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1135 アラタとアゲハの役目
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「うぉッ!」
雪原の先で何かが強く光ったと思った次の瞬間には、目の前に光線が差し迫っていた。
間一髪体をひねって光線を躱し、再び顔を前に戻した時には、更に何発もの光線が撃ち放たれていた。
光線の一発一発はそう大きなものではない。せいぜい拳大くらいだ。
だから一発を躱す事に大きな動作は必要ないが、問題はその数とスピードだった。
「くそっ!これ、さっきの黒い球のと同じ光線じゃねぇのか!?どういう事だ!?」
特定の誰かを狙って撃ってきているわけではない。誰もいない場所にも光線はぶつけられ、完全に無差別に撃たれているようだった。
そして底の見えない無尽蔵のエネルギーで、光線は次から次へと撃ち込まれてくる。
頭、腹、足と様々な場所に襲い来る光線を、アラタは頭を振り、体を捻り、足を上げて躱していくが、躱す事に精一杯で完全に足を止められてしまっていた。
「んだよこの光線!なんで前から来んだよ!さっきまで後ろで軍隊を撃ってたはずだろ!」
アラタの数メートル程前方では、リカルドも迫り来る無数の光線に、回避に徹せざる得ない状況に追い込まれていた。だがリカルドはハンターとしての目の良さから、光線の軌道は見切っているようだった。
しかし辺り一面が雪原という足場の悪さのため、躱しながら前進をする事まではできないでいた。
これが土の上での話しならば、いかに速かろうと真っすぐ向かって来るだけの光線では、リカルドの足は止められなかっただろう。
そしてそれはレイチェルもアゲハも同じだった。
二人とも光線は見切っている。だがやはり足場の悪さのせいで、躱した後の次の動作に移るまで僅かに時間をとられ、それが枷となり前に進む事ができないでいた。それだけの数の光線が撃ち込まれているのだ。
「おいレイチェル!どうするよ!?これけっこう面倒くせぇぞ!」
苛立ったリカルドが、レイチェルに怒鳴るように声をぶつけると、レイチェルは頭を振って光線を躱しながら、突然笑い出した。
「・・・フッ、ハハハハハ・・・なるほど、私の読みとは少し違うが、結果的に私の判断は間違っていなかったようだ」
「あぁ!?おい、何いきなり笑ってんだよ!?イカレたのか!?」
困惑するリカルドを他所に、レイチェルはアラタとアゲハに向かって大声で呼びかけた。
「アラタ!アゲハ!さっき言った通りだ!二人の力でこの光線を防いでくれ!」
その言葉で二人は瞬時に理解した。
レイチェルはこの状況を予想していたのだ。だからアラタとアゲハの二人に、同行を求めた。
この光線を防ぎ、標的までの道を作るために!
「そういう事か、分かった!」
アラタの両の拳から強い光が溢れ出した。
そしてそれは向かって来る光線など、及びもつかない程の力強さだった。
「ウオォォォォォォーーーーーーーーッツ!」
真正面から向かって来る光線に合わせて、左足で一歩大きく前に踏み込む!そして腰を右に回しながら、大振りの左拳を光線にぶつけ、空高く弾き飛ばした!
「ハァァァァァァーーーーーッツ!」
アゲハは左手に薙刀を持ち構えると、右手を前に出して風の盾を作り出した。
風の盾は丸みを帯びており、光線がぶつかった瞬間にアゲハが少し角度をつけると、まるで抵抗も無く光線はスルリと後方に流されていった。
「ふん、この程度で私を殺れるだなんて思わない事だね」
アゲハは風の盾を前に出し、光線を受け流しながら前に進み出た。
「アゲハ、俺達が壁になって道を作るんだ!」
そしてアラタも拳で光線を弾き飛ばしながら、アゲハと並び立つように足を前に出し進めて行く。
「アラタ、気を抜くんじゃないよ!」
「おう!」
二人はレイチェルとリカルドの前に立つと、向かって来る光線を全て弾き、そして受け流しながら、一歩一歩足を前に出して押し進み始めた。
「おお、すげぇじゃん、やるな二人とも」
アラタとアゲハ、たった二人で無数に撃ち込まれてくる光線を防ぐ二人の姿に、リカルドは驚きと感心を言葉にした。
「リカルド、緊張を切らすな。簡単にやっているように見えるかもしれないが、アラタもアゲハも後ろの私達にとばっちりがいかないよう、相当な神経を使って防いでいる。それにアラタの光の力は時間制限がある。敵の姿を確認次第、私達で一気に制圧するぞ」
軽い調子で話すリカルドを戒めるように、レイチェルの言葉には重みがあった。
「う!わ、分かってるって。だからそんな睨むなよ、たくっ、おっかねぇな」
「・・・それならいいんだ。それとリカルド、キミにはもう一つ役目がある。いいか、私の推測ではこの光線は、さっき軍に攻撃をしかけたあの黒い球と同じ物だ。つまり同じ黒い球が二個あったという事だ。私はあの黒い球は、隊を出て球の使い手に向かって行った私達を、追いかけて来るかもしれないと考えていたんだ」
「・・・へぇ、さすがだな、あの短い時間でそんな事考えていたんかよ?」
「だが黒い球は追いかけて来なかった。私の読みは外れたが現実問題として今、前方から光線で撃たれている。このまま進めば、そろそろ黒い球とご対面になると思うんだ。それでリカルド、キミには黒い球をその矢で破壊してほしい」
「あ~、なるほどなるほど、そういう事ね。なんで軍隊側にミゼルとシルヴィアだけ残したのかなって、ちょっと思ってたんだわ。遠距離攻撃なら俺もいた方がいいはずだし。レイチェルはもし黒い球が追いかけてきたら、俺の矢で撃ち落とすつもりだったんだな?」
レイチェルが決断した事の全ての意味を理解し、リカルドは得心がいったように頷いた。
「その通りだ。それでリカルド、できるか?」
「あ?誰に言ってんの?余裕に決まってんじゃん」
レイチェルが確認するようにリカルドの目を見つめると、リカルドもレイチェルの視線を正面から受け止めて、自信満々に言ってのけた。
そしてそのまま四人が歩き進んで行くと、やがてこの光線の発生源である黒い球が目に映った。
雪原の先で何かが強く光ったと思った次の瞬間には、目の前に光線が差し迫っていた。
間一髪体をひねって光線を躱し、再び顔を前に戻した時には、更に何発もの光線が撃ち放たれていた。
光線の一発一発はそう大きなものではない。せいぜい拳大くらいだ。
だから一発を躱す事に大きな動作は必要ないが、問題はその数とスピードだった。
「くそっ!これ、さっきの黒い球のと同じ光線じゃねぇのか!?どういう事だ!?」
特定の誰かを狙って撃ってきているわけではない。誰もいない場所にも光線はぶつけられ、完全に無差別に撃たれているようだった。
そして底の見えない無尽蔵のエネルギーで、光線は次から次へと撃ち込まれてくる。
頭、腹、足と様々な場所に襲い来る光線を、アラタは頭を振り、体を捻り、足を上げて躱していくが、躱す事に精一杯で完全に足を止められてしまっていた。
「んだよこの光線!なんで前から来んだよ!さっきまで後ろで軍隊を撃ってたはずだろ!」
アラタの数メートル程前方では、リカルドも迫り来る無数の光線に、回避に徹せざる得ない状況に追い込まれていた。だがリカルドはハンターとしての目の良さから、光線の軌道は見切っているようだった。
しかし辺り一面が雪原という足場の悪さのため、躱しながら前進をする事まではできないでいた。
これが土の上での話しならば、いかに速かろうと真っすぐ向かって来るだけの光線では、リカルドの足は止められなかっただろう。
そしてそれはレイチェルもアゲハも同じだった。
二人とも光線は見切っている。だがやはり足場の悪さのせいで、躱した後の次の動作に移るまで僅かに時間をとられ、それが枷となり前に進む事ができないでいた。それだけの数の光線が撃ち込まれているのだ。
「おいレイチェル!どうするよ!?これけっこう面倒くせぇぞ!」
苛立ったリカルドが、レイチェルに怒鳴るように声をぶつけると、レイチェルは頭を振って光線を躱しながら、突然笑い出した。
「・・・フッ、ハハハハハ・・・なるほど、私の読みとは少し違うが、結果的に私の判断は間違っていなかったようだ」
「あぁ!?おい、何いきなり笑ってんだよ!?イカレたのか!?」
困惑するリカルドを他所に、レイチェルはアラタとアゲハに向かって大声で呼びかけた。
「アラタ!アゲハ!さっき言った通りだ!二人の力でこの光線を防いでくれ!」
その言葉で二人は瞬時に理解した。
レイチェルはこの状況を予想していたのだ。だからアラタとアゲハの二人に、同行を求めた。
この光線を防ぎ、標的までの道を作るために!
「そういう事か、分かった!」
アラタの両の拳から強い光が溢れ出した。
そしてそれは向かって来る光線など、及びもつかない程の力強さだった。
「ウオォォォォォォーーーーーーーーッツ!」
真正面から向かって来る光線に合わせて、左足で一歩大きく前に踏み込む!そして腰を右に回しながら、大振りの左拳を光線にぶつけ、空高く弾き飛ばした!
「ハァァァァァァーーーーーッツ!」
アゲハは左手に薙刀を持ち構えると、右手を前に出して風の盾を作り出した。
風の盾は丸みを帯びており、光線がぶつかった瞬間にアゲハが少し角度をつけると、まるで抵抗も無く光線はスルリと後方に流されていった。
「ふん、この程度で私を殺れるだなんて思わない事だね」
アゲハは風の盾を前に出し、光線を受け流しながら前に進み出た。
「アゲハ、俺達が壁になって道を作るんだ!」
そしてアラタも拳で光線を弾き飛ばしながら、アゲハと並び立つように足を前に出し進めて行く。
「アラタ、気を抜くんじゃないよ!」
「おう!」
二人はレイチェルとリカルドの前に立つと、向かって来る光線を全て弾き、そして受け流しながら、一歩一歩足を前に出して押し進み始めた。
「おお、すげぇじゃん、やるな二人とも」
アラタとアゲハ、たった二人で無数に撃ち込まれてくる光線を防ぐ二人の姿に、リカルドは驚きと感心を言葉にした。
「リカルド、緊張を切らすな。簡単にやっているように見えるかもしれないが、アラタもアゲハも後ろの私達にとばっちりがいかないよう、相当な神経を使って防いでいる。それにアラタの光の力は時間制限がある。敵の姿を確認次第、私達で一気に制圧するぞ」
軽い調子で話すリカルドを戒めるように、レイチェルの言葉には重みがあった。
「う!わ、分かってるって。だからそんな睨むなよ、たくっ、おっかねぇな」
「・・・それならいいんだ。それとリカルド、キミにはもう一つ役目がある。いいか、私の推測ではこの光線は、さっき軍に攻撃をしかけたあの黒い球と同じ物だ。つまり同じ黒い球が二個あったという事だ。私はあの黒い球は、隊を出て球の使い手に向かって行った私達を、追いかけて来るかもしれないと考えていたんだ」
「・・・へぇ、さすがだな、あの短い時間でそんな事考えていたんかよ?」
「だが黒い球は追いかけて来なかった。私の読みは外れたが現実問題として今、前方から光線で撃たれている。このまま進めば、そろそろ黒い球とご対面になると思うんだ。それでリカルド、キミには黒い球をその矢で破壊してほしい」
「あ~、なるほどなるほど、そういう事ね。なんで軍隊側にミゼルとシルヴィアだけ残したのかなって、ちょっと思ってたんだわ。遠距離攻撃なら俺もいた方がいいはずだし。レイチェルはもし黒い球が追いかけてきたら、俺の矢で撃ち落とすつもりだったんだな?」
レイチェルが決断した事の全ての意味を理解し、リカルドは得心がいったように頷いた。
「その通りだ。それでリカルド、できるか?」
「あ?誰に言ってんの?余裕に決まってんじゃん」
レイチェルが確認するようにリカルドの目を見つめると、リカルドもレイチェルの視線を正面から受け止めて、自信満々に言ってのけた。
そしてそのまま四人が歩き進んで行くと、やがてこの光線の発生源である黒い球が目に映った。
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