1,233 / 1,298
1232 中間地点へ
しおりを挟む
翌日の早朝、起床したレイジェスのメンバーを集めると、レイチェルは金髪の魔道剣士と並んで前に立った。
そして昨晩の話し合いを説明しながら、新たな仲間を紹介した。
「そう言うわけで、魔道剣士ラクエル・エンリケスだ。彼女は正式に私達と行動を共にして、帝国と戦う事になった。みんな、よろしく頼む」
ラクエルはレイチェルに手を差し向けられると、右手を顔の横で軽く振り、ニコニコと笑って自己紹介を始めた。
「どもども、魔道剣士のラクエルです。一応昨日全員と顔は合わせてるし、一緒に戦った人もいるから、細かい事はいいよね?そう言うわけでよろしくー」
お気に入りの赤いカーディガンは昨日の戦いで着れなくなってしまったため、今朝は黒いタートルネックの上に、白いファーコートを着ている。
明るく軽い調子で話すラクエルに、レイジェスのメンバー達もクスリと笑ってしまい空気が和む。
昨日一緒に戦った事もあり、全員がラクエルを快く受け入れた。
それからそれぞれが言葉を交わしてお互いの理解を深めていたところで、朝食の時間になった。
「ラクエル、中間地点まで行ったらレイジェスは二手に分かれる事になるんだが、キミはどっちに行きたいか希望はあるか?」
配給のパンとスープを受け取ると、それぞれが適当な場所に腰をかけてソレを口にする。
平らな岩に並んで座り、レイチェルがラクエルに話しを向けると、ラクエルは口に含んだスープを飲み込み、視線を空に向けて答えた。
「ん~・・・パウンド・フォーと、ユナニマス大川だったよね?じゃあアタシはユナニマス大川に行かせてもらおうかな。いい?」
「ああ、希望を聞いているんだからもちろんだ。それに元々戦力は均等に分けられているから、キミがどちらかに行く事で偏りが出る事もない。だが・・・なんでユナニマス大川なんだ?全く考える事なく決めたように見えるが」
提示された二択に対してラクエルは即答した。
どちらに行ってほしいのか?どっちに行った方が自分の力が生きるのか?
それぞれの地の利や敵の特徴など、何一つ聞かずに決めたという事は、ラクエルにはユナニマス大川を選んだ明確な理由があるのだろう。レイチェルはそう考えた。
「まぁね・・・ユナニマス大川を護ってるのが帝国軍第六師団で、師団長がシャンテル・ガードナーなんでしょ?」
食事の手を止めると、ラクエルはレイチェルに顔を向けて、じっとその目を見つめて問いかけた。
「ああ、そうだが・・・ラクエル、知ってるのか?」
普段の軽い調子からは想像もつかないくらい真っすぐな目を向けられ、レイチェルも口調が真剣みを帯びる。
ラクエルの口から帝国の師団長、シャンテル・ガードナーの名前が出てくるとは思わなかった。
シャンテル・ガードナー。
帝国軍第六師団長にして、白魔法兵団団長。そして戦闘に一番不向きな白魔法使いでありながら、帝国で一番人間を殺した女・・・
ラクエルのこの目・・・間違いない、ラクエルはシャンテル・ガードナーを知っている。
「・・・うん、知ってる。アタシね、あいつに聞かなきゃならない事があるんだ」
・・・・・まさか帝国の師団長になってるとは思わなかった。
続く言葉はとても冷たく・・・そして深い悲しみが感じられた。
朝食を終えると、クインズベリー軍は中間地点に向かって行進を始めた。
時刻は午前八時を少し回ったところだった。空は晴れやかで足の進みは良い。
これまでの遅れを全て取り返せるわけではないが、少なくとも今日の行軍はスムーズなものだろう。
西の山脈パウンド・フォー。北のユナニマス大川。中間地点に着いたらそこを拠点として、軍は二手に分かれる事になる。
現在軍に同行している二人の王子は中間地点に残り、物資の補給や情報の伝達を指揮し、周辺の治安を維持するために力を揮(ふる)っていく。
「よぉ、レイチェル、大活躍じゃねぇか」
ダークブラウンのボディアーマーを身に着け、気安い口調で話しかけてきたボウズ頭の男は、治安部隊隊長のヴァン・エストラーダだった。
「ヴァン、王子の警護はいいのか?さぼってるんじゃないぞ」
ヴァンは本来なら、隊の前方で王子の周囲を警戒しているはずである。
それが一番後ろに並ぶレイジェスのところまで来たため、レイチェルはたしなめるように言葉を返した。
「ああ、それなら心配いらない。周辺を探ったが敵の気配は無いし、フェンテスが付いている」
自然とレイチェルの隣に並び、歩調を合わせて歩き始める。
「セドコン村には軍から何人か残る事になった。これから国に状況の報告をして、今後の管理について色々決めていく事になるだろう」
「そうか・・・せっかく奪還したが、半壊させてしまったからな。大活躍なんて皮肉もいいところだぞ?」
「クックック、だが見方を変えればあの闇と闘って、村が半壊程度で済んだんだぞ?大活躍だと思うがな。まぁいい、それよりお前のところに新しく入った女だが、ずいぶん腕が立つみたいだな?」
本題だと言うように、ヴァンの口調が変わった。どうやら突然現れて村の奪還に尽力した人間に興味が湧いたらしい。
「ラクエルの事か、あいつは強いぞ。純粋な体術なら私と互角だ。それに魔道剣士とやらは引き出しが多いらしい。セドコン村でも、予想もしない攻撃手段を見せてくれた。中間地点からはユナニマス大川に行くぞ。確かお前達もそうだったよな?」
「ああ、俺達治安部隊はユナニマス大川に行く。ラクエルか・・・お前達の接し方を見てれば信用できそうだし、お前と互角なら戦力として申し分ないな。分かった」
聞きたい事を聞けて納得したヴァンは、そろそろ行くな、と言って前列に戻っていった。
「・・・もうすぐだな」
ヴァンの後ろ姿を見送って、レイチェルは小さく呟いた。
もうすぐ軍の中間地点に着く。そこで戦力を半分に分けて、北と西の攻略に当たる事になる。
それは事前に決めた通り、レイジェスのメンバーも半分に分かれてである。
考えないようにしていたが、仲間達全員が無事に帰ってこれる保証などどこにもない。
ここからは帝国も師団長が出てくるのだ。戦いは一層厳しさを増す事だろう。
またみんなと一緒にレイジェスで・・・・・
そっと目を閉じてささやかに願う。
それからクインズベリー軍は、何度かの休憩を挟みながら行進を続けた。
そして夕刻に差し掛かった頃、軍の中間地点に到着した。
そして昨晩の話し合いを説明しながら、新たな仲間を紹介した。
「そう言うわけで、魔道剣士ラクエル・エンリケスだ。彼女は正式に私達と行動を共にして、帝国と戦う事になった。みんな、よろしく頼む」
ラクエルはレイチェルに手を差し向けられると、右手を顔の横で軽く振り、ニコニコと笑って自己紹介を始めた。
「どもども、魔道剣士のラクエルです。一応昨日全員と顔は合わせてるし、一緒に戦った人もいるから、細かい事はいいよね?そう言うわけでよろしくー」
お気に入りの赤いカーディガンは昨日の戦いで着れなくなってしまったため、今朝は黒いタートルネックの上に、白いファーコートを着ている。
明るく軽い調子で話すラクエルに、レイジェスのメンバー達もクスリと笑ってしまい空気が和む。
昨日一緒に戦った事もあり、全員がラクエルを快く受け入れた。
それからそれぞれが言葉を交わしてお互いの理解を深めていたところで、朝食の時間になった。
「ラクエル、中間地点まで行ったらレイジェスは二手に分かれる事になるんだが、キミはどっちに行きたいか希望はあるか?」
配給のパンとスープを受け取ると、それぞれが適当な場所に腰をかけてソレを口にする。
平らな岩に並んで座り、レイチェルがラクエルに話しを向けると、ラクエルは口に含んだスープを飲み込み、視線を空に向けて答えた。
「ん~・・・パウンド・フォーと、ユナニマス大川だったよね?じゃあアタシはユナニマス大川に行かせてもらおうかな。いい?」
「ああ、希望を聞いているんだからもちろんだ。それに元々戦力は均等に分けられているから、キミがどちらかに行く事で偏りが出る事もない。だが・・・なんでユナニマス大川なんだ?全く考える事なく決めたように見えるが」
提示された二択に対してラクエルは即答した。
どちらに行ってほしいのか?どっちに行った方が自分の力が生きるのか?
それぞれの地の利や敵の特徴など、何一つ聞かずに決めたという事は、ラクエルにはユナニマス大川を選んだ明確な理由があるのだろう。レイチェルはそう考えた。
「まぁね・・・ユナニマス大川を護ってるのが帝国軍第六師団で、師団長がシャンテル・ガードナーなんでしょ?」
食事の手を止めると、ラクエルはレイチェルに顔を向けて、じっとその目を見つめて問いかけた。
「ああ、そうだが・・・ラクエル、知ってるのか?」
普段の軽い調子からは想像もつかないくらい真っすぐな目を向けられ、レイチェルも口調が真剣みを帯びる。
ラクエルの口から帝国の師団長、シャンテル・ガードナーの名前が出てくるとは思わなかった。
シャンテル・ガードナー。
帝国軍第六師団長にして、白魔法兵団団長。そして戦闘に一番不向きな白魔法使いでありながら、帝国で一番人間を殺した女・・・
ラクエルのこの目・・・間違いない、ラクエルはシャンテル・ガードナーを知っている。
「・・・うん、知ってる。アタシね、あいつに聞かなきゃならない事があるんだ」
・・・・・まさか帝国の師団長になってるとは思わなかった。
続く言葉はとても冷たく・・・そして深い悲しみが感じられた。
朝食を終えると、クインズベリー軍は中間地点に向かって行進を始めた。
時刻は午前八時を少し回ったところだった。空は晴れやかで足の進みは良い。
これまでの遅れを全て取り返せるわけではないが、少なくとも今日の行軍はスムーズなものだろう。
西の山脈パウンド・フォー。北のユナニマス大川。中間地点に着いたらそこを拠点として、軍は二手に分かれる事になる。
現在軍に同行している二人の王子は中間地点に残り、物資の補給や情報の伝達を指揮し、周辺の治安を維持するために力を揮(ふる)っていく。
「よぉ、レイチェル、大活躍じゃねぇか」
ダークブラウンのボディアーマーを身に着け、気安い口調で話しかけてきたボウズ頭の男は、治安部隊隊長のヴァン・エストラーダだった。
「ヴァン、王子の警護はいいのか?さぼってるんじゃないぞ」
ヴァンは本来なら、隊の前方で王子の周囲を警戒しているはずである。
それが一番後ろに並ぶレイジェスのところまで来たため、レイチェルはたしなめるように言葉を返した。
「ああ、それなら心配いらない。周辺を探ったが敵の気配は無いし、フェンテスが付いている」
自然とレイチェルの隣に並び、歩調を合わせて歩き始める。
「セドコン村には軍から何人か残る事になった。これから国に状況の報告をして、今後の管理について色々決めていく事になるだろう」
「そうか・・・せっかく奪還したが、半壊させてしまったからな。大活躍なんて皮肉もいいところだぞ?」
「クックック、だが見方を変えればあの闇と闘って、村が半壊程度で済んだんだぞ?大活躍だと思うがな。まぁいい、それよりお前のところに新しく入った女だが、ずいぶん腕が立つみたいだな?」
本題だと言うように、ヴァンの口調が変わった。どうやら突然現れて村の奪還に尽力した人間に興味が湧いたらしい。
「ラクエルの事か、あいつは強いぞ。純粋な体術なら私と互角だ。それに魔道剣士とやらは引き出しが多いらしい。セドコン村でも、予想もしない攻撃手段を見せてくれた。中間地点からはユナニマス大川に行くぞ。確かお前達もそうだったよな?」
「ああ、俺達治安部隊はユナニマス大川に行く。ラクエルか・・・お前達の接し方を見てれば信用できそうだし、お前と互角なら戦力として申し分ないな。分かった」
聞きたい事を聞けて納得したヴァンは、そろそろ行くな、と言って前列に戻っていった。
「・・・もうすぐだな」
ヴァンの後ろ姿を見送って、レイチェルは小さく呟いた。
もうすぐ軍の中間地点に着く。そこで戦力を半分に分けて、北と西の攻略に当たる事になる。
それは事前に決めた通り、レイジェスのメンバーも半分に分かれてである。
考えないようにしていたが、仲間達全員が無事に帰ってこれる保証などどこにもない。
ここからは帝国も師団長が出てくるのだ。戦いは一層厳しさを増す事だろう。
またみんなと一緒にレイジェスで・・・・・
そっと目を閉じてささやかに願う。
それからクインズベリー軍は、何度かの休憩を挟みながら行進を続けた。
そして夕刻に差し掛かった頃、軍の中間地点に到着した。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる