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1055 立ち向かう強さ

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リカルドの魔道具大地の矢は、矢尻を地面にぶつけると発動する。
地面を割り、火山噴火と見紛う程の爆発を引き起こし、土砂を空へと打ち上げる。
だがそれは使い方の一つでしかない。
矢尻がぶつかれば発動するというのであれば、それは地面に限る事ではない。

大地の矢は人にぶつかっても発動するのだ。

「いよっしゃぁーっ!馬鹿ボウズ!こんな単純な手にひっかかりやがって!大地の矢をまともにくらいやがった!」

空高く吹き飛ばされるデューク・サリバンを見上げながら、リカルドは拳を強く握りしめた。



リカルドの作戦は至極単純であった。
鉄の矢を撃ち続けながら、頃合いを見て大地の矢を放つ。

最初にデュークが鉄の矢を拳で弾くところを見て、躱す可能性は低いと見た。
なによりデュークは自分が圧倒的に格上だと思っている。
ならば格下と見ているリカルドの攻撃は、力の差を見せつけるために、全て受け切る事も十分に考えられる。

そこまで見越して、リカルドはこの一連の攻撃に懸けた。


大地の矢の爆発の正体は、矢がぶつかった時に発動する衝撃波によるものである。
つまりリカルドは、大地を割り、土砂を噴き上げる程の衝撃波を、デューク・サリバンに直接くらわせたのである。
いかにデューク・サリバンが強靭な肉体を持っていても、耐えきれるはずがなかった。

だが・・・・・


「なにッ!?」


リカルドは目を見張った。

自分の作戦が見事にハマリ、デューク・サリバンに最高の一撃を食らわせる事に成功した。
ウィッカー・バリオスが作った大地の矢の威力は、リカルド自身が一番よく分かっている。

人にぶつけても効果があるのに、なぜわざわざ地面にぶつけて使う事を基本とするのか?
それは地面を割って、火山噴火のように土砂を噴き上げる程のエネルギーを、人へ直撃させる事は危険過ぎるからだった。まず殺してしまうだろう。

やむを得ない場合もあるが、できるだけ大地の矢は直撃させずに使う事。
リカルドは大地の矢を受け取った時、ウィッカーから告げられたその言葉を忠実に守ってきた。

だがこの男デューク・サリバンはあまりにも危険だった。
アゲハ、リーザ、エクトール、レミュー、実力者の四人がなすすべもなく倒された。

最初から殺すつもりでいかなければ、自分が殺される。
そう判断したリカルドは、躊躇う事なく大地の矢を射った。

リカルドの狙い通り、デュークは大地の矢を弾こうと手を出し、そして大地の矢の爆発をまともにくらった。
あれほどのエネルギーをまともに受けて、無事でいられるはずがない。

死んでもおかしくない破壊力なのだ。


だが・・・・・


空高く打ち上げられたデューク・サリバンだったが、膝を抱え込み体を縦に回転させる。
そしてそのまま体を回転させながら、両足で豪快に着地をし、地面を揺らしてみせた。


「・・・ふぅ・・・この深紅の鎧をここまで破壊するとは・・・大したものだ」

一つ大きく息を吐いた。
砂埃を巻き上げながら、デューク・サリバンはゆっくりと腰を上げる。

デューク・サリバンの上半身、そして左右両腕を護っていた深紅の鎧は粉々に砕かれ、地面にその破片を撒き散らしていた。

腰から下と両足にはまだ防具が残っているが、上半身は肉体が剥き出しになっていた。

深紅の鎧を破壊できた事は一定の成果であると言えるだろう。
だが鎧の下の肉体には、まるでダメージが見られなかった。

僅かな切り傷、裂傷はある。まったくの無傷ではない。

だが・・・それだけだった。


「ッ!?」


・・・なっ・・・んな、馬鹿な!き、効いてねぇのかよ!?

倒したと思った。

大地の矢は、直接人にぶつける事が躊躇われる程の、凄まじい破壊力を秘めた必殺の矢だ。
それなのに、まったくダメージが見えないデューク・サリバンを見て、リカルドは言葉を失った。

・・・大地の矢が、通用しないのか・・・・・


冷たい汗が頬を伝い落ちる。
これで打つ手が無くなった。肉弾戦ができないわけではない。
だが自分の打撃でどうにかなるとは、到底思えなかった。

デューク・サリバン・・・・・この男は、本当に同じ人間なのか?

自分をじっと見つめるデュークの視線に吞み込まれそうで、リカルドは一歩足を後ろに引いた。


「大したものだが・・・俺をダウンさせるには、まだ足りないな」


そう口にすると、デューク・サリバンはダメージを感じさせないしっかりとした足取りで、一歩前に踏み出した。

「くそっ、んだよてめぇ!本物の化け物かよ!」


もはやリカルドにできる事は何もなかった。
デュークが近づいて来る分、後ろに下がる。そうやって距離を取って逃げるタイミングを見るしかなかった。

「っ?」

数歩下がった時、何かが足にぶつかり視線を下げると、青白い顔で倒れているレイマートが目に映った。

驚いた事に、レイマートは薄っすらと目を開けていた。意識が戻っていたのである。
そして青い瞳をリカルドに向けると、かろうじて聞きとれるくらいの、小さな声で話し始めた。

「おい・・・オレが、時間を、稼ぐ・・・お前は・・・逃げろ・・・」

毒に侵されながらも、レイマートは肘を着いて、震える体を無理やり気力で起こそうとする。

「なっ、あ、青髪・・・お前、馬鹿!ね、寝てろよ!本当に死ぬぞ!」

「はぁっ・・・はぁっ・・・ま、まだ、俺は、た、戦える・・・ぐぅ・・・・」


片膝を着きながらなんとか上半身を起こすと、レイマートは自分達に向かってゆっくり歩いて来る、坊主頭の男を鋭く睨み付けた。

もはや戦う力など残っていない。だがその目はまだ死んでいない。命尽きるその瞬間まで、レイマートの闘志は衰える事は無い。

「ん、んだよ、お前・・・・・」


リカルドの目から見て、今のレイマートは毒消しの効果で、かろうじて毒の回りを遅らせられている状態だった。だがせっかく毒の回りを抑えられていても、動けば一気に毒が回り、レイマートは数分も持たずに死んでしまうだろう。

そして青い髪のゴールド騎士レイマート・ハイランドは、それで構わないと思っている。
なぜそこまで戦えるのか?信念のためか?仲間のためか?それともそれが騎士道なのか?
分からないが、リカルドはそんなレイマートを見て、無性に腹が立った。

「・・・おい、青髪」

リカルドの呼びかけに、レイマートは息を切らしながら目を向けた。
そしてリカルドは、レイマートの目を真っすぐに見て言葉を続けた。

「カッコつけてんじゃねぇぞコラ?ナルシストかよ?逃げろだぁ?このリカルドさんが、こんなハゲに背中向けて逃げっと思ってんのかよ?なめてんじゃねーぞ!」

レイマートの目が驚きに開かれると、リカルドはレイマートに背中を向けて、デューク・サリバンに向き直った。


「・・・話しは終わったか?」

ほんの2メートル程の距離で、デューク・サリバンは足を止めていた。

強者としての余裕なのか、それとも背中を向けている者には攻撃をしないのか、いずれにしろデューク・サリバンは自分が倒されるとは、微塵も思っていない。

だからこそリカルドが顔を向けるまで待っていた。

だがデューク・サリバンは、一つだけ見誤った。

「おう、このリカルドさんがよぉ、敵前逃亡のビビリだなんてあるわけねぇだろ?」

拳を握り締め、デュークの顔を見上げて睨み付ける。

「・・・ほう、プライドで恐怖を乗り越えたか?面白いヤツだ。いいだろう、貴様の覚悟を見せて見ろ」

リカルド・ガルシアは追い込まれた時にこそ、立ち向かう強さを持っていた。


「いくぞハゲェーーーーーッツ!」


地面を蹴り付け、リカルドは飛んだ!

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