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1086 リンジーの見つけた逸材

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「今回の謁見で話し合った事だけど、帝国を四方から囲んで一斉攻撃を仕掛ける事でまとまったわ。地理的にクインズベリーが西と北、私達ロンズデールが南と東からね」

閉店後のレイジェスの事務所では、リンジーが中心となり、今回の謁見で決まった事を説明していた。

「ちょっと待ってくれ。こっちから仕掛けるのはいいんだが、帝国が出てくるって可能性もあるんじゃないのか?準備が整うまで帝国が待ってくれんのか?」

ジャレットが口を挟んだが、もっともな疑問だった。
決戦は冬と予想されているが、準備が整えば冬を待たずに、帝国から仕掛けてくる事は当然考えられる。だがリンジーはすぐに首を横に振った。


「その可能性は低い、という結論で落ち着いたわ。なぜなら帝国は、地理的に防衛戦に向いているのよ」

「・・・あ~、なるほど。言われてみればそれもそうか。帝国を中心に、西のパウンド・フォー。東のセインソルボ山。南のロンズデールとの国境付近はリングマガ湿地帯。そして北には砂漠に流れる大川、ユナニマス川が外部からの侵入を防いでいるからな」

防衛戦という一言で、ジャレットは理解した。
帝国の周辺は、まるで外敵から帝国を護るような地形でできている。
敵が攻めて来ると分かっているのなら、わざわざ大量の物資を抱えながら遠征するより、天然の要塞を利用しての防衛戦の方が、理にかなっているのである。

「だけど、わざわざ戦力を四つに分ける必要はあるのかしら?どこも危険だけど、西と東から挟み撃ちにする形でもいいんじゃない?」

シルヴィアが顔の横に手を挙げて、リンジーに問いかけた。
東西南北の四つに戦力を分けるよりは、クインズベリーは西、ロンズデールは東の一点突破に、戦力を集中させた方が、自軍の被害も抑えられるのでは?それも当然考えられる疑問だった。


「ええ、そういう意見も出たわ。だけど帝国だってこっちの動きを見ているはずよ。北と南に穴が空いてるなら、そこから周りこまれるかもしれない。気が付いたら後ろを取られていたなんて、冗談にもならないわ。それと皇帝を追い詰めた時、逃げ道を塞ぐ意味もあるの」

「逃げ道を防ぐ、ね・・・なるほど、徹底してるわね」

シルヴィアはテーブルの上で腕を組むと、うんうんと二度三度頷いた。

北、南、西、東、どこか一つでも制圧できていない場所があれば、そこから逃げられる可能性がある。
四方から攻めるのは、皇帝の退路を封じる意味もあるのだ。

「帝国は確かに防衛戦に強いと思うわ。だけど見方を変えれば、そこが突破された時、逃げ道が無いのよ。アンリエール女王陛下は、この戦争で帝国を完膚無きにまで叩くおつもりよ」

リンジーの説明を受けたレイジェスのメンバーは、それぞれが納得したような反応を見せた。
そして分かっているつもりだったが、皇帝の逃げ道を塞ぐ事まで考えているアンリエールの徹底ぶりに、国家としての本気もあらためて感じていた。


「ところで、ロンズデールの戦力について聞いておきたい。機密もあるだろうが、話せる範囲で教えてもらえないか?」

話しに一つの区切りがついたところで、今度はレイチェルがリンジーに問いかけた。

ロンズデールにも当然軍はある。だが長年帝国の言いなりになっていたロンズデールは、他国を脅かす程の軍事力を持つ事ができず、その戦力は三国の中で一番低かった。


「・・・レイチェル、あなたの気にしている事は分かるわ。ロンズデールに一か所ならともかく、戦力を二つに分けてまで戦う力があるのか?そう心配してるんでしょ?」

特に表情を変える事もなく、自分に向き合うリンジーを見て、レイチェルも正直な気持ちを口にした。

「不快な質問かもしれないが、私は決してロンズデールを軽く見ているわけではない。把握しておきたいんだ。私達は帝国と戦う同士であり、友達だろ?」

ロンズデールで共に戦ったレイチェルは、ロンズデールの戦力がどの程度なのか想像がついていた。
去年の時点では、ラミール・カーンの魔道剣士隊が主力となるべく育てられていた。だがカーンが失脚した事で、魔導剣士隊は事実上の解散状態になってしまった。
そしてロンズデール国軍は、帝国の息がかかっていたとはいえ、その魔導剣士隊に主導権を奪われるくらい力が弱かった。

レイチェルがロンズデールの軍事力に懸念を抱く事は、しかたがない事だろう。


「レイチェル、心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。あれからロンズデールも軍の立て直しに力を入れてるの。それに魔導剣士隊はせっかく育てたんだし、あのまま解散じゃもったいないから、今は大臣の管轄下で毎日厳しい訓練を積んでいるわ。それともう一つ、実はすごい逸材を見つけたのよ」

リンジーもレイチェルの言葉が、自分達の身を案じているからこそなのは十分に分かっている。
だからこそリンジーは、自分達の戦力を隠す事なく口にした。


「すごい逸材?へぇ、リンジーがそう言うのなら、よっぽどの実力者なんだろうね?」

自信満々に逸材と告げるリンジーに、レイチェルも興味を惹かれてテーブルに身を乗り出した。


「ええ、彼の名前はビンセント・ボーセル。彼のルーツはカエストゥスにあるらしいの」
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