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1133 標的までの距離

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「ぐ、くそッ!なんだこれはッ!」
「かなりの威力があるぞ!青魔法兵は結界に集中して穴を空けるな!」

頭上から雨あられの如く撃ちこまれる光線に、クインズベリー軍の結界は強く激しく揺さぶられた。

魔力を放出する青魔法兵達も、ズシンと腕に響く衝撃に顔を歪ませる。
数万人が張り合わせた結界に対し、この攻撃がどれだけ強力で恐ろしいものかを、全員が一瞬にして理解した。




「おい、レイチー、こいつは帝国の攻撃だよな?」

クインズベリー軍に動揺が広がる中、ジャレット・キャンベルは左手を腰に当てながら、右手で空に浮かぶ黒い球体を指差した。

「ああ、そうとしか考えられんな。この光線、かなりの威力だが魔法ではなさそうだ。それと厄介な事に、いつになったら撃ち終わるのか全く見当がつかない。こうして待っていればいつか終わるだろうと、そんな安易な考えはできんな」

レイチェルも首を上げて、頭上で青く輝く結界が揺さぶられている事を見た。
光線は絶え間なく降り注ぎ、結界にぶつかると爆発を起こす。一発一発が軽視できない程の破壊力だった。


「ジーン、ケイト、大丈夫か?」

ミゼルが青魔法使いの二人に声をかけた。
ジーンとケイトは、レイジェスのメンバー達の頭上を囲うように、両手を上げて結界を張っていたからだ。

「ああ、けっこう響くけど大丈夫。このくらいならしばらくは持つよ」

ジーンは顔色を変える事もなく答えた。結界にぶつけられる光線は確かにかなりの威力である。
並の青魔法使いであれば、あっさり結界を破られていただろう。

だがウィッカーとの修行で力を上げた今のジーンとケイトは、易々と突破されるあまい結界を張る事はない。そして長時間結界を維持できる、魔力の上積みもあった。

「そうそう、心配する程じゃないよ。でも、私らはともかく軍の青魔法兵は厳しいかもね。この光線、中級魔法くらいの攻撃力はあるよ。しかもあの黒い球、さっきからずっと撃ち続けてる。レイチェルの言う通り、いつまで続くか分からない。だからさっさとあの黒い球をなんとかしなきゃだね」

ケイトも顔を上げて、空に浮かぶ黒い球を見た。
休む事なく撃ち続けてくる光線に、クインズベリー軍は完全に足を止めて防御に追われている。

軍の青魔法兵もまだしばらくは耐えられるだろうが、確実に魔力を削られている。
これが続けば、今後の進軍に大きく影響を与えるだろう。


「その通りだな、軍の方でも対処を急いでいるようだが、こういう時は俺ら独立部隊の方が身軽で動きやすいわな。て事で、ミッチーとシーちゃんであの黒い球を攻撃してくれ。残りの体力型でこれを仕掛けたヤツを倒しに行こうぜ」

ミゼルが親指を前方にクイっと向けると、レイチェルが右手を前に出して待ったをかけた。

「待て、ミゼルとシルヴィアで黒い球を攻撃するのは同意見だが、相手が何人いるか、どこから仕掛けているか分からない以上、体力型全員を出すと決めるのは早い。まずはサーチで調べてみよう、ケイト、頼む」

「了解、じゃあジーン、結界は頼むね」

「分かった。任せてくれ」

ジーンが両手から放出する魔力を増やし、結界の効果範囲を広げると、ケイトは両手を下ろして結界を解いた。そして目を閉じて両手の平を地面に向けると、足元から青く輝く魔力が放射状に広がっていった。


「わぁ、ケイトさんすごい!前より魔力の流れが滑らかで綺麗です」

「店長との修行の成果ね、結界からサーチへの魔法の切り替えもスムーズだわ」

カチュアが驚きと感心を言葉にすると、シルヴィアもまたケイトの魔力操作の上達に、うんうんと頷いて見せる。


「・・・・・いた、多分こいつらだ。前方800メートル先にいる二人組、他に人の気配は無い」

敵を捕らえたのか、ケイトは目を閉じたまま少しだけ眉根を寄せて、静かに、だがハッキリとした口調で話した。

「え?前方800メートルって・・・ケイト、あなた以前はサーチの範囲が500メートルって言ってたわよね?800って・・・今はどこまで分かるの?」

ケイトがサーチした距離を聞いて、シルヴィアが目をパチパチさせて聞き返した。

敵の情報を得た事に反応すべきなのだろうが、この800メートルという数字は、師ウィッカーのサーチ範囲を大きく上回っているものであり、系統は違えど同じ魔法使いとして、条件反射のように反応してしまったのだ。


「知りたい?じゃあ教えてあげよう、今のアタシのサーチは1000メートルだよ」


ケイトは目を開けると、トレードマークの黒のキャップの鍔を指で弾き、ニッと歯を見せて笑った、






「二人か・・・もっと大人数で待ち伏せていると思ったが、相当自信のある二人のようだな」

「レイチー、どうする?早めになんとかしねぇと、軍がやべぇぞ」

「・・・敵が体力型か魔法使いか分からないが、ミゼルとシルヴィアに黒い球の迎撃を任せる以上、やはり体力型が出るしかないな・・・アラタ、キミ、光の力を使えばあの光線を防げるか?」

突然の質問に、アラタはどういう意図なのか考えてしまった。それでもレイチェルが意味の無い質問をするはずがないと思い、空を見上げて黒い球が放つ光線をじっと見て答えた。

「・・・できると思う。けっこうスピードあるから、タイミングを合わせるのは慎重にならなきゃだけど、防げない程の攻撃力ではないかな」

「よし、アゲハ、キミはどうだ?風の力を使えば光線を防げるかい?」

「ん?・・・あぁ、そうだね。できなくはないかな。ただ、真正面から受けるのは厳しいかもしれない。風で軌道をずらして受け流すって感じかな」

アゲハもなぜそんな事を聞かれるのか気にはなった。だがアラタ同様、なにかあるのだろうと聞かれるままに答えると、レイチェルは迷いの無くなった目で、レイジェスのメンバーに顔を向けた。

「十分だ。じゃあこの黒い球を使ってる敵には、私とアラタとアゲハとリカルド、この四人であたる。ジャレットは残ってレイジェスを指揮してくれ。頼んだぞ」

「久しぶりに俺も暴れたかったんだけど・・・しかたねぇ、分かったよ。そうと決まったんなら早く行きな、軍とか他のとこには俺から説明しといてやるよ」

急遽、敵の討伐メンバーを発表したレイチェルだったが、ジャレットは異論をはさむ事なく了承した。

それは一重にレイチェルへの信頼である。
これまでウィッカーの代理として、店を護って来たレイチェル。
率先して戦場へ赴き、誰よりも前に出て戦ってきたレイチェル。

レイチェル・エリオットという一人の戦士への信頼が、ジャレットを頷かせた。

「アラやん、リカルード、アーちゃん、お前達も文句はねぇよな?行ってこい」


「はい!」

「ジャレット、お前後でマジぶっ殺す」

「はいよ、まかせといて」

真面目に返事をするアラタ。渾名で呼ばれて怒るリカルド。軽い調子で手を挙げるアゲハ。
三者三様の態度で返事をすると、レイチェルが号令をかけた。


「時間が惜しい。標的まで800メートルだ、見つけ次第制圧する。行くぞ!」


そう言うなり雪原を駆けだしたレイチェルの後を、アラタ、リカルド、アゲハの三人も追って走り出した。
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