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1163 決着の致命打

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地上から100メートルに届かない程度の高さを飛んでいた魔食い鳥が、落下して地上に激突するまでにかかる時間はほんの数秒である。

その数秒でできる事など何もない。
悲鳴を上げた次の瞬間には、地面にぶつかってしまうだろう。

だがディリアンとラニ、二人の青魔法使いの最後の攻防は違った。

生き抜くという強い意思、死を目前にした極限の精神状態、様々な思惑が相まった結果、まるで時を圧縮したかのような高密度のぶつかりあいとなった。




「ぐッ!」

落下していく魔食い鳥の背で、これまで受けた事がないくらい激しく強い風に顔を叩かれ、ラニは強く歯を噛みしめた。


くそっ!まさか自らの命を顧みず、魔食い鳥を落とすなんて!
このまま地上に衝突すればとても助からない、結界を張らなければ!


両手に魔力を込めて結界を張ろうとしたその時、突然青く輝く魔力のロープが伸びて来て、ラニの右手首に巻き付いた。そのまま魔力のロープは右手の平にもグルグルと巻き付き、ラニが魔力を発する事ができないように妨害をする。

「なにッ!?」

思わず顔をしかめ、ロープが飛んで来た前方に顔を向けると、白い髪の青魔法使いディリアンが右手をこちらに向けて、魔力で作ったロープを飛ばしていた。

口の端を持ち上げて笑うその姿に、ラニはディリアンの狙いを感じ取った。


こいつ、私に結界を作らせない気か!?
ロープの魔力が邪魔をして、結界を張るための魔力が放出できない!
それにこいつ何を考えている?左手は魔食い鳥と自分の体を支えるために魔力のロープを使い、右手のロープで私の右手を縛ってしまったら、自分の結界はどうするつもりだ?
結界は手の平を起点として発する魔法で作るんだ、この状態ではお前も結界を張る事ができないぞ!


「くっ!狂人め!」

ディリアンの思考が全く理解できない苛立ちから、ラニは頬を引きつらせて歯を噛み締める。
右手は魔力のロープで縛られてまともに動かせない。ラニは残った左手で結界を張ろうと、手の平を前に向けて魔力を放出しようとした、だがその時。

「ばーか、やらせっかよ」

ディリアンの左手から飛ばされた魔力のロープが、ラニの左手首に巻き付き、そのまま手の平をもグルグルと縛り上げた!


「なにぃッ!?ば、ばかなッ!」

ラニは目を疑った。左手も縛るという事は、ディリアンは己の左手を鳥の羽をから離すという事だ。
体を繋ぎとめておく物が無くなれば、空中に投げ出される事は言うまでもない。


こ、こいつ正気か!?本当にここで私と死ぬ気なのか!?いくら敵を倒すためとはいえ、そんなにあっさりと自分の命を割り切れるものなのか!?冗談じゃない!わ、私はアレリーと生きるんだ!
ここで死ぬわけにはいかない!死んでたまる・・・・・


「ッ!?」


ラニがソレに気付いた時にはもう遅かった。

常軌を逸したディリアンの行動は、ラニの頭の中を散々ひっかき回していた。
そのため視覚から送られてくる情報を、脳が瞬時には正しく理解できず、結果またしてもラニはディリアンに先を行かれる事となった。

そしてそれは、この戦いを決着づける致命打でもあった。


な・・・なぜ、立っていられる?


ラニは言葉を失った。

体を支えていた魔力のロープを魔食い鳥の羽から外したにも関わらず、ディリアンは鳥の背中の上に両足で立っていた。両手を離したのだから、吹き飛ばされていなければならないはずだ。
それなのにディリアンは立っているのだ。

落ち行く鳥の背に立つなど不可能だ。だがラニの目に映るディリアンは、支えもないのに両足で立っているのだ。


「ど、どうやって・・・」

「へっ」

驚愕するラニを、ディリアンは勝利を確信して見据え、そして小さく笑った。


魔法は手の平からって、常識にとらわれってっから見逃すんだよ。
俺の魔道具流動の石は、体の中心にあるヘソに付けてある。流動の石は魔力をロープのように伸ばせるだけじゃねぇんだよ。魔力の流れを全身に均一に巡らせる事ができるんだ。
そうするとどうなるか?足の裏からも手の平と同じように魔力を放出する事ができんだよ!


そう、両手を離した時、ディリアンはすでに足から放出した魔力のロープを、魔食い鳥の体に巻き付けていたのだ。ラニが平常心を失わずにディリアンを見ていれば気付けただろう。だが両手にばかり注意し、そしてディリアンの言動に振り回されたラニには、最後の最後まで気が付く事はできなかった。


そして今、己の両手さえも封じられたラニには、落下の衝撃から身を護る手段は何もなかった。


「俺の勝ちだ」


ディリアンが天衣結界で己の身を包んだ次の瞬間、魔食い鳥は地上に激突した。
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