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「ハァッ!・・・ハァッ!・・・うぐ、ぐ・・・・・」
エリクス・スピルカは砕かれた左足を引きずりながら、それでも懸命に村の出口を目指していた。
杖に重心を預けながら、残った右足を進ませるので歩みは遅い。
だが足を止めてヒールで回復させる時間は無かった。なぜなら自分の足を砕いた男は、もうすぐそこまで迫って来ているのだから。
激痛と追われるプレッシャーで、全身からべたついた嫌な汗が噴き出し、意識も遠のきそうになるが唇を噛み締めて耐えた。
今はとにかく一歩でも遠くへ逃げるんだ。クレイグもラゴフも命を懸けた。足の一本で泣き言なんて言っていられない。
「ぐっ、ハァッ・・・もう、少しだ・・・もう少しで・・・」
壁に手を突き、大きく息を吐いた。立ち並ぶ家の先の角、そこを曲がれば・・・・・
「ッ!?」
先が見えた。残りの力を振り絞って、もう一歩を踏み出そうとしたその時、エリクスの右足に何かが巻き付き、もの凄い力で後ろに引きずり倒された。
「ぐ、あぐ、う・・・ッ!」
「残念、もう少しだったのにな」
倒された痛みにうめき声がもれる。
頭上からかけられた声に顔を向けると、赤茶色の髪の男が鎖を握って自分を見下ろしていた。
「お、お前・・・!」
エリクスは鎖鎌の男、イサック・クルゾンが自分に追いついた意味を理解し、表情が険しくなった。
「貴様で最後だ。貴様の仲間は貴様を逃がすために頑張ったが、あの程度じゃ大した足止めにもならなかったな」
「ぐ!こ、この野郎ォォォォォーーーーーーッツ!」
イサックから聞かされた言葉に、エリクスは拳を握り締めて立ち上がろうとした。だがイサックが右手に握る鎖を引くと、再び前のめりに転ばされてしまった。
「ぐぁっ!」
左足は砕かれ、右足は鎖で縛られている。立つ事さえままならないエリクスには、もはや成す術などなかった。
「諦めろ。お前も分かっているんだろ?俺には勝てないし逃げられない。どうあがいてももう死ぬ事は確定してるんだ。楽に殺してやるから、おとなしくしてろ」
左手に持つ鎌をゆっくりと振り上げる。イサックがその手を下ろせば、エリクスの命は刈り取られるだろう。
イサックは倒れ伏すエリクスを冷たく見下ろした。
エリクスにはもうできる事はない。だが・・・・・
「・・・・・貴様、なぜ笑っている?」
もはや殺される事を待つだけの、無力な白魔法使いが笑っている。
立つことすらできず、雪の上に倒れているだけの男が、肩を震わせ笑っていたのだ。
エリクスは両手を付いてゆっくりと上半身を起こすと、顔を上げてイサックを見た。
「・・・・・貴様、分かっているのか?貴様は今ここで死ぬ。何もできず、何も残せずにな・・・それなのになぜ笑う?」
イサックの目に映るエリクスは、とても死を待つだけの男には見えなかった。
この状況を打破する術もなく、イサックの言葉通り何もできぬまま死んでいく事になるだろう。
だがその顔には諦めも悲壮感も見えないのだ。
いったいこの白魔法使いが何を考えている?イサックにはまったく理解できず、怪訝な顔でエリクスを見下ろしていた。
「・・・フッ・・・お前の言う通りだ。僕はここで死ぬ、それは分かっている。でも、お前は一つだけ間違っている・・・」
「・・・・・」
イサックは鎌を握る左手を振り下ろす事ができなかった。聞く必要などない。このままエリクスの首を刎(は)ねて終わらせればいい。
だができなかった。死を受け入れたこの男が口にする言葉が、耳に付いて離れない。
・・・間違っているだと?
イサックの眉がピクリと反応した事を見て、エリクスは満足そうに笑った。
「一人でいいんだ・・・誰か一人が情報を持ち帰ればいい。そしてそれは僕じゃなくてもいい!」
エリクスは手にしている杖を、力強く地面に突き立てた!
「確かに僕達は負けた!だけど何も残せないわけじゃない!仲間達が命を懸けて僕をここまで逃がしてくれた!ここまで来ればの僕達の勝ちだ!」
それはエリクスの魂の叫びだった。
突き立てた杖にありったけの魔力を込めると、杖の先が光り輝き出した。
「ッ!?貴様、今更なにを・・・まさかッ!?」
突然輝きだしたエリクスの杖を見て、イサックはこれが攻撃系の魔道具で、何かしかけてくるのかと警戒し後ろに飛びのいた。
だがそれは違った。
エリクスの杖は確かに魔道具だが、攻撃系の魔道具ではない。
「ニーディアァァァーーーーーーーッツ!後は頼んだぞォォォォォーーーーーーーッツ!」
エリクスは空に向かって叫んだ。
そして光り輝く杖はエリクスの叫びに呼応するように一際強く輝くと、空へと向かって飛び出した!
向かう先は村の外で待つもう一人の仲間、ニーディア・エスパーザの元だ。
「なっ!?き、貴様!何をした!?あれは何だ!?」
あの杖がなんだかは分からない。だがエリクスの顔を見てイサックは、この白魔法使いが目的を達成した事だけは理解した。
出し抜かれた事に怒りで顔が険しくなる。詰め寄ったイサックに対して、エリクスはニヤリと笑いを返した。
「ハッ・・・これで僕の役目は終わりだ。殺せよ」
その杖の名は、伝授(でんじゅ)の杖。
自分が見聞きしたモノを、魔力で音と映像に変えて、受け取った相手に伝える事ができる杖である。
この杖の優れているところは、対象の魔力が感じ取れる距離であれば、杖そのものを飛ばして届ける事ができるところである。
村の外まであと数十メートルという距離だったが、エリクスはギリギリだがニーディアの魔力を感じ取れるところまで辿り着いたのだ。
「・・・してやられたようだな・・・だが貴様らが何をしようと俺達には・・・ハビエルには絶対に勝てないぞ」
わずかに眉間にシワを寄せ、イサックは左手に持つ鎌を振り上げた。
エリクスは一切の抵抗をしなかった。言葉を返す事もせず、ただ静かに目を閉じた。
その表情は穏やかで、敗者のものではなかった。
エリクス・スピルカは砕かれた左足を引きずりながら、それでも懸命に村の出口を目指していた。
杖に重心を預けながら、残った右足を進ませるので歩みは遅い。
だが足を止めてヒールで回復させる時間は無かった。なぜなら自分の足を砕いた男は、もうすぐそこまで迫って来ているのだから。
激痛と追われるプレッシャーで、全身からべたついた嫌な汗が噴き出し、意識も遠のきそうになるが唇を噛み締めて耐えた。
今はとにかく一歩でも遠くへ逃げるんだ。クレイグもラゴフも命を懸けた。足の一本で泣き言なんて言っていられない。
「ぐっ、ハァッ・・・もう、少しだ・・・もう少しで・・・」
壁に手を突き、大きく息を吐いた。立ち並ぶ家の先の角、そこを曲がれば・・・・・
「ッ!?」
先が見えた。残りの力を振り絞って、もう一歩を踏み出そうとしたその時、エリクスの右足に何かが巻き付き、もの凄い力で後ろに引きずり倒された。
「ぐ、あぐ、う・・・ッ!」
「残念、もう少しだったのにな」
倒された痛みにうめき声がもれる。
頭上からかけられた声に顔を向けると、赤茶色の髪の男が鎖を握って自分を見下ろしていた。
「お、お前・・・!」
エリクスは鎖鎌の男、イサック・クルゾンが自分に追いついた意味を理解し、表情が険しくなった。
「貴様で最後だ。貴様の仲間は貴様を逃がすために頑張ったが、あの程度じゃ大した足止めにもならなかったな」
「ぐ!こ、この野郎ォォォォォーーーーーーッツ!」
イサックから聞かされた言葉に、エリクスは拳を握り締めて立ち上がろうとした。だがイサックが右手に握る鎖を引くと、再び前のめりに転ばされてしまった。
「ぐぁっ!」
左足は砕かれ、右足は鎖で縛られている。立つ事さえままならないエリクスには、もはや成す術などなかった。
「諦めろ。お前も分かっているんだろ?俺には勝てないし逃げられない。どうあがいてももう死ぬ事は確定してるんだ。楽に殺してやるから、おとなしくしてろ」
左手に持つ鎌をゆっくりと振り上げる。イサックがその手を下ろせば、エリクスの命は刈り取られるだろう。
イサックは倒れ伏すエリクスを冷たく見下ろした。
エリクスにはもうできる事はない。だが・・・・・
「・・・・・貴様、なぜ笑っている?」
もはや殺される事を待つだけの、無力な白魔法使いが笑っている。
立つことすらできず、雪の上に倒れているだけの男が、肩を震わせ笑っていたのだ。
エリクスは両手を付いてゆっくりと上半身を起こすと、顔を上げてイサックを見た。
「・・・・・貴様、分かっているのか?貴様は今ここで死ぬ。何もできず、何も残せずにな・・・それなのになぜ笑う?」
イサックの目に映るエリクスは、とても死を待つだけの男には見えなかった。
この状況を打破する術もなく、イサックの言葉通り何もできぬまま死んでいく事になるだろう。
だがその顔には諦めも悲壮感も見えないのだ。
いったいこの白魔法使いが何を考えている?イサックにはまったく理解できず、怪訝な顔でエリクスを見下ろしていた。
「・・・フッ・・・お前の言う通りだ。僕はここで死ぬ、それは分かっている。でも、お前は一つだけ間違っている・・・」
「・・・・・」
イサックは鎌を握る左手を振り下ろす事ができなかった。聞く必要などない。このままエリクスの首を刎(は)ねて終わらせればいい。
だができなかった。死を受け入れたこの男が口にする言葉が、耳に付いて離れない。
・・・間違っているだと?
イサックの眉がピクリと反応した事を見て、エリクスは満足そうに笑った。
「一人でいいんだ・・・誰か一人が情報を持ち帰ればいい。そしてそれは僕じゃなくてもいい!」
エリクスは手にしている杖を、力強く地面に突き立てた!
「確かに僕達は負けた!だけど何も残せないわけじゃない!仲間達が命を懸けて僕をここまで逃がしてくれた!ここまで来ればの僕達の勝ちだ!」
それはエリクスの魂の叫びだった。
突き立てた杖にありったけの魔力を込めると、杖の先が光り輝き出した。
「ッ!?貴様、今更なにを・・・まさかッ!?」
突然輝きだしたエリクスの杖を見て、イサックはこれが攻撃系の魔道具で、何かしかけてくるのかと警戒し後ろに飛びのいた。
だがそれは違った。
エリクスの杖は確かに魔道具だが、攻撃系の魔道具ではない。
「ニーディアァァァーーーーーーーッツ!後は頼んだぞォォォォォーーーーーーーッツ!」
エリクスは空に向かって叫んだ。
そして光り輝く杖はエリクスの叫びに呼応するように一際強く輝くと、空へと向かって飛び出した!
向かう先は村の外で待つもう一人の仲間、ニーディア・エスパーザの元だ。
「なっ!?き、貴様!何をした!?あれは何だ!?」
あの杖がなんだかは分からない。だがエリクスの顔を見てイサックは、この白魔法使いが目的を達成した事だけは理解した。
出し抜かれた事に怒りで顔が険しくなる。詰め寄ったイサックに対して、エリクスはニヤリと笑いを返した。
「ハッ・・・これで僕の役目は終わりだ。殺せよ」
その杖の名は、伝授(でんじゅ)の杖。
自分が見聞きしたモノを、魔力で音と映像に変えて、受け取った相手に伝える事ができる杖である。
この杖の優れているところは、対象の魔力が感じ取れる距離であれば、杖そのものを飛ばして届ける事ができるところである。
村の外まであと数十メートルという距離だったが、エリクスはギリギリだがニーディアの魔力を感じ取れるところまで辿り着いたのだ。
「・・・してやられたようだな・・・だが貴様らが何をしようと俺達には・・・ハビエルには絶対に勝てないぞ」
わずかに眉間にシワを寄せ、イサックは左手に持つ鎌を振り上げた。
エリクスは一切の抵抗をしなかった。言葉を返す事もせず、ただ静かに目を閉じた。
その表情は穏やかで、敗者のものではなかった。
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