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1102 越えなければならない壁
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「ジャレット、いいのか?」
大粒の雨が傘を強く叩く。不規則に続く振動を腕に感じながら、ミゼルは前方で繰り広げられる戦いに目を向けたまま、隣に立つジャレットに問いかけた。
「ん?いいってなにが?」
ジャレットはと言うと、戦闘に加わってもいないのに、なぜか傘も差さずに外に出ていた。
濡れる事も気に留めず、腕を組みながら言葉の意味をミゼルに確認する。
「だからよ・・・シルヴィアだよ。いいのか?一人で戦わせて?こう言っちゃなんだが、見たところけっこう押されてるし・・・まずくねぇか?」
「今更なに言ってんだよ?お前だって思いっきりやれとか言ってたじゃねぇか?」
ジャレットは眉間にシワを寄せてミゼルを睨む。
ミゼルも自分があおった事でバツが悪いのか、指摘されて苦いを顔をするが、それでも言葉を続けた。
「いや、まぁ、そうなんだけどよ・・・でも、防戦一方じゃねぇか?このままだとまずいぞ」
戦いの前に何を言ったかなど過ぎた話しである。ミゼルは今現在の戦況を見て、このままではシルヴィアが負けると見ていた。だからこそジャレットに、加勢に入らないのかと暗に訪ねていたのだ。
「・・・ミッチーよぉ、お前シーちゃんがなんで相手のフィールドで戦うって決めたのか、分かってねぇのか?」
「え、いや、それはアレだろ?魔法じゃないのか?シルヴィアはこの雨を魔法で利用して、あの女を倒そうとしてんじゃないのか?」
「そうだ。分かってんなら黙って見てろよ。まだシーちゃんはソレを見せてねぇんだ。だったらまだ諦めてねぇって事だろ?それによ、この戦いはシーちゃんが一人で勝つ事に意味があんだよ」
「え?・・・ジャレット、それどういう事だよ?」
ジャレットは濡れて顔の前にかかる髪をかき上げると、何かを思案するように目を閉じて、ゆっくりと話し出した。
「・・・シーちゃんな、ずっと悩んでたんだよ。このままでいいのかって・・・もうすぐ戦争が始まるだろ?でも自分は戦いで役に立てるのかって、ずっと悩んでたんだ」
「え?シルヴィアが?・・・でもシルヴィアの攻撃力は俺より上だぜ?それに頭も良い、役に立たないなんて誰も思ってないと思うけどな」
ミゼルはシルヴィアがなぜそんな事で悩むのか理解できず、怪訝な顔をして首を傾げた。
同じ黒魔法使いとして比べた時、魔力量はミゼルが上だが、魔法による攻撃力はシルヴィアに軍配が上がる。一発の力が求められた時はシルヴィアが適任であり、役に立たないなど誰も思うはずがないのだ。
だがジャレットはミゼルの意見を聞きつつも、言葉を続けた。
「・・・四勇士のレオ・アフマダリエフにはよ、勝つには勝ったけど俺と二人がかりでギリギリもいいとこだった。この前襲撃してきた帝国の殺し屋、ジャームール・ディーロと魔法をぶつけ合わせたらしいんだけど、シーちゃん得意の竜氷縛で押されたって言ってた。なんとか堪えたけど、長引いてたら危なかったって・・・だからだよ、ここ一か月、時間があったらとにかく魔法の訓練してんだ。店長にもできるだけ稽古つけてもらってるみたいだし、とにかく一生懸命なんだ。だから・・・・・」
一度そこで言葉を切ると、ジャレットはミゼルに顔を向けた。
「シーちゃんにとってこの戦いは、超えなきゃならない壁なんだ。相手が四勇士って、なんか因縁を感じんだろ?自分に任せろって言った時、俺はシーちゃんの覚悟を感じたぜ。だからよ、ミッチー・・・この戦いは絶対に横やりを入れちゃ駄目だ」
「・・・ジャレット・・・・・」
ジャレットの言葉には力があった。
シルヴィアとルーシーの戦いは、見る限り確かにルーシーが押している。ルーシーの水の鞭の猛攻に、シルヴィアは護るだけで精一杯である。だがそれでもジャレットは加勢には入らない。
なぜなら・・・・
「シーちゃんを信じろ。シーちゃんは絶対に勝つ」
ジャレットはシルヴィアを信じているからだ。
シルヴィアが覚悟を決めて挑んだ一対一、自分の恋人がこの一戦に懸ける想いがどれほどのものかを、ジャレットは黙って受け止めて見守り続けた。
「ハァァァァァァァーーーーーーーーーッツ!」
ルーシー・アフマダリエフの猛攻は、一瞬たりとも途切れる事なく続いた。
水の鞭は縦横無尽、上から振り下ろされたと思ったら、次は足もとから振り上げて叩いて来る。それを防げば右から左からと、シルヴィアに息をつく間も与えず叩き続けた。
「くっ!」
ルーシーの水の鞭を防いでいるのは、風魔法である。
シルヴィアは半径1メートル、自分一人を覆えるだけの範囲に風を発動させた。
そして高速で渦を巻く風は、打ち付けてくる水の鞭をことごとく弾き返しているのである。
この風の鎧は黒魔法使いの防御の基本であり、奥義でもあった。
「苦しそうだな?そろそろ魔力も限界か?だったらもう降参しろ。私の目的は貴様らに勝つ事で、殺す事ではないからな」
シルヴィアの風の鎧は、ルーシーの水の攻撃力を上回っている。
このままいくら打ち続けても、シルヴィアの風を突破する事はできないだろう。
だがそれもシルヴィアの魔力が続く限りである。
青魔法使いの結界と同様に、シルヴィアが風魔法を使っている間は、当然魔力は減っていくのである。
それに対して、ルーシーの水は無尽蔵である。雨が降る限り決して底を尽く事のない水。
限られた魔力を振り絞るシルヴィア、無尽蔵の水を振るうルーシー。
戦闘開始から早くもこの形に持って行かれ、防戦一方で削られ続けるシルヴィアが敗北するのは、時間の問題と思われた。
そして・・・・・
「うぁぁぁぁーーーーーッ!」
激しく唸る水の鞭の一撃が、とうとうシルヴィアの風の鎧を打ち破った!
衝撃はシルヴィアを足をすくってよろけさせる。
「フン!大口を叩いたくせに防御だけで何もできなかったなァッツ!」
ルーシーは頭上高く水の鞭を振り上げた。
降り注いでくる大雨を水流のマントが吸収し、吸収した水はルーシーの右手から水の鞭へと流され、水の鞭はその大きさを二倍、三倍へと膨れ上がらせる!
「殺すつもりはないけどさ、打ちどころってのはあるからね。もしもの時はさっさと降参しなかった自分を恨みなよ?」
青い瞳を細めると、ルーシーはシルヴィアの頭を目掛けて、まるで大繩(おおなわ)の如く巨大化した水の鞭を振り下ろした!
・・・ふふ・・・お馬鹿さんね・・・・・
あなた、最初は私の事を警戒していたくせに、ちょっと自分が勝ってるからってもう油断?
そんな大振りして、足元が全然お留守じゃない?
今のあなた・・・・・
「ッ!?」
顔を下げていたシルヴィアが、小さく笑った事にルーシーが気付いた時にはもう遅かった。
「隙だらけよ!」
全身から放出されたシルヴィアの魔力が、辺り一面を凍り付かせた。
大粒の雨が傘を強く叩く。不規則に続く振動を腕に感じながら、ミゼルは前方で繰り広げられる戦いに目を向けたまま、隣に立つジャレットに問いかけた。
「ん?いいってなにが?」
ジャレットはと言うと、戦闘に加わってもいないのに、なぜか傘も差さずに外に出ていた。
濡れる事も気に留めず、腕を組みながら言葉の意味をミゼルに確認する。
「だからよ・・・シルヴィアだよ。いいのか?一人で戦わせて?こう言っちゃなんだが、見たところけっこう押されてるし・・・まずくねぇか?」
「今更なに言ってんだよ?お前だって思いっきりやれとか言ってたじゃねぇか?」
ジャレットは眉間にシワを寄せてミゼルを睨む。
ミゼルも自分があおった事でバツが悪いのか、指摘されて苦いを顔をするが、それでも言葉を続けた。
「いや、まぁ、そうなんだけどよ・・・でも、防戦一方じゃねぇか?このままだとまずいぞ」
戦いの前に何を言ったかなど過ぎた話しである。ミゼルは今現在の戦況を見て、このままではシルヴィアが負けると見ていた。だからこそジャレットに、加勢に入らないのかと暗に訪ねていたのだ。
「・・・ミッチーよぉ、お前シーちゃんがなんで相手のフィールドで戦うって決めたのか、分かってねぇのか?」
「え、いや、それはアレだろ?魔法じゃないのか?シルヴィアはこの雨を魔法で利用して、あの女を倒そうとしてんじゃないのか?」
「そうだ。分かってんなら黙って見てろよ。まだシーちゃんはソレを見せてねぇんだ。だったらまだ諦めてねぇって事だろ?それによ、この戦いはシーちゃんが一人で勝つ事に意味があんだよ」
「え?・・・ジャレット、それどういう事だよ?」
ジャレットは濡れて顔の前にかかる髪をかき上げると、何かを思案するように目を閉じて、ゆっくりと話し出した。
「・・・シーちゃんな、ずっと悩んでたんだよ。このままでいいのかって・・・もうすぐ戦争が始まるだろ?でも自分は戦いで役に立てるのかって、ずっと悩んでたんだ」
「え?シルヴィアが?・・・でもシルヴィアの攻撃力は俺より上だぜ?それに頭も良い、役に立たないなんて誰も思ってないと思うけどな」
ミゼルはシルヴィアがなぜそんな事で悩むのか理解できず、怪訝な顔をして首を傾げた。
同じ黒魔法使いとして比べた時、魔力量はミゼルが上だが、魔法による攻撃力はシルヴィアに軍配が上がる。一発の力が求められた時はシルヴィアが適任であり、役に立たないなど誰も思うはずがないのだ。
だがジャレットはミゼルの意見を聞きつつも、言葉を続けた。
「・・・四勇士のレオ・アフマダリエフにはよ、勝つには勝ったけど俺と二人がかりでギリギリもいいとこだった。この前襲撃してきた帝国の殺し屋、ジャームール・ディーロと魔法をぶつけ合わせたらしいんだけど、シーちゃん得意の竜氷縛で押されたって言ってた。なんとか堪えたけど、長引いてたら危なかったって・・・だからだよ、ここ一か月、時間があったらとにかく魔法の訓練してんだ。店長にもできるだけ稽古つけてもらってるみたいだし、とにかく一生懸命なんだ。だから・・・・・」
一度そこで言葉を切ると、ジャレットはミゼルに顔を向けた。
「シーちゃんにとってこの戦いは、超えなきゃならない壁なんだ。相手が四勇士って、なんか因縁を感じんだろ?自分に任せろって言った時、俺はシーちゃんの覚悟を感じたぜ。だからよ、ミッチー・・・この戦いは絶対に横やりを入れちゃ駄目だ」
「・・・ジャレット・・・・・」
ジャレットの言葉には力があった。
シルヴィアとルーシーの戦いは、見る限り確かにルーシーが押している。ルーシーの水の鞭の猛攻に、シルヴィアは護るだけで精一杯である。だがそれでもジャレットは加勢には入らない。
なぜなら・・・・
「シーちゃんを信じろ。シーちゃんは絶対に勝つ」
ジャレットはシルヴィアを信じているからだ。
シルヴィアが覚悟を決めて挑んだ一対一、自分の恋人がこの一戦に懸ける想いがどれほどのものかを、ジャレットは黙って受け止めて見守り続けた。
「ハァァァァァァァーーーーーーーーーッツ!」
ルーシー・アフマダリエフの猛攻は、一瞬たりとも途切れる事なく続いた。
水の鞭は縦横無尽、上から振り下ろされたと思ったら、次は足もとから振り上げて叩いて来る。それを防げば右から左からと、シルヴィアに息をつく間も与えず叩き続けた。
「くっ!」
ルーシーの水の鞭を防いでいるのは、風魔法である。
シルヴィアは半径1メートル、自分一人を覆えるだけの範囲に風を発動させた。
そして高速で渦を巻く風は、打ち付けてくる水の鞭をことごとく弾き返しているのである。
この風の鎧は黒魔法使いの防御の基本であり、奥義でもあった。
「苦しそうだな?そろそろ魔力も限界か?だったらもう降参しろ。私の目的は貴様らに勝つ事で、殺す事ではないからな」
シルヴィアの風の鎧は、ルーシーの水の攻撃力を上回っている。
このままいくら打ち続けても、シルヴィアの風を突破する事はできないだろう。
だがそれもシルヴィアの魔力が続く限りである。
青魔法使いの結界と同様に、シルヴィアが風魔法を使っている間は、当然魔力は減っていくのである。
それに対して、ルーシーの水は無尽蔵である。雨が降る限り決して底を尽く事のない水。
限られた魔力を振り絞るシルヴィア、無尽蔵の水を振るうルーシー。
戦闘開始から早くもこの形に持って行かれ、防戦一方で削られ続けるシルヴィアが敗北するのは、時間の問題と思われた。
そして・・・・・
「うぁぁぁぁーーーーーッ!」
激しく唸る水の鞭の一撃が、とうとうシルヴィアの風の鎧を打ち破った!
衝撃はシルヴィアを足をすくってよろけさせる。
「フン!大口を叩いたくせに防御だけで何もできなかったなァッツ!」
ルーシーは頭上高く水の鞭を振り上げた。
降り注いでくる大雨を水流のマントが吸収し、吸収した水はルーシーの右手から水の鞭へと流され、水の鞭はその大きさを二倍、三倍へと膨れ上がらせる!
「殺すつもりはないけどさ、打ちどころってのはあるからね。もしもの時はさっさと降参しなかった自分を恨みなよ?」
青い瞳を細めると、ルーシーはシルヴィアの頭を目掛けて、まるで大繩(おおなわ)の如く巨大化した水の鞭を振り下ろした!
・・・ふふ・・・お馬鹿さんね・・・・・
あなた、最初は私の事を警戒していたくせに、ちょっと自分が勝ってるからってもう油断?
そんな大振りして、足元が全然お留守じゃない?
今のあなた・・・・・
「ッ!?」
顔を下げていたシルヴィアが、小さく笑った事にルーシーが気付いた時にはもう遅かった。
「隙だらけよ!」
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