1,086 / 1,253
1075 残るか降りるか
しおりを挟む
「・・・・・これはちょっと、まずいかもしれないな」
レイチェルは右手を腰に当て、標高3000メートル地点から山裾に目を向けて、眉間にシワを寄せた。
「どうした?なにかあったのか?」
後ろから声をかけたのは、ゴールド騎士のアルベルト。
全員の安否を確認し、現状の確認もできたので、下山するための準備をしていたところだった。
「ああ・・・これは想定できなかった・・・」
レイチェルはチラリとアルベルトに目を向けると、下を見て見ろと言うように、視線で促した。
「下になにかあるのか?・・・っ!?」
レイチェルの隣に立ったアルベルトは、促されるまま山裾に顔を向け、そして言葉を詰まらせた。
山裾までは緩やかな坂になっている。目の前に広がる生い茂る樹々、そしてその樹々の陰で蠢く無数の闇の渦・・・・・そう、黒渦だ。
レイチェル達の立っている3000メートル地点から上は晴れ間が覗いているが、ここより下はまだ暗闇が山を包み込んでいたのだ。
「おい、レイチェル・・・これどうなってんだ?闇は晴れたんじゃねぇのかよ?」
「私もそう思ったんだがな・・・少し考えがあまかったようだ。実際この闇を見ていると、少しづつ消えてはいるようなんだ。闇が消えるまでここで待っていれば、安全に下山する事はできる。ただな、それを待っていられるかと言うと・・・分かるだろ?」
そこまで話して、レイチェルは空を見上げた。
闇が晴れたおかげで空はよく見える、そして陽はだいぶ傾いてきていた。
アルベルトも顔を上げて、レイチェルの言わんとする事を察した。
「・・・日没まであと2~3時間ってところか。ここで闇が消えるのを待っている時間はなさそうだな」
夜になればトバリが出現し襲われるだろう。いかに闘気や光の力があると言っても、朝まで凌ぐ事はできないだろう。ならばイチかバチか、山を降りた方が生き残れる可能性はあるかもしれない。
「アルベルト、どうする?この隊のリーダーはお前だ。私はお前の決定に従おう。だが私の意見を言わせてもらうなら、ここで一晩凌げるとは思えない。爆発で山の地形も変わって洞窟も破壊された。身を隠す場所もないからな」
「そうだな、加えてメンバーの半分は力を使い果たしている。歩くだけでやっとだ・・・だけど行くしかねぇだろうな」
倒れていたアゲハもリーザも目を覚ましたが、二人とも戦う力は残っていない。
ユーリも魔力はほとんど残っていないし、アラタも自力で歩く事がやっとの状態だった。
騎士団も、レイマートは毒から回復したばかりであり、青魔法使いのエミリーも魔力が枯渇寸前である。
「戦えるのは、私とお前、リカルドにレミューとエクトール、魔法使いはフィルとロゼか・・・護りながらの戦いは厳しいが、やるしかないな」
レイチェルは頭の中で現在の戦力を分析しつつ、眼下で蠢く闇を見据えた。
ほんの数十メートル先からは、真っ暗な闇に覆われた別世界と化している。うかつに足を踏み入れればそのまま呑まれてしまうだろう。
「蛇を倒して師団長とも一戦交えて、やっと帰れると思ったのに最後にこれかよ。たくっ、冗談キツイぜ」
体をほぐすように肩を回し、アルベルトも眼下に広がる闇を見ながら、大きく息を吐き出した。
文句を口にしているが、その目には力がある。アルベルトはこの闇に入っても、全員が生きて抜け出せると言う自信を持っていた。
「フッ、それじゃあみんなに話してこようか。あまり時間はないから、早く隊列も決めないとな」
二人はもう一度、山を囲むように広がる闇に目を落とすと、踵を返して仲間達が待つ場所へと足を進ませた。
レイチェルは右手を腰に当て、標高3000メートル地点から山裾に目を向けて、眉間にシワを寄せた。
「どうした?なにかあったのか?」
後ろから声をかけたのは、ゴールド騎士のアルベルト。
全員の安否を確認し、現状の確認もできたので、下山するための準備をしていたところだった。
「ああ・・・これは想定できなかった・・・」
レイチェルはチラリとアルベルトに目を向けると、下を見て見ろと言うように、視線で促した。
「下になにかあるのか?・・・っ!?」
レイチェルの隣に立ったアルベルトは、促されるまま山裾に顔を向け、そして言葉を詰まらせた。
山裾までは緩やかな坂になっている。目の前に広がる生い茂る樹々、そしてその樹々の陰で蠢く無数の闇の渦・・・・・そう、黒渦だ。
レイチェル達の立っている3000メートル地点から上は晴れ間が覗いているが、ここより下はまだ暗闇が山を包み込んでいたのだ。
「おい、レイチェル・・・これどうなってんだ?闇は晴れたんじゃねぇのかよ?」
「私もそう思ったんだがな・・・少し考えがあまかったようだ。実際この闇を見ていると、少しづつ消えてはいるようなんだ。闇が消えるまでここで待っていれば、安全に下山する事はできる。ただな、それを待っていられるかと言うと・・・分かるだろ?」
そこまで話して、レイチェルは空を見上げた。
闇が晴れたおかげで空はよく見える、そして陽はだいぶ傾いてきていた。
アルベルトも顔を上げて、レイチェルの言わんとする事を察した。
「・・・日没まであと2~3時間ってところか。ここで闇が消えるのを待っている時間はなさそうだな」
夜になればトバリが出現し襲われるだろう。いかに闘気や光の力があると言っても、朝まで凌ぐ事はできないだろう。ならばイチかバチか、山を降りた方が生き残れる可能性はあるかもしれない。
「アルベルト、どうする?この隊のリーダーはお前だ。私はお前の決定に従おう。だが私の意見を言わせてもらうなら、ここで一晩凌げるとは思えない。爆発で山の地形も変わって洞窟も破壊された。身を隠す場所もないからな」
「そうだな、加えてメンバーの半分は力を使い果たしている。歩くだけでやっとだ・・・だけど行くしかねぇだろうな」
倒れていたアゲハもリーザも目を覚ましたが、二人とも戦う力は残っていない。
ユーリも魔力はほとんど残っていないし、アラタも自力で歩く事がやっとの状態だった。
騎士団も、レイマートは毒から回復したばかりであり、青魔法使いのエミリーも魔力が枯渇寸前である。
「戦えるのは、私とお前、リカルドにレミューとエクトール、魔法使いはフィルとロゼか・・・護りながらの戦いは厳しいが、やるしかないな」
レイチェルは頭の中で現在の戦力を分析しつつ、眼下で蠢く闇を見据えた。
ほんの数十メートル先からは、真っ暗な闇に覆われた別世界と化している。うかつに足を踏み入れればそのまま呑まれてしまうだろう。
「蛇を倒して師団長とも一戦交えて、やっと帰れると思ったのに最後にこれかよ。たくっ、冗談キツイぜ」
体をほぐすように肩を回し、アルベルトも眼下に広がる闇を見ながら、大きく息を吐き出した。
文句を口にしているが、その目には力がある。アルベルトはこの闇に入っても、全員が生きて抜け出せると言う自信を持っていた。
「フッ、それじゃあみんなに話してこようか。あまり時間はないから、早く隊列も決めないとな」
二人はもう一度、山を囲むように広がる闇に目を落とすと、踵を返して仲間達が待つ場所へと足を進ませた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる