、アラタ君」

自分達だけ温かい寝床を得る事は、やはり申し訳ない気持ちになる。
しかし力を持っているがゆえに、そうしなければならないと言う事ならば、その力で応える事が責務だ。
カチュアはそれを理解し、気持ちを固めた。




「ふふふ、見てジャレット、アラタ君って良い旦那さんね。ちゃんとカチュアの気持ちにより添えてるわ」

「そうだな、俺らも自分達だけってのはちょっと気が引けたけどよ、カっちゃんは特に気にしてたからな。でもアラやん優しいからな、カっちゃんの気持ちを考えて話せてるし、俺が見込んだだけあるわ」

アラタとカチュアの少し後ろを歩くジャレットとシルヴィアは、仲睦まじい様子の二人を、微笑ましく見つめていた。

「私達も結婚したらああなりたいわね?」

「ああ、そうだ・・・え!?ちょっ、シーちゃん!?今なんて!?」

ふいにかけられた言葉にジャレットが目を開くと、シルヴィアはチラリとジャレットに目を向けた後、すぐに正面に向き直った。

「ふふふ、私達もそういう年齢だって事よ。まぁ考えておいてね。この戦争が終わった後にでも期待してるわよ?」

「お、おう、そりゃ俺も適当な気持ちで付き合ってねぇけど・・・」

まさかここでそんな事を言われると思っていなかったジャレットは、少しどもりながら言葉を返していると、シルヴィアはそんなジャレットをしり目に、前方を指さした。

「あ、ジャレット、前が止まったみたいよ。あの大きな建物に王子や軍の幹部が入るのかしらね?」

シルヴィアの指の先には、周囲のものより一段大きな、石造りの建物が見えた。
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