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1111 ミゼルの修行
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「ハァッ!ゼェッ!ハァッ・・・はぁ・・・・・ 」
雪の積もる地面に両手をつき、ミゼルは大きく息を切らせていた。
「うん・・・今のはなかなか良かった。ようやくモノにできたんじゃないか、ミゼル」
豪雪地帯のクインズベリーは、一度雪が降ると翌日には何十センチもの雪が積もる。
当然外もかなり冷え込むのだが、その中で額に大粒の汗をにじませて、肩で息をして倒れ込んでいる。ミゼルの疲労はどれだけ大きいものだろうか。
目にかかりそうな前髪を払い、ウィッカーは自分の右手の平を見つめた。
・・・微かに震えている。
今しがたミゼルが自分に向けて撃ち放った魔法、それを相殺したのだが、僅かにダメージを受けていたのだ。
ウィッカーは顔半分だけを後ろに向けた。
自分の背後にだけ雪を残しているが、周辺の雪はその下の土ごと抉り取られ、破壊の跡は数十メートルは続いて見えた。
巻き起こされた風は白い雪を舞い上げながら辺り一面を旋風し、一度空に舞い上げられた砂や土も、ボタボタと地面に落ちて来る。そして何十本ものへし折られた樹々が、この魔法がどれだけ凄まじい破壊力を持っているのかを物語っていた。
ウィッカーが相殺したと言っても、余波だけでこの破壊力なのである。
いつもは店舗裏すぐの、開けた場所で訓練をしている。
だが今日に限って更に離れた森の奥、まず誰も近づかないような場所まで来たのは、この魔法を使用する事が理由だったのだ。
「はぁっ・・・ふぅっ・・・ほ、本当、ですか?」
いよいよ体力と魔力の限界だったミゼルは、後ろに手をついて、雪の上でもおかまいなしに腰を下ろした。
上半身を起こしているだけでもギリギリだった。
「ああ、この魔法は魔力の消費が非常に大きい。そして繊細な魔力操作も要求される。だからお前にこれを教えると決めてから、特に厳しくしごいたんだが・・・逃げずによく頑張ったな」
「・・・へへ、俺が店長に褒められる日が来るなんてな・・・でも、これ本当にすげぇ破壊力ですね。あの日、未完成のまま使わなくて良かったかもしれないな」
「・・・クインズベリーが襲撃された日の事か?確かデービスとか言う帝国の男に向けて、撃ちそうになったと言っていたな?」
それは数か月前、闇の巫女ルナがクインズベリーに来た日の事だ。
帝国の追手がクインズベリーに入り込み、ディーロ兄弟による精神攻撃で、一般人も暴徒と化して襲って来たのだ。騎士団や治安部隊も出撃したが、レイジェスのメンバーも鎮圧のために戦ったのだ。
そしてその時にミゼルを含む数人がかりで戦った男、帝国軍のデービスに、ミゼルはこの魔法を撃とうとしたのだ。
「はい・・・デービスって帝国の男と戦ったんですが、アゲハもやられてけっこう危なくなって、それでこの魔法しかないって思ったんです。でも撃たなくて良かったと思います。多分うまく制御できなくて、周りを巻き込んでたんじゃないかって、今は思うんで・・・」
「・・・確かに、数か月前のお前では、この魔法の制御は難しかっただろうな。発動させても狙いを合わせられず、町に被害をおよぼしていたかもしれない。そう考えると、撃たなくて正解だったかもしれないな・・・」
そこで言葉を切ると、ウィッカーはミゼルの前に腰を下ろし、ミゼルの目を正面から真っすぐに見る。そして念を押すように静かだが強い言葉で話し出した。
「ミゼル、もう一度言っておこう。この魔法は強過ぎるだけに非常に危険だ。味方さえ巻き込みかねない。できれば使うなと言いたいところだが、この戦争では必要になる場面が出てくるかもしれない。使いどころを見誤るなよ。ミゼル・・・お前は最後の最後で強い人間だ。お前なら間違えないと思ったから、この魔法を教えたんだ。そして今のお前ならこの魔法をしっかりと制御できるはずだ。自信を持て、信じてるぞ」
「・・・はい、分かりました」
いつになく真剣なウィッカーの目を見て、ミゼルはゴクリと唾を飲みこんで返事をする。
自分で使ってみたからこそよく分かる。ウィッカーの言う通り、この魔法は誇張でなく強過ぎるのだ。
だからこそ、周りをよく見て慎重に使わなくてはならない。
「・・・よし、これでお前の修行は完成だ。あとは決戦の日まで体をよく休めておけ」
ウィッカーはミゼルの手を掴んで立ち上がらせると、ポンと肩を叩いて背中を向けた。
レイジェスに戻って行くミゼルの後ろ姿を見送ると、ウィッカーは顔を上げて、空から降りしきる雪を見つめて一言だけ呟いた。
「・・・雪、か・・・・・」
今は遠いあの日々に、想いを馳せるように・・・・・
雪の積もる地面に両手をつき、ミゼルは大きく息を切らせていた。
「うん・・・今のはなかなか良かった。ようやくモノにできたんじゃないか、ミゼル」
豪雪地帯のクインズベリーは、一度雪が降ると翌日には何十センチもの雪が積もる。
当然外もかなり冷え込むのだが、その中で額に大粒の汗をにじませて、肩で息をして倒れ込んでいる。ミゼルの疲労はどれだけ大きいものだろうか。
目にかかりそうな前髪を払い、ウィッカーは自分の右手の平を見つめた。
・・・微かに震えている。
今しがたミゼルが自分に向けて撃ち放った魔法、それを相殺したのだが、僅かにダメージを受けていたのだ。
ウィッカーは顔半分だけを後ろに向けた。
自分の背後にだけ雪を残しているが、周辺の雪はその下の土ごと抉り取られ、破壊の跡は数十メートルは続いて見えた。
巻き起こされた風は白い雪を舞い上げながら辺り一面を旋風し、一度空に舞い上げられた砂や土も、ボタボタと地面に落ちて来る。そして何十本ものへし折られた樹々が、この魔法がどれだけ凄まじい破壊力を持っているのかを物語っていた。
ウィッカーが相殺したと言っても、余波だけでこの破壊力なのである。
いつもは店舗裏すぐの、開けた場所で訓練をしている。
だが今日に限って更に離れた森の奥、まず誰も近づかないような場所まで来たのは、この魔法を使用する事が理由だったのだ。
「はぁっ・・・ふぅっ・・・ほ、本当、ですか?」
いよいよ体力と魔力の限界だったミゼルは、後ろに手をついて、雪の上でもおかまいなしに腰を下ろした。
上半身を起こしているだけでもギリギリだった。
「ああ、この魔法は魔力の消費が非常に大きい。そして繊細な魔力操作も要求される。だからお前にこれを教えると決めてから、特に厳しくしごいたんだが・・・逃げずによく頑張ったな」
「・・・へへ、俺が店長に褒められる日が来るなんてな・・・でも、これ本当にすげぇ破壊力ですね。あの日、未完成のまま使わなくて良かったかもしれないな」
「・・・クインズベリーが襲撃された日の事か?確かデービスとか言う帝国の男に向けて、撃ちそうになったと言っていたな?」
それは数か月前、闇の巫女ルナがクインズベリーに来た日の事だ。
帝国の追手がクインズベリーに入り込み、ディーロ兄弟による精神攻撃で、一般人も暴徒と化して襲って来たのだ。騎士団や治安部隊も出撃したが、レイジェスのメンバーも鎮圧のために戦ったのだ。
そしてその時にミゼルを含む数人がかりで戦った男、帝国軍のデービスに、ミゼルはこの魔法を撃とうとしたのだ。
「はい・・・デービスって帝国の男と戦ったんですが、アゲハもやられてけっこう危なくなって、それでこの魔法しかないって思ったんです。でも撃たなくて良かったと思います。多分うまく制御できなくて、周りを巻き込んでたんじゃないかって、今は思うんで・・・」
「・・・確かに、数か月前のお前では、この魔法の制御は難しかっただろうな。発動させても狙いを合わせられず、町に被害をおよぼしていたかもしれない。そう考えると、撃たなくて正解だったかもしれないな・・・」
そこで言葉を切ると、ウィッカーはミゼルの前に腰を下ろし、ミゼルの目を正面から真っすぐに見る。そして念を押すように静かだが強い言葉で話し出した。
「ミゼル、もう一度言っておこう。この魔法は強過ぎるだけに非常に危険だ。味方さえ巻き込みかねない。できれば使うなと言いたいところだが、この戦争では必要になる場面が出てくるかもしれない。使いどころを見誤るなよ。ミゼル・・・お前は最後の最後で強い人間だ。お前なら間違えないと思ったから、この魔法を教えたんだ。そして今のお前ならこの魔法をしっかりと制御できるはずだ。自信を持て、信じてるぞ」
「・・・はい、分かりました」
いつになく真剣なウィッカーの目を見て、ミゼルはゴクリと唾を飲みこんで返事をする。
自分で使ってみたからこそよく分かる。ウィッカーの言う通り、この魔法は誇張でなく強過ぎるのだ。
だからこそ、周りをよく見て慎重に使わなくてはならない。
「・・・よし、これでお前の修行は完成だ。あとは決戦の日まで体をよく休めておけ」
ウィッカーはミゼルの手を掴んで立ち上がらせると、ポンと肩を叩いて背中を向けた。
レイジェスに戻って行くミゼルの後ろ姿を見送ると、ウィッカーは顔を上げて、空から降りしきる雪を見つめて一言だけ呟いた。
「・・・雪、か・・・・・」
今は遠いあの日々に、想いを馳せるように・・・・・
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