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1091 戦う理由
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「それにしても、この報告書はすごいわね」
アラルコン商会からの帰り道、馬車の中ではリンジーがマレスの報告書を見ながら呟いた。
「ああ、特に各師団長とその副官まで調べてあるのは驚きだ。アゲハからも聞いてはいたが、アゲハが帝国にいた間の情報だからな。アゲハが帝国を抜けてから、多少変わりがあったようだな。特にアゲハの後釜、第二師団長が知れたのは大きい」
リンジーの隣に座るレイチェルも、報告書に目を向けながら首を縦に振った。
「帝国は実力主義、師団長であってもそれは変わらないわ。負ければ引きずり降ろされる。だから長く師団長を務めている者もいれば、短期間で何度も変わる事もある。だからなかなか隊の全貌が掴めないのよね」
それは周知の事実だったが、リンジーもあらためて声に出して確認をした。
「この報告書によればよ、俺らロンズデールが対応する南と東には、帝国の第三と第五師団が出て来るみたいだな」
リンジーの正面に座るガラハドが、読んでいた報告書から顔を上げて声を出した。
「第三師団か・・・確か師団長の名はザビル・アルバレス。アラタとリカルドが戦った事があるヤツだな」
ガラハドの声を拾ったのはレイチェルだった。
アゲハがレイジェスに初めて来た日、アゲハを追って帝国から来た男がいた。
それが帝国軍、第三師団長のザビル・アルバレスだった。
「え?レイチェル知ってるの?て言うか、アラタ君が戦った事あるって、本当?」
リンジーが驚いて顔を向ける。
「ああ、私も見たわけではないが、アラタとリカルドの話しだと、力押しの典型的な体力型らしい。だが異常に体が硬く、リカルドの矢も通さなかったと言っていた。ヤツの防御力をどう突破するかが、勝敗の鍵になるだろう」
「硬い体か・・・物理攻撃が効かねぇってんなら、魔法使いをぶつけた方がいいかもしれんな。いい情報をもらったな。レイチェル、もしかしてこの第五師団長も知ってたりしねぇか?」
思わぬ情報を得て、ガラハドが前のめりになる。
そして期待を込めた眼差しを向けて、さらにもう一人の第五師団長についても問いかける。
「第五師団長・・・ああ、こいつか・・・こいつならよく知ってるよ」
手に持っている報告書に目を落とし、そこに記載されている名前を見て、レイチェルの片眉が上がった。
声のトーンも一つ低くなり、馬車の中の空気が少し緊張感を帯びる。
「ジェリメール・カシレロ、第五師団長にして、青魔法兵団の団長だ。私は一度こいつと戦った事がある」
「なっ!?・・・本当かよ?」
聞いてはみたものの、まさか本当に知っているとは思わず、しかも戦ったというのだから、ガラハドは心底驚いた顔をしてみせた。
「えっと、レイチェル・・・戦ったって、いつ?」
「先月の初めくらいだったかな、クインズベリーが襲撃されたんだ・・・」
リンジーが心配そうに見つめて来るので、レイチェルは闇の巫女ルナが亡命して来て、それを追って来た帝国軍と戦いになった事を説明して聞かせた。
「・・・レイジェスの皆さんって、本当に軍人じゃないんですか?」
一連の話しを聞き終えて、ファビアナが少し眉根を寄せてレイチェルを見る。
「ん、今更何を言う?レイジェスはリサイクルショップで、私達はただの従業員だ」
「レイチェル、あなたもレイジェスのみんなも、とっくにリサイクルショップの従業員の枠を超えたところにいるわよ?」
「ファビアナとリンジーの言う通りだ。まさか自覚が無いなんて言わないだろうな?」
リンジーとガラハドにも詰め寄られて、レイチェルは両手を顔の前で振って、小さく笑ってなだめるように話した。
「おいおい、二人ともそんなグイグイ来ないでくれ。フフ・・・まぁ、そうだな・・・確かに私達が兵士同然に戦場に出ている事は認める。それがリサイクルショップの店員の仕事でない事も、重々承知している」
だけど・・・・・
そう言葉を紡いでレイチェルは二人を見た。
「私はこの国が好きだから戦う。きっとみんなも同じ気持ちだ・・・戦う理由なんて、護りたいものがあればそれで十分なんだよ」
私が戦う理由・・・生まれ育った国を護りたい。家族を、仲間を護りたい
そして店長・・・・・あなたのために私は戦いたい
「・・・レイチェル、あなたの言う通りね。そう、護りたいもののために戦う。理由なんてそれだけで十分よね」
レイチェルの心からの気持ちを耳にして、リンジーはニコリと微笑むと、レイチェルの手を両手で包み込んだ。
「はは、まぁ偉そうに言ったけど、私が戦いたいから戦う。結局はそれだけだよ」
「そんな事ないです、レイチェルはやっぱりすごいです。私にも今は護りたい人が沢山できました。だからその人達のために戦います!」
レイチェルの考えに感銘を受けたファビアナは、手にしている木の杖を強く握りながら、自分の気持ちを力強く口にした。
「ファビアナ・・・キミもすっかり強くなったな」
「はっはっは!前のおどおどした姿は想像もできんよな!」
「ガラハド!それはもう言わないでください!」
大笑いしてファビアナの肩に手を置くガラハドに、ファビアナが抗議の声を上げる。
「フフフ、あ!みんな、レイジェスが見えてきたわよ」
賑わう馬車の中、優しく温かい空気に包まれる。
窓の外には、美しいクインズベリーの街並みが広がり、レイジェスの前には今日も沢山のお客が集まっていた。
アラルコン商会からの帰り道、馬車の中ではリンジーがマレスの報告書を見ながら呟いた。
「ああ、特に各師団長とその副官まで調べてあるのは驚きだ。アゲハからも聞いてはいたが、アゲハが帝国にいた間の情報だからな。アゲハが帝国を抜けてから、多少変わりがあったようだな。特にアゲハの後釜、第二師団長が知れたのは大きい」
リンジーの隣に座るレイチェルも、報告書に目を向けながら首を縦に振った。
「帝国は実力主義、師団長であってもそれは変わらないわ。負ければ引きずり降ろされる。だから長く師団長を務めている者もいれば、短期間で何度も変わる事もある。だからなかなか隊の全貌が掴めないのよね」
それは周知の事実だったが、リンジーもあらためて声に出して確認をした。
「この報告書によればよ、俺らロンズデールが対応する南と東には、帝国の第三と第五師団が出て来るみたいだな」
リンジーの正面に座るガラハドが、読んでいた報告書から顔を上げて声を出した。
「第三師団か・・・確か師団長の名はザビル・アルバレス。アラタとリカルドが戦った事があるヤツだな」
ガラハドの声を拾ったのはレイチェルだった。
アゲハがレイジェスに初めて来た日、アゲハを追って帝国から来た男がいた。
それが帝国軍、第三師団長のザビル・アルバレスだった。
「え?レイチェル知ってるの?て言うか、アラタ君が戦った事あるって、本当?」
リンジーが驚いて顔を向ける。
「ああ、私も見たわけではないが、アラタとリカルドの話しだと、力押しの典型的な体力型らしい。だが異常に体が硬く、リカルドの矢も通さなかったと言っていた。ヤツの防御力をどう突破するかが、勝敗の鍵になるだろう」
「硬い体か・・・物理攻撃が効かねぇってんなら、魔法使いをぶつけた方がいいかもしれんな。いい情報をもらったな。レイチェル、もしかしてこの第五師団長も知ってたりしねぇか?」
思わぬ情報を得て、ガラハドが前のめりになる。
そして期待を込めた眼差しを向けて、さらにもう一人の第五師団長についても問いかける。
「第五師団長・・・ああ、こいつか・・・こいつならよく知ってるよ」
手に持っている報告書に目を落とし、そこに記載されている名前を見て、レイチェルの片眉が上がった。
声のトーンも一つ低くなり、馬車の中の空気が少し緊張感を帯びる。
「ジェリメール・カシレロ、第五師団長にして、青魔法兵団の団長だ。私は一度こいつと戦った事がある」
「なっ!?・・・本当かよ?」
聞いてはみたものの、まさか本当に知っているとは思わず、しかも戦ったというのだから、ガラハドは心底驚いた顔をしてみせた。
「えっと、レイチェル・・・戦ったって、いつ?」
「先月の初めくらいだったかな、クインズベリーが襲撃されたんだ・・・」
リンジーが心配そうに見つめて来るので、レイチェルは闇の巫女ルナが亡命して来て、それを追って来た帝国軍と戦いになった事を説明して聞かせた。
「・・・レイジェスの皆さんって、本当に軍人じゃないんですか?」
一連の話しを聞き終えて、ファビアナが少し眉根を寄せてレイチェルを見る。
「ん、今更何を言う?レイジェスはリサイクルショップで、私達はただの従業員だ」
「レイチェル、あなたもレイジェスのみんなも、とっくにリサイクルショップの従業員の枠を超えたところにいるわよ?」
「ファビアナとリンジーの言う通りだ。まさか自覚が無いなんて言わないだろうな?」
リンジーとガラハドにも詰め寄られて、レイチェルは両手を顔の前で振って、小さく笑ってなだめるように話した。
「おいおい、二人ともそんなグイグイ来ないでくれ。フフ・・・まぁ、そうだな・・・確かに私達が兵士同然に戦場に出ている事は認める。それがリサイクルショップの店員の仕事でない事も、重々承知している」
だけど・・・・・
そう言葉を紡いでレイチェルは二人を見た。
「私はこの国が好きだから戦う。きっとみんなも同じ気持ちだ・・・戦う理由なんて、護りたいものがあればそれで十分なんだよ」
私が戦う理由・・・生まれ育った国を護りたい。家族を、仲間を護りたい
そして店長・・・・・あなたのために私は戦いたい
「・・・レイチェル、あなたの言う通りね。そう、護りたいもののために戦う。理由なんてそれだけで十分よね」
レイチェルの心からの気持ちを耳にして、リンジーはニコリと微笑むと、レイチェルの手を両手で包み込んだ。
「はは、まぁ偉そうに言ったけど、私が戦いたいから戦う。結局はそれだけだよ」
「そんな事ないです、レイチェルはやっぱりすごいです。私にも今は護りたい人が沢山できました。だからその人達のために戦います!」
レイチェルの考えに感銘を受けたファビアナは、手にしている木の杖を強く握りながら、自分の気持ちを力強く口にした。
「ファビアナ・・・キミもすっかり強くなったな」
「はっはっは!前のおどおどした姿は想像もできんよな!」
「ガラハド!それはもう言わないでください!」
大笑いしてファビアナの肩に手を置くガラハドに、ファビアナが抗議の声を上げる。
「フフフ、あ!みんな、レイジェスが見えてきたわよ」
賑わう馬車の中、優しく温かい空気に包まれる。
窓の外には、美しいクインズベリーの街並みが広がり、レイジェスの前には今日も沢山のお客が集まっていた。
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