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1215 闘気と風
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・・・こいつ、本当に強いな。
レイチェル・エリオットはハビエルの腹に右の拳をめりこませたが、拳に感じた感触に眉を潜めた。
闘気を纏ったレイチェルの拳は、魔法使いのハビエルには到底耐えきれるものではない。
しかもふいを突いた一発であれば、意識を飛ばす事など容易いものである。
しかしこの男ハビエル・フェルトゥザは、腹部を押さえて上半身を折ってはいるが、地面には膝すら着けていない。
・・・おそらく風だ。こいつの腹に拳が入った時、まるで厚い皮でも殴ったような感触がした。
とっさの事か、それとも私と向き合った時にはすでに仕込んでいたのか分からないが、今のを耐えるとはな・・・打撃では長引きそうだ。
レイチェルの判断は早かった。ふいを突いた拳による一撃で、ハビエルの意識を飛ばすつもりだった。だがそれが通用しないと分かれば、早々に打撃に見切りをつけた。
そして腰に下げた革の鞘からナイフを抜き取ると、まだ体を起こす事のできないハビエルの頭に向けて振り下ろした!
だが・・・
「っ!?」
レイチェルは振り下ろした右腕をビタリと止めると、そのまま地面を後ろに蹴って飛び退いた。
なぜなら一瞬前までレイチェルが立っていた場所に、何本のもの蔦が突き刺すように伸びて来たからだ。
鼻先をかすめたソレを見て、もし地面を蹴るのが後一瞬、ほんの一瞬でも遅ければ、自分はソレに巻き付かれて、体を押さえられていただろうと感じた。
「私を忘れてないかしら?」
ノエル・メレイシアはハビエルの前に立つと、大きく後ろに飛び退いたレイチェルに、冷たい視線を向けた。
「ああ、そう言えばキミもいたね?蔦が邪魔で見えなかったよ」
右手にだけナイフを握っていたレイチェルだが、ノエルから視線を切らずに、腰の左のナイフも取り出して構えた。
軽口を返すが、ノエルを軽視しているわけではない。蔦を十分に警戒しているからの二刀構えである。
「ぐっ・・・ノエル、すまんな」
まだダメージの抜けきらない腹部を押さえながら、ハビエルは自分を護るように前に立つノエルの背に顔を向けた。
「ハビエル、もう本当にお遊びは終わりしましょう。私も反省するわ。私の蔦とあなたの眼で終わらせるわよ」
ノエルは振り返らなかった。自分に刃を向ける赤い髪の女から、一瞬でも目を離してはならない。
首筋に感じる研ぎ澄まされた殺意、それに対する防衛本能がそうさせていたからだ。
・・・この赤毛の子、不意打ちとは言えハビエルにダメージを与えるなんて危険だわ。
それにあのオーラ、あれを出してから明らかに力強さが増している。
これ以上戦いを長引かせない方がいいわ。私とハビエルで一気に決める!
「・・・ああ、お前の言う通りだな。もう終わらせよう」
ノエルのとなりに並び立つ。ハビエルの声には、これまでにない決意のようなものが感じられた。
防御したとはいえ、レイチェルの拳をその身に受けて、敵の力が自分を脅かす程のものだと感じ取っていたのだ。
ハビエルとノエル、二人の纏う空気が緊張感を帯びて張りつめる。
「・・・油断していたわけではないんだがな」
対峙する二人の魔法使いを見据えながら、レイチェルは呟いた。
初手でハビエルを仕留めるはずだった。だがあっさりと潰されてしまい不覚をとった。
敵の姿を認めると同時に駆け出し、最速最短の攻撃を繰り出した。自分の行動にミスはなかった、そう思っていた。
だが私は間違っていた。
「闘気も何もかも、最初から持てる全てを尽くさなければならなかったんだ」
この二人はそうしなければならない程強い。
両手のナイフを握り直し、腰を落として臨戦態勢に入る。一度は自分を圧し潰した男の正面に立つ事に、少なからずの緊張はある。だが耐えきれる自信もあった。
なぜなら自分の体から発せられるこの光り輝くオーラからは、我が身を護ってくれる確かな力強さが感じられるからだ。
「レイチェル、蔦の女は私に任せてくれ」
隣に立った長い黒髪の女は、レイチェルには目を向けずに言葉をかけた。
視線の先には、地面から生やした何本もの大きな蔦を盾にする、薄紫色の髪の女が映っている。
「アゲハ、ヤツは視界に映った相手を圧し潰せる。どう対処するつもりだ?」
アゲハがノエルに狙いをつけても、ハビエルの眼に映れば逃れる事は不可能だ。闘気を使えるレイチェルと違い、アゲハはどうやって身を護るのか?
「レイチェル、私の体に流れる血を忘れたのか?」
足元から吹き上がる風が、アゲハの長い黒髪を広げて巻き上げる。
「私にはカエストゥスの風がある」
緑色の風を纏うアゲハは、自身の身の丈よりも長い得物を脇に構えた。
「・・・そうだったな、アゲハ、あの女は任せた」
アゲハは黙ってうなずくと、一つ息を着いて鋭く正面を睨みつけた。
「ああ・・・いくぞ!」
二人の戦士が地面を蹴って飛び出した。
レイチェル・エリオットはハビエルの腹に右の拳をめりこませたが、拳に感じた感触に眉を潜めた。
闘気を纏ったレイチェルの拳は、魔法使いのハビエルには到底耐えきれるものではない。
しかもふいを突いた一発であれば、意識を飛ばす事など容易いものである。
しかしこの男ハビエル・フェルトゥザは、腹部を押さえて上半身を折ってはいるが、地面には膝すら着けていない。
・・・おそらく風だ。こいつの腹に拳が入った時、まるで厚い皮でも殴ったような感触がした。
とっさの事か、それとも私と向き合った時にはすでに仕込んでいたのか分からないが、今のを耐えるとはな・・・打撃では長引きそうだ。
レイチェルの判断は早かった。ふいを突いた拳による一撃で、ハビエルの意識を飛ばすつもりだった。だがそれが通用しないと分かれば、早々に打撃に見切りをつけた。
そして腰に下げた革の鞘からナイフを抜き取ると、まだ体を起こす事のできないハビエルの頭に向けて振り下ろした!
だが・・・
「っ!?」
レイチェルは振り下ろした右腕をビタリと止めると、そのまま地面を後ろに蹴って飛び退いた。
なぜなら一瞬前までレイチェルが立っていた場所に、何本のもの蔦が突き刺すように伸びて来たからだ。
鼻先をかすめたソレを見て、もし地面を蹴るのが後一瞬、ほんの一瞬でも遅ければ、自分はソレに巻き付かれて、体を押さえられていただろうと感じた。
「私を忘れてないかしら?」
ノエル・メレイシアはハビエルの前に立つと、大きく後ろに飛び退いたレイチェルに、冷たい視線を向けた。
「ああ、そう言えばキミもいたね?蔦が邪魔で見えなかったよ」
右手にだけナイフを握っていたレイチェルだが、ノエルから視線を切らずに、腰の左のナイフも取り出して構えた。
軽口を返すが、ノエルを軽視しているわけではない。蔦を十分に警戒しているからの二刀構えである。
「ぐっ・・・ノエル、すまんな」
まだダメージの抜けきらない腹部を押さえながら、ハビエルは自分を護るように前に立つノエルの背に顔を向けた。
「ハビエル、もう本当にお遊びは終わりしましょう。私も反省するわ。私の蔦とあなたの眼で終わらせるわよ」
ノエルは振り返らなかった。自分に刃を向ける赤い髪の女から、一瞬でも目を離してはならない。
首筋に感じる研ぎ澄まされた殺意、それに対する防衛本能がそうさせていたからだ。
・・・この赤毛の子、不意打ちとは言えハビエルにダメージを与えるなんて危険だわ。
それにあのオーラ、あれを出してから明らかに力強さが増している。
これ以上戦いを長引かせない方がいいわ。私とハビエルで一気に決める!
「・・・ああ、お前の言う通りだな。もう終わらせよう」
ノエルのとなりに並び立つ。ハビエルの声には、これまでにない決意のようなものが感じられた。
防御したとはいえ、レイチェルの拳をその身に受けて、敵の力が自分を脅かす程のものだと感じ取っていたのだ。
ハビエルとノエル、二人の纏う空気が緊張感を帯びて張りつめる。
「・・・油断していたわけではないんだがな」
対峙する二人の魔法使いを見据えながら、レイチェルは呟いた。
初手でハビエルを仕留めるはずだった。だがあっさりと潰されてしまい不覚をとった。
敵の姿を認めると同時に駆け出し、最速最短の攻撃を繰り出した。自分の行動にミスはなかった、そう思っていた。
だが私は間違っていた。
「闘気も何もかも、最初から持てる全てを尽くさなければならなかったんだ」
この二人はそうしなければならない程強い。
両手のナイフを握り直し、腰を落として臨戦態勢に入る。一度は自分を圧し潰した男の正面に立つ事に、少なからずの緊張はある。だが耐えきれる自信もあった。
なぜなら自分の体から発せられるこの光り輝くオーラからは、我が身を護ってくれる確かな力強さが感じられるからだ。
「レイチェル、蔦の女は私に任せてくれ」
隣に立った長い黒髪の女は、レイチェルには目を向けずに言葉をかけた。
視線の先には、地面から生やした何本もの大きな蔦を盾にする、薄紫色の髪の女が映っている。
「アゲハ、ヤツは視界に映った相手を圧し潰せる。どう対処するつもりだ?」
アゲハがノエルに狙いをつけても、ハビエルの眼に映れば逃れる事は不可能だ。闘気を使えるレイチェルと違い、アゲハはどうやって身を護るのか?
「レイチェル、私の体に流れる血を忘れたのか?」
足元から吹き上がる風が、アゲハの長い黒髪を広げて巻き上げる。
「私にはカエストゥスの風がある」
緑色の風を纏うアゲハは、自身の身の丈よりも長い得物を脇に構えた。
「・・・そうだったな、アゲハ、あの女は任せた」
アゲハは黙ってうなずくと、一つ息を着いて鋭く正面を睨みつけた。
「ああ・・・いくぞ!」
二人の戦士が地面を蹴って飛び出した。
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