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1208 かましてやろうぜ
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斬空烈波の爆発による風が落ち着きを見せ始めた。
敵側から攻めてくる気配は感じられなかったため、レイチェル達は先に進むための準備に時間を使っていた。
「みんな、準備はできたか?」
仲間達の前に立ち、レイチェルは一人一人に顔を向けた。
「ああ、私は問題ない。いつでも行けるぞ」
アゲハは長い黒髪を首の後ろで一本に結ぶと、自分の背丈よりも長い獲物を地面に突き刺した。
イサックとの闘いでもダメージは受けていないため、言葉通り万全の状態である。
「アタシもバッチリだよ。青魔法って便利だよね、濡れた服も一発で乾いたしさ」
ラクエルは赤いカーディガンをつまむと、ジーンに顔を向けてニッと笑って見せた。
ジーンがクリーンを使い、沼で濡れた服は全員乾かしてあるのだ。
「ははは、お役に立てて良かったよ。この寒さで服が濡れたままじゃ、体温が奪われてとても戦えないからね」
少し疲れた顔をしているが、ジーンもラクエルに笑って言葉を返した。
「ジーン、魔力回復促進薬は飲んだだろ?いけそうか?」
ジーンの様子を見ながらミゼルが声をかけると、ジーンは少し困ったように小さく笑って応えた。
「・・・正直に言うと、残りの魔力は三割くらいかな。天衣結界も使えなくはないけど、あまり粘る事はできないと思う。役には立てないかもしれないけど、精一杯頑張らせてもらうよ」
「なに言ってんだよ?ジーンがいなかったら、さっきの竜巻はとても耐えきれなかった。今度は俺らが頑張る番だ。風魔法は結界の代わりになる。ジーンはできるだけ魔力を温存しておいてくれ」
ミゼルも魔力を消耗していたが、それでもジーンに比べれば余裕がある。
そしてミゼルの言葉通り、確かに風魔法は防御にも有効であり、結界の代わりを担う事もできる。だが結界の最高峰、天衣結界の代わりには成りえない。
実力差が大きければ話しは違うが、ジーンの天衣結界とミゼルの風の防御であれば、天衣結界が上である。
切り札として天衣結界を残しておきたいミゼルは、できる限りジーンの負担を減らそうと考えていた。
「うん、ジーンはすごい頑張った。だから今度はアタシ達の番」
ユーリも拳を握って力強く言葉を口にした。魔道具膂力のベルトを使えば、ユーリは並の体力型以上のパワーとスピードで戦う事ができるのだ。
「まぁよ、俺らに任せておけって。ジーンは俺がピンチの時に全力を尽くせばいいんだって!」
「ああ、ありが・・・うん?リカルドがピンチの時だけ?」
笑顔のリカルドにポンと肩に手を乗せられ、ジーンはお礼を口にしようとして首を捻った。
「こまけぇ事は気にすんなって!ハゲんぞ!」
バシバシとジーンの背中を叩くと、リカルドはニヤリと笑ってレイチェルに顔を向けた。
「おうレイチェル、そういうわけだ。ジーンだけちょっとくたびれてっけど、俺らでカバーすりゃいけんだろ?かましてやろうぜ!」
「フフ・・・リカルド、キミってヤツは・・・その通りだ。ジーンのおかげで私達は力を残しておく事ができた。みんな、かましてやろうぜ」
リカルドの言葉を真似てレイチェルが握り拳を前に出すと、仲間達もそれに応えて拳を作り、前に出して突き合わせた。
・・・かましてやろうぜ!
誰の目にもゆるぎない決意が宿っていた。
「・・・ハビエル」
酒場の前のベンチで腰を下ろしているノエルは、立ち並ぶ家屋の先で起きた爆発、それに伴う風の渦が荒れ狂う様子を見て、前に立つ黒髪の魔法使いの名を呼んだ。
「・・・ああ、イサックとラモンが殺られたようだな・・・・・」
チームのリーダーであるハビエル・フェルトゥザは、失った仲間の名を口にすると、拳を強く握り締めた。
「ごめんなさい・・・私を護るためにあなたがここに残ったから・・・・・」
ハビエルも二人と一緒に行けば、イサックもラモンも死ぬ事はなかった。
だが蔦が封じられている今、ノエルには戦う術はない。もし敵から攻撃を受ける事態になれば、抵抗する事さえできずに殺されてしまうだろう。
そのためハビエルはノエルの傍を離れる事ができなかった。そしてそれはイサックとラモンも望んだ事である。
「ノエル、謝るな。イサックもラモンも、己の選択を何一つ後悔などしていない。覚えているか?あの二人がチームに入った時、最初に声をかけてチームに馴染めるように場を作ったのはお前だ。あの二人だけじゃない、他のヤツらもお前には感謝していたぞ。困った時、いつもノエルがさりげなく助けてくれたってな・・・」
ハビエルはノエルに向き直ると、静かに、そして優しく声をかけた。
「・・・ハビエル・・・」
涙ぐむノエルに、ハビエルは手を差し伸べた。
「ノエル、お前がいたから俺はチームを作る事ができた。お前がいたから俺達はチームとしてやってこれた。ありがとう、ノエル・・・」
差し出されたその手に自分の手を重ねて立ち上がる。
この手がノエルを救ってくれた。この手がノエルに居場所をくれた。
忘れる事はない。ハビエルが自分を助けてくれたあの日を・・・・・
「ハビエル、私・・・っ!」
これまでハビエルが自分にくれた沢山の温かさ・・・
抑えきれない想いを言葉にしようとしたその時、ハビエルの背中越しにノエルの視界に映ったのは、赤い髪の女を先頭にして立つ集団だった。
一目で分かった。コイツらが敵だと。
そしてハビエルは振り返らずとも分かった。敵がここまで辿り着いたと。
「・・・・・来たか」
ゆっくりと振り返った帝国の黒魔法使いの体から、深く、そして黒い・・・恐ろしいまでの魔力が放出された。
敵側から攻めてくる気配は感じられなかったため、レイチェル達は先に進むための準備に時間を使っていた。
「みんな、準備はできたか?」
仲間達の前に立ち、レイチェルは一人一人に顔を向けた。
「ああ、私は問題ない。いつでも行けるぞ」
アゲハは長い黒髪を首の後ろで一本に結ぶと、自分の背丈よりも長い獲物を地面に突き刺した。
イサックとの闘いでもダメージは受けていないため、言葉通り万全の状態である。
「アタシもバッチリだよ。青魔法って便利だよね、濡れた服も一発で乾いたしさ」
ラクエルは赤いカーディガンをつまむと、ジーンに顔を向けてニッと笑って見せた。
ジーンがクリーンを使い、沼で濡れた服は全員乾かしてあるのだ。
「ははは、お役に立てて良かったよ。この寒さで服が濡れたままじゃ、体温が奪われてとても戦えないからね」
少し疲れた顔をしているが、ジーンもラクエルに笑って言葉を返した。
「ジーン、魔力回復促進薬は飲んだだろ?いけそうか?」
ジーンの様子を見ながらミゼルが声をかけると、ジーンは少し困ったように小さく笑って応えた。
「・・・正直に言うと、残りの魔力は三割くらいかな。天衣結界も使えなくはないけど、あまり粘る事はできないと思う。役には立てないかもしれないけど、精一杯頑張らせてもらうよ」
「なに言ってんだよ?ジーンがいなかったら、さっきの竜巻はとても耐えきれなかった。今度は俺らが頑張る番だ。風魔法は結界の代わりになる。ジーンはできるだけ魔力を温存しておいてくれ」
ミゼルも魔力を消耗していたが、それでもジーンに比べれば余裕がある。
そしてミゼルの言葉通り、確かに風魔法は防御にも有効であり、結界の代わりを担う事もできる。だが結界の最高峰、天衣結界の代わりには成りえない。
実力差が大きければ話しは違うが、ジーンの天衣結界とミゼルの風の防御であれば、天衣結界が上である。
切り札として天衣結界を残しておきたいミゼルは、できる限りジーンの負担を減らそうと考えていた。
「うん、ジーンはすごい頑張った。だから今度はアタシ達の番」
ユーリも拳を握って力強く言葉を口にした。魔道具膂力のベルトを使えば、ユーリは並の体力型以上のパワーとスピードで戦う事ができるのだ。
「まぁよ、俺らに任せておけって。ジーンは俺がピンチの時に全力を尽くせばいいんだって!」
「ああ、ありが・・・うん?リカルドがピンチの時だけ?」
笑顔のリカルドにポンと肩に手を乗せられ、ジーンはお礼を口にしようとして首を捻った。
「こまけぇ事は気にすんなって!ハゲんぞ!」
バシバシとジーンの背中を叩くと、リカルドはニヤリと笑ってレイチェルに顔を向けた。
「おうレイチェル、そういうわけだ。ジーンだけちょっとくたびれてっけど、俺らでカバーすりゃいけんだろ?かましてやろうぜ!」
「フフ・・・リカルド、キミってヤツは・・・その通りだ。ジーンのおかげで私達は力を残しておく事ができた。みんな、かましてやろうぜ」
リカルドの言葉を真似てレイチェルが握り拳を前に出すと、仲間達もそれに応えて拳を作り、前に出して突き合わせた。
・・・かましてやろうぜ!
誰の目にもゆるぎない決意が宿っていた。
「・・・ハビエル」
酒場の前のベンチで腰を下ろしているノエルは、立ち並ぶ家屋の先で起きた爆発、それに伴う風の渦が荒れ狂う様子を見て、前に立つ黒髪の魔法使いの名を呼んだ。
「・・・ああ、イサックとラモンが殺られたようだな・・・・・」
チームのリーダーであるハビエル・フェルトゥザは、失った仲間の名を口にすると、拳を強く握り締めた。
「ごめんなさい・・・私を護るためにあなたがここに残ったから・・・・・」
ハビエルも二人と一緒に行けば、イサックもラモンも死ぬ事はなかった。
だが蔦が封じられている今、ノエルには戦う術はない。もし敵から攻撃を受ける事態になれば、抵抗する事さえできずに殺されてしまうだろう。
そのためハビエルはノエルの傍を離れる事ができなかった。そしてそれはイサックとラモンも望んだ事である。
「ノエル、謝るな。イサックもラモンも、己の選択を何一つ後悔などしていない。覚えているか?あの二人がチームに入った時、最初に声をかけてチームに馴染めるように場を作ったのはお前だ。あの二人だけじゃない、他のヤツらもお前には感謝していたぞ。困った時、いつもノエルがさりげなく助けてくれたってな・・・」
ハビエルはノエルに向き直ると、静かに、そして優しく声をかけた。
「・・・ハビエル・・・」
涙ぐむノエルに、ハビエルは手を差し伸べた。
「ノエル、お前がいたから俺はチームを作る事ができた。お前がいたから俺達はチームとしてやってこれた。ありがとう、ノエル・・・」
差し出されたその手に自分の手を重ねて立ち上がる。
この手がノエルを救ってくれた。この手がノエルに居場所をくれた。
忘れる事はない。ハビエルが自分を助けてくれたあの日を・・・・・
「ハビエル、私・・・っ!」
これまでハビエルが自分にくれた沢山の温かさ・・・
抑えきれない想いを言葉にしようとしたその時、ハビエルの背中越しにノエルの視界に映ったのは、赤い髪の女を先頭にして立つ集団だった。
一目で分かった。コイツらが敵だと。
そしてハビエルは振り返らずとも分かった。敵がここまで辿り着いたと。
「・・・・・来たか」
ゆっくりと振り返った帝国の黒魔法使いの体から、深く、そして黒い・・・恐ろしいまでの魔力が放出された。
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