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1122 謁見の間へ

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「それで、今日ここに来たという事は、ディリアンも戦争に行くんだな?」

二階への階段を上がりながら、レイチェルは確認するように話しかけた。

「ん?ああ、もちろんそうだよ。兄貴には止められたけど、公爵家として誰も参戦しないわけにはいかないだろ?ロンズデールの功績で、領地運営も少しは良くなったけどまだまだだからな。この戦争でチャラになるくらいの手柄を立ててやろうと思ってね」


「ふ~ん・・・なぁ、本当にそれだけか?」

「え?・・・姐さん、それどういう意味?」

階段を上がりきって二階の広間に立つと、ディリアンは質問の意図が理解できないと言うように、首を傾げた。


「公爵家の再建のために戦う。なるほど、確かにそれも理由の一つなのだろう。だが他にもあるんじゃないのか?お前はひねくれた言動をするが、大切な人のためには命を懸ける熱いところがあるからな」

レイチェルはディリアンのとなりを歩きながら、意味ありげな視線を向けて小さく笑った。

「なっ!い、いや、姐さん、それは・・・」

「照れるな、こういう事は素直に話した方がいいぞ。言葉にする事で目的が明確になり、心構えが変わってくるんだ。で、どうなんだ?」


歩調を緩めて、じっと自分の目を見つめてくるレイチェルに、ディリアンは指先で頬を掻いてボソっと答えた。

「そ、そりゃあ、ジェシカの事は・・・俺が護らないとって思うよ」

「ふふ、そうか。いや、イジワルをして悪かった、つい本音を聞きたくなってな。ディリアン、護るべき人のためなら、人はどんなに辛くても頑張れるものだ。この戦い絶対に勝つぞ」


そう言ってレイチェルは、ディリアンの肩をポンと叩いた。






三階まで上がり、謁見の間までの通路を歩いていると、視線の先に三つの人影が見えた。

「あれ?あそこにいるのって・・・」

「フッ、暇人共(ひまじんども)が、雁首(がんくび)揃えているではないか」

アラタの言葉を引き取るようにして、シャクール・バルデスがニヤリとした笑いを見せた。

そして謁見の間の扉の前で、彼らと向かい合う。



「・・・シャクール、やっぱりこいつらと一緒に来たのか。本当に仲の良い事だな?」

年齢は二十代後半くらい、クセの強そうな茶色い髪を後ろで縛りっている。
痩せ気味で少し頬がこけているこの男は、青魔法使いの四勇士、ライース・フィゲロである。

足首までかかりそうな艶のある黒く長いマントに、白いシャツと茶色のベスト、黒い革のパンツを穿いている。

フィゲロアがシャクールに向けた言葉は、嫌みのようにも聞こえるが、単純な驚きも含まれていた。
なぜならマイペースで人付き合いの悪いこの男が、レイジェスのメンバーの結婚式に参列したり、今日のような大事な日に連れ立って歩いて来るなど、昨年までは想像すらできなかったからだ。


「まぁ、いい変化じゃないかフィゲロア。以前は塔にこもって外ばかり眺めていたシャクールに、こんなに友達ができたんだ。僕も以前は彼らを平民と見下していたが、今ならそれが如何に愚かだったか分かるよ」

フィゲロアをたしなめるように話し出したのは、少し長めの赤茶色の髪の男だった。
小顔で丸みのある目元には、あどけなさも見える。
白いパイピングをあしらったダークブラウンのローブを着ているこの男は、白魔法使いの四勇士、エステバン・クアルトである。

身分にうるさく平民を見下していたが、昨年ミゼルとケイトを相手に戦った事で、意識に変化が起きていた。今では身分に関係なく、能力のある者は認めるようになっていた。


「はぁ・・・なんにしても、やはりここで待っていて正解だったな。女王陛下から直々に四勇士全員が招集されたんだ。全員揃って入室した方がいいだろう」

最後に口を開いたのは、肩の下まである長い銀色の髪をオールバックに撫でつけ、首元で一本に結んでいる女だった。体力型の四勇士、ルーシー・アフマダリエフである。

白いマントに、白い鉄の胸当てや腕当てを装備している。
剣や槍などの武器らしいものは何一つ持っていないが、それはこの女戦士にとって、ただ作られただけの武器など、玩具でしかないからであった。

ルーシーとは二か月ぶりの再会だが、随分印象が変わっていてアラタ達は驚かされた。

最初にレイジェスで会った時には、鋭く青い瞳が冷たい印象を与えていたが、今は穏やかな声色と優し気な眼差しを、シャクールやレイジェスのメンバーに向けているのだ。


「おい、シャクール、お前を待ってたらしいぞ?そう言えば同じ四勇士なのに、なんで三対一で分かれて行動してんだよ?一緒に来ればよかったんじゃないか?」

全員揃ってという言葉に共感したアラタが、シャクールに問いかける。

「ふむ、私からすれば結果として全員揃えばそれでよいと思うのだがな。まぁ、こうしてここで待っていたという事だしな・・・よかろう、一緒に入場してやろうではないか」

だがシャクールは全く意に介さず、自論を展開させた。
感謝しろ、と言わんばかりのシャクールに、ルーシー達四勇士も、アラタも呆気にとられてしまった。


「アラタ、いい加減に理解しろって、こいつはこういうヤツなんだよ」

ポンとアラタの肩に手を置いて、ディリアンは首を横に振った。

ロンズデールにいた時、付きっきりで魔法の指導を受けていたディリアンは、他のメンバーよりシャクールの性格を理解していた。



「はぁ~・・・まぁいい、それでは全員揃った事だし入場しようか」

あまりにマイペースなシャクールに、ルーシーは溜息をつきつつ、謁見の間の扉に手をかけた。
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