上 下
1,139 / 1,263

1128 クインズベリー国の軍団長

しおりを挟む
謁見の間を出て一階まで降りると、正門の前にはすでに庭を埋め尽くすほどの兵達が集まっていた。

「すげぇ数だな・・・何人いるんだ?」

数えきれない、いや数えようとさえ思わない数の兵を見て、アラタが誰に言うでもなく言葉を漏らすと、となりを歩いていたヴァンが言葉を拾って答えた。

「ここに集まっているのは一万人だ。クインズベリー軍の兵士は総勢で七万、そこに騎士団五千と治安部隊が二万、全部合わせても十万に届かないくらいだ」

「へぇ、ここに一万って事は、残りはどこにいるんだ?」

アラタが興味を持ったように質問をすると、ヴァンは歩きながら答えた。

「軍の残り六万のうち、五万は町を出た先の草原地帯で待機している。とてもここには入りきらないだろ?なんでここに一万いるかって言うと、町の人達に出陣を見せるためなんだ。クインズベリー国は帝国に屈せず戦うってとこを見せるためだな。そんで残りの一万は国に残って国の警備だ。さすがに全軍出しちまったら、国内が不安定になるからな」

「なるほどな・・・騎士団と治安部隊も同じで、草原で待機か?」

「そうだ。騎士団も千人程度を残してあとは出陣だ。治安部隊も一万五千人が参戦する。治安部隊に関しては、副隊長のカリウスが残ってまとめてくれるから心配はいらない。騎士団の方も、シルバー騎士の上位者が何人か残って指揮を執るそうだ」

「そうか、国内の治安維持のために少しは兵を残しておくにしても、戦力のほとんどは戦場に行く事になるんだな。しかし、クインズベリー軍と騎士団と治安部隊、これだけの大所帯を誰がどうやってまとめるんだ?王子もいるしさ」

「ああ、それなら心配はいらない。アンリエール様もおっしゃていただろ?王子の事は軍団長に任せてあるって」

そこまで話すとヴァンは足を止めて、あそこを見ろ、そう言って中庭に集まっている集団の、先頭に立つ男を指差した。

「あの人がクインズベリー国軍団長の、バーナード・ロブギンスさんだ」

「え?・・・あの人が?」

ヴァンの指し示す先に目を向け、アラタは眉根を寄せた。

年齢は60代半ばから70歳くらいだろうか。肉厚な鉄の鎧に身を包んでいるところを見ると体力型と思われるが、おそらく身長は170センチも無く、体力型としては小柄な部類に入る。

頭髪はほぼ白く染まっており、黒いものがほとんど無い。鼻の下から顎にかけても白い髭で覆われている。歳を重ねた分だけ顔中にシワが刻まれており、鎧を着てこの場に立っていなければ、とてもこの老人が七万の兵を束ねる軍団長とは思えなかった。

「その反応、まぁ分からなくはねぇけど、ロブギンスさんを見かけで判断すると痛い目見るぜ?」

ヴァンは軍団長を見たアラタが何を思ったのか、見透かしたように笑った。

「あ、いや・・・ごっつい大男を想像してたから、確かに驚いたのは本当だけど、見くびったりはしないよ。ああいう感じのお爺さんは、本当に強いってのは身を持って体験してるから」

アラタはロンズデールで戦った、魔道剣士のアロル・ヘイモンを思い出していた。
今、この目に映っている軍団長のバーナード・ロブギンスよりも、もっと小さいヘイモンに、アラタはギリギリまで追い込まれたのだ。人を見かけで判断してはいけないという事は、骨身に染みて理解している。


「・・・へぇ、お前もなかなかの経験してそうだな」

知らない間にアラタが精神的にも成長している事を感じ、ヴァンは感心したように頷いた。


「おい、二人とも口を閉じろ・・・軍団長が話すぞ」

二人の前に立っていたレイチェルが顔半分だけ振り返り、親指をロブギンスに向けた。

その指に釣られるように、アラタとヴァンがもう一度顔をロブギンスに向けると、ロブギンスは目の前に置かれた台の上に立ち、中庭に並ぶ兵士達の顔を見渡して、口を開き言葉を発した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...