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1189 沼
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こいつ・・・本当にたった今まで、俺が戦っていた男と同一人物か?
イサック・クルゾンは目の前の男、エフゲニー・ラゴフのあまりの変わりように驚きを隠せなかった。
さっきまでは無能なりにも、生真面目で誠実な印象はあった。だが今自分の目の前に立つこの男からは、何をしでかすか分からない危うさが感じられる。
顔つきも変わっていた。ギラギラとした、まるで獲物を狙う猛獣のような目に、ニヤニヤとして舌なめずりでもしそうに緩んだ口元。姿形が同じでも、人が変わったとしか思えなかった。
「・・・貴様・・・誰だ?」
疑問が自然と口を突いて出た。
聞いておいて自分でもおかしな質問だと思う。別人に成り代わったなどあるわけもない。
だが身に纏う空気さえも、さっきまでとはまるで別物であり、どうしても同一人物とは思えなかった。
イサックの問いかけに、ラゴフは意味が分からないと言うように僅かに片眉を上げた。
「・・・誰って、フッ・・・アハハハハハ!今更何を言ってんだよ?今まで戦ってた男を見間違えるのか?馬鹿だなぁ!」
大げさなくらい口を開けて笑うラゴフに、イサックは歯をギリッと噛んで怒鳴りつけた。
「そうじゃない!貴様、さっきまでとはまるで別人だ!顔つきや空気まで変わってる、演技でここまでできるとは思えない!それに俺に殴られたダメージまで消えているのはなぜだ!?貴様いったい何者だ!?」
「・・・俺はエフゲニー・ラゴフだ。最初からずっとお前と戦っている男で間違いない。ただお前みたいな強いヤツに会うと、ちょっと抑えが効かなくなってな・・・やり過ぎるかもしれねぇ」
目が座り、ニタリと笑うラゴフ。イサックは無意識に恐怖を感じたのかもしれない。本人は全く気が付いていなかったが、一歩後ろに下がっていた。
その一瞬、イサックの注意は散らされていたのかもしれない。
「イサックーーーーーーッツ!」
後ろからぶつけられた大声に我を取り戻した時、エフゲニー・ラゴフはすでにイサックの眼前に迫っていた。
「オラァァァァァーーーーーッツ!」
顔の高さまで飛び上がっていたラゴフは、右から左へと胴を回してイサックの顔面に蹴り込んだ!
「っ!」
間一髪、青く輝く結界がイサックの前に張られ、ラゴフの飛び蹴りを受け止める!
敵から注意を反らす。奇しくもつい先刻ラゴフがおかした失態であり、イサックがそれを咎めた事でもあった。
「へっ、お前も偉そうな事を言えねぇな?」
「くっ!この野郎ォォォォォーーーーーッ!」
自覚があったのだろう。ラゴフに嘲笑されたイサックは、目を吊り上げ怒りに顔を赤く染めて、鎖分銅をラゴフに投げ飛ばした!
「おっと!」
「なっ!?」
ラゴフが首を右に傾けると、一瞬前まで顔のあった位置を鎖分銅が通過していった。分銅の軌道を見て反応したとは思えない。まるでどこを狙われているか分かっていたかのような動きに、イサックは目を剥いた。
これはラゴフが、イサックの右手の動きから分銅の軌道を推測しての動きであるが、ここまで完璧に躱された事などないイサックには、それを推察できる余裕はなかった。
「ウラァァァァァーーーーーッツ!」
鎖分銅を躱された事で動揺したイサックに大きな隙ができる。ラゴフはそれを見逃さず、左拳をイサックの腹に叩き込んだ!
「ぐッ・・・!」
だが寸でのところでまたしてもラモンが飛ばした結界によって、ラゴフの拳は阻まれてしまう。
青く輝く結界がミシミシと音を立てた事を見て、この一発が相当な威力を持っていたとイサックは感じ取った。
もしくらっていたら、あばらの一本でも持っていかれたかもしれない。
苦々しい表情を浮かべたイサックは、地面を蹴って大きく後ろへ飛び退いた。
自分が戦っているこの男は、さっきまでとはもはや別人としか思えなかった。このままやりあっても分が悪い。気に入らないがラモンと連携を取るしかない。
「このタイミングでも結界を挟んでくるのか・・・良い腕だなぁ?」
ここまで結界でイサックをフォローしてきたラモンに顔を向けると、ラゴフは口の端を持ち上げて笑った。
「おいおいイサック、大丈夫かよ?あの野郎さっきまでと全然別人だぞ?どっかで入れ替わってんじゃねぇのか?」
ラモンは眉を潜めると、前を向いたまま隣に立つイサックに言葉を向けた。ラモンから見ても、ラゴフの変わりようは異常だった。結界を通して感じ取ったラゴフの蹴りや拳も、生半可なものではない。さっきまでのラゴフと同じ人物だとは到底思えなかった。
「ああ、俺も同じ意見だ・・・さっき俺は確実にあいつを倒した。だが何事も無かったように起きて来た。まるで同じ肉体に別人が乗り移ったような感じだ」
額ににじんだ汗を拭い、イサックは斬空の鎖鎌を握り直した。
「ラモン、あまり長引かせない方がよさそうだ。俺の鎖鎌でヤツの首を飛ばす。お前の沼(ぬま)でヤツの動きを封じてくれ」
「へいへい、分かったよ。確かにありゃヤバそうだ。ニタニタ笑いながら見やがって、気持ちわりぃ。男に見つめられても嬉しくねぇっての」
軽い調子で言葉を返すラモンだが、その頬には一筋の汗が流れていた。
全力を尽くさなければ殺られるのは自分達だ。そう理解しているからこそである。
「・・・いくぞ」
「・・・おう」
ラモンの軽口の裏にある本気。イサックはそれを十分に感じ取っていた。だからこそ一言だけを返した。
そしてラモンも短く息を吐いて、低く重い声で返事をする。その目にはこれまで見せた事が無いほどの鋭さがあった。
ピリっとした緊張が走り、対峙するラゴフとの間の空気が張りつめる。
イサックとラモンの目つきが変わると、ラゴフは拳を握り構えた。イサックに奪われ雪に埋もれている剣には見向きもしなかった。剣を拾おうと視線を切れば、その隙を突かれるのは分かっているからだ。
今のラゴフの攻撃力ならば、拳だけでイサックを撃破する事も難しくはない。むしろ剣は無いものだと割り切った方がいいくらいでもある。
「いいねぇ・・・そうそう、戦いってのはこうヒリつかなきゃつまらねぇよな?くっくっく、ゾクゾクしてきたぜ」
もはや落ち着いた紳士の仮面はすっかり剥がれていた。
ラゴフは仮面の下の本性をさらけ出し、狂喜の入り混じった笑みでイサックとラモンを見ている。
一瞬に不快そうに眉を潜めたイサックだが、それを言葉にする事はせず目の前の戦いに集中する。
やや前傾姿勢になり、後ろに引いた右足に力を溜めるイサック。
対して拳を握り構えるラゴフは、待ちの体勢だった。
仕掛けるタイミングをうかがっているイサックだったが、それは思いもかけず早く訪れた。
日は傾いて来たが、それまでに温められていた屋根の雪が、時間と共に溶かされ落ちてきたのだ。
戦いに集中していたラゴフだったが、突然頭上から聞こえた音、それが雪の落ちて来る音だと瞬時に理解した。本当ならば、ラゴフはここで先に動く事はしたくなかった。だが頭から雪をかぶってしまえば、完全に視界を閉ざされる事になる。
そのためラゴフがこの状況で取るべき行動は一択しかなかった。
屋根から落ちて来た雪がラゴフの頭にぶつかりそうになったその時、ラゴフは地面を蹴って後ろに飛び退いた。
そしてラゴフの一挙手一投足を睨んでいたイサック・クルゾンは、その隙を見逃さなかった。
後ろに飛び退いたラゴフが宙に浮いている刹那の瞬間に、右手に握る鎖分銅を投げ飛ばした!
事前に回転をさせていなかったとはいえ、それでも相当な速さで向かって来る鉄の塊は、まとに受ければ頭を砕く事くらいは容易くできる。
地面に着地をしていない状態では、躱す事は困難であり、また剣を手ばしている今、ラゴフにできる事は限られている。
「躱す事はできないな」
飛ばされた鎖分銅は真っすぐ正確にラゴフの額を目掛けて向かって来る。この危機的な状況にラゴフは、左腕を盾のようにして顔の前で構えた。
次の瞬間、鎖分銅がラゴフの左腕を破壊した。
鉄の塊がめり込み、肉を裂いて骨を砕く鈍い音が、体の内側から脳にまで響いてくる。
強烈な痛みにラゴフは歯を噛み締め、表情を険しくさせた。
「よしッ!」
狙い通りの結果にイサックは声を上げた。元々分銅で倒せるとは思っていない。
目的は少しでもダメージを与える事であり、腕一本を奪えたのであれば不満などあるはずがない。
そしてイサックとラモンの真の狙いはここからだった。
左腕を破壊されたラゴフが地面に着地しようとしたその瞬間、ラモンは腰に差していた細く短いステッキを取り出すと、魔力を込めて勢いよくラゴフの足元に向けて振るった!
それは鈍い銀色の金属でできていた。先端には何かを閉じこめているようにフタがされており、少しだけ丸みがある。そしてラモンが振るった事による遠心力によって、ステッキの先端部分のフタが開き、中から黒い液体が飛び出した!
「しずめぇぇぇぇぇーーーーーーーーーッツ!」
「な、にぃ!?」
黒い液体がかかった地面は、一瞬にしてその形を変えた。一瞬前まで真っ白な雪に覆われていた地面は毒々しい黒い沼地へと変わり、その上に着地したラゴフの足は、引きずりこまれるように深く沈み始めた!
飛ばした魔力で沼を作るステッキ。これがラモンの魔道具、スワンプステッキである。
膝の近くまで埋まってしまっては、いかに屈強な体力型であってもそう簡単に抜け出せるものではない。
「今だイサックーーーーーーーーッツ!」
「オォォォォォーーーーーーーーッツ!」
この戦いでの最大の好機が訪れた!
イサックは左手に握る斬空の鎖鎌に渾身の力を込め、正面で沼から足を引き抜こうともがくラゴフへ向かって振りぬいた!
イサック・クルゾンは目の前の男、エフゲニー・ラゴフのあまりの変わりように驚きを隠せなかった。
さっきまでは無能なりにも、生真面目で誠実な印象はあった。だが今自分の目の前に立つこの男からは、何をしでかすか分からない危うさが感じられる。
顔つきも変わっていた。ギラギラとした、まるで獲物を狙う猛獣のような目に、ニヤニヤとして舌なめずりでもしそうに緩んだ口元。姿形が同じでも、人が変わったとしか思えなかった。
「・・・貴様・・・誰だ?」
疑問が自然と口を突いて出た。
聞いておいて自分でもおかしな質問だと思う。別人に成り代わったなどあるわけもない。
だが身に纏う空気さえも、さっきまでとはまるで別物であり、どうしても同一人物とは思えなかった。
イサックの問いかけに、ラゴフは意味が分からないと言うように僅かに片眉を上げた。
「・・・誰って、フッ・・・アハハハハハ!今更何を言ってんだよ?今まで戦ってた男を見間違えるのか?馬鹿だなぁ!」
大げさなくらい口を開けて笑うラゴフに、イサックは歯をギリッと噛んで怒鳴りつけた。
「そうじゃない!貴様、さっきまでとはまるで別人だ!顔つきや空気まで変わってる、演技でここまでできるとは思えない!それに俺に殴られたダメージまで消えているのはなぜだ!?貴様いったい何者だ!?」
「・・・俺はエフゲニー・ラゴフだ。最初からずっとお前と戦っている男で間違いない。ただお前みたいな強いヤツに会うと、ちょっと抑えが効かなくなってな・・・やり過ぎるかもしれねぇ」
目が座り、ニタリと笑うラゴフ。イサックは無意識に恐怖を感じたのかもしれない。本人は全く気が付いていなかったが、一歩後ろに下がっていた。
その一瞬、イサックの注意は散らされていたのかもしれない。
「イサックーーーーーーッツ!」
後ろからぶつけられた大声に我を取り戻した時、エフゲニー・ラゴフはすでにイサックの眼前に迫っていた。
「オラァァァァァーーーーーッツ!」
顔の高さまで飛び上がっていたラゴフは、右から左へと胴を回してイサックの顔面に蹴り込んだ!
「っ!」
間一髪、青く輝く結界がイサックの前に張られ、ラゴフの飛び蹴りを受け止める!
敵から注意を反らす。奇しくもつい先刻ラゴフがおかした失態であり、イサックがそれを咎めた事でもあった。
「へっ、お前も偉そうな事を言えねぇな?」
「くっ!この野郎ォォォォォーーーーーッ!」
自覚があったのだろう。ラゴフに嘲笑されたイサックは、目を吊り上げ怒りに顔を赤く染めて、鎖分銅をラゴフに投げ飛ばした!
「おっと!」
「なっ!?」
ラゴフが首を右に傾けると、一瞬前まで顔のあった位置を鎖分銅が通過していった。分銅の軌道を見て反応したとは思えない。まるでどこを狙われているか分かっていたかのような動きに、イサックは目を剥いた。
これはラゴフが、イサックの右手の動きから分銅の軌道を推測しての動きであるが、ここまで完璧に躱された事などないイサックには、それを推察できる余裕はなかった。
「ウラァァァァァーーーーーッツ!」
鎖分銅を躱された事で動揺したイサックに大きな隙ができる。ラゴフはそれを見逃さず、左拳をイサックの腹に叩き込んだ!
「ぐッ・・・!」
だが寸でのところでまたしてもラモンが飛ばした結界によって、ラゴフの拳は阻まれてしまう。
青く輝く結界がミシミシと音を立てた事を見て、この一発が相当な威力を持っていたとイサックは感じ取った。
もしくらっていたら、あばらの一本でも持っていかれたかもしれない。
苦々しい表情を浮かべたイサックは、地面を蹴って大きく後ろへ飛び退いた。
自分が戦っているこの男は、さっきまでとはもはや別人としか思えなかった。このままやりあっても分が悪い。気に入らないがラモンと連携を取るしかない。
「このタイミングでも結界を挟んでくるのか・・・良い腕だなぁ?」
ここまで結界でイサックをフォローしてきたラモンに顔を向けると、ラゴフは口の端を持ち上げて笑った。
「おいおいイサック、大丈夫かよ?あの野郎さっきまでと全然別人だぞ?どっかで入れ替わってんじゃねぇのか?」
ラモンは眉を潜めると、前を向いたまま隣に立つイサックに言葉を向けた。ラモンから見ても、ラゴフの変わりようは異常だった。結界を通して感じ取ったラゴフの蹴りや拳も、生半可なものではない。さっきまでのラゴフと同じ人物だとは到底思えなかった。
「ああ、俺も同じ意見だ・・・さっき俺は確実にあいつを倒した。だが何事も無かったように起きて来た。まるで同じ肉体に別人が乗り移ったような感じだ」
額ににじんだ汗を拭い、イサックは斬空の鎖鎌を握り直した。
「ラモン、あまり長引かせない方がよさそうだ。俺の鎖鎌でヤツの首を飛ばす。お前の沼(ぬま)でヤツの動きを封じてくれ」
「へいへい、分かったよ。確かにありゃヤバそうだ。ニタニタ笑いながら見やがって、気持ちわりぃ。男に見つめられても嬉しくねぇっての」
軽い調子で言葉を返すラモンだが、その頬には一筋の汗が流れていた。
全力を尽くさなければ殺られるのは自分達だ。そう理解しているからこそである。
「・・・いくぞ」
「・・・おう」
ラモンの軽口の裏にある本気。イサックはそれを十分に感じ取っていた。だからこそ一言だけを返した。
そしてラモンも短く息を吐いて、低く重い声で返事をする。その目にはこれまで見せた事が無いほどの鋭さがあった。
ピリっとした緊張が走り、対峙するラゴフとの間の空気が張りつめる。
イサックとラモンの目つきが変わると、ラゴフは拳を握り構えた。イサックに奪われ雪に埋もれている剣には見向きもしなかった。剣を拾おうと視線を切れば、その隙を突かれるのは分かっているからだ。
今のラゴフの攻撃力ならば、拳だけでイサックを撃破する事も難しくはない。むしろ剣は無いものだと割り切った方がいいくらいでもある。
「いいねぇ・・・そうそう、戦いってのはこうヒリつかなきゃつまらねぇよな?くっくっく、ゾクゾクしてきたぜ」
もはや落ち着いた紳士の仮面はすっかり剥がれていた。
ラゴフは仮面の下の本性をさらけ出し、狂喜の入り混じった笑みでイサックとラモンを見ている。
一瞬に不快そうに眉を潜めたイサックだが、それを言葉にする事はせず目の前の戦いに集中する。
やや前傾姿勢になり、後ろに引いた右足に力を溜めるイサック。
対して拳を握り構えるラゴフは、待ちの体勢だった。
仕掛けるタイミングをうかがっているイサックだったが、それは思いもかけず早く訪れた。
日は傾いて来たが、それまでに温められていた屋根の雪が、時間と共に溶かされ落ちてきたのだ。
戦いに集中していたラゴフだったが、突然頭上から聞こえた音、それが雪の落ちて来る音だと瞬時に理解した。本当ならば、ラゴフはここで先に動く事はしたくなかった。だが頭から雪をかぶってしまえば、完全に視界を閉ざされる事になる。
そのためラゴフがこの状況で取るべき行動は一択しかなかった。
屋根から落ちて来た雪がラゴフの頭にぶつかりそうになったその時、ラゴフは地面を蹴って後ろに飛び退いた。
そしてラゴフの一挙手一投足を睨んでいたイサック・クルゾンは、その隙を見逃さなかった。
後ろに飛び退いたラゴフが宙に浮いている刹那の瞬間に、右手に握る鎖分銅を投げ飛ばした!
事前に回転をさせていなかったとはいえ、それでも相当な速さで向かって来る鉄の塊は、まとに受ければ頭を砕く事くらいは容易くできる。
地面に着地をしていない状態では、躱す事は困難であり、また剣を手ばしている今、ラゴフにできる事は限られている。
「躱す事はできないな」
飛ばされた鎖分銅は真っすぐ正確にラゴフの額を目掛けて向かって来る。この危機的な状況にラゴフは、左腕を盾のようにして顔の前で構えた。
次の瞬間、鎖分銅がラゴフの左腕を破壊した。
鉄の塊がめり込み、肉を裂いて骨を砕く鈍い音が、体の内側から脳にまで響いてくる。
強烈な痛みにラゴフは歯を噛み締め、表情を険しくさせた。
「よしッ!」
狙い通りの結果にイサックは声を上げた。元々分銅で倒せるとは思っていない。
目的は少しでもダメージを与える事であり、腕一本を奪えたのであれば不満などあるはずがない。
そしてイサックとラモンの真の狙いはここからだった。
左腕を破壊されたラゴフが地面に着地しようとしたその瞬間、ラモンは腰に差していた細く短いステッキを取り出すと、魔力を込めて勢いよくラゴフの足元に向けて振るった!
それは鈍い銀色の金属でできていた。先端には何かを閉じこめているようにフタがされており、少しだけ丸みがある。そしてラモンが振るった事による遠心力によって、ステッキの先端部分のフタが開き、中から黒い液体が飛び出した!
「しずめぇぇぇぇぇーーーーーーーーーッツ!」
「な、にぃ!?」
黒い液体がかかった地面は、一瞬にしてその形を変えた。一瞬前まで真っ白な雪に覆われていた地面は毒々しい黒い沼地へと変わり、その上に着地したラゴフの足は、引きずりこまれるように深く沈み始めた!
飛ばした魔力で沼を作るステッキ。これがラモンの魔道具、スワンプステッキである。
膝の近くまで埋まってしまっては、いかに屈強な体力型であってもそう簡単に抜け出せるものではない。
「今だイサックーーーーーーーーッツ!」
「オォォォォォーーーーーーーーッツ!」
この戦いでの最大の好機が訪れた!
イサックは左手に握る斬空の鎖鎌に渾身の力を込め、正面で沼から足を引き抜こうともがくラゴフへ向かって振りぬいた!
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