上 下
1,183 / 1,263

1172 解決方法

しおりを挟む
兵士達に顔色が悪い理由に対して、シルヴィアの説明はこうだ。

昨日一昨日と野営をしたわけだが、夜の世界はトバリが支配しているため、テントの外では闇が蠢(うごめ)いている。

普段暮らしている石造りの家では、夜の気配をあまり感じる事はなかっただろう。
だがテントのシート一枚、それなりの厚さと丈夫さはあるが、それ一枚を隔てただけでは、夜の主トバリの視線を防ぎ切る事はできなかった。

自分が横になっているすぐそばにソレはいるのだ。
蠢く闇が腹を空かせて獲物を・・・自分を狙っているという恐怖は、心的負担は途方もなく大きいはずだ。

そのため抵抗力の低い者は満足に寝る事ができず、体調を崩し始めているのだ。


「さすがシルヴィアだね、僕が説明する事は何もないよ」

自分の言おうとしていた事を全て説明するシルヴィアに、ジーンがニコリと笑顔を見せる。
シルヴィアも笑みを返して口を開く。

「ジーンが気付いてなかったら私から切り出そうと思ってたのよ。でもやっぱりジーンは周りをよく見てるわね。ジャレットもミゼルも仕事はできるのに、こういうところはなぜか気付かないのよね。なんで?」

「え、いや、シーちゃん、なんでって言われても・・・」

「えっと・・・なんかごめん?」

真顔でシルヴィアに問われたジャレットとミゼルは、そんな事言われてもと困惑しながら、謝罪の言葉を口にした。


「あ、えっと、あの、シルヴィアさん、寝不足による疲労って、ヒールで回復は難しいんですか?」

なぜか責められるジャレットとミゼルを見て、それまで黙って話しを聞いていたアラタが、助け船とばかりに手を挙げて質問をした。

「あら、良い質問ねアラタ君。答えを言うと一時的には回復できるのよ。でもあまりオススメはできないわ。カチュアもユーリも、寝不足の疲労をヒールで癒す事はやりたがらないと思うわよ」

「え?そうなんですか?」

予想外の答えに、アラタはきょとんとした顔をして見せた。

聞いてはみたが、アラタは答えに予想をつけていた。ヒールはケガを治療し、疲労を癒すものではあるが、睡眠不足は寝なければどうしようもないだろうと。

だから一時的にでも回復できるというシルヴィアの答えには、素直に驚かされた。

「ええ、そうなのよ。アラタ君の反応を見ると、だいたい何を考えていたかは分かるわ。あのね、睡眠不足が原因でも疲労は疲労だから、それをヒールで癒す事はできるのよ。でも結局寝てない事には変わりないから、疲れだけとっても睡眠は足りてないわよね?疲労の元は何も解決してないのに、体だけ元気になるでしょ?だから体の調子がおかしくなっちゃうのよ。寝ずに戦わなきゃならないような、よっぽどの事がなければやらない方がいいわ」

「へぇ・・・なるほど、そうなんですね。じゃあ、この兵士達は・・・」

アラタが自分達の前を歩く兵士達に目を向けると、シルヴィアはアラタの言葉を先回りして、ええ、と呟き頷いた。


「眠らない限り疲労は蓄積していくわ。今はまだ無理がきくでしょうけど、日を追うごとにキツくなるでしょうね。どこかでしっかり寝ないと最後までもたないわよ」


隊列を乱さずに、しっかりとした足取りで雪の上を歩く兵士達は、体力の心配など無用に感じられる。

だがシルヴィアの目には、取れない疲労を抱えたまま足を前に踏み出す彼らが、一歩一歩死に近づいているように見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...