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「・・・・・・・」
私は決して声がもれないように、左手で強く口を押えていた。
声どころか呼吸音だって危ない。
さっき、突然私の前の空間がぐるぐると渦巻き出した。
そしてソレは出現した。姿を見た事は初めてだったけど、一目で分かった。これが話しに聞いていた闇の主・・・トバリだ。
近くにいるだけで押し潰されてしまいまそうな、ものすごいプレッシャーだった。
一瞬で体中から汗が噴き出し、心臓の鼓動が一段早く高鳴る。
気を抜くと叫び声を上げてしまいそうだ。
・・・こんなもの、人間がどうにかできるの?
おそらく私はまだ気づかれていない。疲れから荒い呼吸が出てしまい、それを聞かれたのだと思う。
そしてトバリは、おおよその位置を察知して出て来た、だけどそこまでなんだ。
そこから先は私が気配を消したから、私を見つけられないでいるんだ。
・・・命拾いをした。心の底からそう思った。
もし私が消身の壺を完成させていなかったら・・・そう考えると、背筋がゾッと冷たくなる。
トバリは目の前の私に気付かないようだけど、この辺りに何かがいるとは感じているんだろう。
辺りを伺うように、そこでぐねぐねと蠢いている。
だから私は身じろぎ一つせずに、その場にじっと立ちつくしていた。
闇が、トバリが動くところを初めて見たが、私はこれまで感じた事のない、恐怖と嫌悪感に襲われた。
目の前の暗闇がぐるぐる回ったり、伸び縮みするようにぐねぐねと動くのだ。
それがまるで、得体の知れない黒い多足の虫のように見えて、悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えた。
・・・だけど我慢の限界だった。これ以上は直視できない。見ない事も恐怖だったが、私はキツく目を閉じた。
右手に持つ消身の壺だけは、決して落とさないように強く握り持つ。
この魔道具は命綱だ。みんなの命がこれにかかっていると言ってもいい。
なんとしてもこれだけは護らなければ!
大丈夫・・・・・きっと大丈夫・・・・・私の消身の壺はトバリにも通用する。
このままじっとしていれば、絶対にやり過ごせるはず!
願うような気持ちで、心の中で叫び続けた。
・・・・・・・・・・どれくらいそうしていただろう。
頑張れ!耐えるんだ!と、何度も心の中で自分を励まし続けた。
苦しいくらいに口を押えて、絶対に音を立てないように、身じろぎ一つしないように、足の指一本一本にまで力を入れて堪え続けた。
五分、いや十分か・・・時間の感覚も分からないけれど、随分長く身を固くしていたと思う。
そしてもうこれ以上耐えられない、そう思った時・・・・・
「エミリー、もう大丈夫だ」
誰かがそっと私の肩に手を置いた。この声は・・・レイマート様だ。
本当に小さな囁きだったけれど、その声はハッキリと私の耳に届いた。
「頑張った、本当によく頑張った」
もう一度耳元で囁かれる。言葉は頭に入ってくるが、極度の緊張で硬直している私は、目を開ける事もできずにいた。
「・・・・・あ~」
声をかけても無反応な私に、レイマート様は小さく、怒るなよ、と言って、ぐいっと私を抱き寄せた。
「!?」
「力を抜け、もう大丈夫だ」
まるで子供でもあやすように、ポンポンと私の背中を軽く叩く。
レイマート様の胸に抱かれると、レイマート様の心臓の音が聞こえてくる。不思議とそれが、生きているという実感を私に教えてくれた。
「・・・レイマート様、ありがとうございます。レイマート様の心臓の音、落ち着きました」
しばらくの後、落ち着いた私はレイマート様からそっと体を離した。
そして言ってから思った。私、変な事言ってない・・・?
引かれたら嫌だな。そう思ったけれど、レイマート様は、なんだよそれ?、と言って静かに笑っていた。
そしてまた私達は、闇の中を歩き出した。
どのくらい降りただろうか・・・ふと顔を上げると、上空から差し込んでいた明かりも無くなり、日没を向えた事を知った。
そう、夜が来たんだ・・・・・
私は決して声がもれないように、左手で強く口を押えていた。
声どころか呼吸音だって危ない。
さっき、突然私の前の空間がぐるぐると渦巻き出した。
そしてソレは出現した。姿を見た事は初めてだったけど、一目で分かった。これが話しに聞いていた闇の主・・・トバリだ。
近くにいるだけで押し潰されてしまいまそうな、ものすごいプレッシャーだった。
一瞬で体中から汗が噴き出し、心臓の鼓動が一段早く高鳴る。
気を抜くと叫び声を上げてしまいそうだ。
・・・こんなもの、人間がどうにかできるの?
おそらく私はまだ気づかれていない。疲れから荒い呼吸が出てしまい、それを聞かれたのだと思う。
そしてトバリは、おおよその位置を察知して出て来た、だけどそこまでなんだ。
そこから先は私が気配を消したから、私を見つけられないでいるんだ。
・・・命拾いをした。心の底からそう思った。
もし私が消身の壺を完成させていなかったら・・・そう考えると、背筋がゾッと冷たくなる。
トバリは目の前の私に気付かないようだけど、この辺りに何かがいるとは感じているんだろう。
辺りを伺うように、そこでぐねぐねと蠢いている。
だから私は身じろぎ一つせずに、その場にじっと立ちつくしていた。
闇が、トバリが動くところを初めて見たが、私はこれまで感じた事のない、恐怖と嫌悪感に襲われた。
目の前の暗闇がぐるぐる回ったり、伸び縮みするようにぐねぐねと動くのだ。
それがまるで、得体の知れない黒い多足の虫のように見えて、悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えた。
・・・だけど我慢の限界だった。これ以上は直視できない。見ない事も恐怖だったが、私はキツく目を閉じた。
右手に持つ消身の壺だけは、決して落とさないように強く握り持つ。
この魔道具は命綱だ。みんなの命がこれにかかっていると言ってもいい。
なんとしてもこれだけは護らなければ!
大丈夫・・・・・きっと大丈夫・・・・・私の消身の壺はトバリにも通用する。
このままじっとしていれば、絶対にやり過ごせるはず!
願うような気持ちで、心の中で叫び続けた。
・・・・・・・・・・どれくらいそうしていただろう。
頑張れ!耐えるんだ!と、何度も心の中で自分を励まし続けた。
苦しいくらいに口を押えて、絶対に音を立てないように、身じろぎ一つしないように、足の指一本一本にまで力を入れて堪え続けた。
五分、いや十分か・・・時間の感覚も分からないけれど、随分長く身を固くしていたと思う。
そしてもうこれ以上耐えられない、そう思った時・・・・・
「エミリー、もう大丈夫だ」
誰かがそっと私の肩に手を置いた。この声は・・・レイマート様だ。
本当に小さな囁きだったけれど、その声はハッキリと私の耳に届いた。
「頑張った、本当によく頑張った」
もう一度耳元で囁かれる。言葉は頭に入ってくるが、極度の緊張で硬直している私は、目を開ける事もできずにいた。
「・・・・・あ~」
声をかけても無反応な私に、レイマート様は小さく、怒るなよ、と言って、ぐいっと私を抱き寄せた。
「!?」
「力を抜け、もう大丈夫だ」
まるで子供でもあやすように、ポンポンと私の背中を軽く叩く。
レイマート様の胸に抱かれると、レイマート様の心臓の音が聞こえてくる。不思議とそれが、生きているという実感を私に教えてくれた。
「・・・レイマート様、ありがとうございます。レイマート様の心臓の音、落ち着きました」
しばらくの後、落ち着いた私はレイマート様からそっと体を離した。
そして言ってから思った。私、変な事言ってない・・・?
引かれたら嫌だな。そう思ったけれど、レイマート様は、なんだよそれ?、と言って静かに笑っていた。
そしてまた私達は、闇の中を歩き出した。
どのくらい降りただろうか・・・ふと顔を上げると、上空から差し込んでいた明かりも無くなり、日没を向えた事を知った。
そう、夜が来たんだ・・・・・
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