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1143 合流と回復
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「アラタ君、もう大丈夫?痛いところない?」
ヒールをかけ終えたカチュアが、心配そうな目でアラタの顔を見る。
倒れているアラタとアゲハを見つけた時は、心臓が跳ね上がるような衝撃を受けた。
あの爆発を防ぐために、二人はほぼ力を出し切った。しかし至近距離からの上級魔法以上の破壊の力は、防いでも防ぎきれるものではなかった。
さらに二人はレイチェルとリカルドをかばって前に出ていたため、爆発の余波を正面からまともに浴びてしまい、しばらく起き上がる事ができない程のダメージを受けた。
カチュアとユーリが二人にヒールをかけてしばらく休ませ、やっと体を起こせるくらいに回復したのだ。
「・・・うん、立って歩くくらいはできるかな。でも、2~3日はまともに戦えないと思う」
爆風でもへし折れなかった樹に背中を預けながら、アラタは拳を握って感覚を確かめた。
力が入らないわけではない。一人で立って歩く事もできる。だがブラックスフィアの爆発からみんなを護るために、光の力を一気に使い過ぎた。回復には相当の時間がかかる。
「・・・アゲハはどうだ?」
アラタが話しを向けると、先にヒールをかけてもらったアゲハは、腕を組んで考えるように空を見上げながら言葉を返した。
「・・・私の風は精霊の力だけど、私自身も負担が無いってわけじゃないんだよね。精霊との意思の疎通ってけっこう神経使うから、無理すると頭は痛くなるんだよ。それに自分の体を通して精霊の力を使うわけだから、やっぱり体力は使うんだよね。それでもアラタよりはマシかな・・・この感じなら、明日にはほぼ回復してると思う」
「アゲハさんも本当に大変でしたね。無事で良かったです」
カチュアが顔を向けて、ほっとしたように笑顔を見せる。
「ありがと。でもまぁ結果的には全員無事だったけど、私の風だけじゃ無理だったと思う。私の風をアラタが光で覆ってやっとだったからね。思い出したんだけど、あの黒い球・・・あれは多分、古代魔道具ブラックスフィアだ。特定の条件下でだが、無尽蔵に光線を撃つ事ができるらしい。だけど敵味方の区別が無いため使い難い。だから進んで使用する者は、なかなかいないって聞いた事がある」
「へぇ、古代魔道具?そんなものもあるのか、敵味方無くね・・・確かに集団戦では使えないと思うけど、今回みたいに敵軍が進行してるところを狙い撃ちにするには、これ以上ないってくらい凄まじかったな・・・」
初めて聞く名称にアラタは興味を持ったように息をついた。
そしてブラックスフィアの光線と自爆の破壊力を思い出し、その危険性をあらためて感じていた。
「その通りだ。ブラックスフィアを最大限に生かせるのは、今回のような状況だ。一人も死者を出さずに乗り切れた事は、クインズベリー軍の状況判断と対応力の高さだな」
「だが、無傷ではない」
アゲハがクインズベリー軍の、能力の高さを評価したところで、ふいに割って入る声があった。
「あ、レイチェル!気が付いたのか?」
耳に届いた声にアゲハが顔を向けると、左脇腹を押さえながらレイチェルが上半身を起こしていた。
リカルドに抱きかかえられて合流したレイチェルだったが、その間ずっと意識を失っていた。
左脇腹はベッタリとした真っ赤な血で汚れており、顔色も血の気を失っていた。
それを見てカチュアもユーリも、一瞬最悪の事態を想像してしまった。
だがリカルドから、レイチェルは土の精霊の力で一命をとりとめている事を伝え聞き、安堵の息をついたのだった。
「・・・ああ、おかげ様でなんとかな。ユーリ、もう大丈夫だ。ありがとう」
隣に腰を下ろし体を支えるように手を当てていたユーリだが、レイチェルの顔色を見て納得したのか、小さく頷いて背中から手を離した。
「おいレイチェル、あんま無理すんじゃねぇぞ。土の精霊が傷を塞いでくれたって言ってもよ、流した血までは戻ってねぇはずだ。けっこう深く刺されたんだろ?2~3日は寝てろよな?」
リカルドはユーリの隣であぐらをかきながら、レイチェルをジロっと睨み、言い聞かせるように右手の人差し指をビシっと突き付けた。
合流した時のリカルドは疲労困憊で話すのもやっとだったが、ユーリのヒールで今は回復している。
「・・・ああ、大丈夫だと言いたいところだが、実はあまり体に力が入らないんだ。痛みはもうないが、やはり貧血なんだろう。すまないが何日か休ませてもらうよ、今無理をしても足を引っ張るだけだろうしね。国を出たばかりでこんな姿を見せてすまないな」
リカルドの指摘を素直に受け止め、申し訳なさそうに話すレイチェルに、リカルドはガシガシと頭をかいた。
「・・・あのよぉ、んなの謝る事じゃねぇだろ?レイチェルはよ、頑張り過ぎなんだよ。こういう時は兄ちゃんやジャレットにまかせて、遠慮なくゆっくり休めばいいんだよ。分かった?」
「おいリカルド、良い事言ってるみたいだけど、なんで自分の名前出さないんだよ?」
クイっと親指を向けてくるリカルドをアラタが睨みつけるが、リカルドは口笛を吹いて素知らぬ顔だ。
「フッ・・・相変わらず、キミ達は仲が良いな」
こんな時だと言うのに、いつもと変わらぬ調子のアラタとリカルドを見て、レイチェルは小さく微笑んだ。
ヒールをかけ終えたカチュアが、心配そうな目でアラタの顔を見る。
倒れているアラタとアゲハを見つけた時は、心臓が跳ね上がるような衝撃を受けた。
あの爆発を防ぐために、二人はほぼ力を出し切った。しかし至近距離からの上級魔法以上の破壊の力は、防いでも防ぎきれるものではなかった。
さらに二人はレイチェルとリカルドをかばって前に出ていたため、爆発の余波を正面からまともに浴びてしまい、しばらく起き上がる事ができない程のダメージを受けた。
カチュアとユーリが二人にヒールをかけてしばらく休ませ、やっと体を起こせるくらいに回復したのだ。
「・・・うん、立って歩くくらいはできるかな。でも、2~3日はまともに戦えないと思う」
爆風でもへし折れなかった樹に背中を預けながら、アラタは拳を握って感覚を確かめた。
力が入らないわけではない。一人で立って歩く事もできる。だがブラックスフィアの爆発からみんなを護るために、光の力を一気に使い過ぎた。回復には相当の時間がかかる。
「・・・アゲハはどうだ?」
アラタが話しを向けると、先にヒールをかけてもらったアゲハは、腕を組んで考えるように空を見上げながら言葉を返した。
「・・・私の風は精霊の力だけど、私自身も負担が無いってわけじゃないんだよね。精霊との意思の疎通ってけっこう神経使うから、無理すると頭は痛くなるんだよ。それに自分の体を通して精霊の力を使うわけだから、やっぱり体力は使うんだよね。それでもアラタよりはマシかな・・・この感じなら、明日にはほぼ回復してると思う」
「アゲハさんも本当に大変でしたね。無事で良かったです」
カチュアが顔を向けて、ほっとしたように笑顔を見せる。
「ありがと。でもまぁ結果的には全員無事だったけど、私の風だけじゃ無理だったと思う。私の風をアラタが光で覆ってやっとだったからね。思い出したんだけど、あの黒い球・・・あれは多分、古代魔道具ブラックスフィアだ。特定の条件下でだが、無尽蔵に光線を撃つ事ができるらしい。だけど敵味方の区別が無いため使い難い。だから進んで使用する者は、なかなかいないって聞いた事がある」
「へぇ、古代魔道具?そんなものもあるのか、敵味方無くね・・・確かに集団戦では使えないと思うけど、今回みたいに敵軍が進行してるところを狙い撃ちにするには、これ以上ないってくらい凄まじかったな・・・」
初めて聞く名称にアラタは興味を持ったように息をついた。
そしてブラックスフィアの光線と自爆の破壊力を思い出し、その危険性をあらためて感じていた。
「その通りだ。ブラックスフィアを最大限に生かせるのは、今回のような状況だ。一人も死者を出さずに乗り切れた事は、クインズベリー軍の状況判断と対応力の高さだな」
「だが、無傷ではない」
アゲハがクインズベリー軍の、能力の高さを評価したところで、ふいに割って入る声があった。
「あ、レイチェル!気が付いたのか?」
耳に届いた声にアゲハが顔を向けると、左脇腹を押さえながらレイチェルが上半身を起こしていた。
リカルドに抱きかかえられて合流したレイチェルだったが、その間ずっと意識を失っていた。
左脇腹はベッタリとした真っ赤な血で汚れており、顔色も血の気を失っていた。
それを見てカチュアもユーリも、一瞬最悪の事態を想像してしまった。
だがリカルドから、レイチェルは土の精霊の力で一命をとりとめている事を伝え聞き、安堵の息をついたのだった。
「・・・ああ、おかげ様でなんとかな。ユーリ、もう大丈夫だ。ありがとう」
隣に腰を下ろし体を支えるように手を当てていたユーリだが、レイチェルの顔色を見て納得したのか、小さく頷いて背中から手を離した。
「おいレイチェル、あんま無理すんじゃねぇぞ。土の精霊が傷を塞いでくれたって言ってもよ、流した血までは戻ってねぇはずだ。けっこう深く刺されたんだろ?2~3日は寝てろよな?」
リカルドはユーリの隣であぐらをかきながら、レイチェルをジロっと睨み、言い聞かせるように右手の人差し指をビシっと突き付けた。
合流した時のリカルドは疲労困憊で話すのもやっとだったが、ユーリのヒールで今は回復している。
「・・・ああ、大丈夫だと言いたいところだが、実はあまり体に力が入らないんだ。痛みはもうないが、やはり貧血なんだろう。すまないが何日か休ませてもらうよ、今無理をしても足を引っ張るだけだろうしね。国を出たばかりでこんな姿を見せてすまないな」
リカルドの指摘を素直に受け止め、申し訳なさそうに話すレイチェルに、リカルドはガシガシと頭をかいた。
「・・・あのよぉ、んなの謝る事じゃねぇだろ?レイチェルはよ、頑張り過ぎなんだよ。こういう時は兄ちゃんやジャレットにまかせて、遠慮なくゆっくり休めばいいんだよ。分かった?」
「おいリカルド、良い事言ってるみたいだけど、なんで自分の名前出さないんだよ?」
クイっと親指を向けてくるリカルドをアラタが睨みつけるが、リカルドは口笛を吹いて素知らぬ顔だ。
「フッ・・・相変わらず、キミ達は仲が良いな」
こんな時だと言うのに、いつもと変わらぬ調子のアラタとリカルドを見て、レイチェルは小さく微笑んだ。
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