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1157 ルーシー 対 アレリー

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「うまくいったな」

数十メートルも上の空を飛ぶ、魔力の鳥に向かっていくディリアンを目にして、ルーシーは満足したように笑った。

ルーシーとディリアンの作戦は、敵を分断し各個撃破する事である。

空中を自在に飛ぶ魔食い鳥を操るラニ、そして高い魔力で空から魔法を撃ちまくるアレリー、この二人は組ませてはだめだ。役割が分かれているだけに、それぞれが自分の役目に集中して、その力を最大限に発揮できる。

二人の作戦は、ルーシーがディリアンを魔食い鳥まで飛ばす事から始まる。

だが地上数十メートルの高さを飛ぶ魔食い鳥まで、どうやってディリアンを飛ばすのか?
その方法は水である。

圧縮させた超高密度の水を足元から噴射させ、その勢いでディリアンを飛ばす。
言うは易いが、実戦は非常に繊細な魔力操作とバランス感覚が要求された。

しかし人一人を、上空数十メートルまで飛ばす水の噴射を生身で浴びれば、ディリアンの体が耐えられるはずがない。だからディリアンは足元に結界を張り、結界を水の受け皿として扱った。

ルーシーは可能な限り水の力を分散させず、均一に噴射させる。

ディリアンは水の勢いに負けて吹き飛ばされないように、噴射を受ける結界と自分の体のバランスに意識を集中させ、尚且つ魔食い鳥に飛び移らなければならなかった。


「・・・ぶっつけ本番でやってのける度胸は大したものだ。ディリアン、そっちはまかせたぞ。私は私の戦いに集中しよう」

ルーシーは右手に握る水の鞭を振るい、パシンッと空気を弾き音を鳴らすと、空から落ちて来るピンク色の髪の女を鋭く見据えた。



「くっそォォォォォーーーーーーッツ!」

ディリアンの魔力のロープで体を縛られたアレリーは、落下して地上にぶつかる寸前で、全身から魔力を放出して自身を縛る魔力のロープを千切り飛ばした!

そのままアレリーは風魔法を使って体を浮かせると、くるりと縦に体を回して、軽やかに両足を地上に着けた。


「ほぅ、魔法使いにしてはなかなかの身のこなしだ。魔力も相当なものだし、そんな恰好をしているが、お前幹部クラスなんじゃないか?」

これまでの魔力と動きをみていれば、アレリーが深紅のローブを着ていてもおかしくない実力を持っているのは明白だった。
だがどういう事情なのか、今の彼女は白いボアのコートに、ベージュの厚底ムートンブーツ。
とても戦いのために着ているものとは思えなかった。

ルーシーに指を差されて指摘を受けたアレリーは、触れられたくないところを突かれた事から、キッと力を込めてルーシーを睨み付けた。


「クインズベリーのくせに、よくもあたしにこんな事を・・・許さない!」

「・・・ん~、お前人の話しを聞かないタイプだろ?会話が成立しないヤツは嫌いだよ」

自分を鋭く睨みつけるアレリーの視線を正面から受け止め、ルーシーは一歩前に足を踏み出した。

二人の距離は目算でおよそ6~7メートル。水の鞭の長さもリーチに入れれば、後一歩でルーシーの射程内に入る。ルーシーならばこの距離を一蹴りで詰めて、アレリーの懐にもぐりこむ事は可能である。

だがルーシーはこの一歩を前に踏み出したきり、それ以上は先に進めずにいた。


・・・・・このピンク髪の女、やはりただ者じゃないな、隙が無い。


ルーシーは水の鞭を構えたまま、立ち止まってアレリーを見据えた。

一騎当千とまで呼ばれる四勇士は、クインズベリー最高戦力の一角である。

兄であるレオ・アフマダリエフの後釜とはいえ、その座についたルーシーには、十分そう呼ばれる素質があった。
だがそのルーシーが足を止める程に、アレリーから発せられる魔力は大きく、そして危うさを感じさせていた。


「・・・許さない・・・絶対に許さない・・・あんたなんか吹っ飛ばしてやる!」

怒りの感情が高まるにつれて、アレリーの体から巨大な魔力が放出されていく。その強さは二人が向かい合う足場をも揺るがし、降り積もった雪はアレリーを中心に舞い上げられ、突風のようにルーシーの体にぶつけられた。
そして両手に破壊の魔力を漲らせると、対峙するルーシーにその手の平を向けて構えた。


「・・・けっこうな魔力じゃないか、私も本気で相手になろう」

自分に向けられた魔力に、ルーシーは前に出していた右足の膝を曲げて前傾姿勢になり、右手に水の鞭の柄を持ち、左手は腰の辺りで鞭の先を軽く握り構えた。

「私はクインズベリー国が四勇士、ルーシー・アフマダリエフだ。悔いを残さぬよう、全力で来い」

正面のアレリーを青い瞳で見据えて告げる。
ルーシーのそれは、外からは感情の動き一つ読めない、とても静かな闘志だった。


「・・・こいつ」

感情的になっていたアレリーだったが、ルーシーの静かな闘志を感じ取り、急速に頭が冷えていった。
これまで自分と戦った相手は、怒りや憎しみを思い切りぶつけて来る者ばかりだった。
たかだが16歳の小娘に上を行かれる事が許せなかったのだろう。そういう面子にこだわる相手ばかりだったのだ。

だが目の前の銀髪の女戦士はどうだ?
戦争をしかけた難い帝国軍人を前にしても、己の感情を押し止めて、冷静に勝負に徹している。
それに対して、自分が感情に振り回されてしまっては、この女戦士に勝つ事はできない。


「・・・帝国軍、ハビエルチームの黒魔法使い、アレリー・レイエス。あんたはここで、あたしがぶち殺してやるから」


この時アレリーは初めて目の前の相手、ルーシー・アフマダリエフを意識した。

冷えた頭で倒すべき相手を認めると、両手に漲らせた魔力もより一層力強くなり、一段上の圧をルーシーにぶつけた。これは感情が落ち着いた事により、体内の魔力の循環が円滑になったためである。
アレリーは元々実力はあるのだ。感情をコントロールできさえすれば、その魔力は黒魔法兵団の幹部として並び立つ。



・・・こいつ、急に落ち着きを取り戻したと思ったら、肌に感じる圧が一気に強くなった。
目も真っすぐに私を見ているし、隙が無い。こりゃあ手ごわいな・・・・・


「・・・けど、やるしかないからね」

ビシビシとアレリーの魔力が肌を打ってくるが、ルーシーは視線鋭くアレリーを睨み、一歩前に足を踏み出した。

この一歩はルーシーが、アレリーを射程内に治めた事を告げる一歩だった。

当然アレリーも、自分がルーシーの攻撃圏内に入った事を一瞬で把握した。


このまま行くか・・・
向かって来るか・・・


二人の間に張りつめた空気が流れる。


ルーシーもアレリーも感覚で分かった。決着はほんの一瞬だろうと・・・


どちらが勝つか、それは・・・・・


緊張状態を破ったのはルーシーだった。
大地を強く蹴って飛び出すと、アレリーの首に狙いを付けて、水の鞭を振り抜いた!
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