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左中段突き!デュークの腹筋を真っすぐに突き刺す!
右中段突き!右拳を抜くと同時に突き刺す!
右中段膝蹴り!左の肋骨に突き刺すように打つ!
頭突きで顎を打ち上げると、右上段蹴りを左側頭部に叩き込んだ!

トップスピードを維持したままの超高速の連打!限舞闘争!
止まる事の無いレイチェルの攻撃は、デューク・サリバンを圧倒していた。


速い・・・・・
この女、スピードだけなら俺以上だ。

レイチェルの高速の連打を浴び続けながら、デュークはかろうじて視界の端に捉えられる、赤い髪の残像を追っていた。


10メートルの距離から矢を弾く事ができるデューク・サリバンだったが、レイチェルの高速の連撃、限舞闘争には、カウンターを合わせる事ができなかった。

体を丸めて防御に徹しても、ガードの隙間を縫って拳を入れて来る。
レイチェルの連打は一切の反撃を許さず、ただ一方的にデュークを打ち続けた。



「よし!そのままやっちまえレイチェル!ぶっ殺せ!」

巻き添えを食わないよう、レイチェルとデュークから距離をとって戦いを見ているリカルドは、デュークをめった打ちにしているレイチェルに、勝利の可能性を感じていた。

拳を握り締めるリカルドに、青白い顔のレイマートが言葉を向けた。

「はぁ・・・はぁ・・・厳しい、かもしれんぞ・・・」

「あ?なんでだよ?レイチェルがボコってんじゃねぇかよ?」

ゆっくりと、呼吸を整えながら、レイマートは言葉を続けた。

「よ、よく見て見ろ・・・あ、あれだけ、打たれて・・・倒れないんだぞ?・・・ヤツの、タフネスは、お前も・・・知ってるだろ?」

そう、リカルドの大地の矢が直撃しても、デューク・サリバンに目立ったダメージは見られなかったのだ。レイチェルはリカルドより攻撃力があるが、それでもこの尋常ではないタフネルぶりを見せるデュークに、通じるものだろうか?

「は?え?・・・ま、まさか・・・き、効いてねぇって・・・言うのかよ?」

レイマートは目を細めると、静かに首を縦に振った。

「ダメージが無い、とは言わない・・・だが、俺の、見た限り・・・このまま打撃で、倒せるとは・・・思えん」

「んだよ・・・あんだけボコられて・・・マジかよ?」

信じられない。驚きを露わにリカルドは二人の戦いを見た。
そしてレイマートの分析が正しいと、嫌でも分かってしまった。


レイチェルの連打が始まって60秒を過ぎ、繰り出した打撃は優に100を超えていた。
数えきれない打撃が的確に急所に刺さっているが、それでもデューク・サリバンは倒れない。

このまま続けて倒せるのか?


「悔しいが・・・い、今の、俺達に・・・できる、事は、ない・・・」

リカルドの心中を察したように、レイマートは呟いた。

そしてレイマートは震える己の手を見つめた。
毒の影響でもはや動く事はできない。このまま戦いを見る事しかできない自分が歯がゆかった。


「・・・俺らは見てるだけかよ・・・くそっ!」

リカルドは悔しさを言葉にし、拳を握り締めた。
全力を尽くした。だがデューク・サリバンには何一つ通用しなかった。
そんな自分が加勢しようとしても、足手まといになるだけなのは明白だった。


だからどんなに悔しくても、戦いたくても、今は見ている事しかできない。

なんで自分はこんなに無力なんだ・・・・・
悔しさを噛み締めながら、リカルドは一人で戦っているレイチェルの背中を見つめた。





巨躯の男デューク・サリバンを一方的に叩き続ける。
この光景だけを見れば、レイチェル・エリオットが圧倒していると思うだろう。

だが一打一打、デュークに拳を打ち付け、蹴りを食らわせる毎に、レイチェルは焦燥を感じていた。


この男、想定以上にタフだ。
これだけ急所に打っても倒れる気配がまるでない。

私の打撃は決して軽くない。
以前マルゴンにくらわせた時も、ヤツを倒す事はできなかったが、それでも手ごたえは感じられた。

だがこいつはなんだ?

なぜこれだけ打たれているのに倒れる気配がない?

なぜこれだけ打っているのに、倒せるイメージが浮かばない?

いや、迷うな!
こいつも人である以上、不死身という事はありえない!肉体がある以上、必ず倒す事はできる!
だから打ち続けろ!倒れないなら倒れるまで打つんだ!


右上段突き!

レイチェルの拳がデュークの顔面にめり込んだ!

「オォォォォォォォォォーーーーーーーーー・・・・・」

続けて左上段突きを繰り出そうと腰を回した時、レイチェルは見た。

デュークの顔面に打ち込んだ右拳、その隙間から自分をじっと見つめる男の・・・闇より深い黒い目を・・・・・


「ッ!」

レイチェルは地面を後ろに蹴って、デューク・サリバンから大きく距離を取った。

頭で考えての行動ではない。

デュークの漆黒の闇を孕んだ目を見た時、ゾクリと背筋に悪寒が走り、本能がレイチェルを危険から遠ざけたのだ。



「な、なんだよ!?レイチェル、急にどうしたんだ!?」

リカルドが戸惑いの声を上げると、レイマートは険しい顔をしながら、前を向いたまま口を開いた。

「・・・ぜ、全滅かも、しれん、ぞ・・・・・」

「あ!?・・・な、なに言ってんだよ?」

「はぁ・・・はぁ・・・よ、よく見てみろ・・・あの、男の・・・あれはなんだ?」

レイマートは、震える指先でデューク・サリバンを指した。

その指先を追い、もう一度デューク・サリバンを見て、リカルドはレイマートの言葉の意味を理解した。


「なっ!?・・・ん、んだよ、あれ!?」

「俺達は・・・想像以上にヤバイのを、相手にしていたのかもな・・・」


二人の視線の先には、全身から黒い光を放つデューク・サリバンが立っていた。




「くっ!お前・・・その力、アラタと同じ光・・・いや、違うな・・・アラタの光は貴様のように黒く邪悪な光じゃない!」

レイチェル・エリオットは、自分がなぜ飛び退いたのかを理解した。
たった今まで、自分が一方的に殴りとばしていた男は、まるで力を出していなかったのだ。
数百発を数える打撃を浴びせ、ダメージが溜まったのか、それとも単にやる気になったのか、いずれにしろ、黒い光を見せた事で戦闘体勢に入った事は間違いない。

デューク・サリバンがその実力の一端を見せる気になったのだ。


あのまま引かずに殴り続けていたら、一瞬で潰されていたかもしれない・・・・・


固唾を飲みこむ程の嫌な想像だったが、頬を伝う冷たい汗が、決して想像だけに留まらないと教えていた。

「・・・アラタ・・・新か・・・・・女、なぜ貴様の口からその名が出る?」

「フン、お前はアラタの兄貴分らしいな?アラタが言っていたぞ、デューク・サリバン、いやムラト・シュウイチは自分にとって恩人だってな。本当にお前を慕っていたぞ。それが今では悪に魂を売ってしまったとはな・・・今のお前を見たらアラタが・・・・・ッツ!?」


そこまで話した時、一瞬でレイチェルの正面まで距離を詰めたデュークの右手が、レイチェルの頭を掴み持ち上げた。


「女・・・質問に答える気がないのだな?」

「なっ!?」

ば、馬鹿な!み、見えなかった!い、いったいどうやってこんな、私の前に一瞬で!?

「だったら死ね」

「な、なにを!?う、うァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッツ!」」


ミシっとした音と共に、頭が握り潰されそうな程の力で締め上げられ、レイチェルは絶叫した。
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