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1123 メンバー分け ①

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謁見の間に入場したアラタ達は、赤い絨毯の上を歩き進み、女王アンリエールの玉座の前で片膝を着いて頭を下げた。

四勇士は全員が横一列に並び、レイジェスではレイチェルとジャレットを先頭にして、他のメンバーは後ろに並んだ。

「レイジェス、そして四勇士、よくぞ集まってくれました。顔を上げてください」

全員が揃った事を見て、段上に座するアンリエールが声をかけた。

「アンリエール様、レイジェス一同、ここに参りました」

「我ら四勇士もここに」

言葉に従い全員が顔を上げると、レイジェスを代表してレイチェルが口を開き、続くようにして四勇士のフィゲロアも声を発した。

アンリエールの両隣には、専属護衛で大剣使いのリーザ・アコスタ。そして双子の妹で青魔法使いのローザ・アコスタが立っている。二人の目はレイジェスに向けられており、厳格な場ではあるが表情が柔らかい。
それは二人とレイチェル達が同じ師を持つ事、そしてこれまでの戦いで、共に力を合わせて戦ってきた信頼から築いたものだった。

リーザ達から少し距離を開けて、段上の端の方には全体を見渡すようにして、レイジェス店長のウィッカー・バリオスが立っていた。
そしてそのウィッカーの隣には第一王子のマルス、第二王子のオスカー、そして第一王女のエリザベートも並んでいる

ウィッカーはレイチェルと目が合うと、目を細めて優しく笑いかけた。それだけでレイチェルの心は温かくなり、勇気と自信が湧いてくるようだった。


そして中央の赤い絨毯の両脇、レイチェル達から数メートル程の距離を取り、立ち並んでいる者達がいた。

右側には黄金の鎧に身を包んだ男達、ゴールド騎士のフェリックス、アルベルト、レイマートの三人の男達に加え、黒いローブ姿の白髪の女性、闇の巫女のルナの姿があった。

左側には、ダークブラウンのボディアーマーを身につけた三人の男が立っていた。
治安部隊隊長のヴァン、隊長補佐のフェンテス、そして意外な事にエルウィンがいた。


「・・・エルウィン?」

よもやここにいるなど想像すらしなかった人物を目にして、レイチェルの口から思わず声がもれた。

この場にいるのはクインズベリー国の、主力中の主力である。
帝国との戦争で勝敗を左右するのは、師団長とそれに並ぶ使い手達を、どう抑えられるかにかかっている。

両国の軍隊のぶつかり合いは、戦いの流れを作るだろう。
しかし、いかに万の軍勢であっても、たった一人の圧倒的な力の前に、戦況をひっくり返されてしまう事がある。
そしてそれを実現してしまうのが、帝国軍の師団長だった。

今日この場に集められた者達は、帝国軍の主力、師団長やその副官と一対一、個人で戦い勝利する可能性を持った者なのだ。

そんな場に、治安部隊の正規隊員になったばかりのエルウィンがいる。

エルウィンは確かに有望株である。
体長のヴァンから直接指導を受け、本人の才覚とたゆまぬ努力で成長も著しい。
将来の治安部隊を背負って立つ。それだけのモノを秘めている。

だが、今はまだ成長の途中である。

この場に立つには力不足であり、まして師団長はおろか、副官や三席であっても到底太刀打ちできるものではない。一人で戦うなど自殺行為でしかないのだ。

レイチェルがエルウィンを見て驚いたのは、無理からぬ事だった。


エルウィンもレイチェルの視線、そしてその戸惑いには気づいた。
だが目を逸らさずに、じっとレイチェルの黒い瞳を見つめた。

そう、自分の覚悟と決意を示すように・・・・・




それからアンリエールによる最後の打合せが行われた。

「今日まで何回と話し合ってきた事ですが、最後ですので、あらためて確認しましょう。我が国とロンズデールで帝国を四方から囲み、一斉攻撃をしかけます。そして我がクインズベリーが撃破しなければならない場所は、西の山脈パウンド・フォー、そして北の砂漠に流れるユナニマス大川です」

アンリエールの説明に、レイチェル達は口を挟む事なく黙って聞いていた
ここまでは、今日までの打合せで何度も聞いてきた話しである。

「アラルコン商会のシャノンさんが提供してくれた情報では、西のパウンド・フォーには帝国軍第二師団が配置されたとの事です。第二師団長の名はジャロン・リピネッツ、体力型です。このジャロン・リピネッツを筆頭に五万の兵が配置されました。そして二か月前に、帝国の蛇使いと大型の闇蛇を倒したと言っても、まだ数百匹の蛇がいると考えられます。そこで西へ向かう部隊ですが・・・」

アンリエールはそこで一度言葉を切ると、最初にゴールド騎士へと目を向けた。


「まず、騎士団第一部隊隊長アルベルト・ジョシュア。騎士団第二部隊隊長レイマート・ハイランド。パウンド・フォーに行き、闇蛇と戦った経験のあるあなた方が適任でしょう」

名前を呼ばれたアルベルトとレイマートは、女王アンリエールに体を向けると、胸に手を当てて一礼をする。

次にアンリエールはレイジェスに視線を移した。

「レイジェスからは、レイチェルエリオット。ミゼル・アルバラード。リカルド・ガルシア。ユーリ・ロサリオ。ケイト・ハワード。そして、アゲハ・シンジョウ」

アンリエールは、最後に名前を口にしたアゲハに視線を留めた。
アゲハもまた、自分をじっと見つめるアンリエールから目を逸らす事はせず、その視線を受け止めた。

「アゲハ・・・帝国にいたあなたは、この第二師団長ジャロン・リピネッツを知っていると話してくれました。そして西のパウンド・フォーの攻略は、これまであなたから聞いた話しを元に作戦を組み立てています」

自分に向けられるアンリエールの言葉を、アゲハは黙って聞いていた。

今日まで城で行われた作戦会議で、アゲハは自分が知りうる帝国の情報を全て話していた。
そして作戦の大部分にアゲハの情報が影響しているのだから、その責任は大きい。

今アンリエールが自分に語り掛けているのは、この作戦に大きな影響を与えているのだから、失敗は許されない。そういう話しなのだろう。
アゲハはアンリエールが、自分にプレッシャーをかけているのだろうと思って、話しを聞いていた。

だが、アンリエールの真意はそうではなかった。


「アゲハ、私はあなたを疑っているわけでも、圧力をかけたいわけでもありません。その逆です。私はあなたに、あまり気負わないでいただきたいのです」

「え?・・・陛下?」

予想外の言葉だった。自分を気にかけくれる優しい声色にアゲハが目を瞬かせると、アンリエールはアゲハを労わるように目を細めて、ゆっくりとその本意を話し始めた。


「アゲハ・・・私にはあなたが、まだ色々と引きずっているように見えるのです。作戦会議の時には、あなたが元帝国軍だった事に不信感を抱いている者もいましたね。口には出さずとも、そういう目で見られる事がこれまでもあったのでしょう。会議の時のあなたの姿勢を見れば分かります。あらぬ疑いを払拭しようと、一生懸命でしたね。それが私には、気を張り過ぎているように感じられました。ですから、出陣の前にこれだけはお話ししたかったのです。アゲハ、ここにいる全員があなたをクインズベリーの民として受け入れています。だからあなたには、クインズベリー国のアゲハ・シンジョウとして、今日ここを発ってほしいのです」


自分ではとっくにふっきれたつもりだった。

けれど、あまり気にしないようにしていても、視線はどうしても感じてしまうし、聞きたくない声も聞こえて来るものだった。

表立って言って来る者こそいなかったが、自分に向けられる感情というものは、好意でも敵意でも敏感に察知できるものだった。そしてアゲハは城に来るたびに、元帝国軍というだけで向けられる敵意に耐え続けていたのだ。


「・・・陛下、ありがとうございます・・・心が軽くなったように感じます」

戦争に出る前に、この言葉をかけてもらえて良かった・・・
アゲハの心に温かいものが広がり、これまで抱えていた重く暗いモヤが晴れるような気分だった。


「ええ、それなら良かったです」


謝意を表し一礼をするアゲハに、アンリエールも微笑みを携えて言葉を返した。
そして一つの区切りがつくと、話しは次の場面に移った。


「・・・では次に、北のユナニマス大川を攻略するメンバーです」
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