異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
1,152 / 1,370

1151 見上げた空に浮かぶ物

しおりを挟む
「・・・見つけた!こいつらで間違いない!」

指定した人物、あるいは物を探す事のできる探索魔法サーチ。
師ウィッカーでさえ500メートルという探索範囲だが、ケイトは修行の末にウィッカーを大きく上回る1000メートルの探索を可能とした。この記録はクインズベリーの歴代で一位である。

「ふぅ・・・ギッリギリだわ、あと10メートルでも離れてたら見つけられなかった」

手の甲で額の汗を拭い、ケイトは深く息をついた。
汗を吸った前髪が額に貼り付くが、気に留める余裕はない。

探れると言っても、距離が離れれば離れる程に集中力を使う。
まして1000メートルともなれば、疲労の度合いはかなりのものだった。


「なぁお前、ケイトだったよな?今見つけたと言ったが、この攻撃を仕掛けて来た敵を見つけたのか?」

後ろからかけられた声に振り返ると、そこには立っていたのは銀色の髪の女だった。

肩の下まである長い銀色の髪をオールバックに撫でつけ、首元で結んで背中に流している。
目鼻立ちは整っているが、冷たい印象を与える青い瞳で、ケイトをじっと見つめていた。

「あ~・・・えっと、あんた四勇士のルーシー・アフマダリエフじゃん・・・うん、見つけたよ。あっち、あそこに少し高い丘があるでしょ?それであそこに二人組がいるんだけど、昨日のヤツらみたく、こっちに意識を向けているんだよね、多分遠隔操作かな、あの人形を操ってるんだ」

ケイトは聞かれた事に答えたが、その話し口はどこかぎこちないものだった。

無理もなかった。今は行動を共にする仲間という事になっているが、ルーシーには一度レイジェスを襲撃された事がある。
ルーシーから謝罪を受け、レイジェス側も納得して和解はしたが、すぐに笑顔で打ち解けられるというものでもない。今はお互いが距離感を探っているとこだった。

「・・・あの距離を測ったのか?すごいサーチだな。四勇士のライース・フィゲロアでも、あの距離は不可能だ」

「え?そ、そう?あはは、まぁ店長の教え方が上手なんだよね。」

自分の魔法を褒められて、ケイトが照れたように笑うと、ルーシーは、あの丘だな?、と確認するように呟いてスタスタと前に歩き出した。

「え!?ちょっ、ちょっと待って!なに!?あんた一人で行く気!?」

まさか一人で先に進むとは思っていなかったケイトは、慌ててルーシーの腕を掴んで引き止めた。

「・・・そのつもりだが?お前も一緒に行くか?だが魔法使いではこの距離は厳しいだろう?移動系の魔道具でももっているのか?」

「いや、そんなの無いし、スピードが要求されるから、アタシじゃ遅いし間に合わない。だから行ける人に頼むしかないけど、敵は二人だよ?そりゃあんたは強いけど、一人じゃ何があるか分からないでしょ?誰かに加勢してもらいなよ」

「そうは言っても、お前達レイジェスには、今あそこまで行けるヤツがいないんじゃないか?他に誰かいるか?」

レイチェル達が満足に動けない事は、情報の共有でルーシーも知っていた。

「え?いやいや、別に私らレイジェスじゃなくても・・・」

淡々と自分一人で先へ行くと話すルーシーだったが、ケイトの説得に足を止めて耳を傾ける。だがレイジェスのメンバーで、今ルーシーと共に行けそうな者はいなかった。

どうしたらいいかと、ルーシーが腕を組んで頭を捻ったその時、あきれたような声をかけられた。


「おいおい、ルーシー、お前も仲間意識ってのがねぇんだな?」

「ん?お前、フィゲロア・・・それと確か、公爵家のディリアンだったな?」

ルーシーの視線の先には映ったのは、クセの強そうな茶色い髪を後ろに縛り、少しこけた頬と細い目の、悪い方に賢そうな男ライース・フィゲロア。
そしてもう一人、軽く柔らかそうな白い髪の、中性的で綺麗な顔立ちの少年、ディリアン・ベナビデス。

「何の用だ?」

「はぁ~・・・開口一番にそれかよ?本当によ、お前もシャクールも、もう少し仲間ってのを意識しろよ?あの生意気なクアルトだって、最近はちょっと協調性が出て来たってのに」

フィゲロアは大きく溜息をつくと、嘆くように首を横に振った。

「おいおいフィゲロア師匠、ぼやいてねぇでよ・・・行くんだろ?」

ディリアンはフィゲロアにチラリと目を向けると、雪原の先に見える丘を指差した。

「ん、聞いてたのか?だがお前達は青魔法使いだろ?移動系の魔道具も持っていなかったはずだが、それならシャクールにでも来てもらった方がいいんじゃないか?」

「ああ、大丈夫大丈夫。お前の言う通り俺は無理だけど、こいつならついて行ける。な?」

ルーシーがフィゲロアとディリアンに交互に目を配ると、フィゲロアはディリアンの背中をぐいっと押して、ルーシーの前に行かせた。

「うぉっ!っと、おいコラ!いきなり押すなよ!」

躓(つまづ)きそうになったディリアンが、振り返ってフィゲロアを睨む。

「おいおいディリアン、前から言ってんだろ?お前は俺に対する口の利き方、つまり師匠に対する口の利き方が全然なってねぇって。ルーシー、こいつの魔道具なら移動も問題ねぇ。むしろお前より速いかもしれねぇぞ」

「え?そうなのか?・・・確かこいつの魔道具は、魔力をロープのように伸ばし・・・あ、なるほど、そうか」

ディリアンの魔道具がどういう物か、ルーシーも知っていたようだ。
自分で口に出して、フィゲロアの言いたい事を理解すると、得心がいったようで大きく頷いた。

「そうだ。こいつの魔道具なら、そこの林からあそこの丘までササっと行けちまうよ。な?そうだろ、ディリアン?」

フィゲロアはディリアンの反応を見て楽しんでいるのか、ニヤっと笑いながらディリアンに顔を向けた。


「・・・はぁ~・・・ったくよぉ、分かったよ。俺が行けばいいんだろ?フィゲロア師匠、あんた本当にろくでもねぇ性格してるよな」

「おいおい心外だなぁ。俺はこれでも四勇士で一番の常識人だぜ?」

「そう思ってんのはあんただけだ。はぁ~・・・しかたねぇ、行くか」

ディリアンは諦めたように息を吐いた。そしてスタスタと前に進み出ると十数メートル程先にある、一番手前の樹に右手を向けた。


「なぁ、ディリアン、本当に大丈夫か?」

ケイトが心配して後ろから声をかけると、ディリアンは顔半分だけ振り返って答えた。

「そこの弟子使いの荒い師匠のおかげで、俺も結構強くなってんだよ。面倒くせぇけどやる事はやるよ。心配すんな」

そして前に向き直ると、隣に立つルーシにチラリと視線を送った。


「遅れんなよ?」

「ほぅ、大した自信だな?誰に言ってるつもりだ?私に構わず遠慮なく行くがいい」

挑発するようなディリアンの言葉に、ルーシーは眉をぴくりと持ち上げて言葉を返したその瞬間、ディリアンの右手から青く輝く魔力が、十数メートル先の樹に向かって放出された。

それは一本の細く長いロープのように伸び、ぐるぐると樹に巻き付くと、今度は一気に縮んでディリアンの体を勢いよく引っ張り上げた。


「ほー・・・ずいぶん応用の利く能力だな。言うだけあるじゃないか」

樹から樹へと魔力のロープを繋いで飛び渡る。曲芸のようなディリアンの動きを見て、ルーシーは感心したように息をついた。

「だが雪の上なら私の水だって、こういう事ができるんだぞ」

そう呟いてニっと笑うと、ルーシーの足元から水が溢れ出し、それは急速に凍っていった。


「え、なにそれ!?まさかソリ!?」

ルーシーの足元に氷で形作られた物を見て、ケイトが驚きの声を上げた。

それは見た目は子供が雪遊びをする時に使うソリに近い、だが板はもっと薄く、少し反っているが平に近い。目算で長さはおよそ1.5メートル程度、それで両足も固定している。

「雪に一定量の水を混ぜるて操作すれば、こういう事もできる。ソリに似てるのはその通りだが、スピードは段違いだぞ」

そう言ってルーシーが重心を前に片向けると、ソリは前に滑り出し、そして一瞬で加速してケイト達の視界から遠く離れて行った。


「・・・うわぁ、すっごいなアレ。もう見えなくなった。ディリアンもあんな方法で飛んで行くなんて、普通の魔法使いには思いつかないよ」

あっという間に見えなくなっていったルーシーとディリアンに、ケイトは感嘆の声をもらした。

「氷のソリを水で滑らせて走らせるか・・・ルーシーのヤツ、あんな事もできたのか」

思いがけない方法で走って行ったルーシーに、フィゲロアも感心したようだ。
顎に手を当て、うんうんと頷いている。


「・・・さて、俺達は俺達の戦いをするとしようか?ケイトだっけ?お前、戦闘用の魔道具もってるか?」

フィゲロアは一息つくと、手にしている杖を地面に突き立て、空を見上げた。

「もちろん持ってるよ。それにしても、アタシが四勇士と肩を並べて戦うなんてねぇ・・・」

ケイトはフッと小さく笑うと、腰に手を当てて空を見上げた。


チラチラと雪の降る空に、ソレは浮かんでいた。

黒いドレスを着て、銀色の髪を風になびかせた美しい人形が、底無し沼のように黒い瞳で、ケイトとフィゲロアを見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

処理中です...