1,223 / 1,364
1222 ミゼルの切り札
しおりを挟む
ノエル・メレイシアが倒れた事によるハビエルの精神的な衝撃は大きく、それはリカルド達を押さえていた、空量眼を維持できない程であった。
地面に圧し潰される程の重圧が消えた事で、リカルド、ラクエル、ミゼルの三人は立ち上がる事ができた。
そして一目で状況を理解した。
今まさに消えかかった闘気で最後の特攻を仕掛けたレイチェル。だが、おそらくソレは成功しない。
このまま潰されて終わりだろう。それが分からないレイチェルではないはずだ。
ならばなぜそんな行動に出たのか?
「・・・俺達が立つって信じてんだ」
そう理解すると同時にリカルドは矢をつがえた。
「ムチャしてんじゃないよ!」
ラクエルはレイチェルの後を追うように駆けだした。
「・・・やるしか、ないのか」
リカルドとラクエルはすぐに行動に移ったが、ミゼルだけは躊躇いを見せた。
灼炎竜が通用しなかった時点で、ミゼルは彼我(ひが)の実力差を十分過ぎる程理解していた。
魔法使いとしての力量は、ハビエルが一枚も二枚も上手である。それに加えて闇の力まで出してきたのだ、もはや光源爆裂弾であろうと、竜氷縛であろうと、ハビエルには通用しないだろう。
ただ一つを除いて・・・・・
「アイツに効くとすれば店長から伝授されたアレしかねぇ。けど、威力がでかすぎる・・・ここで撃ったらみんなを巻き込んじまう」
そう、ミゼルにはウィッカーとの修行で会得した、とっておきの切り札があった。
その魔法は帝国との戦いにおいて、戦局を左右するほどに強力無比である。しかし強過ぎるがゆえに、使いどころは慎重に見極めなければならない。
ウィッカー自身、過去一度しか使用した事のないその魔法とは・・・・・
パンッ!と乾いた音が響いた・・・・・
ミゼルは自分の顔を両手で叩いて気を入れると、覚悟を決めて言葉を吐き出した。
「くそっ!ビビるなミゼル!どう考えてももうアレしかねぇ!みんなは巻き込まねぇ!野郎にだけぶち込む!俺ならできる!やってやる!」
フー・・・と大きく息を着いて、精神を研ぎ澄ませる。
右手には風の魔力を、左手には氷の魔力を込める。
本来共存できるはずのない異なる二つの魔力を、ギリギリの均衡で絡ませ、左右の手で維持する。
そして両手の魔力を寸分違わず、同じ魔力量で調整する。
そのまま両手を合わせ、異なる魔力がぶつかって打ち消されないように、慎重に融合せていく。
それは200年前、ウィッカーが精霊使いのアンソニーと戦った時、最後の決め手になった魔法である。
「風と氷の合成魔法だ」
練習で融合までは成功させた事がある。だが撃った事は無い。
融合させた時の想像をはるかに超える魔力に、危険を感じたからだ。空に向けて撃てば被害はでないかもしれない。だが多くの人の目につくだろうし、強過ぎる魔法は悪戯に不安を与えかねない。
これを撃つ時は本当の覚悟がいる。
そう理解して、ミゼルは合成魔法を本当の危機が訪れるまで封印しようと決めていた。
想定したよりも早くその時は訪れた。だがこのままでは全滅しかねない。
今がその時なのだ。
仲間を巻き添えにはしない。その上で敵は撃つ。
自分ならできる・・・・・
「そう・・・俺ならできる」
そう言葉を口にする男の目には、もう迷いは無かった。
リカルドの大地の矢は、矢尻が当たった場所を爆発させる。
それもただの爆発ではない。火山の噴火を連想させる程の大爆発だ。天まで届く程の土砂を打ち上げるのだからその威力は絶大。食らった者は当然ただではすまない。いや、死は免れないだろう。
「おっしゃぁーーーーーッツ!モロだ!モロだぜ!」
吹き上がる土砂でメッタ打ちにされるハビエルを見て、リカルドは勝利を確信した。
しかし着地して拳を握り締め、喚起の声を上げたその時・・・・・
「調子こきやがっからこうなんだよ!ざまぁ・・・っ!?」
リカルドは絶句した。
ハビエルの闇が大きく膨れ上がり、体を打ち付ける土砂を吹き飛ばしたのだ。
そして何事も無かったかのように、いや事実ハビエルには何事もなかったのだ。なぜならかすり傷一つ負っていないのだから。
そう、全てを闇が防いだのだ。
ハビエルはリカルドに顔を向けると、ゆっくりと前に進み出た。
「・・・お前、まさか本気でこんなもので、俺の闇を破れると思ったのか?」
「なっ!?て、てめぇっ・・・」
ハビエルはリカルドに向かって、真っすぐに一直線に足を進めてくる。
自身の最大の武器である大地の矢が通用しなかった以上、リカルドにはもう何も攻撃手段がない。
ハビエルが詰めてきただけ後ろに下がる。背中を向けて逃げるわけにはいかないが、下がるしかなかった。
「・・・哀れだな」
リカルドとの距離を数メートルまで詰めたところで立ち止まると、ハビエルはリカルドに右手の平を向けた。その動きに合わせて闇がゆらりと動く。
「く、くそ野郎がっ!」
やられる!リカルドがそう覚悟を決めたその時・・・・・
「もう死ね・・・ッ!?」
背後に感じた凄まじい魔力に、ハビエルは勢いよく振り返った。
地面に圧し潰される程の重圧が消えた事で、リカルド、ラクエル、ミゼルの三人は立ち上がる事ができた。
そして一目で状況を理解した。
今まさに消えかかった闘気で最後の特攻を仕掛けたレイチェル。だが、おそらくソレは成功しない。
このまま潰されて終わりだろう。それが分からないレイチェルではないはずだ。
ならばなぜそんな行動に出たのか?
「・・・俺達が立つって信じてんだ」
そう理解すると同時にリカルドは矢をつがえた。
「ムチャしてんじゃないよ!」
ラクエルはレイチェルの後を追うように駆けだした。
「・・・やるしか、ないのか」
リカルドとラクエルはすぐに行動に移ったが、ミゼルだけは躊躇いを見せた。
灼炎竜が通用しなかった時点で、ミゼルは彼我(ひが)の実力差を十分過ぎる程理解していた。
魔法使いとしての力量は、ハビエルが一枚も二枚も上手である。それに加えて闇の力まで出してきたのだ、もはや光源爆裂弾であろうと、竜氷縛であろうと、ハビエルには通用しないだろう。
ただ一つを除いて・・・・・
「アイツに効くとすれば店長から伝授されたアレしかねぇ。けど、威力がでかすぎる・・・ここで撃ったらみんなを巻き込んじまう」
そう、ミゼルにはウィッカーとの修行で会得した、とっておきの切り札があった。
その魔法は帝国との戦いにおいて、戦局を左右するほどに強力無比である。しかし強過ぎるがゆえに、使いどころは慎重に見極めなければならない。
ウィッカー自身、過去一度しか使用した事のないその魔法とは・・・・・
パンッ!と乾いた音が響いた・・・・・
ミゼルは自分の顔を両手で叩いて気を入れると、覚悟を決めて言葉を吐き出した。
「くそっ!ビビるなミゼル!どう考えてももうアレしかねぇ!みんなは巻き込まねぇ!野郎にだけぶち込む!俺ならできる!やってやる!」
フー・・・と大きく息を着いて、精神を研ぎ澄ませる。
右手には風の魔力を、左手には氷の魔力を込める。
本来共存できるはずのない異なる二つの魔力を、ギリギリの均衡で絡ませ、左右の手で維持する。
そして両手の魔力を寸分違わず、同じ魔力量で調整する。
そのまま両手を合わせ、異なる魔力がぶつかって打ち消されないように、慎重に融合せていく。
それは200年前、ウィッカーが精霊使いのアンソニーと戦った時、最後の決め手になった魔法である。
「風と氷の合成魔法だ」
練習で融合までは成功させた事がある。だが撃った事は無い。
融合させた時の想像をはるかに超える魔力に、危険を感じたからだ。空に向けて撃てば被害はでないかもしれない。だが多くの人の目につくだろうし、強過ぎる魔法は悪戯に不安を与えかねない。
これを撃つ時は本当の覚悟がいる。
そう理解して、ミゼルは合成魔法を本当の危機が訪れるまで封印しようと決めていた。
想定したよりも早くその時は訪れた。だがこのままでは全滅しかねない。
今がその時なのだ。
仲間を巻き添えにはしない。その上で敵は撃つ。
自分ならできる・・・・・
「そう・・・俺ならできる」
そう言葉を口にする男の目には、もう迷いは無かった。
リカルドの大地の矢は、矢尻が当たった場所を爆発させる。
それもただの爆発ではない。火山の噴火を連想させる程の大爆発だ。天まで届く程の土砂を打ち上げるのだからその威力は絶大。食らった者は当然ただではすまない。いや、死は免れないだろう。
「おっしゃぁーーーーーッツ!モロだ!モロだぜ!」
吹き上がる土砂でメッタ打ちにされるハビエルを見て、リカルドは勝利を確信した。
しかし着地して拳を握り締め、喚起の声を上げたその時・・・・・
「調子こきやがっからこうなんだよ!ざまぁ・・・っ!?」
リカルドは絶句した。
ハビエルの闇が大きく膨れ上がり、体を打ち付ける土砂を吹き飛ばしたのだ。
そして何事も無かったかのように、いや事実ハビエルには何事もなかったのだ。なぜならかすり傷一つ負っていないのだから。
そう、全てを闇が防いだのだ。
ハビエルはリカルドに顔を向けると、ゆっくりと前に進み出た。
「・・・お前、まさか本気でこんなもので、俺の闇を破れると思ったのか?」
「なっ!?て、てめぇっ・・・」
ハビエルはリカルドに向かって、真っすぐに一直線に足を進めてくる。
自身の最大の武器である大地の矢が通用しなかった以上、リカルドにはもう何も攻撃手段がない。
ハビエルが詰めてきただけ後ろに下がる。背中を向けて逃げるわけにはいかないが、下がるしかなかった。
「・・・哀れだな」
リカルドとの距離を数メートルまで詰めたところで立ち止まると、ハビエルはリカルドに右手の平を向けた。その動きに合わせて闇がゆらりと動く。
「く、くそ野郎がっ!」
やられる!リカルドがそう覚悟を決めたその時・・・・・
「もう死ね・・・ッ!?」
背後に感じた凄まじい魔力に、ハビエルは勢いよく振り返った。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる