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1200 自信に満ちた言葉

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「ニーディ・・・・・」

レイチェルは声をかけようとして止めた。

一目で分かった。

伝授の杖を両手で握り、瞳を閉じているニーディアは、すでに全神経を集中させて敵の蔦を封じているのだ。
体力型のレイチェルでも、ニーディアの体から発せられている魔力が、恐ろしい程に研ぎ澄まされている事は分かった。

今ニーディアは、蜘蛛の巣のように細かく、そして広範囲に張り巡らされている蔦の魔力を追っているのだ。

地中の魔力は肉眼で捉える事はできない。
そのためニーディアは、微かに感じ取れる敵の魔力を己の魔力で追尾し、そしてその一本一本に自分の魔力を絡めて封じている。

それは針の穴を通すどころではない集中力を要求される技であり、うかつに声をかけてニーディアの精神を乱してはならない。


「みんな、行こう」

振り返ったレイチェルの顔つきは、すでに戦士のものだった。

一歩進めばそこはもはや戦場である。
ともにここまで来た仲間達も、ピリピリとした空気を感じ取り表情が引き締まった。

レイチェル、アゲハ、リカルド、ミゼル、ジーン、ユーリ、ラクエル、七人はそれぞれ視線を合わせると、意思を確かめるように大きく頷いた。

そしてレイチェルを先頭にセドコン村へと入って行った。





「・・・へぇ、本当に蔦が出てこないんだ」

村へ入りしばらく歩くと、ラクエルが辺りを見回しながら呟いた。
蔦が出てこないという事は、ニーディアが押さえ込んでいるという事である。ラクエルもニーディアを疑っていたわけではないが、実際に蔦が出てこないところを見ると、驚きと同時に感心するものだった。

「そう言えばあんた、実際に蔦に追いかけられたんだっけ?」

ラクエルの隣を歩いていたアゲハが、その小さな一人言を拾って問いかけた。

「そうそう、地面からブワァーって感じでめっちゃ出てきたんだよね。あれヤバイよ、超気持ち悪いから」

顔をしかめて心底嫌そうに説明するラクエルを見て、アゲハはおかしくなって笑いを堪えるために口を押えた。

「ぷっ・・・ちょっ、笑わせるなって!まったく・・・あんた面白いね」

アゲハがラクエルに笑いかけると、ラクエルも、そう?と言って笑い返した。

いつ敵の襲撃があるか分からない。だから周囲への警戒を切らさず気を張り続けている。
そんな状況で気が緩んでいるように見えるが、ラクエルにとってはこれが自然体である。適度な緊張感はもっており、決して油断をしているわけではない。


「おいおい、おしゃべりはそのくらいにしておけよ?」

アゲハとラクエルの話しを止めたのは、後ろを歩いていたミゼルだった。
振り返る二人に、前を見ろと言うように右手を伸ばして指で差し示す。

アゲハとラクエルがミゼルの指先を追うと、数十メートル程先に、太い氷の柱が見えた。
家屋が立ち並んでいる隙間から、少し見え隠れするくらいだったが、思い当たる事があった。

「・・・あれって、もしかして昨日の火柱?」

アゲハが口にした疑問にミゼルが答える。

「ああ、間違いないだろう。火柱が立ち昇って少ししたら、突然凍りついただろ?それでそのまま砕け散ったから、その後は気にしないでいたが・・・まぁこの寒さだし、まだあれだけ形を残してたんだな」

それはクレイグの魔道具、赤口の石によって起こされた火柱だった。
クレイグがハビエル達を道連れにしようと、赤口の石を使い自爆したのだが、ハビエルの魔力はクレイグの想像をはるかに上回っていた。
風魔法による防御で全員を護りきり、その後氷の魔力で巨大な火柱を一瞬で凍りつかせたのだ。

今ミゼル達が目にしているのは、ハビエルが凍らせた火柱だったものである。

「本当にヤバそうな相手だね。ニーディアから聞いたのは、敵のボスが黒魔法使い、そして鎖鎌を使う体力型と青魔法使い、そして蔦の魔道具を使う女魔法使いの全部で四人。私達は七人だから数の上では有利だけど、とにかく敵のボスが危険だからチームで戦っていこう」

アゲハに限った事ではないが、体力型は魔力を感知する事が不得手である。
だがそんなアゲハでも、昨日見たあの巨大な火柱が、一瞬で凍りついた事がどれほど強大な魔力なのかは想像に易い。
それはラクエルもレイチェルもリカルドも同じだった。

「アゲハの言う通りだ。昨日打ち合わせた通りチームで戦うんだ。一人一人自分の役割を果たせば絶対に勝てる。いいか、もう一度言うぞ、私達は絶対に勝てる」

レイチェルの言葉は静かだがとても力強かった。

絶対に勝てる。その言葉がそれぞれの胸に刻み込まれたその時、風を切る鋭い音とともに上空から何かが投げ込まれた!


「ッ!?後ろに飛・・・」

ソレに気づいたレイチェルが声を上げようとしたその時、青く輝く結界がソレを弾いた。

「ふー・・・いきなりずいぶんな挨拶だね」

耳に痛い金属音を響かせ、宙に舞った鉄の鎖を見て、ジーンは小さく息を吐いた。
そして顔を上げると、正面の家の屋根に立つ赤茶色の髪の男を睨みつけた。

「へぇ、やるじゃないか。今のによく反応できたな・・・でも」

右手を引いて弾かれた鎖を手元に戻すと、イサック・クルゾンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ちゃちな結界なんて、すぐに壊してやるよ」

イサックは右手を頭上に振り上げると、鎖分銅を高速で回しだした!

「やわな鎖だね?そんなもので僕の結界は壊せないよ」

返すジーンの言葉には、自信が満ちていた。
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