上 下
1,144 / 1,253

1133 標的までの距離

しおりを挟む
「ぐ、くそッ!なんだこれはッ!」
「かなりの威力があるぞ!青魔法兵は結界に集中して穴を空けるな!」

頭上から雨あられの如く撃ちこまれる光線に、クインズベリー軍の結界は強く激しく揺さぶられた。

魔力を放出する青魔法兵達も、ズシンと腕に響く衝撃に顔を歪ませる。
数万人が張り合わせた結界に対し、この攻撃がどれだけ強力で恐ろしいものかを、全員が一瞬にして理解した。




「おい、レイチー、こいつは帝国の攻撃だよな?」

クインズベリー軍に動揺が広がる中、ジャレット・キャンベルは左手を腰に当てながら、右手で空に浮かぶ黒い球体を指差した。

「ああ、そうとしか考えられんな。この光線、かなりの威力だが魔法ではなさそうだ。それと厄介な事に、いつになったら撃ち終わるのか全く見当がつかない。こうして待っていればいつか終わるだろうと、そんな安易な考えはできんな」

レイチェルも首を上げて、頭上で青く輝く結界が揺さぶられている事を見た。
光線は絶え間なく降り注ぎ、結界にぶつかると爆発を起こす。一発一発が軽視できない程の破壊力だった。


「ジーン、ケイト、大丈夫か?」

ミゼルが青魔法使いの二人に声をかけた。
ジーンとケイトは、レイジェスのメンバー達の頭上を囲うように、両手を上げて結界を張っていたからだ。

「ああ、けっこう響くけど大丈夫。このくらいならしばらくは持つよ」

ジーンは顔色を変える事もなく答えた。結界にぶつけられる光線は確かにかなりの威力である。
並の青魔法使いであれば、あっさり結界を破られていただろう。

だがウィッカーとの修行で力を上げた今のジーンとケイトは、易々と突破されるあまい結界を張る事はない。そして長時間結界を維持できる、魔力の上積みもあった。

「そうそう、心配する程じゃないよ。でも、私らはともかく軍の青魔法兵は厳しいかもね。この光線、中級魔法くらいの攻撃力はあるよ。しかもあの黒い球、さっきからずっと撃ち続けてる。レイチェルの言う通り、いつまで続くか分からない。だからさっさとあの黒い球をなんとかしなきゃだね」

ケイトも顔を上げて、空に浮かぶ黒い球を見た。
休む事なく撃ち続けてくる光線に、クインズベリー軍は完全に足を止めて防御に追われている。

軍の青魔法兵もまだしばらくは耐えられるだろうが、確実に魔力を削られている。
これが続けば、今後の進軍に大きく影響を与えるだろう。


「その通りだな、軍の方でも対処を急いでいるようだが、こういう時は俺ら独立部隊の方が身軽で動きやすいわな。て事で、ミッチーとシーちゃんであの黒い球を攻撃してくれ。残りの体力型でこれを仕掛けたヤツを倒しに行こうぜ」

ミゼルが親指を前方にクイっと向けると、レイチェルが右手を前に出して待ったをかけた。

「待て、ミゼルとシルヴィアで黒い球を攻撃するのは同意見だが、相手が何人いるか、どこから仕掛けているか分からない以上、体力型全員を出すと決めるのは早い。まずはサーチで調べてみよう、ケイト、頼む」

「了解、じゃあジーン、結界は頼むね」

「分かった。任せてくれ」

ジーンが両手から放出する魔力を増やし、結界の効果範囲を広げると、ケイトは両手を下ろして結界を解いた。そして目を閉じて両手の平を地面に向けると、足元から青く輝く魔力が放射状に広がっていった。


「わぁ、ケイトさんすごい!前より魔力の流れが滑らかで綺麗です」

「店長との修行の成果ね、結界からサーチへの魔法の切り替えもスムーズだわ」

カチュアが驚きと感心を言葉にすると、シルヴィアもまたケイトの魔力操作の上達に、うんうんと頷いて見せる。


「・・・・・いた、多分こいつらだ。前方800メートル先にいる二人組、他に人の気配は無い」

敵を捕らえたのか、ケイトは目を閉じたまま少しだけ眉根を寄せて、静かに、だがハッキリとした口調で話した。

「え?前方800メートルって・・・ケイト、あなた以前はサーチの範囲が500メートルって言ってたわよね?800って・・・今はどこまで分かるの?」

ケイトがサーチした距離を聞いて、シルヴィアが目をパチパチさせて聞き返した。

敵の情報を得た事に反応すべきなのだろうが、この800メートルという数字は、師ウィッカーのサーチ範囲を大きく上回っているものであり、系統は違えど同じ魔法使いとして、条件反射のように反応してしまったのだ。


「知りたい?じゃあ教えてあげよう、今のアタシのサーチは1000メートルだよ」


ケイトは目を開けると、トレードマークの黒のキャップの鍔を指で弾き、ニッと歯を見せて笑った、






「二人か・・・もっと大人数で待ち伏せていると思ったが、相当自信のある二人のようだな」

「レイチー、どうする?早めになんとかしねぇと、軍がやべぇぞ」

「・・・敵が体力型か魔法使いか分からないが、ミゼルとシルヴィアに黒い球の迎撃を任せる以上、やはり体力型が出るしかないな・・・アラタ、キミ、光の力を使えばあの光線を防げるか?」

突然の質問に、アラタはどういう意図なのか考えてしまった。それでもレイチェルが意味の無い質問をするはずがないと思い、空を見上げて黒い球が放つ光線をじっと見て答えた。

「・・・できると思う。けっこうスピードあるから、タイミングを合わせるのは慎重にならなきゃだけど、防げない程の攻撃力ではないかな」

「よし、アゲハ、キミはどうだ?風の力を使えば光線を防げるかい?」

「ん?・・・あぁ、そうだね。できなくはないかな。ただ、真正面から受けるのは厳しいかもしれない。風で軌道をずらして受け流すって感じかな」

アゲハもなぜそんな事を聞かれるのか気にはなった。だがアラタ同様、なにかあるのだろうと聞かれるままに答えると、レイチェルは迷いの無くなった目で、レイジェスのメンバーに顔を向けた。

「十分だ。じゃあこの黒い球を使ってる敵には、私とアラタとアゲハとリカルド、この四人であたる。ジャレットは残ってレイジェスを指揮してくれ。頼んだぞ」

「久しぶりに俺も暴れたかったんだけど・・・しかたねぇ、分かったよ。そうと決まったんなら早く行きな、軍とか他のとこには俺から説明しといてやるよ」

急遽、敵の討伐メンバーを発表したレイチェルだったが、ジャレットは異論をはさむ事なく了承した。

それは一重にレイチェルへの信頼である。
これまでウィッカーの代理として、店を護って来たレイチェル。
率先して戦場へ赴き、誰よりも前に出て戦ってきたレイチェル。

レイチェル・エリオットという一人の戦士への信頼が、ジャレットを頷かせた。

「アラやん、リカルード、アーちゃん、お前達も文句はねぇよな?行ってこい」


「はい!」

「ジャレット、お前後でマジぶっ殺す」

「はいよ、まかせといて」

真面目に返事をするアラタ。渾名で呼ばれて怒るリカルド。軽い調子で手を挙げるアゲハ。
三者三様の態度で返事をすると、レイチェルが号令をかけた。


「時間が惜しい。標的まで800メートルだ、見つけ次第制圧する。行くぞ!」


そう言うなり雪原を駆けだしたレイチェルの後を、アラタ、リカルド、アゲハの三人も追って走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...