1,192 / 1,263
1181 要求と拒絶
しおりを挟む
「・・・なるほど、突然地面から一帯を埋め尽くすほどの蔦が突出して、あっという間に村人達を縛り上げたと・・・そして瞬く間に地面に引きずり込んでしまった。そんな事が・・・」
なぜラクエル達がここにいるのか?セドコン村で何があったのか?その経緯を聞いたレイチェルは神妙な顔で頷いた。
「そう、アタシらも危なかったんだ。庭で三人で雪遊びしてたら、地面からいきなり蔦がグワーって飛び出して来てさ、とにかくリリアとエマを連れて家から出たんだ。外に出てたフランクもすぐに戻ってきて、四人で村の外を目指したのさ」
ラクエルはそこまで話すと、また後ろに顔を向けた。
視線の先には身を寄せ合って震えている、村娘のシェリーとリズが映っていた。
「・・・あの二人を助けられたのは運が良かったよ、アタシらは無限に飛び出して来る蔦から、とにかく必死で逃げてたんだ。それで村の出口を目指して走ってたら、目の前に蔦に縛られたあの二人が見えたんだ。二人とも助けてって叫んでて・・・一瞬迷ったよ。だってアタシらのすぐ後ろにも蔦が迫ってたし、リリアとエマも守らなきゃいけない。でも気が付いたらナイフを抜いて蔦を斬り払ってた。そこからはアタシとフランクで蔦を斬り払いながら、なんとか村から脱出したんだ。正直・・・あの蔦から六人全員で逃げ切れたのは、奇跡だったと思うよ」
ラクエルは肩をすくめて、自分がどれだけ大変だったかを軽い調子で話すが、深刻な状況だった事は十分に伝わって来た。
「そうか・・・うん、状況はよく分かった。あの二人も含めて、村人達は戦闘訓練なんて受けた事のない人ばかりだったんだろ?それがそんなものに襲われたら、何の対抗もできなかったはずだ。戦う力をもたない一般人に非道な真似をして・・・さっきヤバイ連中と言っていたが、そいつらは帝国軍と見て間違いないだろう。私達もここに来るまでに二度の襲撃を受けている。セドコン村にも行く予定だったんだが、どうやら待ち伏せされたらしいな。おそらくその蔦とやらで、軍を一網打尽にする算段だったのだろう」
ラクエル達の置かれた状況は十分に理解できた。
一通りの話しを聞き終えたレイチェルは、クインズベリー軍副団長のカルロス・フォスターに体を向けると、強い意思を込めた瞳を持って口を開いた。
「カルロス副団長、先程私にラクエルの言葉の真偽の証明、そして責任を問いましたね」
「・・・ふん、確かにそう口にしたが、それがどうした?」
一連の話しを聞いても、カルロスの目にはまだ猜疑心が見えた。
いや、話しそのものは聞き入れたかもしれない。少なくともここまで聞いて、頭ごなしに虚言だと切り捨てるようでは、一軍の副団長は務まらない。カルロスも真偽の確認を行うつもりはある。
だがカルロスはレイジェスを心良く思っていなかったし、口の利き方を知らないラクエルも気に入らなかった。それゆえに難癖と言われてしかたない対応になる。
レイチェルもそれを感じ取っているからこそ、売り言葉に買い言葉のような態度になる。
軍の統率を考えれば、何を言われても従順な態度でいた方が円滑に回るかもしれない。
だが譲れないものがある。
「敵が待ちぶせていると分かった以上、セドコン村に殿下をお連れするわけにはいきません。そして解決しないまま村を見捨てるという選択肢もありません」
自国の領土に敵を放置しておく事などできないし、村を見捨てては何のための慰問かも分からない。
戦争をしているのだ。敵が罠を張っているとしても、ここは退いてはならない場面だ。
「私達レイジェスとラクエルで、セドコン村を占拠している敵を制圧します。それができたらラクエルは帝国の回し者ではなかったという証明になるし、彼女が軍を止めた事も正当な理由あってのものだと認めていただけますよね?」
強い意思を持ったその瞳は、射抜くように真っ直ぐカルロスの目を見据えている。
言外には、お前は間違っているという含みも十分に持たせた。
カルロスもまた、自分を強い目で見る赤い髪の女戦士の言葉を受けて、言外にあるレイチェルの挑戦も読み取っていた。
挑戦とは、この村の問題を解決したら自分達を認めろ。レイチェルはそう要求しているのだ。
レイチェルはカルロスがこの要求を受けると考えていた。
カルロスは軍の副団長だ。外部のレイジェスが軍の力を貸せと言うのならば突っぱねるだろうが、レイチェルはあくまでレイジェスの力でやると言っている。成功すれば良し、失敗しても軍の力が削がれるわけではないのだ。ならば断わる理由などない。そう考えていた。
だがカルロスの答えは、レイチェルの想像とは違った。
「・・・ほぅ、面白い事を言うな。そうだな、確かにそこの女が帝国軍と戦うと言うのなら、敵ではない証明になる。これまでの証言も事実であり、軍を止めての進言も正当性があったという事になるな・・・だが、それを受けるわけにはいかん」
眉間にシワを寄せ、言葉には不快感をにじませながら、カルロスはレイチェルの挑戦を断った。
「・・・なぜです?」
まさか断られるとは思わなかった。軍にとって不利益などない話しであり、レイチェル達が失敗すればそれこそ追いやる格好の材料にもなるのだ。
カルロスの考えが全く読めない。怪訝な顔を向けるレイチェルに、カルロスはレイチェルを強く睨みつけて言葉を発した。
「貴様らが強いのは分かる。だが自分達だけで戦争に勝てると勘違いしてないか?あまり調子に乗るなよ?セドコン村は我々クインズベリー軍が解放する!」
そう言い切るとカルロスは、自分の後ろに並び立っているクインズベリー軍に振り返った。
「今から名前を呼ばれた者は前に出てこい!」
十万のクインズベリー軍に、カルロスの大声がぶつけられた。
なぜラクエル達がここにいるのか?セドコン村で何があったのか?その経緯を聞いたレイチェルは神妙な顔で頷いた。
「そう、アタシらも危なかったんだ。庭で三人で雪遊びしてたら、地面からいきなり蔦がグワーって飛び出して来てさ、とにかくリリアとエマを連れて家から出たんだ。外に出てたフランクもすぐに戻ってきて、四人で村の外を目指したのさ」
ラクエルはそこまで話すと、また後ろに顔を向けた。
視線の先には身を寄せ合って震えている、村娘のシェリーとリズが映っていた。
「・・・あの二人を助けられたのは運が良かったよ、アタシらは無限に飛び出して来る蔦から、とにかく必死で逃げてたんだ。それで村の出口を目指して走ってたら、目の前に蔦に縛られたあの二人が見えたんだ。二人とも助けてって叫んでて・・・一瞬迷ったよ。だってアタシらのすぐ後ろにも蔦が迫ってたし、リリアとエマも守らなきゃいけない。でも気が付いたらナイフを抜いて蔦を斬り払ってた。そこからはアタシとフランクで蔦を斬り払いながら、なんとか村から脱出したんだ。正直・・・あの蔦から六人全員で逃げ切れたのは、奇跡だったと思うよ」
ラクエルは肩をすくめて、自分がどれだけ大変だったかを軽い調子で話すが、深刻な状況だった事は十分に伝わって来た。
「そうか・・・うん、状況はよく分かった。あの二人も含めて、村人達は戦闘訓練なんて受けた事のない人ばかりだったんだろ?それがそんなものに襲われたら、何の対抗もできなかったはずだ。戦う力をもたない一般人に非道な真似をして・・・さっきヤバイ連中と言っていたが、そいつらは帝国軍と見て間違いないだろう。私達もここに来るまでに二度の襲撃を受けている。セドコン村にも行く予定だったんだが、どうやら待ち伏せされたらしいな。おそらくその蔦とやらで、軍を一網打尽にする算段だったのだろう」
ラクエル達の置かれた状況は十分に理解できた。
一通りの話しを聞き終えたレイチェルは、クインズベリー軍副団長のカルロス・フォスターに体を向けると、強い意思を込めた瞳を持って口を開いた。
「カルロス副団長、先程私にラクエルの言葉の真偽の証明、そして責任を問いましたね」
「・・・ふん、確かにそう口にしたが、それがどうした?」
一連の話しを聞いても、カルロスの目にはまだ猜疑心が見えた。
いや、話しそのものは聞き入れたかもしれない。少なくともここまで聞いて、頭ごなしに虚言だと切り捨てるようでは、一軍の副団長は務まらない。カルロスも真偽の確認を行うつもりはある。
だがカルロスはレイジェスを心良く思っていなかったし、口の利き方を知らないラクエルも気に入らなかった。それゆえに難癖と言われてしかたない対応になる。
レイチェルもそれを感じ取っているからこそ、売り言葉に買い言葉のような態度になる。
軍の統率を考えれば、何を言われても従順な態度でいた方が円滑に回るかもしれない。
だが譲れないものがある。
「敵が待ちぶせていると分かった以上、セドコン村に殿下をお連れするわけにはいきません。そして解決しないまま村を見捨てるという選択肢もありません」
自国の領土に敵を放置しておく事などできないし、村を見捨てては何のための慰問かも分からない。
戦争をしているのだ。敵が罠を張っているとしても、ここは退いてはならない場面だ。
「私達レイジェスとラクエルで、セドコン村を占拠している敵を制圧します。それができたらラクエルは帝国の回し者ではなかったという証明になるし、彼女が軍を止めた事も正当な理由あってのものだと認めていただけますよね?」
強い意思を持ったその瞳は、射抜くように真っ直ぐカルロスの目を見据えている。
言外には、お前は間違っているという含みも十分に持たせた。
カルロスもまた、自分を強い目で見る赤い髪の女戦士の言葉を受けて、言外にあるレイチェルの挑戦も読み取っていた。
挑戦とは、この村の問題を解決したら自分達を認めろ。レイチェルはそう要求しているのだ。
レイチェルはカルロスがこの要求を受けると考えていた。
カルロスは軍の副団長だ。外部のレイジェスが軍の力を貸せと言うのならば突っぱねるだろうが、レイチェルはあくまでレイジェスの力でやると言っている。成功すれば良し、失敗しても軍の力が削がれるわけではないのだ。ならば断わる理由などない。そう考えていた。
だがカルロスの答えは、レイチェルの想像とは違った。
「・・・ほぅ、面白い事を言うな。そうだな、確かにそこの女が帝国軍と戦うと言うのなら、敵ではない証明になる。これまでの証言も事実であり、軍を止めての進言も正当性があったという事になるな・・・だが、それを受けるわけにはいかん」
眉間にシワを寄せ、言葉には不快感をにじませながら、カルロスはレイチェルの挑戦を断った。
「・・・なぜです?」
まさか断られるとは思わなかった。軍にとって不利益などない話しであり、レイチェル達が失敗すればそれこそ追いやる格好の材料にもなるのだ。
カルロスの考えが全く読めない。怪訝な顔を向けるレイチェルに、カルロスはレイチェルを強く睨みつけて言葉を発した。
「貴様らが強いのは分かる。だが自分達だけで戦争に勝てると勘違いしてないか?あまり調子に乗るなよ?セドコン村は我々クインズベリー軍が解放する!」
そう言い切るとカルロスは、自分の後ろに並び立っているクインズベリー軍に振り返った。
「今から名前を呼ばれた者は前に出てこい!」
十万のクインズベリー軍に、カルロスの大声がぶつけられた。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる