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「・・・っ・・・・・」
ルーシー・アフマダリエフの意識が戻り、薄っすらと目を開けた。
まだぼんやりとした頭では周りが見えず、すこしの間白い天井を見つめていると、ふいに自分に向けて誰かが声をかけてきた。
「あら、目が覚めたのかしら?」
「・・・お前、シルヴィア・・・うっ!」
自分が戦っていた相手が隣に座っている。状況は理解できないが、反射的に体を起こそうとすると頭が痛んだ。痛む頭を押さえながらシルヴィアに目を向けると、シルヴィアは視線を合わせてゆっくりと話し出した。
「ちょっと落ち着いてちょうだい。もう私達の戦いは終わったのよ、色々混乱してるでしょうけど、順を追って話すから」
シルヴィアは微笑みながら両手を顔の横で挙げて、戦う意志はないと示した。
その口調もルーシーを刺激しなように柔らかく落ち着いているものだった。
「・・・・・」
シルヴィアが話しかけても、ルーシーは何も言葉を返さなかった。
頭痛は和らいできたが、感情が強く表情に現れ、鋭く油断のない目がシルヴィアに向けられている。
シルヴィアも今の状況では、最初から好意的な反応など期待できない事は理解している。
問答無用で襲い掛かられる事だけが懸念だったが、どうやらそれは無さそうだ。とりあえずの聞く耳を持ってもらえるだけで十分だ。
だからルーシーから返事があろうがなかろうが、自分のペースで話し始めた。
「まず、ここはレイジェスの店舗内よ。あなたは私に氷漬けにされた後、自力で氷から脱出したけど、そこで力尽きて倒れたのよ。ここまで運んでくれたのはジャレットよ、あ、着替えさせたのは私やカチュア、女性だから安心して」
そう言われてルーシーは初めて、自分が薄水色のパジャマを着せられている事に気が付いた。
周囲を見回すと、下は板張りの床で、辺りにはアクセサリーの並んだガラスケースや、子供用の玩具が並んだ棚などがあった。
どうやら本当にリサイクルショップレイジェスの店内だと理解する。
そして自分はその店舗内で、布団に入って眠っていたという現実に、あらためて驚かされた。
「とにかく体が冷えていたから、まずは温めなければならなかったのよ。だからあなたの装備を外して、汚れた服も脱がせてから体も拭いたわ。あとは少し早いけど、閉まっておいたストーブを出して火をつけたの。今あなたが寝ている布団は、私達がここに泊まる時に使っている物よ」
ここまでの話しを聞いて、ルーシーがどう感じたのかは分からないが、やや眉根を寄せて何とも言えない複雑な顔を見せている。
自分が敗北して、敵に命を助けられた事を理解し、恥じを感じているのかもしれない。
「・・・なんで自分を助けたのかって疑問かしら?あなたが一族の名誉のために戦った事は分かったけど、本当にそれだけかしら?」
ここでシルヴィアの口調が鋭くなった。
ルーシーが何度も言葉にしている、一族の名誉の回復。それは嘘ではないのだろう。
だがルーシーが最後に見せたあの執念・・・頭のてっぺんから足の先まで全身を氷り漬けにされたのだ。意識もほとんど無かったはずだ。
だがルーシーは立ち上がり、命果ててでも戦おうとしたのだ。
あそこまでの執念を、一族の名誉のためというだけで出せるものなのだろうか?
直接戦ったシルヴィアは元より、レイジェスの他のメンバー達も、ルーシーがなぜあそこまでして戦ったのか、その理由を知りたがっていた。
「・・・私は一族の名誉のために戦った・・・それだけだ」
うつむきながらシルヴィアの問いに答えたルーシーを見て、シルヴィアは腰を上げた。
「・・・そう・・・まぁ、いいわ。ねぇあなた、さすがにもう戦う気はないでしょ?」
「・・・・・なんだ?」
ルーシーは目の前に差し出されたシルヴィアの手を見つめると、顔を上げてシルヴィアの青い瞳を見つめて問いかけた。
「もう6時よ、お腹すいたでしょ?夕食を用意してるから、食べに行きましょう」
「あ、シルヴィア、こっちに来たって事はもういいのか?」
事務所のドアを開けると、おにぎりを握っていたレイチェルが振り向いて声をかけた。
「ええ、もういいわ。それにしても今日・・・いつもにましてすごい量ね・・・」
クスリと笑って、シルヴィアは目の前に並んでいる大皿料理の数々に目を向けた。
店に泊ってみんなで食事をする時は、いつも大皿から取り分ける料理になるし、余裕をもって少しあまるくらいの量を作るのだが、今日はいつも以上のボリュームだった。
そして今日はシルヴィアが離れていたので、カチュアとケイトとレイチェルの三人で、調理を担当していたようだ。
「ああ、リカルドがちょっとな」
そう言ってレイチェルが顎を差し向けると、長テーブルの真ん中に座っている緑色の髪の弓使いが、唇をへの字に曲げて、憮然とした顔で腕を組んでいた。
「あら?・・・なんだか機嫌が悪そうね、どうしたのかしら?」
「ん~、どうもね、襲撃者の一発で気を失った事がアレらしいんだよ・・・」
握り終えたおにぎりを大皿に乗せて、困ったように笑う。
チラリとリカルドに目を向けるが、聞こえているのかレイチェルからプイっと顔を背ける。
「ああ・・・そう言えば、気を失ってたのよね?でも、ユーリーをかばって攻撃を受けたんでしょ?立派な事じゃない、胸を張っていいと思うけど」
「私もそう言ったんだが、どうも男としてのプライドが許さないらしい。ユーリ・・・と言うか、女の前で男が気を失った事が駄目なんだってさ」
レイチェルが肩をすくめると、シルヴィアはきょとんと目を丸くして、そしてクスクスと笑った。
「・・・フフ、リカルドってそういうところあるわよね。なるほど・・・それでこの量なのね?」
「ヤケですごい食べそうだからな・・・ところで、後ろの彼女は?」
レイチェルがシルヴィアの後ろに立っている、薄水色のパジャマを着ている銀髪の女に目を向けると、事務所にいる全員の視線が集まった。
自分に目が集まっている事を感じたルーシーは、シルヴィアの背中から前に進み出た。
「・・・もう戦うつもりはない。敵に助けられたとあってはな・・・これ以上恥をさらすつもりはない」
全員を見回した後、ルーシーは落ち着いた様子で口を開いた。
ルーシー・アフマダリエフの意識が戻り、薄っすらと目を開けた。
まだぼんやりとした頭では周りが見えず、すこしの間白い天井を見つめていると、ふいに自分に向けて誰かが声をかけてきた。
「あら、目が覚めたのかしら?」
「・・・お前、シルヴィア・・・うっ!」
自分が戦っていた相手が隣に座っている。状況は理解できないが、反射的に体を起こそうとすると頭が痛んだ。痛む頭を押さえながらシルヴィアに目を向けると、シルヴィアは視線を合わせてゆっくりと話し出した。
「ちょっと落ち着いてちょうだい。もう私達の戦いは終わったのよ、色々混乱してるでしょうけど、順を追って話すから」
シルヴィアは微笑みながら両手を顔の横で挙げて、戦う意志はないと示した。
その口調もルーシーを刺激しなように柔らかく落ち着いているものだった。
「・・・・・」
シルヴィアが話しかけても、ルーシーは何も言葉を返さなかった。
頭痛は和らいできたが、感情が強く表情に現れ、鋭く油断のない目がシルヴィアに向けられている。
シルヴィアも今の状況では、最初から好意的な反応など期待できない事は理解している。
問答無用で襲い掛かられる事だけが懸念だったが、どうやらそれは無さそうだ。とりあえずの聞く耳を持ってもらえるだけで十分だ。
だからルーシーから返事があろうがなかろうが、自分のペースで話し始めた。
「まず、ここはレイジェスの店舗内よ。あなたは私に氷漬けにされた後、自力で氷から脱出したけど、そこで力尽きて倒れたのよ。ここまで運んでくれたのはジャレットよ、あ、着替えさせたのは私やカチュア、女性だから安心して」
そう言われてルーシーは初めて、自分が薄水色のパジャマを着せられている事に気が付いた。
周囲を見回すと、下は板張りの床で、辺りにはアクセサリーの並んだガラスケースや、子供用の玩具が並んだ棚などがあった。
どうやら本当にリサイクルショップレイジェスの店内だと理解する。
そして自分はその店舗内で、布団に入って眠っていたという現実に、あらためて驚かされた。
「とにかく体が冷えていたから、まずは温めなければならなかったのよ。だからあなたの装備を外して、汚れた服も脱がせてから体も拭いたわ。あとは少し早いけど、閉まっておいたストーブを出して火をつけたの。今あなたが寝ている布団は、私達がここに泊まる時に使っている物よ」
ここまでの話しを聞いて、ルーシーがどう感じたのかは分からないが、やや眉根を寄せて何とも言えない複雑な顔を見せている。
自分が敗北して、敵に命を助けられた事を理解し、恥じを感じているのかもしれない。
「・・・なんで自分を助けたのかって疑問かしら?あなたが一族の名誉のために戦った事は分かったけど、本当にそれだけかしら?」
ここでシルヴィアの口調が鋭くなった。
ルーシーが何度も言葉にしている、一族の名誉の回復。それは嘘ではないのだろう。
だがルーシーが最後に見せたあの執念・・・頭のてっぺんから足の先まで全身を氷り漬けにされたのだ。意識もほとんど無かったはずだ。
だがルーシーは立ち上がり、命果ててでも戦おうとしたのだ。
あそこまでの執念を、一族の名誉のためというだけで出せるものなのだろうか?
直接戦ったシルヴィアは元より、レイジェスの他のメンバー達も、ルーシーがなぜあそこまでして戦ったのか、その理由を知りたがっていた。
「・・・私は一族の名誉のために戦った・・・それだけだ」
うつむきながらシルヴィアの問いに答えたルーシーを見て、シルヴィアは腰を上げた。
「・・・そう・・・まぁ、いいわ。ねぇあなた、さすがにもう戦う気はないでしょ?」
「・・・・・なんだ?」
ルーシーは目の前に差し出されたシルヴィアの手を見つめると、顔を上げてシルヴィアの青い瞳を見つめて問いかけた。
「もう6時よ、お腹すいたでしょ?夕食を用意してるから、食べに行きましょう」
「あ、シルヴィア、こっちに来たって事はもういいのか?」
事務所のドアを開けると、おにぎりを握っていたレイチェルが振り向いて声をかけた。
「ええ、もういいわ。それにしても今日・・・いつもにましてすごい量ね・・・」
クスリと笑って、シルヴィアは目の前に並んでいる大皿料理の数々に目を向けた。
店に泊ってみんなで食事をする時は、いつも大皿から取り分ける料理になるし、余裕をもって少しあまるくらいの量を作るのだが、今日はいつも以上のボリュームだった。
そして今日はシルヴィアが離れていたので、カチュアとケイトとレイチェルの三人で、調理を担当していたようだ。
「ああ、リカルドがちょっとな」
そう言ってレイチェルが顎を差し向けると、長テーブルの真ん中に座っている緑色の髪の弓使いが、唇をへの字に曲げて、憮然とした顔で腕を組んでいた。
「あら?・・・なんだか機嫌が悪そうね、どうしたのかしら?」
「ん~、どうもね、襲撃者の一発で気を失った事がアレらしいんだよ・・・」
握り終えたおにぎりを大皿に乗せて、困ったように笑う。
チラリとリカルドに目を向けるが、聞こえているのかレイチェルからプイっと顔を背ける。
「ああ・・・そう言えば、気を失ってたのよね?でも、ユーリーをかばって攻撃を受けたんでしょ?立派な事じゃない、胸を張っていいと思うけど」
「私もそう言ったんだが、どうも男としてのプライドが許さないらしい。ユーリ・・・と言うか、女の前で男が気を失った事が駄目なんだってさ」
レイチェルが肩をすくめると、シルヴィアはきょとんと目を丸くして、そしてクスクスと笑った。
「・・・フフ、リカルドってそういうところあるわよね。なるほど・・・それでこの量なのね?」
「ヤケですごい食べそうだからな・・・ところで、後ろの彼女は?」
レイチェルがシルヴィアの後ろに立っている、薄水色のパジャマを着ている銀髪の女に目を向けると、事務所にいる全員の視線が集まった。
自分に目が集まっている事を感じたルーシーは、シルヴィアの背中から前に進み出た。
「・・・もう戦うつもりはない。敵に助けられたとあってはな・・・これ以上恥をさらすつもりはない」
全員を見回した後、ルーシーは落ち着いた様子で口を開いた。
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