上 下
1,167 / 1,253

1156 真下に向けた親指

しおりを挟む
「・・・チッ、ハァァァァァーーーーーーッ!」

空高く上がった魔食い鳥を目で追っていたディリアンは、その鳥の背から突如、雨あられの如く降り注がれた破壊の光弾を目にしても、動揺する事は無かった。

面倒そうに舌を打つが、落ち着いた動作で両手を空に向けて掲げると、自分とルーシーを包み込む青く輝く結界を展開させた。

そして結界を張り終えた次の瞬間、破壊の光弾が次々と結界を打ちつけてきた。

爆音が鳴り響き、結界が大きく揺さぶられる。
爆発による黒い煙がディリアンの結界の表側から立ち昇り、視界を覆い隠す程に充満していった。

「ッ、爆裂弾でこの威力かよ?あのピンク髪の女、イカレてるが実力はかなりのものだな」

結界を通してディリアンが感じているものは、初級魔法としての枠を超えるくらい強いアレリーの魔力だった。

結界に魔力を送る両手に、ビリビリとした衝撃が伝わってきて、気を抜くと結界の維持が解けそうになる。

「大丈夫か、ディリアン?」

激しく攻撃魔法をぶつられるディリアンに、ルーシーが心配したように声をかける。

「・・・耐えられない程ではねぇが、思ってたよりずっと強い。初級魔法の爆裂弾でこれだけ強いと、爆裂空破弾や光源爆裂弾はやばそうだ。上級魔法はそうそう使ってこないと思うが、早めにケリをつけた方がいい。打ち合わせ通りタイミングを見て行くぞ」


ルーシーに顔を向けられ、ディリアンは空を見上げたまま答えた。
その額には一筋の汗が流れていた。

フィゲロアに鍛えられたディリアンの魔力は、ロンズデールに行った時よりもはるかに大きく強くなっていた。このまま爆裂弾だけならば、しばらくは耐える事はできる。だが敵も馬鹿ではない。
爆裂弾ではラチがあかないと分かれば、中級魔法を使ってくるはずだ。

爆発の中級魔法、爆裂空破弾。

ピンク色の髪の黒魔法使いは、魔力だけを見るならおそらく帝国の幹部クラスだ。
そしてこのレベルの使い手が撃つ中級魔法は、上級魔法に匹敵する。

今の自分なら、おそらくこの女の爆裂空破弾も防げるはずだ。

だが上級魔法、光源爆裂弾はどうだろうか・・・・・


・・・・・俺に止められるのか?


胸中の不安を見て取ったのか、ルーシーはディリアンをじっと見つめた後、その背中バシンと叩いた。


「っ、痛ってぇな!何すんだよ!?」

「なにを臆している?体力型の私は魔力を読み取るのは苦手だが、見た感じお前の魔力は、あの女にも引けを取っていないと思うぞ。自信を持て、フィゲロアの弟子なんだろ?」

叩いた事に対するディリアンの抗議には耳を貸さず、ルーシーはディリアンの目をじっと見つめながら話した。


「・・・・・」

「あの鳥までかなりの高さだが、私とお前の力ならあの高さでもやれるはずだ。あの女も爆裂弾ではお前の結界を突破できないと判断すれば、中級魔法を使うだろう。その時に必ず攻撃が途切れる隙ができる。そこを突ければ私達の勝ちだ。いいか、この作戦はお前の能力が要なんだ。いけるよな?」


「・・・へっ、まるで俺がビビリみてぇに言うじゃねぇか?なめんなよ」

煽るようなルーシーの言葉に、ディリアンは口の端を持ち上げて笑った。
そして決意を固めて空を見上げたその表情には、さっきまでの迷いは消えて、代わりに力強い眼差しがあった。


「チャンスは一度きりだ、しっかり見極めろよ!」

「フッ、誰に言ってるつもりだ?お前こそ見誤るなよ」

ディリアンの顔つきが変わると、ルーシーは小さく笑い、右手に持つ水の鞭を振って鳴らした。
そして二人は空を旋回している魔力で作られた青い鳥を見据え、勝負の時を待った。





「むー、ラニー、これだけ撃ってるのに、まだ結界が壊れないよー」

ラニの魔力で形作られた魔力の鳥、魔食い鳥の背に立つアレリーは、すでに百を超える爆裂弾を地上に向けて撃っていた。狙いはクインズベリー軍の二人、ディリアンとルーシーである。
だが二人を護る結界は、アレリーの爆裂弾の集中砲火を浴びても壊れず残っていた。

その硬さはアレリーに、このまま何百発撃ったとしても、爆裂弾では破壊する事は不可能だろうと思わせた。


「あの白い髪の男、アレリーの爆裂弾をこれだけ喰らっても耐えるなんて、なかなか優秀な魔法使いなんだな。ここで殺すには惜しいな、クインズベリーでなければチームに誘いたいところだ」

魔食い鳥の背に立ちながら地上を見下ろしていたラニは、ディリアンの力を認めて感心したように話す。

「えー、ラニってああいうのがタイプなの?駄目だよ、ラニにはあたしがいるんだからね!」

「ん?いや、タイプとかそういうんじゃなくて、優秀なヤツは味方にしたいと思うじゃないか?それだけだぞ?」

「ふん!あたしのラニを誘惑する男なんて消えちゃえばいいんだ!爆裂弾が駄目ならこれでどうだ!」

アレリーは爆裂弾の連射を止めると、両手を広げて魔力を手の平に集中させ始めた。
バチバチと魔力の爆ぜる音が耳を打つ。そしてアレリーの放つ強烈な魔力に、ラニは吹き飛ばされないように目の前に結界を張る程だった。


「このクインズベリーのクズ共!あたしの爆裂空破弾を受けて・・・!?」


左右の手に集中させた魔力を破壊のエネルギーに変え、両手を合わせて地上の二人組に向ける。
そして爆発の中級魔法、爆裂空破弾を撃ち放とうとしたその時、アレリーの目に信じられないものが飛び込んで来た。


「ウォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」

クインズベリー軍の青魔法使いディリアン・ベナビデスが、地上数十メートルの高さを飛んでいる魔食い鳥と同じ高さまで飛び上がって来た!

「えッ、な、なんで・・・?」

・・・・・どうやってこの高さまで?

まさかこの高さまで飛び上がってくるなど夢にも思わなかったアレリーは、すぐにこの状況を呑み込む事ができず、体に指示を出して動かす事さえできなかった。

「もらったぁーーーーーッツ!

その結果ディリアンの五指から発せられた、青く輝く魔力のロープを躱す事ができず、その身を縛られ動きを封じられてしまった。

「し、しまっ・・・!」
「アレリーーーーーーーーッ!?」

意表を突かれ、すぐにフォローに入る事ができなかったラニが、アレリーに向かって手を伸ばす!
だが最初から全てを決めて動いていたディリアンが、一手早かった。

「墜ちろォォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」

全身を捻るように回して腕を引く。
その勢いに足を取られたアレリーは、踏み堪える事さえできずに、その身を魔食い鳥の上から地上へ投げ出された。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッツ!」

「へっ、そいつは任せたぜルーシー、俺は・・・」

青く輝く魔力の糸で体を縛られたアレリーが、もがきながら落下していく様を一瞥すると、ディリアンは背中に感じる刺すような視線の送り主に振り返った。


「・・・貴様・・・よくもアレリーを・・・・・」

ラニは怒りに歯を食いしばり、殺意の籠った目でディリアンを睨み付ける。

「てめぇと、このクソ鳥をぶっ倒す」

ラニからぶつけられるドス黒い殺意に対し、ディリアンは右手の親指を真下に向けて応えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...