1,065 / 1,277
1064 予期せぬ状況
しおりを挟む
「ッ!これは・・・デューク、まさか!?」
突然辺り一帯が闇に覆われ、スカーレット・シャリフは空を見上げた。
さっきまで青空が広がっていたのに、今は一切の陽の光が遮られて暗闇が空を埋めている。
帝国軍師団長であるスカーレットには、この現象に覚えがあった。
「な、なんだこの闇は!?」
ゴールド騎士アルベルト・ジョシュアは、突然闇に包まれるという不測の事態に足を止めた。
スカーレットとの戦いの最中だったが、この闇はとても無視できるものではなかった。
首を回して辺りを見回し、そして闇を照らす光に気が付いた。
「あれは・・・」
陽の光が遮られても、完全なる暗闇ではなかった。
少し離れた場所で、大きな輝きを放つ光りが見える。
恐ろしく邪悪な気を発しているところを見ると、おそらくあれが原因なのだろう。
「黒い光の暴走・・・まさか、あのデュークが追い詰められたのか?」
アルベルトと対峙していたスカーレットも、アルベルトに注意を払いながらも、光に意識を向けていた。
光りがスカーレットの顔を照らし、そして垣間見えた表情は、眉根を寄せた険しいものだった。
この闇は帝国の仕業かと思ったが、スカーレットにとっても予期せぬ状況らしい。
「へぇ、この状況・・・どうやらお前ら帝国の仕業のようだな?俺らをここで足止めして、戦力を分断させるのが目的だったようだが、お前の相方の方がヤバいみたいだな?」
アルベルトは振り返らなかったが、自分の後ろで膝を着き、息を切らしている三人に意識を向けた。
大蛇サローンを倒した後、レイマート達への加勢に向かおうとしたところで、突如現れ攻撃を仕掛けて来たのは、深紅のローブを纏った緋色の髪の女だった。
帝国軍黒魔法兵団団長にして、第四師団長スカーレット・シャリフ。
アルベルトに油断と言う油断があったわけではない。
だが大蛇サローンを倒し、仲間の無事を確認できた事で生じた僅かな気の緩み、そこを突かれて先制攻撃を許してしまった。
最初に狙われたのはフィル達、三人のシルバー騎士だった。
運悪く、青魔法使いのエミリーの魔力が切れていた事も重なり、結界を張る事ができなかった。
そのため三人は爆発魔法の直撃を受けてしまう。
すぐに反撃に移ったアルベルトにより、更なる追撃は許さなかったが、スカーレットの魔力はシルバー騎士三人を遥かに凌駕しており、三人が受けたダメージは大きかった。
その結果、白魔法使いロゼのヒールでも、いまだ回復に時間がかかっており、戦線離脱を余儀なくされていた。
なぜスカーレットは先手を取れたのに、最初にゴールド騎士のアルベルトを狙わなかったのか?
それは弱い者から順に倒していった方が効率がいい。そういう考え方もなかったわけではない。
だが最大の理由は、一騎当千と謳われるクインズベリーのゴールド騎士が相手でも、一対一ならば勝てるという、スカーレットの自信に他ならなかった。
「・・・貴様の相手をしている場合ではなくなった」
黒い光によって生じたこの闇の空間を見回すと、スカーレットはアルベルトに視線を向けて、
小さくそう呟いた。
そして一歩後ろへ下がると、アルベルトがニヤリと笑って口を開いた。
「おいおい、自分から仕掛けておいて、今更どこに行くんだよ?」
スカーレットが下がっても、アルベルトに逃がすつもりはさらさら無かった。
不意を突かれて、仲間を攻撃された事による怒りも大きいが、帝国の師団長と一対一という図式は、アルベルトとしても好ましかった。
大陸一の軍事国家、ブロートン帝国の師団長が単独で行動しているのだ。
今ここでスカーレットの首を取る事ができれば、これからの戦況に大きな影響を与えるだろう。
そしてあの黒い光の発生源で、何が起きているのか?それは分からない。
だがスカーレットの仲間がいる事は間違いない。合流させると面倒になるだろう。
ここまで自分とスカーレットは、ほぼ互角の戦いを繰り広げている。
だからこそ合流させてはならない!今はスカーレット撃破できる千載一遇の機会なのだ!
「お前はここで俺に斬られるんだ。逃げずにかかって来いよ、師団長さん?」
右手に握る剣先を突き付けて、アルベルトはスカーレットを睨みつけた。
「・・・フン」
だがアルベルトの挑発も意に介さず、スカーレットは風魔法を使い空中に浮かび上がる。
ギリギリまで視線を切らず、アルベルトと睨み合いながら、少しづつ後方へと下がって行った。
そして暗闇に紛れ、お互いの姿が認識できないくらいの距離を取った時、スカーレットは身を翻した。
「黙って行かせると思ったか!」
スカーレットが背を向けた瞬間、アルベルトは地面を強く蹴って飛び出した!
スカーレットが下がっても追いかけず、足に闘気を溜めておいて、この瞬間を待っていた。
なぜならば、一足で追いつけるからだ。
溜めに溜めた闘気を爆発させて地面を蹴りつける!
その推進力は、瞬き程の一瞬でアルベルトをスカーレットの元に運んだ。
スカーレットが身を翻した時、アルベルトはスカーレットの背中をとっていたのである。
「なッ!?」
「もらった!」
気配を察し、スカーレットが振り返ろうとした時には、すでにアルベルトの剣がスカーレットの背中に振り下ろされていた。
突然辺り一帯が闇に覆われ、スカーレット・シャリフは空を見上げた。
さっきまで青空が広がっていたのに、今は一切の陽の光が遮られて暗闇が空を埋めている。
帝国軍師団長であるスカーレットには、この現象に覚えがあった。
「な、なんだこの闇は!?」
ゴールド騎士アルベルト・ジョシュアは、突然闇に包まれるという不測の事態に足を止めた。
スカーレットとの戦いの最中だったが、この闇はとても無視できるものではなかった。
首を回して辺りを見回し、そして闇を照らす光に気が付いた。
「あれは・・・」
陽の光が遮られても、完全なる暗闇ではなかった。
少し離れた場所で、大きな輝きを放つ光りが見える。
恐ろしく邪悪な気を発しているところを見ると、おそらくあれが原因なのだろう。
「黒い光の暴走・・・まさか、あのデュークが追い詰められたのか?」
アルベルトと対峙していたスカーレットも、アルベルトに注意を払いながらも、光に意識を向けていた。
光りがスカーレットの顔を照らし、そして垣間見えた表情は、眉根を寄せた険しいものだった。
この闇は帝国の仕業かと思ったが、スカーレットにとっても予期せぬ状況らしい。
「へぇ、この状況・・・どうやらお前ら帝国の仕業のようだな?俺らをここで足止めして、戦力を分断させるのが目的だったようだが、お前の相方の方がヤバいみたいだな?」
アルベルトは振り返らなかったが、自分の後ろで膝を着き、息を切らしている三人に意識を向けた。
大蛇サローンを倒した後、レイマート達への加勢に向かおうとしたところで、突如現れ攻撃を仕掛けて来たのは、深紅のローブを纏った緋色の髪の女だった。
帝国軍黒魔法兵団団長にして、第四師団長スカーレット・シャリフ。
アルベルトに油断と言う油断があったわけではない。
だが大蛇サローンを倒し、仲間の無事を確認できた事で生じた僅かな気の緩み、そこを突かれて先制攻撃を許してしまった。
最初に狙われたのはフィル達、三人のシルバー騎士だった。
運悪く、青魔法使いのエミリーの魔力が切れていた事も重なり、結界を張る事ができなかった。
そのため三人は爆発魔法の直撃を受けてしまう。
すぐに反撃に移ったアルベルトにより、更なる追撃は許さなかったが、スカーレットの魔力はシルバー騎士三人を遥かに凌駕しており、三人が受けたダメージは大きかった。
その結果、白魔法使いロゼのヒールでも、いまだ回復に時間がかかっており、戦線離脱を余儀なくされていた。
なぜスカーレットは先手を取れたのに、最初にゴールド騎士のアルベルトを狙わなかったのか?
それは弱い者から順に倒していった方が効率がいい。そういう考え方もなかったわけではない。
だが最大の理由は、一騎当千と謳われるクインズベリーのゴールド騎士が相手でも、一対一ならば勝てるという、スカーレットの自信に他ならなかった。
「・・・貴様の相手をしている場合ではなくなった」
黒い光によって生じたこの闇の空間を見回すと、スカーレットはアルベルトに視線を向けて、
小さくそう呟いた。
そして一歩後ろへ下がると、アルベルトがニヤリと笑って口を開いた。
「おいおい、自分から仕掛けておいて、今更どこに行くんだよ?」
スカーレットが下がっても、アルベルトに逃がすつもりはさらさら無かった。
不意を突かれて、仲間を攻撃された事による怒りも大きいが、帝国の師団長と一対一という図式は、アルベルトとしても好ましかった。
大陸一の軍事国家、ブロートン帝国の師団長が単独で行動しているのだ。
今ここでスカーレットの首を取る事ができれば、これからの戦況に大きな影響を与えるだろう。
そしてあの黒い光の発生源で、何が起きているのか?それは分からない。
だがスカーレットの仲間がいる事は間違いない。合流させると面倒になるだろう。
ここまで自分とスカーレットは、ほぼ互角の戦いを繰り広げている。
だからこそ合流させてはならない!今はスカーレット撃破できる千載一遇の機会なのだ!
「お前はここで俺に斬られるんだ。逃げずにかかって来いよ、師団長さん?」
右手に握る剣先を突き付けて、アルベルトはスカーレットを睨みつけた。
「・・・フン」
だがアルベルトの挑発も意に介さず、スカーレットは風魔法を使い空中に浮かび上がる。
ギリギリまで視線を切らず、アルベルトと睨み合いながら、少しづつ後方へと下がって行った。
そして暗闇に紛れ、お互いの姿が認識できないくらいの距離を取った時、スカーレットは身を翻した。
「黙って行かせると思ったか!」
スカーレットが背を向けた瞬間、アルベルトは地面を強く蹴って飛び出した!
スカーレットが下がっても追いかけず、足に闘気を溜めておいて、この瞬間を待っていた。
なぜならば、一足で追いつけるからだ。
溜めに溜めた闘気を爆発させて地面を蹴りつける!
その推進力は、瞬き程の一瞬でアルベルトをスカーレットの元に運んだ。
スカーレットが身を翻した時、アルベルトはスカーレットの背中をとっていたのである。
「なッ!?」
「もらった!」
気配を察し、スカーレットが振り返ろうとした時には、すでにアルベルトの剣がスカーレットの背中に振り下ろされていた。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる