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1146 二人の少女

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暖かな陽の光が窓から差し込むカフェの一席で、二人の少女が向かい合って座っていた。
年齢は15~16歳くらいだろう。年頃の女の子がカフェで語り合う姿は、周囲でお茶をしながら談笑しているカップルや家族連れと、何も変わらず溶け込んで見える。


「ねぇラニ、あたしさぁ~、今日はイチゴのショートケーキとチョコケーキの気分なんだよね?どっちを食べればいいと思う?やっぱりショートケーキかな?ふんわり生クリームだって。それともチョコ?チョコはほんのりビターって書いてあるよ。ねぇどっちがいいかな?」

桃色のフワリとした髪をつまみながら、その少女はメニュー表を睨むように見つめていた。

白い暖かそうなボアコートに小さな体を包み、唇をへの字に曲げている。
よほど悩んでいるのか両足をバタバタさせると、ベージュの厚底ムートンブーツが、テーブルの足を蹴りつけた。
ガタンとテーブルが揺れると、向かいに座る水色の髪の女の子が、手に持つカップを慌てて両手で押さえつけた。

「ちょっ、あっぶな!カフェオレ零れそうになった!アレリー、足止めて!」

水色の髪の少女ラニは、カフェオレの入ったカップを両手で大事に押さえながら、目の前で足をバタつかせるアレリーを言葉鋭く注意した。

耳が出るくらいのショートヘア、紺色のフード付きのダッフルコートを着ている。
やや細い目でジロっとアレリーを睨みながら、湯気の立っているカフェオレを慎重に口に運んだ。

「あ、ごめんごめん!怒んないでよラニ、でもさイチゴのショートケーキとチョコケーキって、永遠のライバルでしょ?そんな二つをどっちも食べたい時ってなかなか決まらないよー」

メニュー表をテーブルに置くと、アレリーは両手をすり合わせてラニに謝った。

「はぁ~、それならどっちも注文すればいいじゃん?あんたがいつまでも悩んでるから、私はカフェオレ二杯目いきそうだよ」

「えー!でも二個も食べたら太っちゃうよぉー!・・・イチゴのショートケーキも美味しそうだし、チョコケーキも捨てがたい・・・う~ん、じゃあ間とってチーズケーキにしよ!店員さーん、濃厚チーズケーキ一つくださーい!」

「んぐっ!・・・げほっ、げほっ、ちょっ!アレリー!あんたショートケーキとチョコで悩んでたじゃん!なんでチーズケーキ!?」

手を挙げながら、可愛らしい笑顔で注文するアレリーに、ラニは吹き出しそうになったカフェオレを無理やり喉に流し込んだ。

「え?だって二個は食べられないもん。どっちからしか選べないなら、間をとってチーズケーキじゃない?」

ラニが何を言っているのか理解できないと言うように、アレリーは目をパチパチさせて小首をかしげた。

「・・・ショートケーキとチョコケーキの間が、なんでチーズケーキなのさ?」

「え?だってケーキと言えば、ショートケーキとチョコケーキとチーズケーキの三つが定番でしょ?二つの間をとったらチーズじゃない?」

「え?あ~・・・いやいや!そうはならないでしょ!?」

「そうなるんだよ。ラニ、これは常識だよ」

「ん?・・・うん!?」

アレリーなりの理屈を並べられ、ラニは分かったような分からないような、いまいち腑に落ちない顔でカフェオレのカップをテーブルに置いた。
テーブルに備え付けの紙ナプキンで口元を拭くと、腕を組んで正面に座るアレリーに顔を向ける。

これ以上ケーキについて考えるのはやめようと、頭を切り替えてラニは本題に入った。



「アレリー・・・分かってると思うけど、クインズベリーが進軍して今日で二日目だよ?初日はアダメスとサンティアゴが仕掛けたけど失敗。ブラックスフィアを使って一人も殺せなかったってさ。それで次はあたしらの番なんだからね?分かってる?」

「うんうん、分かってる分かってる。あ、来た来た!あ、こっちです。ありがとうございまーす!」

真剣な面持ちで話すラニだったが、チーズケーキが運ばれてくるとアレリーはそっちに気を移し、フォークとナイフを手にした。

「・・・アレリー、あんたねぇ・・・」

まったく話しを聞く姿勢を見せないアレリーに対して、ラニが拳を握り締めて怒りの表情を見せる。
だがアレリーはまったく気にも留めない。
ケーキを一口食べて、美味しい!と感動を言葉にすると、一口サイズに切ったケーキをフォークで刺して、ラニに差し向けた。

「ラニ、これ本当に美味しいよ!濃厚チーズケーキに偽りなし!はい、おすそわけ」

「え?いや、私は別に・・・」

「いいからいいから、甘いもの食べるとね、幸せな気持ちになるんだよ?はい、あーん」

「え、いや、だから私は・・・」

「あーん!」

「あ・・・あーん」

強引に口にチーズケーキを放り込まれる。
最初は眉間にシワの寄っていたラニだったが、モグモグと口を動かすと、あ、美味しい!と小さく呟いた。

「でしょ!?やっぱりチーズケーキにして正解だったよー!」

「う・・・むむ、悔しいけど美味しい・・・って、違うでしょ!私の言いたい事は・・・」


「うん、大丈夫。ちゃんと分かってる。あたし達の帝国に進軍して来る、愚かなクインズベリーを消せばいいんだよね?」


アレリーの声が、突然低く冷たくなった。

たった今までケーキを食べながら、うっとりした表情で喜んでいたのに、今はそのパッチリとした瞳も鋭く細められ、殺意の炎までも浮かんで見える。


「・・・その通りだよ、アレリー。分かってるんならいいんだ。それ食べたら行くよ」

「うん!りょーかい!でも味わって食べるからもうちょっと待っててね?あ、飲み物頼み忘れた!ラニ、レモンティー追加していい?」

「・・・調子狂うなぁ~・・・なるべく早くしてよね?」

ラニは頬杖をつくと、目の前で幸せそうにチーズケーキを頬張りながら、レモンティーを追加注文するアレリーを見つめた。


マイペースで困らされる事の多いアレリーだが、その実力は確かだ。
そしてアレリーの能力は、これ以上ないくらい自分と相性が良い。

自分達に与えられた任務は、敵の殲滅ではなく削る事。倒す必要はない。

アダメスとサンティアゴは、功を焦って失敗したが、自分達は同じ轍は踏まない。
任務遂行は第一だが、命あっての物種だ。引き際は見誤らない。



「ふぅ~・・・美味しかった。お待たせ、ラニ。また来ようね」

レモンティーの最後の一口を飲み終えると、アレリーは満面の笑みで、ご馳走様と両手を合わせた。

「満足したようだね。しかしまた来ようっ言っても、果たしてその時この店が残っているかな?」

ラニは店内をぐるりと見回した。
ここはクインズベリー国の領土内にある町である。そして今は戦時中なのだから、ラニに言われるまでもなく、アレリーも十分に理解している。

「こんなに美味しいカフェなんだから、皇帝もきっとこの町は残してくれるんじゃない?あ、チーズケーキお土産に持って帰るとかどう?そうすれば皇帝も感動してこのカフェを残してくれたり・・・」

「しない!絶対しない!まったく、あんたと話してると疲れるわ・・・ほら、もう行くよ。店員さーん、お会計ここに置いてきますねー!」

呆れたように首を横に振り、テーブルに代金を置いてラニは席を立った。

「あー、待ってよラニー!置いてかないでー!」

スタスタと店の外に歩いて行くラニを、慌ててアレリーが追いかけた。


後ろから追いかけて来るアレリーを待たずに店の外に出ると、ラニは空からしとしとと降って来る白い雪を手の平で受け止めた。


「・・・雪か、帝国にはまったく降らない・・・冷たいが、雪の積もった白い大地は美しいものだな・・」


戦争に勝てば、この美しい地が手に入る・・・・・


待ってなよ、クインズベリー。私とアレリーはアダメス達のようにはいかないよ。

・・・徹底的に叩いてやる!


帝国の第二の刺客、ラニとアレリーがクリンズベリー軍に迫る。
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