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1196 名前を呼ばれた者

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クインズベリー軍軍団長バーナード・ロブギンスから、セドコン村の奪還の任務を受けたレイジェスのメンバー達は、軍の本体から少し距離を置いて集まっていた。

自然と円になっていた。
そしてやはりと言うか、こういう時の視線はレイチェルに集まる。

年齢で言えばジャレットやシルヴィアの方が上だが、副店長として長くレイジェスを引っ張って来たレイチェルへの信頼は、年齢など関係なく大きかった。

「さて、本当はこういう事はじっくり話し合って決めたいところだが、あいにくあまり時間がない。陽も大分傾いてきたから、私達がセドコン村奪還の任務に挑むのは明日に持ち越されたが、朝一番で決行する事は決まっている。だから日が暮れるまでに、今日この場で全てを決めなければならない」

まさかここで、一晩足止めをされる事になるとは思ってもいなかった。
本来であればセドコン村への慰問を終えて、パウンド・フォーとユナニマス大川の中間地点まで進んでいる予定だった。

食料などの物資は多めに用意してきたとはいえ、帝国軍から二度の襲撃を受けた事もあり、進軍は大幅に遅れていた。明日はなんとしてでも決着をつけて、中間地点まで行かなくてはならない。

レイチェルは全員の顔を見渡して、言葉を続けた。

「まず状況を整理しよう。ニーディアが持ち帰った情報では、敵は四人という事だった。だがこの四人全員が幹部クラスと考えていい。そして敵のリーダーと思われる黒魔法使い、こいつはその中でも別格だ。特に注意しなければならない」

能力の正体までは分からなかった。だがニーディアの言葉を通りならば、見えない何かに圧し潰された。敵の黒魔法使いは、そういう力を持っているのだ。


「そうみてぇだな、んでよレイチェル、誰が行くんだ?全員で行くのか?」

黙って話しを聞いていたリカルドが、腕を組んで眉を寄せながら言葉を挟んできた。

確かにそれだけ警戒しなければならない敵ならば、全員で戦った方がいいのかもしれない。
アラタもリカルドに同意して、全員で行った方がいいのでは?とレイチェルに言葉を向けた。

「うん、レイジェス全員で行った方がという意見は最もだ。でもね、敵の蔦という能力を考えると、それを躱せるだけの力が無い者は連れて行く事はできない。だからメンバーは厳選させてもらう」

全員で行くべきだというリカルドとアラタの言葉に、レイチェルは首を横に振った。

狙った人間に巻き付き、地面に引きずりこむという蔦。これを自力で躱せない者は危険すぎるため、今回の任務には連れて行けないというのが、レイチェルの考えだった。

「・・・なるほど、それもそうか。数が多ければいいってわけじゃないよな。じゃあ誰を連れて行くんだ?」

レイチェルの説明に納得したミゼルが、腰に手を当てながら言葉を向けた。
その問いかけに、全員の視線がレイチェルに集中した。

誰が名前を呼ばれるのか?それは自分なのか?
全員が少しの緊張と興味を持った目で、レイチェルを見つめる。


「まず私だ。そしてアゲハ。リカルドにも来てもらう」

名前を呼ばれたアゲハは、任せな、と言って笑って見せた。
風の力と軽やかな身のこなし、アゲハが選ばれるのは順当と言っていいだろう。

リカルドは、うへぇ~、と心底面倒くさそうに顔をしかめるが、レイチェルが文句あるのか?と睨むと、へいへいやりますと、と言って両手の平を上に向けて大げさに肩をすくめた。

「次にミゼル、ジーン、そしてユーリ。レイジェスからはこの六人で行く」

「え!?俺!?」

まさか名前を呼ばれると思っていなかったのか、ミゼルが驚きを見せると、レイチェルは当然だというように理由を口にした。

「ミゼル、今回の敵はシルヴィアでは相性が悪い。さっきセドコン村の巨大な火柱が、凍り付いて砕けたのを見ただろ?氷魔法に特化しているシルヴィアよりは、バランスが良いミゼルの方が戦いやすいはずだ」

レイチェルの説明を聞いて、ミゼルだけでなく、シルヴィアも自分が外された事に納得がいったようだ。

「なんで私じゃなくてミゼルなのかなって思ったけど、そういう理由なのね。そうね、確かに氷魔法以外はミゼルの方が上だし、ミゼルの方が向いてそうね」

「レイチェル、ケイトじゃなくて僕が選ばれたのはどうしてなのかな?」

シルヴィアの次にジーンが手を挙げる。ジーンもなぜケイトが外されて、自分が選ばれたのか気になっていたのだ。

「ああ、ケイトには悪いが、運動能力はジーンの方が上だろ?それにジーンの魔道具なら、蔦なんてものともしないだろ?」

そう言ってレイチェルは、ジーンが両手首にはめている銀のバングルを指さす。

魔道具、研糸(とぎいと)
ジーンの両手首にはめてある銀のバングルからは、極めて細く強固な糸を射出する事ができる。
そしてこの糸は魔力を流す事で、炎であろうと鋼鉄であろうと、何でも切り裂く事ができる。

蔦を斬り裂く事など、あくびが出るくらい簡単な事だった。

「なるほどね・・・うん、分かった。今回は僕が頑張らせてもらうよ」

「アタシはサーチとか結界は得意だけど、地面から無限に出てくる蔦をどうにかできるかって言われると、ちょっと厳しいかもしれないしね」

ジーンの隣で説明を聞いていたケイトも、納得してうなずいていた。

「レイチェル・・・アタシは膂力のベルトがあるからだよね?」

ユーリは自分が選ばれた理由を十分に理解しており、一応の確認と言うように目を向けた。

「ああ、その通りだユーリ。白魔法使いは絶対に必要だ。体力型並の動きができるユーリなら、蔦も躱しきれるだろ?」

魔力を筋力に変換できる魔道具、膂力のベルト。これを使用した時のユーリは並の体力型ではおよびもつかない動きを可能とする。レイチェルの言う通り、蔦を躱す事はさほど難しい事ではなかった。

「ん、見てみないとだけど、頑張ってみる」

「ごめんねユーリ、私は運動は苦手だから力になれないけど、みんなの無事を祈ってるからね」

申し訳なさそうに話すカチュア。ヒールの腕前はユーリもよりも上だが、蔦を回避できるかと言われれば、白魔法使いのカチュアにそこまでの運動能力は無かった。


そしてアラタが口を開いた。

「えっと、あのさ、レイチェル・・・俺は?」

これまで大事な戦いの場には必ず立っていた。今回も絶対に名前を呼ばれると思っていたアラタだが、まさか自分が外されるとは思っておらず、戸惑いながら理由をたずねる。

「キミは危なくなったら光の力を使うだろ?やっと回復したばかりなんだ、気持ちは分かるが今回は温存させてもらう。私達に任せろ。私達が負けると思うか?」


腕を組んで少しだけ睨みを利かせると、アラタも自覚はあったようで、バツが悪そうな顔をしてポリポリと頭をかいた。そ
してレイチェルはそのままジャレットに顔を向けた。

「ジャレット、お前には負担をかけるが、残ったみんなの事は頼むぞ」

「ああ、分かった。何もないと思うが、なにかあれば俺が指示を出す。残ったみんなは必ず守ってみせるから心配するな」

ジャレットがニッと笑って見せると、レイチェルも安心して口元に笑みを作る。
そしてレイチェルは、最後に、と言って後ろに目を向けた。


みんなも釣られるようにしてレイチェルの視線を追うと、そこにはウェーブがかった濃い金色の髪の女性が立っていた。

「ラクエル・エンリケス、力を貸してくれないか?キミも一緒に行こう」


ラクエルの金茶色の瞳が、レイチェルの黒い瞳と重なり合った。
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