上 下
1,176 / 1,253

1165 共闘する二人

しおりを挟む
「おい、シャクール、今のすげぇ風はお前だろ?いきなりで吹っ飛ばされたぞ」

爆発による熱波や、魔食い鳥の落下による衝撃波によって、辺り一帯の雪はすっかり吹き飛ばされていた。ひび割れた地面に立つディリアン・ベナビデスは、目の前に降り立った銀髪の黒魔法使い、シャクール・バルデスを睨み付けた。

「ディリアン、元気そうだな。どうやったか知らんが、うまく勝ったみたいじゃないか」

ディリアンの言葉などまるで耳に入っていないように、シャクールは軽い調子で言葉をかける。

「・・・土煙を消そうとしたってのは分かったけどよ、ここに俺がいんのも分かってたよな?もうちょっと慎重に加減してやれよ?あんなの台風じゃねぇか」

「それで、敵はちゃんと仕留めたんだろうな?死体を確認するまでは油断できんぞ」

「聞けよ!お前本当にそういうとこ直せよ!」

全く話しを聞かないシャクールに、ディリアンが怒りをぶちまける。


「はいはい、そこまでにしろ。ディリアン、お前の気持ちはよく分かるぞ。だがな、バルデスに言っても無駄だ、分かるだろ?」

睨むディリアン。意に介さないシャクール。全く温度差の違う二人の間に手を入れて、呆れ顔のルーシーが仲裁をする。

「バルデス、お前もせめて会話を成立させる努力はしろ」

「うむ、今更私に何の努力が必要かは分からんが、必要な努力は惜しまんぞ」

自信満々に宣言するシャクールの顔を見て、ルーシーは額に手を当て天を仰ぎ見た。

「・・・・・ディリアン、色々言い足りないだろうが、もう話しを進めていいか?」

「・・・ああ、俺も諦めた」


二人は大きな溜息をつくと、これからの事について話し始めた。







「オォォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」

金色に輝く闘気の剣、オーラブレードを人形の胸に叩きつける!

鋼鉄を思わせる硬さの淑女の人形を斬り裂く事はできない。だがジャレットのパワーで打たれた人形は、抵抗する事もできずに一直線に弾き飛ばれていく!

「アーちゃん!」

ジャレットの視線の先、人形が飛ばされていく先では、薙刀を上段に構えたアゲハが待ち構えていた。
その刃先には研ぎ澄まされた緑色の風が集まり、鋭さを極限にまで高めていた。

「ハァァァァァァーーーーーーーーーッツ!」

気合いを発し、向かって来る人形に渾身の一太刀を振り下ろす!
それは見事に淑女の人形を真っ二つにし、勢いをそのままに地面に深く刃を突き刺した。

精霊の力で研ぎ澄まされた風の刃は、いかに鋼鉄に如き淑女の人形でも撥ね返せるものではなかった。
アゲハとジャレットは共闘する中で、自然とそれぞれの役割が決まっていった。

ジャレットのオーラブレードでは人形を斬る事はできない。
アゲハの風の刃ならば通す事ができるが、それは力を集中させて放つ一太刀に限る。

そのためジャレットは果敢に人形に攻めて、アゲハに繋ぐ事を役目とした。

アゲハはジャレットが必ず自分に繋いでくれると信じ、力を集中して待った。


「はぁ・・・はぁ・・・本当に硬い人形だった、風の刃を直接くらわせてやっとか」

真っ二つになって転がる淑女の人形を見下ろして、アゲハは額の汗を拭った。
勝つには勝ったが、的が小さく素早い人形を相手にする事は、人間を相手にするより手こずらされた。

「ふぅ・・・アーちゃん、やったな」

オーラブレードの刃を消して、ジャレットはアゲハの元へと歩き近づいた。

「ジャレット・・・ああ、即席コンビの割には、私らなかなかだったじゃん?」

「おう、うまく役割分担ができてたしな。しっかし硬い人形だったぜ、コレを斬るなんてアーちゃんの風の刃ってのはすげぇな」

ジャレットも真っ二つになった淑女の人形を見下ろした。それは一切の歪みの無い見事な斬り口だった。これを見ればアゲハの風の刃が、どれ程の鋭さを持っているのか分かるというものだった。

さっきまでちょこまかと素早しこく動き、二人を翻弄していた人形だが、二つに斬り分けられてしまっては、さすがに活動を停止せざるをえなかった。


「これは私のものではなく風の精霊の力だ。精霊への感謝を忘れなければ、その力を最大に引き出してくれるんだよ」

「なるほどな・・・ん?あれ、ケイティ・・・隣にいるのは確か・・・」

遠くからこちらに向かって歩いて来る人影を目にし、ジャレットは口を開いた。

そしてその言葉の続きを引き取るように、アゲハが答えた。


「あれは・・・四勇士のフィゲロアってヤツだな。あの様子だと、あいつらも戦っていたみたいだな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...