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1184 開戦を告げる光弾

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「ここ、ここが境界線ね・・・」

総勢四十四人の部隊は、セドコン村の手前で立ち止まっていた。
先頭に立っているのは、青魔法使いのニーディア・エスパーザ。目が隠れるくらい長い前髪を掻き上げると、フーっと長い息をついた。

「・・・この魔道具の使用者、敵ながら大したものだわ。地中に魔力が張り巡らされてるんだけど、一定の重さが地面に乗ると発動する仕組みね。地表には何の変化も無いから肉眼で分かるわけないわ。事前に聞いてなかったら、私もちょっと危なかったかも」

ニーディアは感知した敵の魔力の範囲から、一歩分程距離を空けた場所に膝を着き、村全体に張り巡らされている敵の罠を分析していた。

地面に積もっている雪の冷たさが、膝を通して下半身に伝わってくるが、そんな事を気にする余裕は無かった。たった今自分で口にした通り、この魔道具を使いこなしている者はかなりの実力者だと想像できる。
なぜなら村全体に張り巡らせる程の魔力量があるだけで、すでに常人の域を逸脱しているからだ。

さらにさっき聞いた話しでは、無限と思わせる程の蔦を出し、村人全員を縛りあげたというのだから、魔力操作も非常に高いレベルにあると思われる。

ニーディアはこの蔦の魔道具使いが、自分よりも高位の魔法使いであると、言葉にこそ出さなかったが内心では認めざるを得ないでいた。


「ニーディア、それでここを突破する方法はあるのか?」

となりに立ったエフゲニー・ラゴフが目を向けて訊(たず)ねると、ニーディアはスッと立ち上がり、ラゴフに顔を向けて答えた。

「ええ、突破するだけなら方法は二つあるわ。あらためて説明するけど、地面から蔦(つた)が飛び出してくるのは、感知する魔力が地中に張り巡らされているからなの。だからその魔力をどうにかすれば、敵の蔦は無効化できるわ」

ラゴフが黙って説明を聞いていると、ニーディアは右手の指を一本立てた。

「蔦を無効化するための方法その一。黒魔法で地面を抉り取る。爆発でも風でもなんでもいいわ。とにかく地中に根を張る魔力を消し飛ばせばそれで済むわ」

「却下だ。それでは村を解放できたとしても批判は免れない。この村までが殿下が慰問を行う予定だったのだ。それなのに軍が村を破壊してどうする?」

ラゴフが即答で答えると、ニーディアも却下されるのは予想していたらしく、眉一つ動かさずに頷いた。

「ええ、そうよね。分かってるわ。そういう方法もあるって一応言ってみただけ。じゃあやっぱりもう一つの方法ね」

ニコリと微笑むと、ニーディアは指をもう一本立てた。

「私が敵の魔力に妨害をかけるわ。それで蔦は食い止められるはずよ」

「魔力で妨害か・・・なるほど、蔦が発動しないように押さえ込むんだな?」

ニーディアの第二の案にはラゴフも肯定的ではあった。だが納得しきれていないのか、じっとニーディアの目を見つめると、確認するように言葉を続けた。

「ニーディア、さっきこの魔道具の使い手を、かなりの力量だと分析していたが大丈夫なのか?勝算があるから言っているのだろうが、どの程度押さえておけるんだ?」

ラゴフの言葉に、ニーディアは額に指を当てて考える仕草を見せた。

「・・・正直に言うわね。この魔道具の使用者は私より高位の魔法使いだわ。魔力量に関しては本当に桁違いよ。よくこんな物を村全体に仕掛けられたと思う。でも魔力操作なら負けてないわ。私にはこの地中に張られた魔力の根が見える。蔦が発動しようとしても、私の魔力が持つ限りは押さえ込んで見せるわ。だからタイミリミットは私の魔力が尽きるまでよ」

ニーディアは髪と同じ茶色の瞳で、じっとラゴフを見て答えた。
自分の魔力が尽きた時、地面から無限の蔦が飛び出してくる。そうなればおそらく勝ち目はないだろう。
制限時間はニーディアの魔力が切れるまで。勝つためには短期決戦しかない。


「ニーディア、時間にしたらどれくらい持ちそうなの?日暮れまでいけそう?」

話し込む二人に口を挟んできたのは、白魔法使いのエリクス・スピルカだった。
まだ十代のエリクスは、どこか幼さの残る顔立ちではあるが、その表情は引き締まっている。

普段はバッサリ下ろしている細く柔らかそうな金髪を、首元で一本に縛っているのは、これからの戦いに備えての心構えだろう。


「・・・日暮れまで持たせると言いたいところだけど・・・難しいと思う。後の事を考えずに全力でやって、やっと互角に持ち込めそうなの。今回の相手は過去最強よ・・・でも、一時間・・・いえ、二時間は持たせて見せる。短いかもしれないけど、みんな、それまでになんとか決着をつけて」

ニーディア・エスパーザの表情は真剣そのものだった。

「過去最強か・・・分かった。お前がそこまで言うんだ、俺達も気を引き締めていこう」

エフゲニー・ラゴフはニーディアの決意を受け取ると、拳を握り締めて力強く言葉を発した。

「そうだね、この任務は絶対に失敗はできない。全力でやり遂げよう」

エリクスもラゴフの言葉に大きくうなずいた。

そしてもう一人、眼帯の男クレイグ・コンセンシオンは、無言のまま村に目を向けた。
話しを聞いているのかいないのか、そんな態度にエリクスが声をかけた。

「クレイグ、ちゃんと聞いてる?キミはいつも口数が少ないけど、こんな時くらい・・・」


「来るぞ」


クレイグが低い声で小さく、だがハッキリと一言だけ口にした。そして次の瞬間、村の奥から大きな音とともに強い光が発せられた。

それは村の占拠者と奪還部隊の、開戦を告げる破壊の光弾だった。
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