上 下
1,178 / 1,263

1167 親友の涙

しおりを挟む
冷たく深い闇の淵に落ちていきそうになった・・・・・
怖い・・・そこに落ちたら自分はどうなってしまうのだろう。言いようのない恐怖に押し潰されそうになった。

だけど、誰かがアタシを呼んでいる。声が聞こえる。何を言っているのかハッキリとは聞き取れないけど、なんだか力強くて、この暗闇に負けるなって励まされてるような気がする。

そうして心を強く持って、闇に負けないように必死に耐えていると、暗闇の中に一筋の光が差し込んできた。

その光はアタシを優しく包み込むと、暖かな空へと引き上げてくれた。



「・・・う、ん・・・・・」

重い瞼を開けて最初に目に入ったのは、見慣れた緑色の髪の男の子が、鼻水を垂らして泣いている姿だった。


「・・・・・リカ、ルド・・・・・?」

どうしたんだろう?なんでそんなに大泣きしてるの?

喉の奥がカラカラでうまく声を出せなかった。それでもかすれた声で名前を呼ぶと、緑色の髪の男の子リカルドは、驚いたようにアタシに顔を向けた。そして唇を震わせながら、アタシの手をぎゅうっと強く握り締めた。

「ユ、ユーリ・・・だ、大丈夫なのかよ?・・・良かった・・・良かったぁ・・・・」

痛い、強く握り過ぎだ。でも手を離そうとしても、リカルドの力が強くて離せない。
それにこんなに泣いてるリカルドに、強く言う事もできなくて、しかたないからアタシはそのまま手を握らせる事にした。


「コホン、えっと・・・なんでリカルドは泣いてるの?」

一つ咳払いをして、最初に気になった事を聞いてみる。

「ユーリ、覚えてないの?」

するとリカルドとは反対側から声がかけられた。顔を向けると私の親友カチュアが、目尻を下げて心配そうに私を見つめていた。


「カチュア・・・アタシ、何が・・・?」

そう言えばアタシはなんで倒れてるの?・・・あ、そうだ、確か背中にすごい痛みを感じて・・・・・

背中になにかされたんだ、でもそこから先は記憶があやふやだ・・・・・

「ユーリ、助かって良かった。あなたは敵に背中を刺されたの・・・私がヒールをかけてる間、リカルド君がずっと声をかけてたんだよ」

優しい声音をかけるカチュアの瞳を見て、ぼんやりとしていた頭がハッキリしてきた。

そう・・・そうだ、あの鋭く強い痛み・・・アタシは敵から攻撃を受けたんだ。


「ユーリ・・・生きててくれて良かった」

体を起こそうとしたアタシに、カチュアが両手を広げて抱き着いて来た。

「・・・カチュア」

「うぅ・・・ユーリ・・・」

声を震わせながら、アタシを抱きしめてくれるカチュア・・・・・
その温もりと頬に触れた雫に、アタシはようやく自分がどれだけ危ない状態だったのか理解した。

「カチュア、心配かけた・・・ごめん」

そっとカチュアの背中に手を回して、ポンポンと叩くと、カチュアは声を詰まらせて首を横に振った。

「ユーリ・・・良かった・・・良かったぁ・・・・・」

「うん、カチュア、本当にありがとう」

そして、まだ泣きじゃくるカチュアの背中をさすりながらながら、隣に座っているリカルドに顔を向けた。

「リカルド、ありがとう。アタシが意識を失ってる間、いっぱい励ましてくれたよね?」

「あ・・・ん、んだよ、別に俺は何もしてねぇよ」

お礼を言ってるのに、リカルドは口をとがらせて顔をそっぽ向ける。
本当になんでこんなに素直じゃないんだろう?さっきまで鼻水垂らして泣いてたくせに。
今更知らんふりしても手遅れ。

「嘘。そんな顔して言ってもバレバレ。リカルドが励ましてくれてたのは分かってる。暗くて怖いところに落ちそうになった時、リカルドの声で頑張れた。ありがとう」

「・・・お、おう、まぁあれだ・・・カチュアが声かけろって言うからよ、それだけだ」

「そうなんだ。でもアタシは感謝してるし嬉しかった。それだけは言っておく」

「・・・おう、とにかくしばらくゆっくりしてろよな。血がすげぇ出てたし、無理すんじゃねぇぞ?」

ようやくチラリとアタシに顔を向けたリカルドは、アタシが低姿勢だから調子に乗ってニヤついて見える。ちょっと気持ち悪い。ぶっ飛ばしてやろうかなと思ったけど、やっぱり血を流したからか、力が入りにくい。しかたないから今回は見逃してやろう。

「ん、分かった。大人しくしてる」


そう返事をした時、周りで立っていた兵士達が歓声を上げた。


あいつらすげぇ!あの人形をぶっ倒したぞ!
さすが陛下の見込んだ連中だ!
四勇士もいるんだ!俺達クインズベリーが負けるわけねぇんだ!


どうやら敵を倒した事を喜んでいるようだ。そっか、勝ったんだ。
敵に勝利した事を知って、ほっと息をついた時、ふいに背中に声をかけられた。


「あ、あのレイジェスのメンバーが倒れたと聞いたんですが・・・あなたですか?」

振り返るとそこには、小柄で長い金色の髪の少年が、どこか不安気な表情で立っていた。


クインズベリー国第二王子、オスカー・アレクサンダーだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...