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1130 クインズベリー国民の見送り
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バーナード・ロブギンスを先頭にした行進は、町中から大歓声の元に迎えられた。
すでに首都から逃げ出している人も多いが、国を捨てる事ができずに残っている人達も大勢いる。
そんな彼らにとって、軍の大将と二人の王子が戦場に向かう姿を見せる事は、大きな力となった。
「なぁなぁ兄ちゃんよぉ!超うっせぇんだけど!?なんとかなんねぇのかよ!?帝国と戦う前に俺の鼓膜がピンチなんだけど!」
町の外へと続く中央通りを、軍隊の最後尾に付いて歩き進んでいると、両手で耳を押さえながらリカルドがアラタに苦情を言ってきた。
普通の声量で話しても周囲の歓声にかき消されるため、ほぼ怒鳴り声に近い。
「もう少しで外だから、それまで我慢しろよ!て言うかお前、両手で耳塞ぐなんて失礼だぞ!みんな応援してくれてんだから笑顔で手を振れよ!」
アラタも負けじと大きな声で返すが、リカルドは噛みつくようにもっと大きな声をぶつけて来る。
「んなの知らねぇよ!どうせこいつらみんな王子しか見てねぇじゃん!キャーキャー言いやがってよぉ!浮かれてんじゃねぇよ!俺らしばらく保存食しか食えねぇんだぞ!兄ちゃんはそれでいいのかよ!」
「王子様なんだから人気あって当然だろ!食事はみんな同じもん食うんだから我慢しろよ!て言うか、お前はいったい何に怒ってんだよ!?」
周囲の大歓声に文句を言っていたはずが、王子への声援の嫉妬に変わり、最後には食事への不満になった。
アラタが眉間にシワを寄せて怒鳴ると、顔が近かったのか耳を押さえていてもリカルドの鼓膜を強く刺激したようで、リカルドは思い切り顔をしかめた。
「うっせぇぇぇぇぇんだよ!近所迷惑だろ!夜勤の人はまだ寝てんだぞ!黙って歩けよ!」
「お、おまっ!この!お前が言い出したんだろ!」
「二人ともうるさい」
アラタとリカルドの前を歩いていたユーリが、くるりと振り返って、二人の脛を爪先で刺すように蹴りつけた。
「痛ッ!」
「ぐあッ!」
骨に響く痛みに二人が脛を押さえてうずくまると、ユーリは冷たい眼差しで二人を見下ろしながら警告を発した。
「次後ろで騒いだら抉るから。分かった?」
「は、はい」
「お、おう」
顔を青くして返事をするアラタ達をじっと睨みつけると、ユーリは黙って背中を向けて歩いて行った。
アラタとリカルドは、お前のせいで怒られたんだぞ!お互いにそう抗議する目で睨み合い、まだ痛む足を引きずるようにして歩き出した。
「アラタくーん!カチュアちゃーん!シルヴィアさーん!みんな絶対に帰って来てねー!」
大歓声の中を歩き続け、聞き覚えのある声に顔を向けると、そこにいたのは金色の髪をポニーテールにした花屋のパメラだった。人だかりの中、両手を振って精一杯の声を出している。
「あ、アラタ君!パメラさんだ!見送りに来てくれたんだよ!」
「うん、最近忙しくてあんまり花屋さんに行けてなかったのに・・・嬉しいな」
パメラはアラタが結婚の許可をもらいに、カチュアの実家に行く途中に寄った花屋の店員である。
パメラもレイジェスにはたまに来ていたようで、二人がレイジェスの店員だと分かると意気投合したのである。いつもシルヴィアにレジ打ちをしてもらっており、シルヴィアとは特に仲が良い。
「ふふ、本当に嬉しいわよね。すごく元気をもらったわ。帰って来たらパメラさんも誘ってみんなで食事に行きましょう」
アラタとカチュアが、ぜひ行きましょう、と答えると、シルヴィアも笑顔でパメラに手を振り返した。
「ユーリお姉ちゃーん!みんなー!」
もうすぐ町の出口というところで、一生懸命に手を振っている少女の姿が見えた。
エル・ラムナリンとその両親である。
「エル!・・・ここまで来たんだ」
朝、店の前で別れはすませたはずだ。けれどエルはお店でじっとしている事ができず、最後にもう一度会いに来たのだ。
驚くユーリに、となりを歩くケイトが声をかけた。
「ユーリ、ぼーっとしてないで、手を振ってあげなよ。エルちゃんあんたに会いたくて、ここで待ってたんだよ?」
「あ・・・うん」
ユーリは歩調を緩めると、人だかりの中、エルの目をまっすぐに見つめて手を振った。
「ユーリお姉ちゃん!絶対だよ!絶対帰って来てね!約束だよ!」
大好きなお姉ちゃんとまた一緒に仕事がしたい。
少女の願いはそれだけである。
「・・・うん!約束!エル、待ってて!」
ユーリも大好きな妹に誓った。自分は絶対に帰って来ると。
「・・・エルちゃんはユーリが本当に大好きなんだね」
やがてエルの前を通り過ぎて、その姿が小さくなり見えなくなると、ケイトはユーリにハンカチを渡して優しく声をかけた。
「ずず・・・ん、ありがと」
ケイトからハンカチを借りると、ユーリは鼻をすすって、目元から零れそうな涙を拭った。
「ユーリ、絶対に負けられないね」
「ん、帝国はアタシがぶっ飛ばす。皇帝の奥歯引っこ抜いて、脳天勝ち割ってやる」
「・・・ん?うん?な、なんて?」
慰めたら妙に具体的で怖い言葉が返ってきたので、ケイト目をパチパチさせて聞き返した。
すでに首都から逃げ出している人も多いが、国を捨てる事ができずに残っている人達も大勢いる。
そんな彼らにとって、軍の大将と二人の王子が戦場に向かう姿を見せる事は、大きな力となった。
「なぁなぁ兄ちゃんよぉ!超うっせぇんだけど!?なんとかなんねぇのかよ!?帝国と戦う前に俺の鼓膜がピンチなんだけど!」
町の外へと続く中央通りを、軍隊の最後尾に付いて歩き進んでいると、両手で耳を押さえながらリカルドがアラタに苦情を言ってきた。
普通の声量で話しても周囲の歓声にかき消されるため、ほぼ怒鳴り声に近い。
「もう少しで外だから、それまで我慢しろよ!て言うかお前、両手で耳塞ぐなんて失礼だぞ!みんな応援してくれてんだから笑顔で手を振れよ!」
アラタも負けじと大きな声で返すが、リカルドは噛みつくようにもっと大きな声をぶつけて来る。
「んなの知らねぇよ!どうせこいつらみんな王子しか見てねぇじゃん!キャーキャー言いやがってよぉ!浮かれてんじゃねぇよ!俺らしばらく保存食しか食えねぇんだぞ!兄ちゃんはそれでいいのかよ!」
「王子様なんだから人気あって当然だろ!食事はみんな同じもん食うんだから我慢しろよ!て言うか、お前はいったい何に怒ってんだよ!?」
周囲の大歓声に文句を言っていたはずが、王子への声援の嫉妬に変わり、最後には食事への不満になった。
アラタが眉間にシワを寄せて怒鳴ると、顔が近かったのか耳を押さえていてもリカルドの鼓膜を強く刺激したようで、リカルドは思い切り顔をしかめた。
「うっせぇぇぇぇぇんだよ!近所迷惑だろ!夜勤の人はまだ寝てんだぞ!黙って歩けよ!」
「お、おまっ!この!お前が言い出したんだろ!」
「二人ともうるさい」
アラタとリカルドの前を歩いていたユーリが、くるりと振り返って、二人の脛を爪先で刺すように蹴りつけた。
「痛ッ!」
「ぐあッ!」
骨に響く痛みに二人が脛を押さえてうずくまると、ユーリは冷たい眼差しで二人を見下ろしながら警告を発した。
「次後ろで騒いだら抉るから。分かった?」
「は、はい」
「お、おう」
顔を青くして返事をするアラタ達をじっと睨みつけると、ユーリは黙って背中を向けて歩いて行った。
アラタとリカルドは、お前のせいで怒られたんだぞ!お互いにそう抗議する目で睨み合い、まだ痛む足を引きずるようにして歩き出した。
「アラタくーん!カチュアちゃーん!シルヴィアさーん!みんな絶対に帰って来てねー!」
大歓声の中を歩き続け、聞き覚えのある声に顔を向けると、そこにいたのは金色の髪をポニーテールにした花屋のパメラだった。人だかりの中、両手を振って精一杯の声を出している。
「あ、アラタ君!パメラさんだ!見送りに来てくれたんだよ!」
「うん、最近忙しくてあんまり花屋さんに行けてなかったのに・・・嬉しいな」
パメラはアラタが結婚の許可をもらいに、カチュアの実家に行く途中に寄った花屋の店員である。
パメラもレイジェスにはたまに来ていたようで、二人がレイジェスの店員だと分かると意気投合したのである。いつもシルヴィアにレジ打ちをしてもらっており、シルヴィアとは特に仲が良い。
「ふふ、本当に嬉しいわよね。すごく元気をもらったわ。帰って来たらパメラさんも誘ってみんなで食事に行きましょう」
アラタとカチュアが、ぜひ行きましょう、と答えると、シルヴィアも笑顔でパメラに手を振り返した。
「ユーリお姉ちゃーん!みんなー!」
もうすぐ町の出口というところで、一生懸命に手を振っている少女の姿が見えた。
エル・ラムナリンとその両親である。
「エル!・・・ここまで来たんだ」
朝、店の前で別れはすませたはずだ。けれどエルはお店でじっとしている事ができず、最後にもう一度会いに来たのだ。
驚くユーリに、となりを歩くケイトが声をかけた。
「ユーリ、ぼーっとしてないで、手を振ってあげなよ。エルちゃんあんたに会いたくて、ここで待ってたんだよ?」
「あ・・・うん」
ユーリは歩調を緩めると、人だかりの中、エルの目をまっすぐに見つめて手を振った。
「ユーリお姉ちゃん!絶対だよ!絶対帰って来てね!約束だよ!」
大好きなお姉ちゃんとまた一緒に仕事がしたい。
少女の願いはそれだけである。
「・・・うん!約束!エル、待ってて!」
ユーリも大好きな妹に誓った。自分は絶対に帰って来ると。
「・・・エルちゃんはユーリが本当に大好きなんだね」
やがてエルの前を通り過ぎて、その姿が小さくなり見えなくなると、ケイトはユーリにハンカチを渡して優しく声をかけた。
「ずず・・・ん、ありがと」
ケイトからハンカチを借りると、ユーリは鼻をすすって、目元から零れそうな涙を拭った。
「ユーリ、絶対に負けられないね」
「ん、帝国はアタシがぶっ飛ばす。皇帝の奥歯引っこ抜いて、脳天勝ち割ってやる」
「・・・ん?うん?な、なんて?」
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