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「お、火柱が消えてくぞ?とうとう決着か?」
「そうかもしれんな、あとはアラタ達かデューク・サリバンか・・・どっちが生きて出てくるかだ」
リカルドとレイマートは、大爆発によって起きた火柱が、散り散りに飛ばされていく様子を見て、炎の中の戦いが終わった事を感じ取っていた。
空をも焦がす巨大な火柱だったが、炎の勢いよりも強く激しい風が吹きすさび、内側から炎を消し飛ばしていく。
「うぉッ!んだよこの風、めっちゃ強ぇな!おい青髪!お前さっきのもう一回使えよ!」
「無理だ。お前ずいぶん簡単に言ってくれるが、闘気で壁を作る事がどれだけ大変か分かってないだろ?もう俺に闘気は残ってない。さっきの爆発から全員を護るので使い果たした。お前も体力型なら風くらい自力で堪えろ」
さも当然と言うようなリカルドの要求に、レイマートは腰を落とし低い姿勢で風に耐えながら返答をする。
アゲハの風、リーザの闘気、デュークの黒い光、そして最後にアラタがぶつけた渾身の光、それによって起きた大爆発は、離れていたレイマート達さえも巻き込まんとした。
だがユーリのキュアで毒から回復したレイマートが、残った闘気を振り絞って壁を作り、爆発から全員を護ったのだ。これは全員を一か所に集めていた事が功を奏したとも言える。
もしバラバラであったなら、誰かが犠牲になった事も考えられるからだ。
「・・・私が眠っている間に、ずいぶん凄い状況になっているじゃないか」
ふいに後ろからかけられた声に、レイマートとリカルドが振り返ると、そこには赤い髪の女戦士が立っていた。
「うぉっ!レイチェルじゃん!もう大丈夫なのかよ!?」
「ああ、心配をかけたみたいだな。ユーリのおかげでなんとか助かったよ」
まだ頭が痛むのか、右手で頭を撫でるように押さえている。
無理もない。頭蓋骨が軋む程に締め上げられたのだ。
「あ?俺は?なんでユーリだけなん?レイチェル、俺に感謝はねぇの?俺も頑張ったんだぜ?」
「ハハハ、もちろんリカルドにも感謝してるよ、私のためにあいつと戦ったって聞いたぞ。ありがとう。アラルコン商会に美味しそうな丼物の店があったんだが、帰ったらそこでどうだい?」
こんな状況でもブレないリカルドに、レイチェルは笑いながら答えて腰を下ろした。
「ひゅー!さすがレイチェル、分かってんじゃんかよ!ん?なんだよ青髪?なに見てんだよ?お前も食いたいのか?言っとくけどお前は自腹だぞ?」
機嫌を良くしたリカルドだったが、不思議そうに自分を見るレイマートの視線に気が付き、睨みを利かせる。
「いや、レイチェルのあしらい方が見事だと思ってな。なるほど、お前のような面倒くさいヤツは、てきとうに褒めて、要求を聞いて満足させた方が得かもしれんな。スムーズに事が運ぶ」
「・・・・・ハァァァァァァァ!?んだとテメェ!喧嘩売ってんのかよ!?やんのかコラ!?あ!?やんのか!?」
強風に煽られている事などお構いなしにリカルドが立ちあがると、その背中に手がかけられた。
「あ!?誰だよコラッ・・・げっ!」
「リカルド君、危ないから座りましょうか」
シルバー騎士筆頭のラヴァル・レミューが、リカルドにニッコリと微笑んだ。
その両脇には、エクトールとユーリも立っていた。どうやら全員の回復が終わったようだ。
「んだよぉ、またお前かよ?俺お前嫌いなんだよ。話しかけてくんなよな」
面と向かって嫌いと言われても、レミューは全く動じる事なく、笑顔で言葉を続けた。
「ほらほら、座りましょうリカルド君。あ、ユーリさん、あなたからも言ってくれませんか?リカルド君がイヤイヤして困ってるんです」
「ハァァァァァァ!?イヤイヤってなんだよ!?赤ちゃんか!?赤ちゃん扱いかよ!?てめぇマジでぶッ飛ばすぞ!」
リカルドがレミューの胸倉を掴もうとすると、ユーリがその手を取った。
「リカルド、今はそんな事してる時じゃない。座って」
「んなっ、ユーリ・・・・・へいへい、わぁーったよ、座りゃいいんだろ?座りゃ」
ユーリの額には汗の粒が浮かび、その目にも疲労が色濃く浮かんでいる。
無理をしてここまで来て、レイマート、レイチェル、レミュー、エクトールと、たて続けに四人も治療したのだ。体への負担は相当大きいはずだった。
リカルドが大人しく腰を下ろしたのは、それが一目で分かったからだった。
ここで喧嘩をして、ユーリに余計な負担を与える事はしたくなかった。
リカルドが腰を下ろすと、レミュー達三人も揃ってその場に腰を下ろした。
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫。ありがとう」
体を叩く様な強い風が吹きつけてくるので、レミューがユーリの壁役として前にでる。
ユーリも笑顔でお礼を伝えると、リカルドが口を曲げて睨みつけた。
「おや、リカルド君、なにか?」
「べつにぃ~~~、むっつり騎士がナンパしてんじゃねぇよ、なんて思ってねーしー」
「おいリカルド、本当にいい加減にしろ。ほら、炎が飛んで中の様子が見えて来たぞ」
尚もリカルドが絡もうとしたところで、レイチェルが言葉を鋭く発して場を収めた。
レイチェルの言う通り、轟々と燃え盛っていた炎も鎮火しつつあり、風も少しづつ治まってきた。
「・・・あ、おい、あれ!兄ちゃんじゃねぇか!?」
立ち昇る煙の中にうっすらと見える人影、リカルドが指を差して声を上げると、煙の中から黒髪の男が姿を現した。
そしてその姿は、誰もが言葉を失ってしまうような驚きしかなかった。
右腕でアゲハを抱え、肩で担ぐようにリーザを乗せている。左腕はどうやら動かないようだ。
ボタボタと血が流れ、傷の深さがうかがえる。かなり無理やりだが、右腕一本で二人を運ぶには、この持ち方しかなかったのだろう。
大きく息を切らしながら、足を引きずるようにして歩く。
限界はとっくに超えている。だがそれでも歩いた。生きるために前に足を踏み出した。
「アラタ!」
ボロボロどころか、生命の危機さえ感じさせるアラタの姿を見て、レイチェルが駆けだした。
「おい!アラタ、もういい!もういいんだ!止まれ!ユーリ来てくれ!」
ボロボロのアラタの肩を掴んで止めると、後ろを向いて大声で呼びかけた。
肩に乗せているリーザと、右腕で抱えているアゲハをその場に下ろさせると、アラタはやっと顔を上げてレイチェルを見た。
「・・・レイ、チェル・・・良かった・・・無事、だったんだな・・・」
「アラタ・・・キミってヤツは、こんなにボロボロになって・・・私の心配か・・・」
レイチェルを見て安心したのか、アラタの膝が折れて前に倒れそうになると、レイチェルはアラタの背中に腕を回して、その体を受け止めた。
「・・・よく頑張ったな、立派だ。後は私にまかせて休め・・・」
ポンっと背中を軽く叩く。
「・・・・・・・」
アラタは返事をしなかったが、微かに頷いた事は分かった。
「・・・ユーリ、疲れているところすまない。魔力は持ちそうか?」
「大丈夫。無理でも治してみせる」
駆け付けたユーリはアラタの左腕を見て、骨まで見える深手に眉を潜めたが、すぐにヒールをかけて治療に入った。
大丈夫と口にしても、ユーリの魔力も残りわずかである。全身を襲う疲労感に足元がふらつくが、最後の魔力を振り絞って癒しの魔量を送り込む。
「ユーリ・・・頼んだぞ」
レイチェルもユーリの魔力が尽きかけているのは分かっている。
できれば休ませてあげたい。しかし現状ではユーリしか治療ができない事と、ユーリの真剣な表情を見て、アラタの治療を託した。
「・・・デューク・サリバンは逃げたようだな」
周囲をグルリと見渡すと、レイマートは断定的な口調でそう口にした。
「レイマート・・・私達は勝ったのでしょうか?それとも・・・」
レミューはレイマートの隣に立つと、まだ煙が立ち込める戦場に目を向けながら、勝敗をたずねた。
デューク・サリバンが消えたと言っても、圧倒的な力にねじ伏せられた事に変わりはない。
自分を含め、何人もの仲間が殺されかけたのだ。
この状況だけを見れば、撃退したと言えるかもしれない。だがとても勝ったとは思えない心境だった。
「言いたい事は分かるけどよ、まぁ、勝ったと思っていいんじゃねぇか?俺らは生きてここに立っている。それが全てだろ?」
「・・・フッ、ゴールド騎士になっても、相変わらず軽いノリですね。ん?あれは・・・レイマート、良かった。あちらも全員無事だったみたいですね」
レミューは視界に映った人影に、ほっと一つ息をついた。
「ん、おお、アルベルトさん、フィルにロゼとエミリー、みんな無事だったか」
レミューの視線を追って、レイマートも四人の姿を確認すると、安堵の声をもらした。
フィル達のところへは、アルベルト・ジョシュアが加勢に向かったと聞いてはいた。アルベルトの実力を疑うわけではなかったが、やはり安否の確認ができるまでは気がかりだった。
フィル達も同じ想いだったのだろう。レイマートの姿を見つけると、走り寄ってきた。
「レイマート様、良かった、無事だったんですね」
「おう、なんとかな。ユーリ、ああ、レイジェスの白魔法使いなんだが、彼女がいなかったらヤバかったけどな。お前達も無事で何よりだ、ああ、それからほら、コイツも一緒だぞ」
レイマートが後ろを振り返ると、それを追ったフィル達三人の視線が釘付けになった。
「・・・よぉ、戻ってきたぞ。みんな助かって良かった」
エクトールが笑顔を見せると、フィル達三人は抱き着かんとする勢いで飛びついた。
「エクトール!心配したぞお前!良かった!本当に良かった!」
「エクトール!良かった無事だったのね、体は大丈夫なの!?」
「エクトール!絶対生きてるって信じてたわ!」
全てを託して下山させたエクトールが、元気な姿を見せてくれた。
信じてはいたが、敵の蛇は数えきれない程にひしめいていた。その中で果たして無事に山を降りられたのか、心配は尽きなかった。
無事に帰って、救援を求めてくれるだけで十分だった。
けれどエクトールは、こうして救援を連れて来たうえに、自身もまたこの山に戻ってきたのだ。
疲労が抜けているはずもない、無理をしているのは間違いないだろう。
だけど、自分達のために再びこの山に戻って来てくれた。
三人はその気持ちが、とても嬉しかった。
「・・・敵は消えた、か・・・レイマート、まずは無事で良かった。酒でも飲んでゆっくり話したいところなんだが、まぁそうもいかないよな。とりあえず今ここで何があったか教えてくれ」
再会の喜びを分かち合うフィル達を、微笑ましい顔で見つめた後、アルベルトは表情を引き締めてレイマートに向き直った。
「アルベルトさん、救援に感謝します。そうですね・・・まず、黒い光なんですが・・・」
レイマートは腰に手を当てると、頭の中で話しの順序を組み立てるように空を見上げた。
そしてこの場で起きた、帝国軍第七師団長デューク・サリバンとの戦いを話した。
「そうかもしれんな、あとはアラタ達かデューク・サリバンか・・・どっちが生きて出てくるかだ」
リカルドとレイマートは、大爆発によって起きた火柱が、散り散りに飛ばされていく様子を見て、炎の中の戦いが終わった事を感じ取っていた。
空をも焦がす巨大な火柱だったが、炎の勢いよりも強く激しい風が吹きすさび、内側から炎を消し飛ばしていく。
「うぉッ!んだよこの風、めっちゃ強ぇな!おい青髪!お前さっきのもう一回使えよ!」
「無理だ。お前ずいぶん簡単に言ってくれるが、闘気で壁を作る事がどれだけ大変か分かってないだろ?もう俺に闘気は残ってない。さっきの爆発から全員を護るので使い果たした。お前も体力型なら風くらい自力で堪えろ」
さも当然と言うようなリカルドの要求に、レイマートは腰を落とし低い姿勢で風に耐えながら返答をする。
アゲハの風、リーザの闘気、デュークの黒い光、そして最後にアラタがぶつけた渾身の光、それによって起きた大爆発は、離れていたレイマート達さえも巻き込まんとした。
だがユーリのキュアで毒から回復したレイマートが、残った闘気を振り絞って壁を作り、爆発から全員を護ったのだ。これは全員を一か所に集めていた事が功を奏したとも言える。
もしバラバラであったなら、誰かが犠牲になった事も考えられるからだ。
「・・・私が眠っている間に、ずいぶん凄い状況になっているじゃないか」
ふいに後ろからかけられた声に、レイマートとリカルドが振り返ると、そこには赤い髪の女戦士が立っていた。
「うぉっ!レイチェルじゃん!もう大丈夫なのかよ!?」
「ああ、心配をかけたみたいだな。ユーリのおかげでなんとか助かったよ」
まだ頭が痛むのか、右手で頭を撫でるように押さえている。
無理もない。頭蓋骨が軋む程に締め上げられたのだ。
「あ?俺は?なんでユーリだけなん?レイチェル、俺に感謝はねぇの?俺も頑張ったんだぜ?」
「ハハハ、もちろんリカルドにも感謝してるよ、私のためにあいつと戦ったって聞いたぞ。ありがとう。アラルコン商会に美味しそうな丼物の店があったんだが、帰ったらそこでどうだい?」
こんな状況でもブレないリカルドに、レイチェルは笑いながら答えて腰を下ろした。
「ひゅー!さすがレイチェル、分かってんじゃんかよ!ん?なんだよ青髪?なに見てんだよ?お前も食いたいのか?言っとくけどお前は自腹だぞ?」
機嫌を良くしたリカルドだったが、不思議そうに自分を見るレイマートの視線に気が付き、睨みを利かせる。
「いや、レイチェルのあしらい方が見事だと思ってな。なるほど、お前のような面倒くさいヤツは、てきとうに褒めて、要求を聞いて満足させた方が得かもしれんな。スムーズに事が運ぶ」
「・・・・・ハァァァァァァァ!?んだとテメェ!喧嘩売ってんのかよ!?やんのかコラ!?あ!?やんのか!?」
強風に煽られている事などお構いなしにリカルドが立ちあがると、その背中に手がかけられた。
「あ!?誰だよコラッ・・・げっ!」
「リカルド君、危ないから座りましょうか」
シルバー騎士筆頭のラヴァル・レミューが、リカルドにニッコリと微笑んだ。
その両脇には、エクトールとユーリも立っていた。どうやら全員の回復が終わったようだ。
「んだよぉ、またお前かよ?俺お前嫌いなんだよ。話しかけてくんなよな」
面と向かって嫌いと言われても、レミューは全く動じる事なく、笑顔で言葉を続けた。
「ほらほら、座りましょうリカルド君。あ、ユーリさん、あなたからも言ってくれませんか?リカルド君がイヤイヤして困ってるんです」
「ハァァァァァァ!?イヤイヤってなんだよ!?赤ちゃんか!?赤ちゃん扱いかよ!?てめぇマジでぶッ飛ばすぞ!」
リカルドがレミューの胸倉を掴もうとすると、ユーリがその手を取った。
「リカルド、今はそんな事してる時じゃない。座って」
「んなっ、ユーリ・・・・・へいへい、わぁーったよ、座りゃいいんだろ?座りゃ」
ユーリの額には汗の粒が浮かび、その目にも疲労が色濃く浮かんでいる。
無理をしてここまで来て、レイマート、レイチェル、レミュー、エクトールと、たて続けに四人も治療したのだ。体への負担は相当大きいはずだった。
リカルドが大人しく腰を下ろしたのは、それが一目で分かったからだった。
ここで喧嘩をして、ユーリに余計な負担を与える事はしたくなかった。
リカルドが腰を下ろすと、レミュー達三人も揃ってその場に腰を下ろした。
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫。ありがとう」
体を叩く様な強い風が吹きつけてくるので、レミューがユーリの壁役として前にでる。
ユーリも笑顔でお礼を伝えると、リカルドが口を曲げて睨みつけた。
「おや、リカルド君、なにか?」
「べつにぃ~~~、むっつり騎士がナンパしてんじゃねぇよ、なんて思ってねーしー」
「おいリカルド、本当にいい加減にしろ。ほら、炎が飛んで中の様子が見えて来たぞ」
尚もリカルドが絡もうとしたところで、レイチェルが言葉を鋭く発して場を収めた。
レイチェルの言う通り、轟々と燃え盛っていた炎も鎮火しつつあり、風も少しづつ治まってきた。
「・・・あ、おい、あれ!兄ちゃんじゃねぇか!?」
立ち昇る煙の中にうっすらと見える人影、リカルドが指を差して声を上げると、煙の中から黒髪の男が姿を現した。
そしてその姿は、誰もが言葉を失ってしまうような驚きしかなかった。
右腕でアゲハを抱え、肩で担ぐようにリーザを乗せている。左腕はどうやら動かないようだ。
ボタボタと血が流れ、傷の深さがうかがえる。かなり無理やりだが、右腕一本で二人を運ぶには、この持ち方しかなかったのだろう。
大きく息を切らしながら、足を引きずるようにして歩く。
限界はとっくに超えている。だがそれでも歩いた。生きるために前に足を踏み出した。
「アラタ!」
ボロボロどころか、生命の危機さえ感じさせるアラタの姿を見て、レイチェルが駆けだした。
「おい!アラタ、もういい!もういいんだ!止まれ!ユーリ来てくれ!」
ボロボロのアラタの肩を掴んで止めると、後ろを向いて大声で呼びかけた。
肩に乗せているリーザと、右腕で抱えているアゲハをその場に下ろさせると、アラタはやっと顔を上げてレイチェルを見た。
「・・・レイ、チェル・・・良かった・・・無事、だったんだな・・・」
「アラタ・・・キミってヤツは、こんなにボロボロになって・・・私の心配か・・・」
レイチェルを見て安心したのか、アラタの膝が折れて前に倒れそうになると、レイチェルはアラタの背中に腕を回して、その体を受け止めた。
「・・・よく頑張ったな、立派だ。後は私にまかせて休め・・・」
ポンっと背中を軽く叩く。
「・・・・・・・」
アラタは返事をしなかったが、微かに頷いた事は分かった。
「・・・ユーリ、疲れているところすまない。魔力は持ちそうか?」
「大丈夫。無理でも治してみせる」
駆け付けたユーリはアラタの左腕を見て、骨まで見える深手に眉を潜めたが、すぐにヒールをかけて治療に入った。
大丈夫と口にしても、ユーリの魔力も残りわずかである。全身を襲う疲労感に足元がふらつくが、最後の魔力を振り絞って癒しの魔量を送り込む。
「ユーリ・・・頼んだぞ」
レイチェルもユーリの魔力が尽きかけているのは分かっている。
できれば休ませてあげたい。しかし現状ではユーリしか治療ができない事と、ユーリの真剣な表情を見て、アラタの治療を託した。
「・・・デューク・サリバンは逃げたようだな」
周囲をグルリと見渡すと、レイマートは断定的な口調でそう口にした。
「レイマート・・・私達は勝ったのでしょうか?それとも・・・」
レミューはレイマートの隣に立つと、まだ煙が立ち込める戦場に目を向けながら、勝敗をたずねた。
デューク・サリバンが消えたと言っても、圧倒的な力にねじ伏せられた事に変わりはない。
自分を含め、何人もの仲間が殺されかけたのだ。
この状況だけを見れば、撃退したと言えるかもしれない。だがとても勝ったとは思えない心境だった。
「言いたい事は分かるけどよ、まぁ、勝ったと思っていいんじゃねぇか?俺らは生きてここに立っている。それが全てだろ?」
「・・・フッ、ゴールド騎士になっても、相変わらず軽いノリですね。ん?あれは・・・レイマート、良かった。あちらも全員無事だったみたいですね」
レミューは視界に映った人影に、ほっと一つ息をついた。
「ん、おお、アルベルトさん、フィルにロゼとエミリー、みんな無事だったか」
レミューの視線を追って、レイマートも四人の姿を確認すると、安堵の声をもらした。
フィル達のところへは、アルベルト・ジョシュアが加勢に向かったと聞いてはいた。アルベルトの実力を疑うわけではなかったが、やはり安否の確認ができるまでは気がかりだった。
フィル達も同じ想いだったのだろう。レイマートの姿を見つけると、走り寄ってきた。
「レイマート様、良かった、無事だったんですね」
「おう、なんとかな。ユーリ、ああ、レイジェスの白魔法使いなんだが、彼女がいなかったらヤバかったけどな。お前達も無事で何よりだ、ああ、それからほら、コイツも一緒だぞ」
レイマートが後ろを振り返ると、それを追ったフィル達三人の視線が釘付けになった。
「・・・よぉ、戻ってきたぞ。みんな助かって良かった」
エクトールが笑顔を見せると、フィル達三人は抱き着かんとする勢いで飛びついた。
「エクトール!心配したぞお前!良かった!本当に良かった!」
「エクトール!良かった無事だったのね、体は大丈夫なの!?」
「エクトール!絶対生きてるって信じてたわ!」
全てを託して下山させたエクトールが、元気な姿を見せてくれた。
信じてはいたが、敵の蛇は数えきれない程にひしめいていた。その中で果たして無事に山を降りられたのか、心配は尽きなかった。
無事に帰って、救援を求めてくれるだけで十分だった。
けれどエクトールは、こうして救援を連れて来たうえに、自身もまたこの山に戻ってきたのだ。
疲労が抜けているはずもない、無理をしているのは間違いないだろう。
だけど、自分達のために再びこの山に戻って来てくれた。
三人はその気持ちが、とても嬉しかった。
「・・・敵は消えた、か・・・レイマート、まずは無事で良かった。酒でも飲んでゆっくり話したいところなんだが、まぁそうもいかないよな。とりあえず今ここで何があったか教えてくれ」
再会の喜びを分かち合うフィル達を、微笑ましい顔で見つめた後、アルベルトは表情を引き締めてレイマートに向き直った。
「アルベルトさん、救援に感謝します。そうですね・・・まず、黒い光なんですが・・・」
レイマートは腰に手を当てると、頭の中で話しの順序を組み立てるように空を見上げた。
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