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1099 水の膜を突破して

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剣も槍も持っていない体力型ができる攻撃は、格闘による近接戦闘のみ。
大多数の人間はそう考えるものであり、リカルドもユーリも例にもれずそう考えていた。

だが実際にルーシーから放たれた攻撃は、高密度に圧縮されて横一線に飛んで来る水の鞭だった。

この一撃はリカルドとユーリにとって、躱せないほどの速さではなかった。
だが攻撃が放たれた時、二人は一瞬だが店の事を考えてしまった。


自分達がこの攻撃を躱した場合、後ろの商品はどうなる?棚は?ショーケースは?
水の鞭の長さを考えれば、確実に店内の一部が破壊される。
この店はリカルドにとってもユーリにとっても、いやレイジェスで働く全員にとって帰るべき家のような場所なのだ。それを破壊される事などあってはならない。

だが体力型のリカルドと、白魔法使いのユーリにとって、この攻撃は相性が悪すぎた。

水を使った攻撃なのだ。あらためて言う事でもないが、水を掴む事はできない。
リカルドとユーリには、結界を張る事もできなければ迎撃する手段もない。

躱さずに店を護る手段となれば、体を張って受け止めるしかない。


店を護って受け止めるべきか、それとも反撃のために躱すべきか。
一瞬の迷いが二人から片方の選択肢を奪った。

タイミングを逃してしまった以上、もはや水の鞭は回避不可能、ならば受け止めるしかない。
だが受け止めるのは一人でいい。

二択で迫られた決断だったが、リカルドは第三の選択肢を立てた。

「チッ、なめんじゃねぇぞォォォッ!」

声を上げて、リカルドはユーリを押し飛ばした。

「っ!?」

突然の事に一瞬ユーリは目を丸くしたが、自分が押し飛ばされた方向から、リカルドの考えをすぐに理解した。

「リカルドッ!」

ユーリが声を上げたその時、横一線に振るわれた水の鞭がリカルドを叩きつけた!

耳をつんざく乾いた音が店中に響き渡り、破裂した水の鞭が大小さまざまな水の礫(つぶて)となる。そして撒き散らされた水の礫は雨となって店内に降り注いだ。





「・・・・・フン、大人しく言う事を聞いていれば良かったものを・・・」

右手に感じた手応えに、ルーシーは水の鞭の一撃がまともに入ったと確信した。

この水の鞭はルーシーの魔道具によって作り出された物であり、叩きつけた時に破裂させたのも意図的に行った事である。

一般的な鞭と同様に、水の鞭も破裂させずに叩き続ける事は可能である。

だが破裂させた方が破壊力は段違いであり、破裂させた時に響く特有の乾いた音は相手を萎縮させ、戦意を摘み取る効果もある。

今回もルーシーにはその狙いがあった。
標的に会う前に余計な体力は使いたくない。一発で終わらせて先に進もう。

だがルーシーは二人を、リカルドとユーリを過小評価していた。

並みの相手であれば、目論見通りこの一撃で終わっていただろう。
だがレイジェスの従業員は、ウィッカー・バリオスに日々鍛えられ、いくつもの死線を潜り抜けてきた戦士なのだ。



「なッ!?」

突如、ルーシーの目が驚きで開かれた。

それは水の鞭がリカルドに叩きつけられ破裂した一瞬だった。
破裂して水が広がった事で、リカルドとユーリの姿がルーシーの視界から、瞬き程のほんの一瞬だが消える。
その一瞬の水の膜を目くらましにしてユーリが飛び出した!

「ヤァァァァァーーーーーーーーーッツ!」

そして一瞬にしてルーシーの懐へ飛び込むと、指先で強く地面を蹴って膝をバネにして飛び上がり、固く握り締めた左の拳をルーシーの顔面目掛けて繰り出した!

そう、これはかつて四勇士シャクール・バルデスの顎を割った、カエル飛びアッパー!





な、なんだと!?この女いつの間にここまで!
この私が正面から来る敵の動きを見落としたと言うのか!?

いや、違う!

この女、水が破裂して広がった一瞬を利用したんだ。水の破裂で姿が隠れた一瞬でここまで接近してきたんだ。
さらに小さい体の利点を生かして、限界まで上半身を沈めて飛び込んできた。

私の視界の端の端で辛うじて捉えられたが、ここまで鋭い踏み込みは見た事がないぞ!

こいつッ、見誤った!
魔法使いだとあたりを付けていたが、私よりも小さな体で体力型だったとは!

だがな・・・この私を甘く見るなよ!
確かに意表を突かれ懐へ入られたが、それだけで勝ったと思うな!

その握り締めた左拳で私を打つつもりか?いいだろう・・・打ってこい!

返り討ちにしてくれる!


「オォォォォォォォーーーーーーーッツ!」

己の顔面に迫り来るユーリの拳を捉え、ルーシーの青い瞳が鋭い光を放った!
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