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1095 新たなる決意

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「いやぁ、すっかり世話になったな。あんなに飲んだのは久しぶりだ。またぜひ一杯やろうな」

翌朝クリスの宿屋の前では、リンジーとガラハドとファビアナが、レイジェスのメンバー達を前に立ち、別れの挨拶を交わしていた。

夏も終わりに近づいているが、今朝は朝から陽射しも強い。
だが時折気持の良い風が吹いて、肌の熱を冷ます涼を届けてくれる。

行き交う人達の足取りも軽く、風が運ぶ草花の香りを楽しんでいるように見える。


「おう、俺も楽しかったぜ。最近はミゼルがあんま飲まねぇからな。こっちこそ、またぜひあんたと飲みてねぇな」

ジャレットとガラハドが、がっちりと握手をする。
26歳のジャレットと53歳のガラハド、倍も歳が離れている二人だが、一晩飲み明かして、すっかり意気投合したようだ。

「ガラハドさん、お酒は程々にしてくださいね。ジャレットもあんまり飲み過ぎちゃ駄目よ?」

「あ~、大丈夫だって、分かってる分かってる、シーちゃんも心配性だな?」

ジャレットの後ろから顔を出したシルヴィアは、微笑みながらもしっかりと釘を刺した。




「店長さん、大変お世話になりました。今回の話し合いはとても有意義でした。ロンズデールに戻りましたら、今回得た情報を元に隊の編成、作戦を考えてみたいと思います」

リンジーはウィッカー・バリオスの前に立つと、昨晩のおもてなしのお礼を口にしてペコリと頭を下げた。
今回のリンジー達の目的は、クインズベリーとロンズデール、両国の連携について話し合う事だった。

その会議の場には、クインズベリーの重鎮達はもとより、女王アンリエール。第一王子のマルス。騎士団からはゴールド騎士のフェリックスとアルベルト。治安部隊隊長のヴァン。そしてレイジェスの代表として、ウィッカーが出席したのだ。

「こちらこそ、皆さんにお越しいただいた事を感謝しております。情報の共有もできましたし、深いレベルでの戦略会議ができました。これからは写しの鏡を使っての連絡が多くなると思いますが、何かあればいつでもご連絡ください」

ウィッカーもまた、遠くロンズデールから足を運んだ使者に、頭を下げて礼を尽くした。

「はい、よろしくお願いしますね。それと昨日お渡ししました書類は、皆さんで共有なさってください」

「ええ、もちろんです。さすがアラルコン商会ですね、顔が広い上に人材が豊富だ」

ウィッカーがもらった書類とは、もちろんアラルコン商会が調べた、帝国に関する情報が記された物である。
謎の多かった七人の師団長とその副官、そして各師団の配置場所まで予想されていた。

「拝見させていただきましたが、裏付けもきちんとされていて、信憑性が非常に高い。なんでもシャノンさんの右腕がお調べになったとか?とても有能な方ですね」

「アブエル・マレスと言うのですが、あまり自己主張はしない男なんです。私もここまで諜報能力に優れているとは思いませんでした」


リンジーもマレスの顔を知ってはいたが、アラルコン商会の従業員という印象でしかなかった。
しかし今回の活躍で、マレスに対する見方が大きく変わっていた。
そして他人の事であっても、自国の人間が褒められれば悪い気はしない。それもクインズベリーの上役と見られるウィッカーにだ。
ロンズデールが一つ高い評価を受けて、リンジーは笑顔で言葉を返した。


「では、私達はそろそろ行きますね。皆さん、この度はありがとうございました。またお会いしましょう」

そして最後に、王女としてファビアナが別れの挨拶をして、三人は馬車に乗り込んだ。






「・・・行ってしまいましたね」

小さくなって行く馬車を眺めながら、レイチェルが呟いた。

「頼もしい人達だ。彼らがロンズデールの中心となり、戦うのだろう。レイチェル、俺達も彼らに負けないように頑張らないとな」


「はい、それで店長・・・お願いがあります」

隣に立つウィッカーに、レイチェルは真剣な眼差しを向けた。
普段と違う、ある種の決意さえ感じられる顔つきに、ウィッカーの表情も真剣みを帯びた。

「うん・・・なんだい?」


「・・・もう一度・・・私をもう一度鍛え直してください!」


拳を握り締めて吐き出した言葉には、断固たる強い意思が込められていた。


「・・・壁にぶつかったみたいだな・・・・・決戦まで後三ヶ月、厳しくいくぞ?」

「はい!よろしくお願いします!」



マルコス・ゴンサレスに敗北してから、自分なりに鍛えてきたつもりだった。

ゴールド騎士のアルベルト・ジョシュアにも、帝国の暗殺者リコ・ヴァリンにも勝った。

強敵と戦ってきた・・・

帝国軍青魔法兵団団長ジェリメール・カシレロとの戦いでは、死ぬ寸前まで追い込まれた。

それでも勝って生き延びた。勝利し、成長して、強くなったと思っていた。
今の自分ならきっと店長の、ウィッカーの役に立てると思っていた。


だが、あの男は別次元だった。
パウンド・フォーで戦った皇帝の最側近デューク・サリバン・・・アラタの日本の恩人、村戸修一。

限舞闘争をまともに入れても、倒せないどころかほとんどダメージを与える事ができなかった。


今のままでは駄目だ。
もう一つ・・・もう一つ上にいかなければ、帝国には通用しない。


「私は負けません!もう、絶対に負けない!」


己の覚悟を声に出して確かめる。言い訳のできない完敗だった。だがまだ心は折れていない。

新たな決意を胸に、今またレイチェルは立ち上がった。
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