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理太郎

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1069 火柱

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「こ、これは!?ぐっ!うあぁぁぁーーーーーーッ!」

スカーレット・シャリフが黒い光の発生元に向かって飛んでいる時、突如として大爆発が起きた。
それに伴い発生した暴風と衝撃波によって、スカーレットは後方へと吹き飛ばされた。

「ぐぅっ、な、なにが起きた!?」

風魔法を使い体を回転させ、空中で体勢を整えると、スカーレットは前方を鋭く見据えた。
目を開ける事も難しくらい強い風が顔を打ち付けてくるが、両腕を顔の前で交差させて、なんとか視界を確保する。

視線の先では巨大な火柱が空高く立ち昇り、濛々と煙を上げているのが見えた。
それがたった今の爆発が起こしたものだと言うのは、言うまでもまく分かる。

爆発は広範囲に渡ってパウンド・フォーを破壊していた。
なぎ倒されて、へし折れた樹々。大きく抉られて、ひび割れた大地。山の地形が変わる程の破壊力だった。

「くっ!・・・デューク・・・いったい何があった?パウンド・フォーは帝国の盾となる山だぞ、それがここまで破壊されるとは!」


この爆発の中心にいて、無事でいるとは到底思えない。
だがスカーレットは再び風をその身に纏うと、迷う事なく爆発の中心地に飛び込んで行った。

その理由に、デューク・サリバンへの強さの信頼があった。
スカーレットがデュークに持つ印象は、一言で言えば殺せない男だった。

デューク・サリバンが帝国の師団長に上り詰めるまでに、当然だが衝突はあった。
いくら皇帝が拾ってきた男とはいえ、どこの誰とも知れない男が、いきなり自分達の上官になるなど、到底受け入れられるはずがない。

そこで皇帝は納得できないのであれば誰であろうと、デューク・サリバンとの手合わせを認めたのだ。

力のある者が上に立つ。それが大陸最強の軍事国家であるブロートン帝国のあるべき姿である。
それは皇帝が代替わりしようとも変わらない。

強ければいいのだ。強ければ新参者であろうと上に立てる。分かりやすくていい。

そして名だたる猛者がデュークへと挑んでいったが、結果は語るまでもない。
デューク・サリバンはたった一日で、第七師団長へと抜擢されたのだった。


戦いを見ていたスカーレットは、その容赦ない戦いぶりよりも、タフという言葉では説明のつかない頑強さに目を見張っていた。

「鈍器で殴られてもびくともせず、剣で斬る事もできない肉体、アルバレスの鋼鉄の肉体に似ているとも思ったが、貴様のソレは根本から違う。貴様は体内に宿している黒い光に護られているんだ。黒い光が貴様を護っている限り、爆発だろうと何だろうと貴様が死ぬ事はありえん!」


爆心地を前にして地上に降り立つと、スカーレットは目の前の巨大な火柱を見て、目を細めた。
何の準備もしていなければ、炎に触れずとも焼き殺されるかもしれない。そう思わせる程の熱量だった。

「凄まじい熱気だな、深紅のローブがなければ私でも近づけん。この中に入るには、炎を同調させる必要があるか・・・」

スカーレットは瞳を閉じると、静かに魔力を練り始めた。
体から滲み出る赤い魔力が深紅のローブと同調し、同調した魔力は炎となってその身を包み込む。

そして目の前の火柱に手を向けると、一歩一歩、ゆっくりと距離と縮め・・・そして触れた。


「・・・純粋な炎ではないな。様々な力がぶつかり合ったがゆえに起きた爆発、その結果として生まれた炎か・・・だが炎は炎だ、私の魔力操作なら同調する事は可能だ」

炎の性質を見極めると、スカーレットは魔力を練り始めた。
我が身を包む炎、そして目の前の火柱、異なる性質の炎が、スカーレットの魔力操作で溶け合うように一体となっていく。

「・・・・・よし」

そして完全に炎の性質を合わせると、スカーレットは汗の一つもかかず、涼しい顔で火柱の中へと足を踏み入れた。




燃え盛る炎の中、スカーレットは目的の人物を探しながら、首を回して歩いた。

本来であれば、一瞬にして消し炭になってしまうだろう。だが炎と同調しているという事は、スカーレットはこの火柱と同じ炎と言っていい存在なのである。熱さなど微塵も感じる事はなかった。

「・・・敵が想定以上の力を持っていた、という事だな。何らかの方法でデュークを追い詰め、黒い光を暴走させたあげくに、ここまでの大爆発を引き起こす力をぶつけた。概ねそういうところだろう。ヤツが死んだとは思わんが、これ以上野放しにはできん。一刻も早く黒い光を止めて、連れて帰らねば・・・」

スカーレットは歩きながら、なぜこうなったのか?と、この状況を冷静に分析した。
そしてその分析はほぼ的を得ている。
黒い光が暴走し、自身も黒渦に襲われるという不測の事態が起きたにも関わらず、優れた対応力と状況判断で、自分が今何をすべきかを導き出した。



だがそれだけ高い能力を持ったスカーレットでも、これは読めなかった。



「・・・ん?」

轟々と燃える炎の中、スカーレットは四つの人影を見つけた。

三人は倒れているが、一人は立っている。
その一人こそ、スカーレットが探していた男、デューク・サリバンである。

体力型のデュークは、スカーレットのように炎を同調させる事などできない。
だがその体に宿す黒い光は、この状況でもデュークを炎から護っていた。深紅の鎧は破壊され、上半身は剥き出しだったが、デューク・サリバンは二本の足で立っていた。

体中の裂傷と打撲痕を見る限り、相当打たれた事は間違いないようだ。
だがスカーレットは知っている。いくら外傷をつけられても、デューク・サリバンにはダメージは無いという事を。

「デューク、見つけたぞ。さっさと黒い光を止めるんだ。このままでは帝国にまで被害がでるぞ」


デューク・サリバンにはダメージが無い。

そう思っていた。

「・・・おい、聞いているのか?早く黒い光を・・・!?」


背中にかけようとした手が止まる。

おかしい・・・・・全く反応がない。
声が聞こえていない?いや、手を伸ばせば届く距離で、それはないだろう。

だがデューク・サリバンは指の一本も動かす事なく、ただ立っているだけだ。

そう、これは声が聞こえているいないではない。
生命活動が感じられないのだ。


「お、おい!デューク!」

異変を感じたスカーレットが、デューク・サリバンの肩に手をかけると、180cmの巨躯はグラリと傾いて背中から倒れた。


「な、なんだとっ!?デューク、そんな!?」

不死身なのかとさえ思ったデュークが倒れた。それはスカーレットの精神を大きく動揺させた。

「っ!?こ、これは・・・・・」

仰向けに倒れたデュークを見て、スカーレットは衝撃に目を見開き絶句した。

デューク・サリバンの左胸が陥没していたのだ。

一目で胸骨まで粉砕されている事が分かる。
いかなる攻撃でもダメージを与えられず、この炎の中でも体が焼かれない。
そんな無敵の黒い光に護られているデューク・サリバンの肉体を、ここまで・・・・・


「・・・死んではいない。だが意識はない、か・・・・・!?」


腰を下ろし、デュークの首筋に手を当て脈を測ったその時、突然周囲の闇が薄れ、空には晴れ間が見え始めた。

「これは・・・そうか、デュークが意識を失ったから、闇が晴れたのか・・・・・」


スカーレットの目的は、暴走した黒い光を止める事だった。
デュークが意識を失い、その結果パウンド・フォーを覆う闇が晴れたのであれば、目的は達した事になる。

「・・・皇帝への説明もある。すぐにでも戻った方がいいだろう。だが・・・」

そこで言葉を切ると、スカーレットはデュークの反対側に倒れている三人に顔を向けた。

その金茶色の瞳が視線の先には、アラタ、リーザ、アゲハの三人が倒れていた。
力を使いきった三人は完全に意識を失っており、無防備にその身を晒している。


「こいつらはここで消しておくか」
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