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1067 覚悟を決める時

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「くっ!こ、これが・・・村戸さんの力なのか!?」

俺は目の前の村戸さんの圧力に押されるように、大きく後ろに飛び退いた。
とても向かい合っていられない程の、肌をビシビシと打ち付けて来るような、強烈な光の力だった。

村戸さんの身体から発せられた黒い光は、辺り一体を闇で埋め尽くしていた。
陽の光を遮り、昼を夜に変える程の大きな闇を、村戸さんの身体から発せられている黒い光が作り出したと言うのか?


「オォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」

暗闇の中、村戸さんの叫びが空気を震わせる。
ズシンと腹の底に響く、獣のような咆哮に、思わず両腕を盾にして身を護る体勢を取らされる。


村戸さん、これほどの力を・・・・・


「アラタ・・・」

ふいに後ろから肩に手をかけられ振り返ると、鋭い視線を自分に向けるリーザが立っていた。
額から流れる血が、顔の左半分を赤く染めている。鉄の胸当てもひび割れ、ボロボロの状態だがまだ戦意は失っていない。

「リーザ!大丈夫なのか!?」

「私の事より、お前はどうなんだ?まだ覚悟が決まっていないのか?」

覚悟。
それが何を指した言葉なのか、リーザの目を見れば分かる。

あの時リーザに言われたんだ。
村戸さんを前にした時、戦えるのかって・・・・・

「お、俺は・・・」

「本当なら、もう少し時間をかけたいんだろうが、そんな事言ってる場合じゃないぞ。やるしかないんッ!ぐぅっ・・・!」

話しの途中で急に苦しそうに呻くと、リーザは大剣を地面に突き刺してよろめいた。
左手で脇腹を押さえて、苦しそうに顔を歪める。どうやら左の脇腹をやられているようだ。

「お、おい!リーザ、大丈夫か!?」

「くっ・・・う、いい、私の事は、いい・・・アラタ、光だ、光の力を使え・・・私も、全闘気をぶつける・・・ヤツの、闇を消すぞ!」

「リ、リーザ・・・お前、その体じゃ・・・」

「今この場で覚悟を決めろ!今お前の目の前にいる男は、帝国軍のデューク・サリバンだ!あの黒い光に全て呑み込まれるぞ!」

真っすぐに俺を見るリーザの瞳には、断固たる強い意思が宿っていた。

こんなにボロボロのリーザが、ここまで覚悟を決めているのに、俺は・・・・・

俺は・・・・・



「アラタ、私も戦うぞ・・・」

刃が付いた長物を支えにして、長い黒髪の女戦士が立ち上がった。

「ア、アゲハ・・・」

胸当ては砕け、口の端には流れた血を拭った跡があった。
アゲハもまだダメージが残って見える。だがそれでも立ち上がり、戦う意思を見せた。

「はぁ・・・はぁ・・・リーザの、言う通りだ、腹をくくれ。私も残りの力を全てヤツに叩き込む。だがそれでも、あの闇を止めるには到底足りんだろう・・・お前の光が必要なんだ」

アゲハは薙刀を杖代わりにして、俺の前まで歩いて来ると、正面から俺の目を見て言葉を続けた。

「アラタ・・・デューク・サリバンとお前の関係は聞いている。だがな、恩人が間違った道を歩んだ時は、それを止める事も恩返しになるんじゃないのか?そして今、お前が護るべきものはなんだ?」

そこで言葉を切ると、アゲハは後ろを振り返った。
促されるように、俺もアゲハの見つめる先に目を向ける。

「あ・・・」

そして俺の目に映ったものは、頭から血を流し倒れているレイチェルと、苦しそうに肩で息をしながらも、懸命にヒールをかけているユーリだった。


「もう一度聞くぞ、お前が護るべきものはなんだ?」


隣に立つアゲハが、俺の顔を正面から見て、二度目の問いかけをした。


「・・・俺は・・・・・」


ここまで無理をして付いて来て疲労困憊のはずなのに、ユーリは残りの魔力を振り絞って、レイチェルを助けるために力を尽くしている。

そしてレイチェルは村戸さんと戦ったんだろう。ぐったりと力なく倒れている姿に胸が痛んだ。
いつもみんなの先頭に立って、店のため、そしてみんなのために戦ってきたレイチェル。

そのレイチェルがこんな・・・・・

俺はレイチェルがいなかったら、この世界での幸せを掴めていなかった。

村戸さんと弥生さんが日本での恩人なら、レイチェルはこの世界での恩人だ。

村戸さんへの恩を忘れた事なんてない。これから先も村戸さんへの気持ちはずっと変わらない。

だけど・・・・・



「・・・光よ」

俺は前に向き直ると、両足に力を込めて大地を踏みしめた。
拳を握り締めて腹に力を入れ、そして精神を集中させて、この身に宿る光を全開させた。



「ッ!これは!」

「・・・いけるかもしれない!」

アゲハとリーザは、アラタの体から放出される光を目にし、一縷いちるの希望を見出した。

アラタの全身から放出された光は、村戸修一の黒い光が放つ強烈なエネルギーを真っ向から押し返す。

二つの光のぶつかり合いは、凄まじいエネルギーを発した。
まるで台風を思わせる程に風が荒ぶり、樹々はなぎ倒されそうなくらいにへし曲がり、そして地面に亀裂を走らせた。

村戸修一とアラタ、異なる輝きを放つ二人の力は拮抗していた。


「・・・アラタ・・・それがお前の、光・・・か」

我を失う程の激昂にかられ、黒い光を暴走させた村戸修一が、ここで初めてアラタに目を向けた。
アラタの光に当てられ、正気を取り戻したのだ。

「村戸さん・・・俺はこの世界の仲間を護るためなら、あなたとだって戦います!」

アラタは村戸修一の目を真っすぐに見て、その覚悟を言葉に出してぶつけた。

迷いの無いアラタの顔を目にした修一は、感情の爆発が治まり頭に登っていた血が下がった。
自分の対して全幅の信頼を寄せ、反発などした事のないアラタが初めて見せた顔だった。

他の誰かを護るために、兄貴分だった自分に挑んでくる・・・・・

面倒を見てやらなければ、自分がいないと駄目だから、日本にいた時には新に対してそういう感情もあった。
だが、その護るべき対象だった相手が、こうして自分に挑んできた。

無自覚だったが、村戸修一の口角がほんの微かに持ち上がった。


そこにあるのは、新が何をしてこようと捻じ伏せる自信か、あるいは・・・・・


「・・・いいだろう、この光は魂の力だ。新・・・お前の覚悟、お前がこの世界で生きてきた証・・・・・お前の全てを俺にぶつけてみろ!」

深く暗い、漆黒の闇を思わせる黒い目がギラリと光り、修一の黒い光がより一層強く大きく輝いた。
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