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1228 戦いの後で
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「本当に強かった、師団長ではないらしいが、ここまでとは・・・アラタ、キミがいなければ私達は全滅していただろう。助かったよ・・・」
倒木した木に腰をかけながら、レイチェルは隣に座るアラタに感謝の言葉を伝えた。
ハビエルの空量眼によって何度も地面に圧し潰されたが、致命的なダメージは負ってはいなかった。
だが闘気を使い果たした事による疲労は大きく、しばらく休まないと動けそうにはなかった。
「いや、俺が駆けつけた時には、あの男は左腕を失っていたし、かなりのダメージを受けていたみたいだった。ミゼルさんの合成魔法なんだろ?みんなの力で勝ったんだと思うよ」
アラタもぐったりとした様子だが、笑って言葉を返すくらいの余力はあるようだ。
それを見てレイチェルも安心したように表情を柔らかくした。
「ふぅ・・・マルゴンの時もそうだったが、キミは本当に謙虚だな?だがまぁ、それがキミの良いところでもある。実際ミゼルの合成魔法も大したものだった。あとで褒めてやらないとな」
「う~ん、レイチェルは本当にミゼルさんに厳しいよな?」
「当然だ。あいつはちょっと甘い顔をするとすぐにハメを外すからな。キミがレイジェスに来る前は、ギャンブル癖が酷くて大変だったんだぞ?まぁ、最近しっかりしてきた事は認めるが、あいつにはちょっと厳しいくらいで丁度良いんだ。私はこれからもミゼルには厳しくいくぞ」
真顔で宣言するレイチェルに、アラタは苦笑いをするしかなかった。
「おーい、レイチェルー、見回り終わったぞ。この村には他に誰もいないよ」
手を振りながら歩いて来るのはラクエル・エンリケスだった。
空量眼で圧し潰されたため、金色の髪も、黒いタートルネックのセーターも、ベージュのチノパンツも泥まみれだった。ダメージもあったが他の仲間達に比べれば比較的少なかったため、ラクエルが村の見回りに出ていたのだ。
敵にしろ、村の生き残りにしろ、生存者がいないかの確認をしてきたが、セドコン村にはもはや自分達以外だれも残ってはいなかった。
「そうか、じゃあこれでセドコン村の奪還は完了だな・・・」
「・・・レイチェル、どうかした?元気なくない?」
髪や体の泥を払いながらラクエルが声をかけると、レイチェルは小さく息をついて答えた。
「いや・・・自分の力不足を感じてしまってな。店長との修行で強くなったつもりだったんだが、まったく歯が立たなかった。もしアラタが来なければ、あいつの闇で私達は・・・」
そう言って目を伏せるレイチェルを見て、ラクエルは目をパチパチと瞬かせた。
「へぇ~・・・あんたって意外とそういうの気にするんだ?勝ったんだし別によくない?くよくよしてもしかたないっしょ?力不足だと思うんなら、また鍛えりゃいいじゃん?違う?」
「え?」
目を丸くするレイチェルに、ラクエルは構う事なく持論を展開していく。
「あんたさ、難しく考え過ぎじゃない?責任感強過ぎって感じ?みんな生き残ったんだから、それでいいじゃん?」
ラクエルは両手を腰に当てて、レイチェルを見下ろすようにして語った。
さも当然と言うように話すラクエルに、レイチェルはしばし言葉を発せずにいたが、やがて、フッと笑って口を開いた。
「・・・フッ・・・ハハハ!ラクエル、キミってやつは・・・そうだな、うん、その通りだ」
「そうそう、レイチェルも分かってきたみたいだね?難しく考える事ないんだって」
「ハハハ、ありがとう・・・うん、なんだか気が楽になったよ」
笑って話す二人を見て、アラタも自然と表情がほころんだ。
自分が駆け付けたのは最後の最後だったが、一歩遅ければ大切な仲間達を失っていたかもしれない。
そんな嫌な想像をしてしまい、恐ろしさを感じていた。
アラタも生真面目で考え込むところがあるため、内心で気にしていたのだ。けれどラクエルのあっけらかんとした言葉に心が軽くなった。
ミゼルに肩を借りて歩いて来たのはジーンだった。
「あ、ジーン!もう大丈夫なのか?」
ゆっくりと歩いて来るジーンに、アラタは立ち上がって駆け寄った。
「うん、もう痛みはないよ。でもやっぱりダメージは残ってるね、体が重いよ」
「無理するなよ?しばらくはゆっくりして、回復に専念した方がいいぞ」
「ありがとう、うん、そうさせてもらおうかな。実は魔力も枯渇寸前でさ、正直けっこうキツイんだ」
軽い調子で笑って見せるジーンだったが、歩く事がやっとだというのは見て分かる。
「ミゼルさんも・・・大丈夫なんですか?遠くからでもあの魔法が、合成魔法がとんでもないのは分かりました。あんなの使って大丈夫なんですか?」
ミゼルがジーンに肩を貸している形だが、アラタの目にはジーンとミゼルの二人で支え合っているように見える。
よほど魔力を消費したのだろう。肉体的なダメージこそなさそうだが、汗で額にへばりついた髪や、乱れた呼吸、震えている足元を見れば、魔力の消耗が著しいのはよく分かる。
「はは、大丈夫だって言いたいところだけどよ・・・ぶっちゃけギリギリだ。俺にしちゃあけっこう頑張ったと思うんだけど、躱されちまったからよ、かっこ悪いよな」
「そんな事ないですよ!あんな魔法使えるなんて、ミゼルさん本当にすごいです!ミゼルさんがあいつにダメージを与えてたから、なんとか勝てたんですよ。だから最高にかっこいいですよ!」
自虐気味に笑うミゼルだったが、アラタが力いっぱいに言葉を伝えると、一瞬きょとんとした顔を見せて、それから嬉しそうに笑った。
「・・・そっか・・・ありがとよ、アラタ・・・ちょっと、自信持てたぜ」
俺も肩貸しますよ。
アラタはそう言ってミゼルの空いている右肩に腕を回し、ゆっくりと足を進めた。
「ユーリ、大丈夫か?」
レイチェルが心配そうに顔を覗き込む。ユーリは、大丈夫、と言葉少なく答えるが、ぐったりと地面に座り込むその姿は、どう見ても疲労困憊(ひろうこんばい)、疲れ切っていた。
「ユーリ・・・私を助けるために魔力を使い切ったんだよね?ごめんよ」
アゲハはユーリの背に手を当てならが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ん・・・気に、しないで・・・仲間を助けるのは、当然・・・」
ユーリは小さく首を横に振ると、弱弱しいが笑って言葉を返した。
ノエルの蔦に体を貫かれたアゲハは、死ぬ寸前の重体だった。その状態から助けるためには、ユーリは魔力を限界近くまで使う事になったのだ。
「ユーリ・・・ありがとう、この恩は決して忘れないよ」
もう一度頭を下げて感謝の言葉を口にすると、ユーリは何も答えずに、ただ微笑みだけを返した。
「あーーーーー疲れた。そろそろ戻ろうぜ。もう敵も村人も誰もいねぇんだろ?任務完了じゃんよ。さっさと戻ろうぜ」
全員が揃ったところで、リカルドが右手で左の肩を揉みながら、気だるそうな声を上げた。
「リカルド・・・お前って本当にマイペースだな」
本当にギリギリの戦いだったと言うのに、ちょっと汗を流したくらいの感じで話すリカルドに、アラタが呆れたように目を向ける。
「んだよ兄ちゃん、ちょっと活躍したからって調子こいてんの?俺は腹も減ったしさっさと横になって寝たいんだよ。目的はすんだんだから、こんなとこにいる必要ねぇだろ?みんなもそう思うよな?さっさと戻ろうぜ」
同意を求めるように仲間達に顔を向けるリカルドに、レイチェル達は顔を見合わせ、クスリと笑ってしまった。
「ははは・・・そうだな、うん、リカルドの言う通りだよ。軍への報告もあるし、あまり遅いとみんなも心配するだろうしな。少しは休めたし、とりあえず戻るとしようか」
レイチェルの言葉に全員が頷くと、ゆっくりと立ち上がってセドコン村を後にした。
レイチェルもラクエルも誰も気が付かなかった。
村には生き残りは誰もいない。確かにそれはその通りだった。
だが村から100メートル程離れた高い樹の上で、ハビエルチームとの闘いを見ていた女が一人いたのだ。
深紅のマントを風ではためかせた、赤い髪の女が・・・・・
倒木した木に腰をかけながら、レイチェルは隣に座るアラタに感謝の言葉を伝えた。
ハビエルの空量眼によって何度も地面に圧し潰されたが、致命的なダメージは負ってはいなかった。
だが闘気を使い果たした事による疲労は大きく、しばらく休まないと動けそうにはなかった。
「いや、俺が駆けつけた時には、あの男は左腕を失っていたし、かなりのダメージを受けていたみたいだった。ミゼルさんの合成魔法なんだろ?みんなの力で勝ったんだと思うよ」
アラタもぐったりとした様子だが、笑って言葉を返すくらいの余力はあるようだ。
それを見てレイチェルも安心したように表情を柔らかくした。
「ふぅ・・・マルゴンの時もそうだったが、キミは本当に謙虚だな?だがまぁ、それがキミの良いところでもある。実際ミゼルの合成魔法も大したものだった。あとで褒めてやらないとな」
「う~ん、レイチェルは本当にミゼルさんに厳しいよな?」
「当然だ。あいつはちょっと甘い顔をするとすぐにハメを外すからな。キミがレイジェスに来る前は、ギャンブル癖が酷くて大変だったんだぞ?まぁ、最近しっかりしてきた事は認めるが、あいつにはちょっと厳しいくらいで丁度良いんだ。私はこれからもミゼルには厳しくいくぞ」
真顔で宣言するレイチェルに、アラタは苦笑いをするしかなかった。
「おーい、レイチェルー、見回り終わったぞ。この村には他に誰もいないよ」
手を振りながら歩いて来るのはラクエル・エンリケスだった。
空量眼で圧し潰されたため、金色の髪も、黒いタートルネックのセーターも、ベージュのチノパンツも泥まみれだった。ダメージもあったが他の仲間達に比べれば比較的少なかったため、ラクエルが村の見回りに出ていたのだ。
敵にしろ、村の生き残りにしろ、生存者がいないかの確認をしてきたが、セドコン村にはもはや自分達以外だれも残ってはいなかった。
「そうか、じゃあこれでセドコン村の奪還は完了だな・・・」
「・・・レイチェル、どうかした?元気なくない?」
髪や体の泥を払いながらラクエルが声をかけると、レイチェルは小さく息をついて答えた。
「いや・・・自分の力不足を感じてしまってな。店長との修行で強くなったつもりだったんだが、まったく歯が立たなかった。もしアラタが来なければ、あいつの闇で私達は・・・」
そう言って目を伏せるレイチェルを見て、ラクエルは目をパチパチと瞬かせた。
「へぇ~・・・あんたって意外とそういうの気にするんだ?勝ったんだし別によくない?くよくよしてもしかたないっしょ?力不足だと思うんなら、また鍛えりゃいいじゃん?違う?」
「え?」
目を丸くするレイチェルに、ラクエルは構う事なく持論を展開していく。
「あんたさ、難しく考え過ぎじゃない?責任感強過ぎって感じ?みんな生き残ったんだから、それでいいじゃん?」
ラクエルは両手を腰に当てて、レイチェルを見下ろすようにして語った。
さも当然と言うように話すラクエルに、レイチェルはしばし言葉を発せずにいたが、やがて、フッと笑って口を開いた。
「・・・フッ・・・ハハハ!ラクエル、キミってやつは・・・そうだな、うん、その通りだ」
「そうそう、レイチェルも分かってきたみたいだね?難しく考える事ないんだって」
「ハハハ、ありがとう・・・うん、なんだか気が楽になったよ」
笑って話す二人を見て、アラタも自然と表情がほころんだ。
自分が駆け付けたのは最後の最後だったが、一歩遅ければ大切な仲間達を失っていたかもしれない。
そんな嫌な想像をしてしまい、恐ろしさを感じていた。
アラタも生真面目で考え込むところがあるため、内心で気にしていたのだ。けれどラクエルのあっけらかんとした言葉に心が軽くなった。
ミゼルに肩を借りて歩いて来たのはジーンだった。
「あ、ジーン!もう大丈夫なのか?」
ゆっくりと歩いて来るジーンに、アラタは立ち上がって駆け寄った。
「うん、もう痛みはないよ。でもやっぱりダメージは残ってるね、体が重いよ」
「無理するなよ?しばらくはゆっくりして、回復に専念した方がいいぞ」
「ありがとう、うん、そうさせてもらおうかな。実は魔力も枯渇寸前でさ、正直けっこうキツイんだ」
軽い調子で笑って見せるジーンだったが、歩く事がやっとだというのは見て分かる。
「ミゼルさんも・・・大丈夫なんですか?遠くからでもあの魔法が、合成魔法がとんでもないのは分かりました。あんなの使って大丈夫なんですか?」
ミゼルがジーンに肩を貸している形だが、アラタの目にはジーンとミゼルの二人で支え合っているように見える。
よほど魔力を消費したのだろう。肉体的なダメージこそなさそうだが、汗で額にへばりついた髪や、乱れた呼吸、震えている足元を見れば、魔力の消耗が著しいのはよく分かる。
「はは、大丈夫だって言いたいところだけどよ・・・ぶっちゃけギリギリだ。俺にしちゃあけっこう頑張ったと思うんだけど、躱されちまったからよ、かっこ悪いよな」
「そんな事ないですよ!あんな魔法使えるなんて、ミゼルさん本当にすごいです!ミゼルさんがあいつにダメージを与えてたから、なんとか勝てたんですよ。だから最高にかっこいいですよ!」
自虐気味に笑うミゼルだったが、アラタが力いっぱいに言葉を伝えると、一瞬きょとんとした顔を見せて、それから嬉しそうに笑った。
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俺も肩貸しますよ。
アラタはそう言ってミゼルの空いている右肩に腕を回し、ゆっくりと足を進めた。
「ユーリ、大丈夫か?」
レイチェルが心配そうに顔を覗き込む。ユーリは、大丈夫、と言葉少なく答えるが、ぐったりと地面に座り込むその姿は、どう見ても疲労困憊(ひろうこんばい)、疲れ切っていた。
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アゲハはユーリの背に手を当てならが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ん・・・気に、しないで・・・仲間を助けるのは、当然・・・」
ユーリは小さく首を横に振ると、弱弱しいが笑って言葉を返した。
ノエルの蔦に体を貫かれたアゲハは、死ぬ寸前の重体だった。その状態から助けるためには、ユーリは魔力を限界近くまで使う事になったのだ。
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「あーーーーー疲れた。そろそろ戻ろうぜ。もう敵も村人も誰もいねぇんだろ?任務完了じゃんよ。さっさと戻ろうぜ」
全員が揃ったところで、リカルドが右手で左の肩を揉みながら、気だるそうな声を上げた。
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本当にギリギリの戦いだったと言うのに、ちょっと汗を流したくらいの感じで話すリカルドに、アラタが呆れたように目を向ける。
「んだよ兄ちゃん、ちょっと活躍したからって調子こいてんの?俺は腹も減ったしさっさと横になって寝たいんだよ。目的はすんだんだから、こんなとこにいる必要ねぇだろ?みんなもそう思うよな?さっさと戻ろうぜ」
同意を求めるように仲間達に顔を向けるリカルドに、レイチェル達は顔を見合わせ、クスリと笑ってしまった。
「ははは・・・そうだな、うん、リカルドの言う通りだよ。軍への報告もあるし、あまり遅いとみんなも心配するだろうしな。少しは休めたし、とりあえず戻るとしようか」
レイチェルの言葉に全員が頷くと、ゆっくりと立ち上がってセドコン村を後にした。
レイチェルもラクエルも誰も気が付かなかった。
村には生き残りは誰もいない。確かにそれはその通りだった。
だが村から100メートル程離れた高い樹の上で、ハビエルチームとの闘いを見ていた女が一人いたのだ。
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