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1113 ユーリとリカルドの修行
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鋭いステップインで、ユーリはウィッカーの懐に潜り込んだ。
小さな体だからこそのスピード、そして柔軟な身のこなしは、とても本職が白魔法使いとは思えない。
足首が埋まるくらいには雪が積もっているため、動きにも多少の影響はあるはずだが、それを感じさせない程である。
「シッ!」
狙いは的の大きな胴体、鳩尾に向かって真っすぐに右拳を突き出す!
「・・・・・」
タイミングは完璧だった。
だがユーリの拳は外側から加わった力によって、受け流されて空振りに終わってしまう。
ウィッカーが右手で横から押すようにして、拳の軌道を変えたのだが、最小限の動きと力で無効化して見せるそれは、まるで拳をすり抜けたのかと錯覚してしまう程だった。
上半身が泳ぎ、前のめりになったところを、ウィッカーがその首筋に向かって、勝負を決める左手刀を振り下ろそうとする。
「むっ!?」
だが左の手刀を振り下ろそうとしたところを、狙いすましたように鉄の矢がかすめていった。
皮一枚程度だがウィッカーの左手の甲が切られ、矢を躱すために腕を引いた時には、ユーリはすでに体勢を立て直していた。
「ヤァァァァァァーーーーーーーッツ!」
左拳を握り締め、ウィッカーの顎を目掛けて飛び上がる!
「・・・・・かすった」
左拳がかすめた感覚に、ユーリは目を見開いて呟いた。
ユーリのカエル飛びアッパーは、空を切ったかに見えた。
だがユーリの拳を躱したはずのウィッカーの左頬は微かに赤くなっており、僅かに血も滲んでいるように見える。
「・・・・・躱しきれなかった、か・・・」
ウィッカー自身も驚きを隠せなかった。
左頬に感じる微かな痛み。手を当てると指先に少量の血が付いた。
「店長・・・アタシのパンチ、初めて店長に届いた」
ユーリは目を何度もパチパチさせながら、普段より少し高いトーンでウィッカーに話しかけた。
驚き過ぎて表情の変化はあまりないが、内心は大興奮である。
「ああ・・・鋭くて良いパンチだった。まともにくらってたら、俺も倒されてたかもな。正直なところ、ここまで膂力のベルトを使いこなすとは思わなかった。すごいなユーリ、本当に成長したよ」
自分でヒールをかけて頬の傷を癒すと、ウィッカーはユーリの頭をポンポンと撫でた。
「ふふふ」
ユーリも頭を撫でられながら、嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっ!店長、コラッ!なにやってんだよッッツ!」
ウィッカーがユーリを褒めていると、怒声を上げながら、弓を担いだエメラルドグリーンの髪の少年が走って来た。
「リカルド、お前の弓も良かったぞ。土の精霊と意識を合わせる事で、目で見るより格段に精度が上がっている。危うく左腕を撃ち抜かれそうだったよ」
「はぁっ、はぁっ・・・いやいや、そうじゃねぇって!なにユーリの頭撫でてんだよ!?触ってんじゃねぇよ!」
ウィッカーはリカルドを見ると、今しがた自分に放った一射を褒めた。かすっただけだが、リカルドが自分に矢を当てたのは初めてだったからだ。
だがせっかく褒められても、リカルドの耳にはまるで届いていない。
リカルドは息を切らしながら、下から覗き込むようにウィッカーを睨みつける。
「リ、リカルド!店長はアタシを褒めてくれただけ!なに怒ってるの!?」
慌ててユーリが口を挟むが、リカルドは止まらない。
「女の頭なでるってセクハラじゃねぇかよ!俺はな、レイジェスはアットホームな職場だと思ってんだよ!親切な同僚!抜群のチームワーク!やる気だけあれば大丈夫が売りなはずだろ!?店長だろうがセクハラなんて許せるわけねぇだろ!」
「え?いや・・・・・リカルド、間違ってはいない、うん、間違ってはいないんだ。実際レイジェスはアットホームだし、チームワークもいい。仲間もみんな親切だよ。やる気があればどんな仕事だって教える。でもな、俺は求人を出す時にそれ、一文も記載してないからな?」
噛みつくように吼(ほ)えるリカルドに、ウィッカーも若干顔が引きつった。
そしてなだめるようにゆっくりと、一言一言丁寧に説明する。
「んだよソレ!逃げてるだけじゃねぇか!未経験者歓迎って言ってただろ!セクハラも歓迎なのかよ!?」
「いや、待て待て待て。やる気があれば未経験者でも雇うよ。うん、雇うよ。現にエルちゃんを雇ったよね?エルちゃんのお母さんも?それで俺セクハラしてないよな?リカルド、お前が何を言いたいのか、俺にはサッパリ分からん」
なおも納得しないリカルドがギャーギャー喚き、ウィッカーも困惑しながら一言一言丁寧に返す。
だがいつまで経ってもリカルドは口を閉じない。あまりのうるささに、ユーリは後ろからガシっとリカルドの肩を掴んだ。
「あぁっ!?んだよユーおぐぉッッッッッツ!」
ふり返ったリカルドの腹に、ユーリの右拳が突き刺さる。
呼吸が止まる程の衝撃に、リカルドは腹を押さえて倒れ伏した。
「リカルド、うるさい」
「ぐ、うぅ、げほっ!ユ、ユーリ・・・て、てめぇ、この、お、俺はお前の、ために・・・」
咳込みながらなんとか顔を上げて、自分を殴ったユーリを睨みつける。
「うるさい!なにがセクハラよ!店長はアタシを褒めてくれただけ!あんただって褒めてもらった!店長に言いがかりつけるなんて許さない!」
正しい事をしたと思っていただけに、ユーリに一喝されたリカルドは、ショックを受けたように項垂(うなだ)れて黙り込んだ。
ユーリもそれ以上言葉はかけず、ただじっとリカルドを見下ろしている。
言い過ぎたとは思っていない。ユーリにとってウィッカーは職場の上司というだけでなく恩人でもある。
恩人が言いがかりをつけられたとあっては、黙って見ているなどできない。
「・・・リカルド、ほら、立てるかい?」
少しの沈黙の後、ウィッカーは腰を屈めると、リカルドに向けて手を差し伸べた。
リカルドはチラリとその手を見ると、顔色を伺うようにウィッカーと目を合わせる。
「リカルド、俺は怒ってないよ。言ってる意味が分からなくて混乱はしたけどね。お前はこういう感情のままに行動するところが何とかなればいいんだけどな・・・でも、だからこそお前は真っすぐなんだろうな・・・」
無言のままリカルドがウィッカーの手を握ると、ウィッカーはリカルドをぐいっと引っ張り起こした。
「・・・・・俺は、悪くねぇ。店長がユーリにセクハラするから・・・」
「俺はリカルドを責める気はないよ。ただな、ユーリのために怒って、それでユーリを悲しませるのはお前も本意ではないんじゃないか?ユーリを想うんなら、ユーリとはちゃんと話すべきだ」
ウィッカーに促され、隣に立っているユーリに顔を向けると、ユーリは今まで見た事もないような、冷たい目でリカルドを睨みつけていた。それだけ本気で怒っているという事である。
「うっ・・・」
そのあまりの迫力に気圧されて、言葉に詰まったリカルドの背中を、ウィッカーがバシっと叩いた。
「リカルド、ちゃんと話せ」
「う・・・あ、あのよ・・・俺・・・・・その・・・・・」
ウィッカーに言われ、なんとか話そうと口を開くが、うまく言葉をまとめられずにモゴモゴとした言葉しか出て来ない。
するとじれったいと思ったのか、小さくため息をついてユーリが口を開いた。
「・・・なんで店長がアタシにセクハラしたと思ったの?」
「そ、そりゃ店長がお前の髪をなでるから!」
「・・・アタシの髪を店長がなでるから、嫉妬したって事?」
「し、嫉妬じゃねぇよ!俺は風紀を正そうとしただけだ!」
「・・・・・じゃあ、リカルドはこれから先もアタシの髪はなでないんだね?」
「・・・・・あ?」
まさかそんな事を聞かれるとは、露程にも思っていなかったリカルドは、言葉の意味を理解するまでに数秒の時間を要した。
「リカルドはこれから先も、アタシの髪はなでないんだね?」
リカルドがかろうじて一言だけ絞りだすと、それを合図にユーリは淡々と同じ言葉を繰り返した。
「・・・や、いや、ちょっ、ちょっ、待て!待て!なんでそうなんだよ?」
「リカルドは、これから先もずっとアタシの髪はなでないんだね?」
「いや、いやいやいやいやいや!おかしい!それはおかしいだろ!?なんでそうなんだよ!?」
「どうなの?ハッキリして」
一歩前に出て、ぐいっと顔を近づけるユーリ。その目は笑っていない。
ここでの答えが、これから先の二人の関係に大きな影響を及ぼす事は間違いない。
傍らで見ているウィッカーは、敏感にその空気を感じ取った。
リカルドも流石に気付いた。
ここでの返答を誤れば、おそらくユーリは線を引く。そしてその線はそう簡単に消す事はできない。
むしろ致命的になりかねない深い線である。
だがリカルドはプライドが高い。非常に高い。
そして男女差別ではないが、自分は男だからという意識も強い。
これまでさんざん好き勝手言ってきて、ここで素直になれるだろうか?
だが素直になれなければ、大切な物を失うかもしれない。
選ぶのは男としてのプライドか?それとも・・・・・
・・・・・風が吹き、ガサッっと音を立てて、樹の枝に積もった雪が落ちた。
「・・・・・な・・・なで、たい・・・・・」
「うん、いいよ。帰ったらね」
それからリカルドは、ひとしきりユーリに説教をくらう事になった。
その間一切口答えせず、黙ってしかられるリカルドを見て、ウィッカーは優し気に目を細めた。
リカルドはわがままだし手がかかる。けれどユーリがしっかり手綱を握っておけば大丈夫だろう。
膂力のベルトを使いこなし、近接戦闘もできる白魔法使いとして完成したユーリ。
土の精霊と心を通わせ、大自然を味方に弓を操る事ができるようになったリカルド。
「ユーリ、リカルド、よくここまで鍛えたな。お前達二人の修行も今日でお終いだ」
小さな体だからこそのスピード、そして柔軟な身のこなしは、とても本職が白魔法使いとは思えない。
足首が埋まるくらいには雪が積もっているため、動きにも多少の影響はあるはずだが、それを感じさせない程である。
「シッ!」
狙いは的の大きな胴体、鳩尾に向かって真っすぐに右拳を突き出す!
「・・・・・」
タイミングは完璧だった。
だがユーリの拳は外側から加わった力によって、受け流されて空振りに終わってしまう。
ウィッカーが右手で横から押すようにして、拳の軌道を変えたのだが、最小限の動きと力で無効化して見せるそれは、まるで拳をすり抜けたのかと錯覚してしまう程だった。
上半身が泳ぎ、前のめりになったところを、ウィッカーがその首筋に向かって、勝負を決める左手刀を振り下ろそうとする。
「むっ!?」
だが左の手刀を振り下ろそうとしたところを、狙いすましたように鉄の矢がかすめていった。
皮一枚程度だがウィッカーの左手の甲が切られ、矢を躱すために腕を引いた時には、ユーリはすでに体勢を立て直していた。
「ヤァァァァァァーーーーーーーッツ!」
左拳を握り締め、ウィッカーの顎を目掛けて飛び上がる!
「・・・・・かすった」
左拳がかすめた感覚に、ユーリは目を見開いて呟いた。
ユーリのカエル飛びアッパーは、空を切ったかに見えた。
だがユーリの拳を躱したはずのウィッカーの左頬は微かに赤くなっており、僅かに血も滲んでいるように見える。
「・・・・・躱しきれなかった、か・・・」
ウィッカー自身も驚きを隠せなかった。
左頬に感じる微かな痛み。手を当てると指先に少量の血が付いた。
「店長・・・アタシのパンチ、初めて店長に届いた」
ユーリは目を何度もパチパチさせながら、普段より少し高いトーンでウィッカーに話しかけた。
驚き過ぎて表情の変化はあまりないが、内心は大興奮である。
「ああ・・・鋭くて良いパンチだった。まともにくらってたら、俺も倒されてたかもな。正直なところ、ここまで膂力のベルトを使いこなすとは思わなかった。すごいなユーリ、本当に成長したよ」
自分でヒールをかけて頬の傷を癒すと、ウィッカーはユーリの頭をポンポンと撫でた。
「ふふふ」
ユーリも頭を撫でられながら、嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっ!店長、コラッ!なにやってんだよッッツ!」
ウィッカーがユーリを褒めていると、怒声を上げながら、弓を担いだエメラルドグリーンの髪の少年が走って来た。
「リカルド、お前の弓も良かったぞ。土の精霊と意識を合わせる事で、目で見るより格段に精度が上がっている。危うく左腕を撃ち抜かれそうだったよ」
「はぁっ、はぁっ・・・いやいや、そうじゃねぇって!なにユーリの頭撫でてんだよ!?触ってんじゃねぇよ!」
ウィッカーはリカルドを見ると、今しがた自分に放った一射を褒めた。かすっただけだが、リカルドが自分に矢を当てたのは初めてだったからだ。
だがせっかく褒められても、リカルドの耳にはまるで届いていない。
リカルドは息を切らしながら、下から覗き込むようにウィッカーを睨みつける。
「リ、リカルド!店長はアタシを褒めてくれただけ!なに怒ってるの!?」
慌ててユーリが口を挟むが、リカルドは止まらない。
「女の頭なでるってセクハラじゃねぇかよ!俺はな、レイジェスはアットホームな職場だと思ってんだよ!親切な同僚!抜群のチームワーク!やる気だけあれば大丈夫が売りなはずだろ!?店長だろうがセクハラなんて許せるわけねぇだろ!」
「え?いや・・・・・リカルド、間違ってはいない、うん、間違ってはいないんだ。実際レイジェスはアットホームだし、チームワークもいい。仲間もみんな親切だよ。やる気があればどんな仕事だって教える。でもな、俺は求人を出す時にそれ、一文も記載してないからな?」
噛みつくように吼(ほ)えるリカルドに、ウィッカーも若干顔が引きつった。
そしてなだめるようにゆっくりと、一言一言丁寧に説明する。
「んだよソレ!逃げてるだけじゃねぇか!未経験者歓迎って言ってただろ!セクハラも歓迎なのかよ!?」
「いや、待て待て待て。やる気があれば未経験者でも雇うよ。うん、雇うよ。現にエルちゃんを雇ったよね?エルちゃんのお母さんも?それで俺セクハラしてないよな?リカルド、お前が何を言いたいのか、俺にはサッパリ分からん」
なおも納得しないリカルドがギャーギャー喚き、ウィッカーも困惑しながら一言一言丁寧に返す。
だがいつまで経ってもリカルドは口を閉じない。あまりのうるささに、ユーリは後ろからガシっとリカルドの肩を掴んだ。
「あぁっ!?んだよユーおぐぉッッッッッツ!」
ふり返ったリカルドの腹に、ユーリの右拳が突き刺さる。
呼吸が止まる程の衝撃に、リカルドは腹を押さえて倒れ伏した。
「リカルド、うるさい」
「ぐ、うぅ、げほっ!ユ、ユーリ・・・て、てめぇ、この、お、俺はお前の、ために・・・」
咳込みながらなんとか顔を上げて、自分を殴ったユーリを睨みつける。
「うるさい!なにがセクハラよ!店長はアタシを褒めてくれただけ!あんただって褒めてもらった!店長に言いがかりつけるなんて許さない!」
正しい事をしたと思っていただけに、ユーリに一喝されたリカルドは、ショックを受けたように項垂(うなだ)れて黙り込んだ。
ユーリもそれ以上言葉はかけず、ただじっとリカルドを見下ろしている。
言い過ぎたとは思っていない。ユーリにとってウィッカーは職場の上司というだけでなく恩人でもある。
恩人が言いがかりをつけられたとあっては、黙って見ているなどできない。
「・・・リカルド、ほら、立てるかい?」
少しの沈黙の後、ウィッカーは腰を屈めると、リカルドに向けて手を差し伸べた。
リカルドはチラリとその手を見ると、顔色を伺うようにウィッカーと目を合わせる。
「リカルド、俺は怒ってないよ。言ってる意味が分からなくて混乱はしたけどね。お前はこういう感情のままに行動するところが何とかなればいいんだけどな・・・でも、だからこそお前は真っすぐなんだろうな・・・」
無言のままリカルドがウィッカーの手を握ると、ウィッカーはリカルドをぐいっと引っ張り起こした。
「・・・・・俺は、悪くねぇ。店長がユーリにセクハラするから・・・」
「俺はリカルドを責める気はないよ。ただな、ユーリのために怒って、それでユーリを悲しませるのはお前も本意ではないんじゃないか?ユーリを想うんなら、ユーリとはちゃんと話すべきだ」
ウィッカーに促され、隣に立っているユーリに顔を向けると、ユーリは今まで見た事もないような、冷たい目でリカルドを睨みつけていた。それだけ本気で怒っているという事である。
「うっ・・・」
そのあまりの迫力に気圧されて、言葉に詰まったリカルドの背中を、ウィッカーがバシっと叩いた。
「リカルド、ちゃんと話せ」
「う・・・あ、あのよ・・・俺・・・・・その・・・・・」
ウィッカーに言われ、なんとか話そうと口を開くが、うまく言葉をまとめられずにモゴモゴとした言葉しか出て来ない。
するとじれったいと思ったのか、小さくため息をついてユーリが口を開いた。
「・・・なんで店長がアタシにセクハラしたと思ったの?」
「そ、そりゃ店長がお前の髪をなでるから!」
「・・・アタシの髪を店長がなでるから、嫉妬したって事?」
「し、嫉妬じゃねぇよ!俺は風紀を正そうとしただけだ!」
「・・・・・じゃあ、リカルドはこれから先もアタシの髪はなでないんだね?」
「・・・・・あ?」
まさかそんな事を聞かれるとは、露程にも思っていなかったリカルドは、言葉の意味を理解するまでに数秒の時間を要した。
「リカルドはこれから先も、アタシの髪はなでないんだね?」
リカルドがかろうじて一言だけ絞りだすと、それを合図にユーリは淡々と同じ言葉を繰り返した。
「・・・や、いや、ちょっ、ちょっ、待て!待て!なんでそうなんだよ?」
「リカルドは、これから先もずっとアタシの髪はなでないんだね?」
「いや、いやいやいやいやいや!おかしい!それはおかしいだろ!?なんでそうなんだよ!?」
「どうなの?ハッキリして」
一歩前に出て、ぐいっと顔を近づけるユーリ。その目は笑っていない。
ここでの答えが、これから先の二人の関係に大きな影響を及ぼす事は間違いない。
傍らで見ているウィッカーは、敏感にその空気を感じ取った。
リカルドも流石に気付いた。
ここでの返答を誤れば、おそらくユーリは線を引く。そしてその線はそう簡単に消す事はできない。
むしろ致命的になりかねない深い線である。
だがリカルドはプライドが高い。非常に高い。
そして男女差別ではないが、自分は男だからという意識も強い。
これまでさんざん好き勝手言ってきて、ここで素直になれるだろうか?
だが素直になれなければ、大切な物を失うかもしれない。
選ぶのは男としてのプライドか?それとも・・・・・
・・・・・風が吹き、ガサッっと音を立てて、樹の枝に積もった雪が落ちた。
「・・・・・な・・・なで、たい・・・・・」
「うん、いいよ。帰ったらね」
それからリカルドは、ひとしきりユーリに説教をくらう事になった。
その間一切口答えせず、黙ってしかられるリカルドを見て、ウィッカーは優し気に目を細めた。
リカルドはわがままだし手がかかる。けれどユーリがしっかり手綱を握っておけば大丈夫だろう。
膂力のベルトを使いこなし、近接戦闘もできる白魔法使いとして完成したユーリ。
土の精霊と心を通わせ、大自然を味方に弓を操る事ができるようになったリカルド。
「ユーリ、リカルド、よくここまで鍛えたな。お前達二人の修行も今日でお終いだ」
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