1,128 / 1,370
1127 悲しい笑顔
しおりを挟む
「ほぉ、それはそれは・・・確かに王族が各地に顔を出して、民に声をかけて回れば感動する者も多いだろう。民を護るという国の意思も伝わり、ある程度の不安は払拭できるかもしれんな」
二人の王子を北と西の中間地点まで同行させるという女王の言葉に、シャクール・バルデスは顎に手を当てながら、感心したように二度三度と頷いた。
決戦の時は来た。だが少しでも民の心を救う事ができないかを考え、アンリエールは王子達の慰問を決めたのだ。
「・・・陛下、マルス様とオスカー様は、中間地点の軍事施設まででよろしいのですね?」
四勇士ルーシー・アフマダリエフが、視線の先に二人の王子を映しながら確認に入る。
「ええ、恥ずかしながら、マルスもオスカーも戦闘力ではあなた方に遠く及びません。戦場に出ても足を引っ張る事になるでしょう。中間地点までたどり着きましたら、そこを拠点に国内の安定、そして写しの鏡を使いロンズデールとの連携に力を尽くしてもらいます」
アンリエールがそこまで話すと、マルスとオスカーが一歩前に進み出た。
堂々と胸を張るマルスとは対照的に、オスカーは一は控えめな印象である。
「第一王子マルスだ。陛下のおっしゃる通り、俺とオスカーは戦う事はできない。だが今日までロンズデールの国王、並びに有力者と写しの鏡を通して会談を重ねてきた実績はある。兵達が後ろを気にせず戦えるように、ロンズデールと協力して、補給などの後方支援を徹底する事を約束する。だから力を貸してくれ」
「第二王子のオスカーです。皆さんばかりを戦いの場に立たせて、心苦しく思っております。 僕達も戦闘訓練を受けてはいますが、帝国の師団長クラスと戦う程の力はありません。そして王族という立場上、もし敵に捕まってしまえば致命傷になりかねません。ですから僕達は僕達にしかできない事で、戦いたいと思ってます。そのためにはみなさんのお力が必要なんです」
二人の王子の口から発せられた言葉も対照的であった。
自分が戦えない事を恥じとは考えず、王子として強く兵を引っ張っていく姿勢を見せるマルス。
戦いの場に立てない事を後ろめたく思い、臣下に対して頭を下げる事さえいとわない姿勢のオスカー。
将来の国王候補としては、おそらくマルスでほぼ決まりだろう。
この口上だけでも、オスカーが優しい性格だというのは分かる。だがおそらく、オスカーは優しすぎるのだ。民には慕われるだろうが、一国の王としては、つけ入る隙を与える事になりかねない。
王子二人が話し終えると、再びアンリエールが口を開いた。
「すでにクインズベリー軍が外で待機しております。マルスとオスカーの事は、軍団長に任せてありますので、皆さんが直接接する事はあまりないかもしれません。ですが万一の時は力をお借りする事になるでしょう」
「はっ!承知しました。我々も王子達に危害が及ばないよう、全力を尽くします」
ルーシーが胸に手を当て一礼をすると、アンリエールは、頼みましたよ、と一言返した。
そして一度目を閉じて小さく息を吐くと、強い決意に満ちた表情で、段上から最後の言葉を発した。
「勇敢なるクインズベリーの戦士達よ、今や帝国は夜の闇さえも意のままに操ろうとしています。帝国が闇を従えてしまえば、この大陸全土が掌握されてしまうでしょう。我々はこの世界に生きる人々を護るためにも、帝国を倒さなければなりません・・・全てはこの戦いにかかっているのです。そして皆さんならそれができると信じています。この国の未来をあなた方に託します!」
アンリエールの激昂を受けて、段下に並んだ戦士達は、皆一同に声を大にして返事をした。
いよいよ出立の時である。
レイジェスも、騎士団も治安部隊も、一人一人、それぞれがそれぞれの想いを胸に戦場へと向かう。
レイチェルは、ふと視線を感じて段上の端に顔を向けた。
「・・・店長」
優しい微笑みを称(たた)えながら、ウィッカーはレイチェルを見つめていた。
とても優しい笑みだった。
普通に見れば、親しい間柄での親愛の笑みに見える。
しかしレイチェルには・・・・・
ずっとウィッカーを見て来たレイチェルには、その優しい微笑みがとても悲しい笑顔に見えた。
そう、それはまるで・・・・・
「・・・・・店長、どうして、そんな・・・・・」
どうしてそんなに悲しい笑顔を私に見せるんですか?
・・・・・まるで、お別れみたいじゃないですか
二人の王子を北と西の中間地点まで同行させるという女王の言葉に、シャクール・バルデスは顎に手を当てながら、感心したように二度三度と頷いた。
決戦の時は来た。だが少しでも民の心を救う事ができないかを考え、アンリエールは王子達の慰問を決めたのだ。
「・・・陛下、マルス様とオスカー様は、中間地点の軍事施設まででよろしいのですね?」
四勇士ルーシー・アフマダリエフが、視線の先に二人の王子を映しながら確認に入る。
「ええ、恥ずかしながら、マルスもオスカーも戦闘力ではあなた方に遠く及びません。戦場に出ても足を引っ張る事になるでしょう。中間地点までたどり着きましたら、そこを拠点に国内の安定、そして写しの鏡を使いロンズデールとの連携に力を尽くしてもらいます」
アンリエールがそこまで話すと、マルスとオスカーが一歩前に進み出た。
堂々と胸を張るマルスとは対照的に、オスカーは一は控えめな印象である。
「第一王子マルスだ。陛下のおっしゃる通り、俺とオスカーは戦う事はできない。だが今日までロンズデールの国王、並びに有力者と写しの鏡を通して会談を重ねてきた実績はある。兵達が後ろを気にせず戦えるように、ロンズデールと協力して、補給などの後方支援を徹底する事を約束する。だから力を貸してくれ」
「第二王子のオスカーです。皆さんばかりを戦いの場に立たせて、心苦しく思っております。 僕達も戦闘訓練を受けてはいますが、帝国の師団長クラスと戦う程の力はありません。そして王族という立場上、もし敵に捕まってしまえば致命傷になりかねません。ですから僕達は僕達にしかできない事で、戦いたいと思ってます。そのためにはみなさんのお力が必要なんです」
二人の王子の口から発せられた言葉も対照的であった。
自分が戦えない事を恥じとは考えず、王子として強く兵を引っ張っていく姿勢を見せるマルス。
戦いの場に立てない事を後ろめたく思い、臣下に対して頭を下げる事さえいとわない姿勢のオスカー。
将来の国王候補としては、おそらくマルスでほぼ決まりだろう。
この口上だけでも、オスカーが優しい性格だというのは分かる。だがおそらく、オスカーは優しすぎるのだ。民には慕われるだろうが、一国の王としては、つけ入る隙を与える事になりかねない。
王子二人が話し終えると、再びアンリエールが口を開いた。
「すでにクインズベリー軍が外で待機しております。マルスとオスカーの事は、軍団長に任せてありますので、皆さんが直接接する事はあまりないかもしれません。ですが万一の時は力をお借りする事になるでしょう」
「はっ!承知しました。我々も王子達に危害が及ばないよう、全力を尽くします」
ルーシーが胸に手を当て一礼をすると、アンリエールは、頼みましたよ、と一言返した。
そして一度目を閉じて小さく息を吐くと、強い決意に満ちた表情で、段上から最後の言葉を発した。
「勇敢なるクインズベリーの戦士達よ、今や帝国は夜の闇さえも意のままに操ろうとしています。帝国が闇を従えてしまえば、この大陸全土が掌握されてしまうでしょう。我々はこの世界に生きる人々を護るためにも、帝国を倒さなければなりません・・・全てはこの戦いにかかっているのです。そして皆さんならそれができると信じています。この国の未来をあなた方に託します!」
アンリエールの激昂を受けて、段下に並んだ戦士達は、皆一同に声を大にして返事をした。
いよいよ出立の時である。
レイジェスも、騎士団も治安部隊も、一人一人、それぞれがそれぞれの想いを胸に戦場へと向かう。
レイチェルは、ふと視線を感じて段上の端に顔を向けた。
「・・・店長」
優しい微笑みを称(たた)えながら、ウィッカーはレイチェルを見つめていた。
とても優しい笑みだった。
普通に見れば、親しい間柄での親愛の笑みに見える。
しかしレイチェルには・・・・・
ずっとウィッカーを見て来たレイチェルには、その優しい微笑みがとても悲しい笑顔に見えた。
そう、それはまるで・・・・・
「・・・・・店長、どうして、そんな・・・・・」
どうしてそんなに悲しい笑顔を私に見せるんですか?
・・・・・まるで、お別れみたいじゃないですか
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる