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1216 ぶつかる覚悟と受ける覚悟
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「はぁっ、はぁっ・・・うっ、ぐ、うぅ・・・」
「ジーン、少しだけ我慢して。大丈夫、ジーンは助かる」
ユーリはジーンの胸に両手を当てると、癒しの魔力を放出した。雪の上に倒れているジーンを温かな光が包み込む。
「はぁっ、はぁっ・・・ユ、ユーリ・・・」
呼吸も荒く、口を開く事さえ辛いはずだ。
だがジーンはそれでもユーリに顔を向けて、懸命に言葉を絞り出す。
「ジーン、痛むから話さない方がいい」
ユーリはジーンの胸や腹に広がる傷を見た。
肋骨は何本か折れている。爆発によって裂けた無数の傷口からは、血が止めどなく流れている。
呼吸をする事さえ痛みを伴うだろう。
しかしユーリは、あの爆発を受けてよくこれだけで済んだとも思った。
即死でもおかしくない威力だった。
おそらく直撃の瞬間に結界を張ったのだろう。しかし衝撃を吸収しきれなかった。
その結果瀕死の重傷を負わされる事になった。だが命が残った事は幸いだった。
しかし考えるまでもなく、ジーンがこの戦闘中の復帰は絶望的だった。
「た・・・戦い、は・・・みん、なは・・・」
深く傷ついている。ヒールをかけているが、これだけの重傷だ。すぐに痛みが引くわけもない。
けれど自分の事より仲間の安否を気に掛けるジーンに、ユーリは・・・
「ん、大丈夫。レイチェル達がボッコボコにしてる。もう終わるから、ジーンは寝てればいい」
ユーリはニコリと笑って見せた。ここまでジーンは本当に頑張った。あの双炎砲に立ち向かう姿を見ていなければ、完全に後手に回っていただろう。
今、レイチェルとアゲハが敵と睨み合い、お互いに牽制できているのは、ジーンが戦う姿勢を見せたからだ。
後の事はまかせて、今はゆっくり休んでほしい。
そう願ったユーリは、心配をかけないようにあえて明るく笑ってみせた。
けれどジーンは、その笑顔から何かを感じ取ったのかもしれない。
「・・・そう、か・・・・・」
・・・ユーリがそう言うのなら、そうなのだろう。仲間達を信じて後を任せよう。
心は伝わっている。今はそれを受け止めよう。
口元に小さな笑みを作ると、ジーンはかろうじて保っていた意識を手放した。
赤い髪の女の目は自分を見ている。
黒い髪の女、元帝国軍第二師団長のアゲハはノエルに狙いを付けている。
ハビエルは対峙するレイジェスの二人が、自分とノエル、それぞれを標的にした事を察した。
この時点でレイジェスの二人は、一対一という図式で戦う選択をしたわけだが、ハビエルとノエルは違う。二人の力を合わせてまとめて叩く。
別れて戦う気は最初から無い。意識はあくまで二対二、いや目の前の二人の後ろには、弓を構えた緑色の髪の男、灼炎竜を撃った黒髪の男、そして白いナイフを構えた金髪の女が、鋭い視線をこちらに向けている。
風魔法で吹き飛ばした青い髪の男と、その治療に当たっている女を除けば、二対五である。
光り輝くオーラを放っている赤い髪の女、そして緑色の風を纏うアゲハ。
この二人が前に出て、残りの三人は後方から援護をする。狙いは分かりやすい。
いや、この局面ではもう、小細工など意味はないと分かっているんだ。
「俺の能力を分かった上で、正面からぶつかり力で叩き伏せる・・・そういうわけか」
舐められているとは思わない。不思議と不快感は無く、むしろ忘れていた精神の高揚を感じている。
ハビエル・フェルトゥザの黒い目には、喜びの色すら見えた。
「ハビエル・・・」
隣に立つノエルの目にも、ハビエルの変化はハッキリと映った。
強過ぎるがゆえに戦う相手がいなくなった。
視線一つで倒せるのだから、ハビエルにとって戦いとは、実に空虚なものだった。
だがここに来てハビエルは、敵と呼べるだけの相手に出会った。
・・・嬉しいのね、ハビエル。あなたのそんな顔、本当に久しぶりに見たわ。
ハビエルの顔を見て、ノエルは小さく笑った。
ノエルの魔道具である蔦は、広域に仕掛ける時は地面にかかる重さに反応する自動攻撃だが、当然使い手であるノエルの意思で動かす事も可能である。
そして魔力を注げば注ぐだけ、その大きさも強度も変える事はできる。
今、自分達に刃を向けるこの戦士達は雑兵ではない。
自分達の首に届きうる可能性を持つ存在である。
過去最強の敵を認め、ノエルの膨大な魔力が溢れ出した!
・・・ハビエル、私も同じ気持ちよ。
さぁ!かかってきなさい!私とハビエルの力を見せてあげるわ!
ハビエルとノエル、二人が臨戦態勢に入ったその時、対峙するレイジェスの戦士達が地面を蹴って飛び出した。
レイチェル・エリオットの目は、敵の黒魔法使いハビエル・フェルトゥザだけを見ていた。
ハビエルの隣に立つノエルの魔力は膨大であり、決して無視できるものではない。
だがレイチェルの視界にはノエルは映っていなかった。なぜならアゲハがノエルを引き受けると言ったからだ。
アゲハとの付き合いは長くはない。だが今ここで帝国と戦うために肩を並べている。
そしてアゲハから感じる精霊の風は、師ウィッカーからも感じた事のある、澄み渡る優しい緑の匂いがした。
それだけでレイチェルには、背中を預けるに事足りた。
私のやるべき事はこの男、ハビエル・フェルトゥザを倒す事だ。それだけに集中しろ。
こいつは危険過ぎる。今ここで叩いておかなければ、クインズベリー軍は甚大な被害を受ける事になる。
恐れるな・・・全てを出し尽くせ・・・この闘気があれば勝てるはずだ・・・自分を信じろ!
地面を蹴ったレイチェルは、己を光の弾に変えて体ごとハビエルにぶつかっていった。
全開にした闘気はレイチェルが駆け抜けた後の地面を抉り、高密度のエネルギーは突風を巻き起こす。
掛け値なし!全身全霊の特攻である!
「止められるものなら止めてみろォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッツ!」
・・・この女、これほどの力を持っていたのか。
この光、初めて見るが凄まじい力だ。魔法とは違う、体力型ならではの技か?
いずれにしろこの赤毛の女の、決死の一撃には間違いない。
面白い、この俺の空量眼を受けてもなお立ち上がり、真正面から向かって来る。
それも俺を脅かす程の力を持ってだ。
確かに俺の風の鎧をもってしても、これほどの力を防ぎきる事は難しいだろう。
俺一人ならば躱す事はできなくはない。だが躱すという選択肢はありえない。
俺はこの赤毛の女の覚悟に、正面から受けて立つ。正面から叩き潰して完全なる勝利を得る。
止められるものなら止めてみろ?やってやろうじゃないか。
「潰れて死ねェェェェェーーーーーーーーッツ!」
ハビエルの黒い瞳がギラリと光る。
前方の空間がぐにゃりと歪み、その目に映る全てにとてつもない重圧が降りかかった。
「ジーン、少しだけ我慢して。大丈夫、ジーンは助かる」
ユーリはジーンの胸に両手を当てると、癒しの魔力を放出した。雪の上に倒れているジーンを温かな光が包み込む。
「はぁっ、はぁっ・・・ユ、ユーリ・・・」
呼吸も荒く、口を開く事さえ辛いはずだ。
だがジーンはそれでもユーリに顔を向けて、懸命に言葉を絞り出す。
「ジーン、痛むから話さない方がいい」
ユーリはジーンの胸や腹に広がる傷を見た。
肋骨は何本か折れている。爆発によって裂けた無数の傷口からは、血が止めどなく流れている。
呼吸をする事さえ痛みを伴うだろう。
しかしユーリは、あの爆発を受けてよくこれだけで済んだとも思った。
即死でもおかしくない威力だった。
おそらく直撃の瞬間に結界を張ったのだろう。しかし衝撃を吸収しきれなかった。
その結果瀕死の重傷を負わされる事になった。だが命が残った事は幸いだった。
しかし考えるまでもなく、ジーンがこの戦闘中の復帰は絶望的だった。
「た・・・戦い、は・・・みん、なは・・・」
深く傷ついている。ヒールをかけているが、これだけの重傷だ。すぐに痛みが引くわけもない。
けれど自分の事より仲間の安否を気に掛けるジーンに、ユーリは・・・
「ん、大丈夫。レイチェル達がボッコボコにしてる。もう終わるから、ジーンは寝てればいい」
ユーリはニコリと笑って見せた。ここまでジーンは本当に頑張った。あの双炎砲に立ち向かう姿を見ていなければ、完全に後手に回っていただろう。
今、レイチェルとアゲハが敵と睨み合い、お互いに牽制できているのは、ジーンが戦う姿勢を見せたからだ。
後の事はまかせて、今はゆっくり休んでほしい。
そう願ったユーリは、心配をかけないようにあえて明るく笑ってみせた。
けれどジーンは、その笑顔から何かを感じ取ったのかもしれない。
「・・・そう、か・・・・・」
・・・ユーリがそう言うのなら、そうなのだろう。仲間達を信じて後を任せよう。
心は伝わっている。今はそれを受け止めよう。
口元に小さな笑みを作ると、ジーンはかろうじて保っていた意識を手放した。
赤い髪の女の目は自分を見ている。
黒い髪の女、元帝国軍第二師団長のアゲハはノエルに狙いを付けている。
ハビエルは対峙するレイジェスの二人が、自分とノエル、それぞれを標的にした事を察した。
この時点でレイジェスの二人は、一対一という図式で戦う選択をしたわけだが、ハビエルとノエルは違う。二人の力を合わせてまとめて叩く。
別れて戦う気は最初から無い。意識はあくまで二対二、いや目の前の二人の後ろには、弓を構えた緑色の髪の男、灼炎竜を撃った黒髪の男、そして白いナイフを構えた金髪の女が、鋭い視線をこちらに向けている。
風魔法で吹き飛ばした青い髪の男と、その治療に当たっている女を除けば、二対五である。
光り輝くオーラを放っている赤い髪の女、そして緑色の風を纏うアゲハ。
この二人が前に出て、残りの三人は後方から援護をする。狙いは分かりやすい。
いや、この局面ではもう、小細工など意味はないと分かっているんだ。
「俺の能力を分かった上で、正面からぶつかり力で叩き伏せる・・・そういうわけか」
舐められているとは思わない。不思議と不快感は無く、むしろ忘れていた精神の高揚を感じている。
ハビエル・フェルトゥザの黒い目には、喜びの色すら見えた。
「ハビエル・・・」
隣に立つノエルの目にも、ハビエルの変化はハッキリと映った。
強過ぎるがゆえに戦う相手がいなくなった。
視線一つで倒せるのだから、ハビエルにとって戦いとは、実に空虚なものだった。
だがここに来てハビエルは、敵と呼べるだけの相手に出会った。
・・・嬉しいのね、ハビエル。あなたのそんな顔、本当に久しぶりに見たわ。
ハビエルの顔を見て、ノエルは小さく笑った。
ノエルの魔道具である蔦は、広域に仕掛ける時は地面にかかる重さに反応する自動攻撃だが、当然使い手であるノエルの意思で動かす事も可能である。
そして魔力を注げば注ぐだけ、その大きさも強度も変える事はできる。
今、自分達に刃を向けるこの戦士達は雑兵ではない。
自分達の首に届きうる可能性を持つ存在である。
過去最強の敵を認め、ノエルの膨大な魔力が溢れ出した!
・・・ハビエル、私も同じ気持ちよ。
さぁ!かかってきなさい!私とハビエルの力を見せてあげるわ!
ハビエルとノエル、二人が臨戦態勢に入ったその時、対峙するレイジェスの戦士達が地面を蹴って飛び出した。
レイチェル・エリオットの目は、敵の黒魔法使いハビエル・フェルトゥザだけを見ていた。
ハビエルの隣に立つノエルの魔力は膨大であり、決して無視できるものではない。
だがレイチェルの視界にはノエルは映っていなかった。なぜならアゲハがノエルを引き受けると言ったからだ。
アゲハとの付き合いは長くはない。だが今ここで帝国と戦うために肩を並べている。
そしてアゲハから感じる精霊の風は、師ウィッカーからも感じた事のある、澄み渡る優しい緑の匂いがした。
それだけでレイチェルには、背中を預けるに事足りた。
私のやるべき事はこの男、ハビエル・フェルトゥザを倒す事だ。それだけに集中しろ。
こいつは危険過ぎる。今ここで叩いておかなければ、クインズベリー軍は甚大な被害を受ける事になる。
恐れるな・・・全てを出し尽くせ・・・この闘気があれば勝てるはずだ・・・自分を信じろ!
地面を蹴ったレイチェルは、己を光の弾に変えて体ごとハビエルにぶつかっていった。
全開にした闘気はレイチェルが駆け抜けた後の地面を抉り、高密度のエネルギーは突風を巻き起こす。
掛け値なし!全身全霊の特攻である!
「止められるものなら止めてみろォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッツ!」
・・・この女、これほどの力を持っていたのか。
この光、初めて見るが凄まじい力だ。魔法とは違う、体力型ならではの技か?
いずれにしろこの赤毛の女の、決死の一撃には間違いない。
面白い、この俺の空量眼を受けてもなお立ち上がり、真正面から向かって来る。
それも俺を脅かす程の力を持ってだ。
確かに俺の風の鎧をもってしても、これほどの力を防ぎきる事は難しいだろう。
俺一人ならば躱す事はできなくはない。だが躱すという選択肢はありえない。
俺はこの赤毛の女の覚悟に、正面から受けて立つ。正面から叩き潰して完全なる勝利を得る。
止められるものなら止めてみろ?やってやろうじゃないか。
「潰れて死ねェェェェェーーーーーーーーッツ!」
ハビエルの黒い瞳がギラリと光る。
前方の空間がぐにゃりと歪み、その目に映る全てにとてつもない重圧が降りかかった。
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