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1160 一つの決着

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爆発の上級魔法、光源爆裂弾。

火、氷、風、爆、四属性の攻撃魔法において、一番の破壊力を持っていると認識されているものが、爆発魔法である。

200年もの昔、カエストゥスとブロートン帝国の戦争で、当時の帝国皇帝ローランド・ライアンが、カエストゥスを焼き尽くした魔法も、この爆発魔法の光源爆裂弾であった。

中級魔法の爆裂空破弾でも、使う者が使えば空高く爆炎を上げる程の破壊力を見せるが、上級魔法光源爆裂弾は、比較にならないほどの凄まじい破壊力を持っている。


その象徴たるものが、この黒煙で空を黒く染め上げてしまう特徴的なキノコ雲である。






「ハァッ!ハァッ!フゥ・・・はぁ・・・・・まさか、お前が来るとはな・・・」

ルーシー・アフマダリエフは大きく乱れた息を落ち着かせると、自分を抱きかかえる青い瞳の銀髪の男に目を向けた。

「フッ、間一髪だったな?私が来なければ相打ちだったのではないか?」

四勇士シャクール・バルデスは、ルーシーの背中と膝裏を抱えながら、からかうようにニヤリと笑って見せる。風魔法を使い、地上数十メートルの高さに浮いているシャクールは、体を叩く爆風にも表情を変える事はなかった。

「ふん、私の水の剣はヤツの首を切り裂いた。その時点で私の勝ちだ。そしてそのまま真っすぐ走り抜ければ、光源爆裂弾からだって逃げられたさ」


ルーシーとアレリーの戦い、その決着は際どいものだった。
先手をとられてしまったが、ルーシーはアレリーの光源爆裂弾を潜り抜けて接近すると、アレリーに次なる手を許さず、一息にその首を切り裂いたのだ。

あとはルーシーの言う通り、すでに撃ち放たれた光源爆裂弾の爆発から、逃げ切れるかどうかだった。


「はっはっは、そうかそうか、それは余計なおせっかいをしたようだ。まぁ、大丈夫だと言うのなら安全な場所で下ろしてやろう。アレに巻き込まれたくはなかろう?」

笑われた事にムッとしたのか、ややムキになって言い返すルーシーをシャクールがなだめる。
そして、見てみろと言うように、視線をソレに向けた。


ルーシーもシャクールの視線を追って顔を向ける。シャクールが何を指しているのかは見なくとも分かっていた。だがあらためてソレを目に映し、ルーシーは静かに口を開いた。


「ああ・・・すまないな、シャクール、少し意地になってしまったよ。実際助かった。水が切れた状態では、やはり厳しかったと思う」


瞳に映る巨大なキノコ雲は、光源爆裂弾のすさまじい破壊力を認識するのに十分だった。
轟々と燃え盛る炎は次々と黒煙を空に送り込み、熱量はどんどん増している。あのまま爆発にまきこまれていれば、無事でいられたか定かではない。

「フッ、気にするな。私も少し口が過ぎたからな、とりあえずそこに降りるぞ」


上空から周囲を見回し、煙の影響が少ない場所に目を止めると、シャクールはルーシーを抱えたままゆっくりと地面に降り立った。



「・・・ふぅ・・・世話をかけたなシャクール、ありがとう」

濛々と空まで立ち昇る巨大なキノコ雲から百メートル以上は離れたが、それでも爆発の影響はあったらしく、雪はほとんど散らされている。茶色い土がむき出しの地面に腰を下ろし、ルーシーは自分を運んでくれたシャクール・バルデスにあらためて感謝の言葉を伝えた。

「礼などいい、私が勝手に来て勝手に助けただけだ。それよりディリアンはあそこか?」

シャクールは空を舞う、青く輝く魔力の鳥を指した。

「ああ・・・あいつはあの鳥の上で、もう一人の敵と戦っている」

ルーシーは顔を上げると、魔力で作られた巨大な鳥を見つめて答えた。

巨大なキノコ雲が空を覆い、黒煙が立ち込めている。その中をラニの魔食い鳥が飛びまわっているのだが、魔食い鳥はまるで何かを振り落とそうとするように、激しく体を揺さぶっていた。

「ふむ・・・ここに来た時から気になっていたが、あれだけの大きさの鳥を魔力で作るとは、敵もかなりの魔力を持っているようだな。ルーシー、お前はずいぶん落ち着いているが、ディリアンは大丈夫なのか?」

仲間がまだ戦っている。しかも逃げ場の無い空中でだ。それなのにルーシーからは焦った様子が見えない。シャクールにはそれが疑問だった。

地面に腰を下ろしたルーシーは、空中で暴れ飛ぶ魔食い鳥を目で追いながら、シャクールの疑問に答えた。


「・・・そうだな、私はあいつの事をよく知らないんだが・・・不思議とあいつが負けるとは思えないんだ。生意気なヤツだが、なにかやってくれる・・・そんな気がするんだ」

「・・・フッ、なるほど、よく見ているではないか。ヤツに関しては私も同じ印象を持っている。私も短い間だが共に旅をした身だ、そして少しばかり手ほどきもしてやった。ディリアンは生意気だが閃きを持っていた。そしてあの魔力をロープのように伸ばす技は、大きな可能性を秘めている。ヤツなら大丈夫だろう」

ルーシーが自分と同じ考えを持っていた事を知り、シャクールは顎に手を当て満足そうに頷いた。

「加勢したいところだが、もう私には力が残っていない・・・だがディリアン、あいつならなんとかするだろう」

「フッ、私も同感ではあるが、ルーシーよ、どのみちもう遅い・・・見ろ、決着がついたらしいぞ」


シャクールがそう言葉を口にした時、さっきまで暴れ回るように空を飛んでいた魔食い鳥が、突然頭や羽が硬直したように動きを止めた。

正確にはその硬直を解こうとするように、魔食い鳥は必死にもがいていたのだが、それは地上から眺めているシャクールとルーシーからは視認はできなかった。


そしてしばらくもがいた後、鳥は力尽きたかのように真っ逆さまに落下した。
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