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1183 分が悪いのは

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「いやいや、口を挟むのもなって思って黙ってたけどよ、あれで大丈夫かよ?ラクッチの話し分かってんのか?」

レイチェルがカルロス達から離れると、それまでずっと黙って事の成り行きを見ていたジャレットが、となりを歩きながら口を開いた。

敵は蔦という罠を張って待ち構えている。それ以外にもどんな策を用意しているか分からない。
そんな中で、ラクエルの知っている情報がどれだけ重要かを認識しているからこそ、ジャレットもカルロスの方針が理解できないのだ。

「ん?えっと・・・ラクッチ?ねぇそこの冬なのに日焼けしててやたら歯の白い人、ラクッチってなに?」

聞きなれない単語が耳に届き、一歩後ろを歩いていたラクエルが首を傾げ、発言元のジャレットに聞き返す。

「ん、ああ、ラクッチはラクッチじゃん?キミの名前ラクエルってんでしょ?だからラクッチ。あ、もしかして気に入らない?じゃあラクタンとか・・・ラーにゃんとか?」

ラクッチ。それが自分のアダ名だと分かり、ラクエルはすぐには反応できなかった。
ジャレットの話しを理解するまで一瞬の間を置いて、そして叫んだ。

「・・・はぁぁぁぁぁ!?なにそれ!?あんた初対面で何いきなりアダ名つけてんの!?超意味わかんないんですけど!」

「え?良いと思ったんだけど、ラクッチは気にいらねぇの?じゃあ第二候補のラクタンか、第三候補のラーにゃん、どっちか選んでくれるか?でないと俺もなんて呼べばいいか分からねぇし」

「はぁぁぁぁぁ!?あんた頭おかしくない!?名前で呼べばいいじゃん!ラクエルって普通にさ!てか馴れ馴れしくない?あんた初対面の距離感絶対おかしいから!」


二人のやりとりを傍で聞いていたリリアは、目をパチパチさせながら何か言いたげにレイチェルに顔を向けた。レイチェルもリリアの視線に気づくと、苦笑いをしながら小さく首を振ってリリアに顔を向けた。

「うん、あなたが何を聞きたいかは分かる。彼はジャレットと言うんだが、うちの店の従業員全員にアダ名をつけてるんだ。どうも仲良くなる近道はアダ名だと考えるふしがあるようなんだ。ラクエルの事は私との会話を聞いて、仲間だと判断したんだろう。こうなるとアダ名を認めるまでジャレットは止まらないから、すまないが生暖かい目で見てやってくれ」

呆れ半分で肩をすくめるレイチェルに、リリアはなんだかおかしくなってクスリと笑った。

「フフフ、そうなんですか、失礼かもしれませんけど個性的な方なんですね。分かりました。ラクエルさんはちょっと困ってますけど、見守りましょうか」

そしてそんな二人を見ていたリリアの娘エマも、母親が笑った理由が気になったようで会話に入ってきた。

「ママ、どうしたの?なんで笑ってるの?お姉ちゃんとなんのお話ししてるの?」

「うん、エマあのね・・・」

リリアは何で自分とレイチェルが笑い合っていたのかを話した。
まだ6歳のエマにはよく理解できなかったが、それでも母親が笑っていると子供は嬉しいものである。
エマも自然と笑顔になって、三人の間にはいつの間にか緊張感が無くなっていた。

ジャレットのこだわりが、レイチェルとリリア達との間の空気を和らげた事を、ジャレット本人は知らない。

そして言い合っていたジャレットとラクエルだが、話しの通じないジャレットにラクエルが折れて決着がついた。

アダ名は三つの候補の中で、ラクエルが一番マシだと思えたラクッチに決まった。





レイチェル達は軍の最後尾まで戻ると、レイジェスのメンバーを全員集めて、まずラクエル達六人を紹介した。ロンズデールでの戦いはレイジェスの他のメンバーも知っているし、レイチェルと一緒にロンズデールに行ったアラタはラクエル達の顔も知っていた。そのためあまり騒がれる事もなく、ラクエル達は好意的に受け入れてもらう事ができた。

そしてレイチェルは、カルロスとの一連の出来事を話した。

「んだよそれ、思慮が足りないんじゃね?頭で考えねぇで感情で行動してっとだなぁ、足元をすくわれんぞ。もっと物事を論理的に考えてだなぁ、広い視野をもって・・・ぐはっ!」

しかめっ面をして話すリカルドの胸を、ユーリがドンと叩いて黙らせる。

「リカルド、無理して難しい言葉使わないでいいから。でも言いたい事は分かる。アタシもちょっとイラっとした」

唇を結び、眉根を寄せて、ユーリは不快さをあらわにする。無理のない事だった。
カルロスの言い分は、レイジェスの存在さえ否定するようなものなのだから。

「まぁまぁ、リカルドもユーリも抑えて抑えて。で、どうなのレイチェル、その連中で村は解放できそうなの?」

憤るリカルドとユーリをなだめたのはケイトだった。
二人の肩に手を置きながらレイチェルに顔を向けて、軍の勝算を問いかける。

レイチェルは腕を組むと、先ほど見た四人を思い起こした。

「・・・そうだな、リーダー各の男は底が見えなかった。相手が帝国の幹部クラスだとしても、決して見劣りはしないと思う」

去り際に言われた言葉は忘れはしない。

部隊のリーダー、エフゲニー・ラゴフ。
短く刈り上げた金髪、知的な雰囲気さえ漂う青い瞳、第一印象は静かで落ち着いた男だった。
だがその紳士的な仮面の下には、血の気の多い危険な本性が隠されていた。

「他の三人は魔法使いだから、体力型の私には正確には力を測れないが、雰囲気や佇まいを見ればかなりの力を持っている事は想像できる。彼らが選んだ編成隊も、やはり力のありそうな者が揃っていた。あのメンバーなら、未知の相手でも勝算は十分あると思う」

カルロスの前では否定的な言葉も口にしたが、レイチェルも認めるところは認めていた。
実力的には勝算は十分にある。それならば、なぜレイチェルは彼らが村を奪還できたら、軍の支配下になるという条件を受けたのか?

「なぁレイチェル、俺達はここで待ってていいのか?」

まさに全員が気になっていた事を聞いたのは、アラタだった。
自分達のリーダーであるレイチェルの事は信じている。だがそのレイチェルが彼らの力を認めているのだ。ならばこのまま彼らが事を成せば、レイジェスは軍の指揮下に入らなければならなくなる。
組織としては違えど戦う敵は同じなのだから、それはそれで受け入れる事はできないわけではない。
だが気持ちの面であまり良い気がしない事もまた事実である。

「・・・ああ、言いたい事は分かる。私としては目的を果たせるのなら、軍の指揮下に入る事は我慢できないというわけでもないんだ。だが、個人的な感情を抜きにしても、そう簡単に村は奪還できないだろう。確かに勝算はある、だが分が悪いのは軍の方だと私は思っている」

「そうなのか?じゃあ、いいのかよ、あのまま行かせて」

レイチェルの言葉に驚き、アラタは軍隊の前方、その更に先に目を向けた。

およそ数百メートル程先に、小さく見える家屋の集まりはセドコン村である。
そしてついさっき、軍が向かわせた奪還部隊が潜入したところであった。

レイチェルも視線の先にセドコン村を映し、複雑な思いをにじませて答えた。


「・・・本当は共闘できれば一番いいのだが、こればかりはどうしようもない。彼らが成功する事を祈ろう」
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