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1098 銀髪の女の自信
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突然レイジェスに現れた銀髪の女は、ルーシー・アフマダリエフと名乗った。
年の頃は二十代前半といったところだろう。目の前のリカルドとユーリを見据えると、レオ・アフマダリエフを殺した二人を出せと要求する。
四勇士レオ・アフマダリエフを殺したのは、ジャレットとシルヴィアである。
アフマダリエフを名乗る者が、この二人を出せと言うのであれば、それは高い確率で穏やかな話しではないと予想できる。
リカルドもユーリも突然の事で多少面食らった感はあった。
だがそれでもすぐに状況を理解し、視線を交わして意思の疎通を図った。
「おい、お前よぉ、客じゃねぇんだろ?なにしに来たんだよ?」
リカルドは一定の距離を保ったまま、目の前の銀髪の女ルーシーに問いかけた。
強きな姿勢だが前には出ない。
このルーシーと言う女、身に着けている装備を見る限り、体力型と見て間違いはないだろう。
しかし色白で線が細く、お世辞にも腕力があるようには見えなかった。
もちろん魔法使いよりは筋力があるのだろが、体力型としての能力は低いのではないか?
それが同じ体力型としてリカルドが持った、ルーシーの第一印象である。
だがリカルドは警戒を緩めなかった。だからこそうかつに前に出る事はしなかった。
それはリカルドの戦いの勘、危険を察知する本能による部分が、強く警報を鳴らしていたからである。
お互いの距離はおよそ3メートル、この数字はリカルドの体術の射程内である。
仕掛けようと思えばいつでも攻撃はできるが、前述の勘がそれを踏みとどまらせていた。
リカルドは弓使いだが、今は持ち合わせていない。元々食事のために外出をしようとしていたのだから、自分の担当する部門に置いてきたのだ。
そのため必然的に攻撃手段は体術に限られる。そしてそれはユーリも同じであった。
魔力を筋力に変える魔道具、膂力のベルト。
ユーリはこれを常に身に着けている。ルーシーの来訪は予期せぬ事だったが、自然と毎日身に着けている習慣がこの場面で生きた。
そして膂力のベルトを使用したユーリの力と速さは、並みの体力型をはるかに凌駕する。
それは以前、四勇士シャクール・バルデスの懐に入り、その顎を拳で割った事で証明できたと言えよう。
リカルドの隣に立つユーリは右足を引いて、対峙するルーシーに体の左半身を向けた。
アラタから教わったボクシングの構えであるが、両腕は下げたままで構えはとらない。
相手がこちらに友好的でない事は明白だが、この段階でこちらか戦闘を誘発する態度をとる事は、得策ではないとの判断からである。
その理由として、第一にここがレイジェスの店内である事。店を破壊する行為はできないし、なにより店内に滞在するお客を巻き添えにする事は許されない。
第二に相手の戦闘力が読めなかった。
この銀髪の女が体力型なのは間違いないだろう。
体付きを見る限りパワーで押すタイプではなく、スピードで撹乱して仕留める事を得意として見える。
だがそれだけではないだろう。
この銀髪の女から感じる圧力は、この女の自信によるものだ。
自分に対して絶対の自信を持っている。このレイジェスにたった一人で乗り込んで来た事がそれを証明している。
それはつまり、自分一人でレイジェスの全員を相手にできる。そういう事なのだ。
その強烈なまでの自信が、己の目の前に立つ者全てを押し退ける圧力となり、ユーリとリカルドに攻撃の手を止めさせていた。
「チッ、おい!聞いてんのかよ!?何しにここに来たって聞いてんだよ!」
聞かれた問いに答えるでもなく、感情の読めない瞳でじっと自分を見る銀髪の女に、リカルドは苛立ちを隠す事なく言葉に乗せてぶつけた。
「・・・・・面倒だな」
女の表情に変化はなかった。だがリカルドの怒声が癪に障ったのか、銀髪の女ルーシーの纏う気配が変わった。一段と冷たい言葉を口から吐き出すと、スッと青い瞳が細められる。
これはルーシーの意識が、戦闘に向けられた事を意味していた。
あと一つでも攻撃的な言葉をぶつければ、それが開戦の合図となる。言葉に出さずとも、ヒリついた場の空気がそれを教えていた。
普通は警戒して様子をみるところである。だがこの短気な弓使いにはあてはまらない。
「やってや・・・むぐ!?」
ルーシーに睨まれたリカルドは眉間にシワを寄せて、場の空気などお構いなしに大声を発しようとした。
しかしユーリに口を塞がれてしまう。リカルドの性格を熟知しているユーリは、絶対にリカルドが怒声を上げると読んでいたのである。
「しっ!リカルド黙って・・・この女を見て気付かない?」
口を押えられて、もがもがと抗議するリカルドの耳元で、ユーリが小さく声を発した。
視線は正面のルーシーから外さない。この状況でそこまで隙を見せる事はできない。
「分からない?大雨の中、傘も差さずにきたのに・・・この女まったく濡れてない」
ユーリに指摘されて、リカルドはようやく気が付いたようだ。
正面に顔を戻してもう一度ルーシーを見て、驚きをあらわに両目を見開いた。
「分かったみたいだね、リカルド。多分何らかの魔道具だと思うけど、危険な匂いがする。今は時間を稼いだ方がいい」
レオを殺した二人を出せ。銀髪の女ルーシーが、開口一番に口にしたこの言葉に驚かされて、見えているのに意識から外れていた。
そう、この叩きつけてくるような大雨の中、傘も差さずにここまで歩いて来たのに、ルーシー・アフマダリエフは全く濡れていなかったのだ。
雨粒一つついていないその姿は、ユーリの言う通り何らかの魔道具の力でも借りなければありえない事だった。
その能力の正体が分からないまま、戦闘に入る事は危険過ぎる。
そしてタイミングの悪い事に、現在ここにはリカルドとユーリしかいない。
他のメンバーは客入りが少ないため。、それぞれが自分の部門で作業をしており、この状況に気付いていないのだ。
・・・でも、もうすぐ・・・あともう少しで来る
後ろからリカルドの口を押えたまま、ユーリーはメインレジの壁にかかっている時計に目をやった。
リカルドとユーリが休憩に入るため、ローテーションで決めてあるメインレジの交代が、もうすぐ来るはずなのだ。
この銀髪の女を相手に、二人では危ういかもしれない。けれどもう一人、あと一人でも来れば三対一だ。
状況もずいぶん変わってくる。それまで時間を稼げれば・・・・・
だが、そんなユーリの思惑はあえなく外される事となった。
「・・・もういい。いつまでもここで貴様らと睨めっこする気はない。そこをどけ、勝手に探させてもらう」
銀髪の女ルーシー・アフマダリエフが、苛立ちを込めた言葉と共に右手を振り払う!
するとその右手から放出されて横一線に伸びた水が、まるで鞭のようにしなりながら二人に向かい飛んで来た!
年の頃は二十代前半といったところだろう。目の前のリカルドとユーリを見据えると、レオ・アフマダリエフを殺した二人を出せと要求する。
四勇士レオ・アフマダリエフを殺したのは、ジャレットとシルヴィアである。
アフマダリエフを名乗る者が、この二人を出せと言うのであれば、それは高い確率で穏やかな話しではないと予想できる。
リカルドもユーリも突然の事で多少面食らった感はあった。
だがそれでもすぐに状況を理解し、視線を交わして意思の疎通を図った。
「おい、お前よぉ、客じゃねぇんだろ?なにしに来たんだよ?」
リカルドは一定の距離を保ったまま、目の前の銀髪の女ルーシーに問いかけた。
強きな姿勢だが前には出ない。
このルーシーと言う女、身に着けている装備を見る限り、体力型と見て間違いはないだろう。
しかし色白で線が細く、お世辞にも腕力があるようには見えなかった。
もちろん魔法使いよりは筋力があるのだろが、体力型としての能力は低いのではないか?
それが同じ体力型としてリカルドが持った、ルーシーの第一印象である。
だがリカルドは警戒を緩めなかった。だからこそうかつに前に出る事はしなかった。
それはリカルドの戦いの勘、危険を察知する本能による部分が、強く警報を鳴らしていたからである。
お互いの距離はおよそ3メートル、この数字はリカルドの体術の射程内である。
仕掛けようと思えばいつでも攻撃はできるが、前述の勘がそれを踏みとどまらせていた。
リカルドは弓使いだが、今は持ち合わせていない。元々食事のために外出をしようとしていたのだから、自分の担当する部門に置いてきたのだ。
そのため必然的に攻撃手段は体術に限られる。そしてそれはユーリも同じであった。
魔力を筋力に変える魔道具、膂力のベルト。
ユーリはこれを常に身に着けている。ルーシーの来訪は予期せぬ事だったが、自然と毎日身に着けている習慣がこの場面で生きた。
そして膂力のベルトを使用したユーリの力と速さは、並みの体力型をはるかに凌駕する。
それは以前、四勇士シャクール・バルデスの懐に入り、その顎を拳で割った事で証明できたと言えよう。
リカルドの隣に立つユーリは右足を引いて、対峙するルーシーに体の左半身を向けた。
アラタから教わったボクシングの構えであるが、両腕は下げたままで構えはとらない。
相手がこちらに友好的でない事は明白だが、この段階でこちらか戦闘を誘発する態度をとる事は、得策ではないとの判断からである。
その理由として、第一にここがレイジェスの店内である事。店を破壊する行為はできないし、なにより店内に滞在するお客を巻き添えにする事は許されない。
第二に相手の戦闘力が読めなかった。
この銀髪の女が体力型なのは間違いないだろう。
体付きを見る限りパワーで押すタイプではなく、スピードで撹乱して仕留める事を得意として見える。
だがそれだけではないだろう。
この銀髪の女から感じる圧力は、この女の自信によるものだ。
自分に対して絶対の自信を持っている。このレイジェスにたった一人で乗り込んで来た事がそれを証明している。
それはつまり、自分一人でレイジェスの全員を相手にできる。そういう事なのだ。
その強烈なまでの自信が、己の目の前に立つ者全てを押し退ける圧力となり、ユーリとリカルドに攻撃の手を止めさせていた。
「チッ、おい!聞いてんのかよ!?何しにここに来たって聞いてんだよ!」
聞かれた問いに答えるでもなく、感情の読めない瞳でじっと自分を見る銀髪の女に、リカルドは苛立ちを隠す事なく言葉に乗せてぶつけた。
「・・・・・面倒だな」
女の表情に変化はなかった。だがリカルドの怒声が癪に障ったのか、銀髪の女ルーシーの纏う気配が変わった。一段と冷たい言葉を口から吐き出すと、スッと青い瞳が細められる。
これはルーシーの意識が、戦闘に向けられた事を意味していた。
あと一つでも攻撃的な言葉をぶつければ、それが開戦の合図となる。言葉に出さずとも、ヒリついた場の空気がそれを教えていた。
普通は警戒して様子をみるところである。だがこの短気な弓使いにはあてはまらない。
「やってや・・・むぐ!?」
ルーシーに睨まれたリカルドは眉間にシワを寄せて、場の空気などお構いなしに大声を発しようとした。
しかしユーリに口を塞がれてしまう。リカルドの性格を熟知しているユーリは、絶対にリカルドが怒声を上げると読んでいたのである。
「しっ!リカルド黙って・・・この女を見て気付かない?」
口を押えられて、もがもがと抗議するリカルドの耳元で、ユーリが小さく声を発した。
視線は正面のルーシーから外さない。この状況でそこまで隙を見せる事はできない。
「分からない?大雨の中、傘も差さずにきたのに・・・この女まったく濡れてない」
ユーリに指摘されて、リカルドはようやく気が付いたようだ。
正面に顔を戻してもう一度ルーシーを見て、驚きをあらわに両目を見開いた。
「分かったみたいだね、リカルド。多分何らかの魔道具だと思うけど、危険な匂いがする。今は時間を稼いだ方がいい」
レオを殺した二人を出せ。銀髪の女ルーシーが、開口一番に口にしたこの言葉に驚かされて、見えているのに意識から外れていた。
そう、この叩きつけてくるような大雨の中、傘も差さずにここまで歩いて来たのに、ルーシー・アフマダリエフは全く濡れていなかったのだ。
雨粒一つついていないその姿は、ユーリの言う通り何らかの魔道具の力でも借りなければありえない事だった。
その能力の正体が分からないまま、戦闘に入る事は危険過ぎる。
そしてタイミングの悪い事に、現在ここにはリカルドとユーリしかいない。
他のメンバーは客入りが少ないため。、それぞれが自分の部門で作業をしており、この状況に気付いていないのだ。
・・・でも、もうすぐ・・・あともう少しで来る
後ろからリカルドの口を押えたまま、ユーリーはメインレジの壁にかかっている時計に目をやった。
リカルドとユーリが休憩に入るため、ローテーションで決めてあるメインレジの交代が、もうすぐ来るはずなのだ。
この銀髪の女を相手に、二人では危ういかもしれない。けれどもう一人、あと一人でも来れば三対一だ。
状況もずいぶん変わってくる。それまで時間を稼げれば・・・・・
だが、そんなユーリの思惑はあえなく外される事となった。
「・・・もういい。いつまでもここで貴様らと睨めっこする気はない。そこをどけ、勝手に探させてもらう」
銀髪の女ルーシー・アフマダリエフが、苛立ちを込めた言葉と共に右手を振り払う!
するとその右手から放出されて横一線に伸びた水が、まるで鞭のようにしなりながら二人に向かい飛んで来た!
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