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1210 一瞬の好機
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「うッ・・・」
ラクエルは左腕を襲う激痛に顔をしかめた。
左の上腕がパックリと切れて、ドクドクと流れる出る血が手首を伝い、白い地面に滴り落ちる。
上に着ている赤いカーディガンも、ラクエルの血を吸って赤をより赤く染めていた。
「くっそぉ、あ、あいつマジ?あのタイミングで、どんな目してんのよ?」
ラクエルの右の上段蹴りがハビエルの顔面をとらえた時、すでにハビエルも氷魔法刺氷弾を撃っていた。
顔面に氷の礫(つぶて)を浴び、視界を遮(さえぎ)られた状態にも関わらず、反撃に転じた事は驚かされた。だがそれよりも、なによりも肝を冷やしたのは、ほぼ正確にラクエルの心臓に狙いをつけた事だった。
・・・蹴りが先に当たらなかったらアタシは・・・・・
そう、今ラクエルの左腕から流れ出る血は、ハビエルの刺氷弾による負傷である。
それはあの瞬間ラクエルの蹴りが先に当たった事で、ハビエルの狙いが反れた結果である。
もしハビエルの刺氷弾が先に撃たれていれば、氷の槍はラクエルの胸を貫いていただろう。
ギリッと歯を噛み締め、右手に持つ凍結のナイフを握り直す。
左腕の傷は決して浅くない。だがラクエルに負傷を気にする余裕は無かった。
なぜなら・・・・・
「アタシの蹴り・・・入ったよね?」
顔面を蹴り飛ばされたハビエルだったが、地面にその背を着けるスレスレで、風魔法を使いその体を空中で止めると、くるりと回ってかろやかに着地したのだ。
そしてゆっくりと顔を上げたハビエルの口の端からは、一筋の血が流れていた。
「・・・血を流したのは、久しぶりだ・・・」
そう静かに口にすると、親指で血を拭い目の前のラクエルに視線を向けた。
僅かに頬が赤く見える。だがそれだけであり、ダメージらしいダメージは見当たらなかった。
ラクエルは驚愕した。スピードを売りにした戦い方をしているが、氷の柱を粉砕するラクエルの蹴りは決して軽くない。そもそも体力型の蹴りを魔法使いが顔面にくらって、その程度で済むはずがないのだ。
・・・この男はいったい・・・・・!
そこまで考えて思い当たった。黒魔法使いの基本的な防御方法に。
「・・・風、だよね?本当やっかいだわ」
「衝撃が突き抜けて来た、良い蹴りだ。まともにくらっていれば首の骨が折れていたかもしれないな」
冷たい汗を流すラクエルに対して、ハビエルの表情には変化が無い。
ラクエルの指摘を肯定しつつ、淡々とした口調で言葉を返す。
「さて、これまでの戦いぶりから、どうやらお前は俺の能力に気付いているようだな?だが分かったところで防ぎようはないぞ。観念しろ」
そう告げてハビエルの目がギラリと光ると、ラクエルは右手に持つ白いナイフを、ハビエルに向かって投げつけた!
「っ!?」
予想外の攻撃にハビエルは目を開いた。
迷いの無い動きだった。一本しかない武器を手放すというのは、魔法使いのハビエルにとっては考えづらい事だった。だが体術に優れたラクエルにとって、武器が絶対のよりどころと言うわけではない。
そしてハビエルは思い違いをしていた。
魔導剣士とは、魔道具を駆使して戦うから魔導剣士なのである。
手にしていたナイフだけが全てではないのだ。
「フン・・・」
不快そうに眉を潜めると、ハビエルは小さく息を吐いた。
矢であろうとナイフであろうと、風魔法を使えるハビエルに飛び道具は通用しない。
何度仕掛けられても結果は同じである。再び下から巻き上がる風によって、ラクエルの凍結のナイフが吹き飛ばされた。
「力の差は分かったはずだ。貴様も大人しく潰れ・・・」
ナイフを投げると同時に、ラクエルはハビエルに向かって駆け出していた。
真っ直ぐに自分に向かって来るラクエルは、ハビエルにとって格好の餌食である。レイチェルやアゲハと同じく、一思いに潰してしまえばいい。
だが能力を使う直前で、ハビエルの直感がざわついた。
・・・妙だな・・・この女、俺の能力に気付いているはずだ。
視界内の空気の質量を操作できる俺の魔道具、空量眼。
なぜ俺の視界から逃げようとしない?さっきまでは俺に見られないように逃げていたはずだ。
俺の眼から身を護る術があるのか?いや、それは無い。あれば最初から使っているはずだ。
ではなぜ?
ハビエルの思案はほんの一瞬だった。だがこの一瞬がハビエルの隙である。
自分が絶対の強者であるという自信から、詰めが甘くなってしまうのだ。
ハビエルは確かにラクエルより格上である。
だがラクエルとて魔道剣士四人衆として、ロンズデールの頂点の一角を担う実力者だった。
ほんの一瞬であろうと、敵の隙を見逃しはしない。
「縛れ!赤糸の籠!」
蹴りが届く距離まで踏み込むと、走りながら脱いでいた赤いカーディガンをハビエルに投げつけた!
「・・・くだらん真似を・・・ッ!?」
また目くらましか?服を顔に投げて視界を防ぐ。二度も同じ手が通用すると思うのか?
ハビエルは魔力を炎に変えて、自分の顔面に投げられた赤いカーディガンを焼き払おうとした。
だがその時・・・・・!
「なにぃッッッ!?」
赤いカーディガンを形作る糸が一瞬にして全て解けると、赤い糸はそのままハビエルの体にグルグルと巻き付いた!
腕を、足を、胸を、腰を、そして首にまで糸が巻き付きハビエルの動きを封じると、ラクエルは前線から離れて待機していた仲間達に向かって大声で叫んだ。
「今だよッ!撃てぇーーーーーーーーッツ!」
「ウォォォォォーーーーッツ!焼き尽くせぇぇぇぇぇーーーーーッツ!」
魔力を練って合図を待っていたボサボサ頭の黒魔法使い、ミゼル・アルバラードの両手から、巨大な炎の竜が撃ち放たれた。
ラクエルは左腕を襲う激痛に顔をしかめた。
左の上腕がパックリと切れて、ドクドクと流れる出る血が手首を伝い、白い地面に滴り落ちる。
上に着ている赤いカーディガンも、ラクエルの血を吸って赤をより赤く染めていた。
「くっそぉ、あ、あいつマジ?あのタイミングで、どんな目してんのよ?」
ラクエルの右の上段蹴りがハビエルの顔面をとらえた時、すでにハビエルも氷魔法刺氷弾を撃っていた。
顔面に氷の礫(つぶて)を浴び、視界を遮(さえぎ)られた状態にも関わらず、反撃に転じた事は驚かされた。だがそれよりも、なによりも肝を冷やしたのは、ほぼ正確にラクエルの心臓に狙いをつけた事だった。
・・・蹴りが先に当たらなかったらアタシは・・・・・
そう、今ラクエルの左腕から流れ出る血は、ハビエルの刺氷弾による負傷である。
それはあの瞬間ラクエルの蹴りが先に当たった事で、ハビエルの狙いが反れた結果である。
もしハビエルの刺氷弾が先に撃たれていれば、氷の槍はラクエルの胸を貫いていただろう。
ギリッと歯を噛み締め、右手に持つ凍結のナイフを握り直す。
左腕の傷は決して浅くない。だがラクエルに負傷を気にする余裕は無かった。
なぜなら・・・・・
「アタシの蹴り・・・入ったよね?」
顔面を蹴り飛ばされたハビエルだったが、地面にその背を着けるスレスレで、風魔法を使いその体を空中で止めると、くるりと回ってかろやかに着地したのだ。
そしてゆっくりと顔を上げたハビエルの口の端からは、一筋の血が流れていた。
「・・・血を流したのは、久しぶりだ・・・」
そう静かに口にすると、親指で血を拭い目の前のラクエルに視線を向けた。
僅かに頬が赤く見える。だがそれだけであり、ダメージらしいダメージは見当たらなかった。
ラクエルは驚愕した。スピードを売りにした戦い方をしているが、氷の柱を粉砕するラクエルの蹴りは決して軽くない。そもそも体力型の蹴りを魔法使いが顔面にくらって、その程度で済むはずがないのだ。
・・・この男はいったい・・・・・!
そこまで考えて思い当たった。黒魔法使いの基本的な防御方法に。
「・・・風、だよね?本当やっかいだわ」
「衝撃が突き抜けて来た、良い蹴りだ。まともにくらっていれば首の骨が折れていたかもしれないな」
冷たい汗を流すラクエルに対して、ハビエルの表情には変化が無い。
ラクエルの指摘を肯定しつつ、淡々とした口調で言葉を返す。
「さて、これまでの戦いぶりから、どうやらお前は俺の能力に気付いているようだな?だが分かったところで防ぎようはないぞ。観念しろ」
そう告げてハビエルの目がギラリと光ると、ラクエルは右手に持つ白いナイフを、ハビエルに向かって投げつけた!
「っ!?」
予想外の攻撃にハビエルは目を開いた。
迷いの無い動きだった。一本しかない武器を手放すというのは、魔法使いのハビエルにとっては考えづらい事だった。だが体術に優れたラクエルにとって、武器が絶対のよりどころと言うわけではない。
そしてハビエルは思い違いをしていた。
魔導剣士とは、魔道具を駆使して戦うから魔導剣士なのである。
手にしていたナイフだけが全てではないのだ。
「フン・・・」
不快そうに眉を潜めると、ハビエルは小さく息を吐いた。
矢であろうとナイフであろうと、風魔法を使えるハビエルに飛び道具は通用しない。
何度仕掛けられても結果は同じである。再び下から巻き上がる風によって、ラクエルの凍結のナイフが吹き飛ばされた。
「力の差は分かったはずだ。貴様も大人しく潰れ・・・」
ナイフを投げると同時に、ラクエルはハビエルに向かって駆け出していた。
真っ直ぐに自分に向かって来るラクエルは、ハビエルにとって格好の餌食である。レイチェルやアゲハと同じく、一思いに潰してしまえばいい。
だが能力を使う直前で、ハビエルの直感がざわついた。
・・・妙だな・・・この女、俺の能力に気付いているはずだ。
視界内の空気の質量を操作できる俺の魔道具、空量眼。
なぜ俺の視界から逃げようとしない?さっきまでは俺に見られないように逃げていたはずだ。
俺の眼から身を護る術があるのか?いや、それは無い。あれば最初から使っているはずだ。
ではなぜ?
ハビエルの思案はほんの一瞬だった。だがこの一瞬がハビエルの隙である。
自分が絶対の強者であるという自信から、詰めが甘くなってしまうのだ。
ハビエルは確かにラクエルより格上である。
だがラクエルとて魔道剣士四人衆として、ロンズデールの頂点の一角を担う実力者だった。
ほんの一瞬であろうと、敵の隙を見逃しはしない。
「縛れ!赤糸の籠!」
蹴りが届く距離まで踏み込むと、走りながら脱いでいた赤いカーディガンをハビエルに投げつけた!
「・・・くだらん真似を・・・ッ!?」
また目くらましか?服を顔に投げて視界を防ぐ。二度も同じ手が通用すると思うのか?
ハビエルは魔力を炎に変えて、自分の顔面に投げられた赤いカーディガンを焼き払おうとした。
だがその時・・・・・!
「なにぃッッッ!?」
赤いカーディガンを形作る糸が一瞬にして全て解けると、赤い糸はそのままハビエルの体にグルグルと巻き付いた!
腕を、足を、胸を、腰を、そして首にまで糸が巻き付きハビエルの動きを封じると、ラクエルは前線から離れて待機していた仲間達に向かって大声で叫んだ。
「今だよッ!撃てぇーーーーーーーーッツ!」
「ウォォォォォーーーーッツ!焼き尽くせぇぇぇぇぇーーーーーッツ!」
魔力を練って合図を待っていたボサボサ頭の黒魔法使い、ミゼル・アルバラードの両手から、巨大な炎の竜が撃ち放たれた。
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